Zefiro di Verde TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』視聴レポート #5 「今しかできないことを」

TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』視聴レポート #5 「今しかできないことを」

 

Zefiro di Verde

もくじ

 

※当記事は、TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』のストーリーに関するネタバレ、あるいは、アプリ『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバルオールスターズ』のストーリーに関するネタバレを含みます。アニメ未視聴の方、アプリ未プレイの方は、予めご了承ください。

 

↓第4話の記事はこちらから

 

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Celeste

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どこまでも広がっている 、スカイブルーの空

眩しすぎて見えなかった

アイドルになったわたしに、どんなことができるのか。

  澄み渡った空を越えて、彼女は日本へとやってきた。

 故郷のスイスとは、景色も、言葉も、文化も、生活も。全てが違うこの国へやって来たのは、スクールアイドルになりたかったから。

 あの日見た憧れのスクールアイドルは、エマの心をぽかぽかさせた。そんなアイドルを目指して。スカイブルーの空の下、彼女の夢が始まる。

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トランクいっぱいに夢を詰め込んで。

 

Del'incontro

 出会いは、いつだって偶然だ。

 夢で一杯のトランクにも、不安はたくさん潜んでいる。

 道に迷ったエマが出会ったのは、エマにとってこの国で一番最初の登場人物。その女の子は、どこか気高く、ちょっと気難しく、爽やかな空気を纏って、エマの前に現れた。

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想いは水。高いところから低いところへと流れていって、心を満たす。

果林「どうかした?」

 言葉は人を癒す魔法である。この果林の言葉一つが、どれほどエマの心を救ったか。

 一人で知らない国に行くことは、とても勇気のいることだ。それでも、エマはスクールアイドルへの想いを勇気に変えて、ここ日本へやって来た。

 どれだけ勇気を持っていても、不安は消えない。まして道に迷ったりしたら、心細くてたまらない。そんなエマの不安を解いて、エマに「ぽかぽか」とした安心をくれたのは、果林だった。

 

 Amica? Famiglia?

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友達なら、冷たさのなかのぬくもりだってわかる。

 友達もまた、偶然のいたずらである。

 みなさんも、思い返してみて欲しい。友達って、別に選んだわけじゃない。家が近かったから。近くの席になったから。同じ部活だったから。趣味が一緒だったから。「たまたま」かもしれない。それでも、人生のなかですれ違って、一瞬でも惹かれあったのなら、それは運命だ。

 果林はエマにとって、日本で一番最初にできた友達である。食堂で会った二人は、次第にいつだってここで会うようになる。少しづつ、共有する場所は増えていく。同じ学生寮に住むエマと果林。エマは、果林の部屋にも訪れるようになった。分かち合うものが増えるほど、二人の仲は深まっていく。

 場所を分かち合えば、時間も分かち合う。エマは、スクールアイドル同好会の活動に果林を誘うようになる。あくまでも「部外者」ながら、彼方にスクールアイドル同好会に入部するつもりだと思われるほどに、果林はスクールアイドル同好会の活動に顔を出すようになる。

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「悲しむ顔が見たくない」は、彼女のとって最大級の気持ち。

 果林も、エマにはなみなみならぬ気持ちがあったようだ。同好会廃部に沈んだ顔をみせるエマに、果林はこう言った。

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「そんな顔しないで」

果林「そんな顔しないで。力になれることあるかしら。」 

  エマに笑顔をくれるのは、いつも果林だった。読者モデルに忙しい果林だが、エマの笑顔のためなら労力も時間も割いてくれた。果林の力もあって、エマの笑顔を消してしまっていた同好会の問題も見事解決した。

 それでは、「心」はどうだろうか。彼女たちは、「心」も分かち合えていたのだろうか......?

 

 日本での生活に慣れてきたエマには、大切な居場所もできた。そう、ようやく軌道に乗ってきた、スクールアイドル同好会である。

 愛・璃奈を迎えて9人となった同好会。

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姉妹のように仲がよくて

 それはまるで、どこか懐かしく、

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お互いを、信頼しあっていて

 そして、8人きょうだいの長女であるエマにはなんだかしっくりくる、

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8人と、そして......ネーヴェちゃん!?

 そう、まるで家族のようであった。

 だからこそ、エマはこう言うのだ。

歩夢「エマさん、おうちを離れてホームシックとかないんですか?」

エマ「うん、同好会のみんなといると、スイスの妹たちといるみたいなんだもん。いっつもわいわい賑やかで」

  スイスから遥か離れた日本でも、エマは家族のような大切な存在と場所を得ることができた。もっとも、スイスにいるエマの家族はエマがちゃんとやっているのか心配なようだが、それでも、エマはしっかりと、日本で自分の夢をつかみはじめていた。

遠く離れたこの街 きっとそれは変わらない

大地を吹き抜ける風 生きる人も

  場所は変わっても、空はどこかで繋がっているし、きっと大事なことは変わらない。希望でいっぱいのエマの新生活は、新しい「家族」に彩られながら、少しづつ加速していくのだった。

 

Sogni belli

 エマの夢、それは「人の心をぽかぽかさせるスクールアイドルになること」。

 虹色のスクールアイドルは、それぞれの夢を目指して、スクールアイドル活動をしている。目標のライブを目指して、まずは知名度を上げるためにPVの撮影。それぞれの魅力とこだわりを形にして、虹色のPVを作っていく。

侑「エマさん、家族にみせるのにもいいんじゃない?どんなPVにしよっか」

エマ「え!うーん。どんな、かあ......」 

 エマに出せる色は、どんな色なのだろうか。エマには、どんなことがアピールできるだろうか。エマの理想のスクールアイドル探しが始まる。

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譲れないこだわりは、ある。

エマ「私ね、人の心をぽかぽかさせちゃうようなアイドルになりたいと思ってて」

「でも、それがどんなアイドルなのか、よくわからなくって」

  「ぽかぽか」を届けるスクールアイドル。目標は決まっていても、それを具体的にどうやって表現するのかは難しい。みんながそれぞれ違う色を持つニジガクのメンバーは、「ぽかぽか」のイメージもそれぞれ全く違うようだ。答えは、エマが自分で見つけるしかない。

しずく「演劇だったら、衣装を着るとイメージ湧いたりするんですけどね」

エマ「それなら......」 

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こころに浮かんだのは、あの笑顔。

 エマはここで、衣装を着るというアイデアがしっくりきた、というわけでもなさそうだ。「それなら」という言葉は何を意味しているのか。「それなら」以下はどう続くのか。きっとこうではないか。

 

 「それなら、果林ちゃんに聞いてみたらいいかも!」

 

 恋人とは何かと理由をつけて会いたいと言うが、それは恋人だけに限るまい。友達だって、何かと理由をつけて会いたいものだ。必要な時にしか会わないんじゃあ、あまりに寂しすぎる。

 エマは、これまでも何かといっては果林を同好会に巻き込んで、一緒に過ごしてきた。もちろん、エマはできれば果林と一緒にスクールアイドルをしたいと思っているだろうが、こうやって誘っているのは必ずしもそれを計算してのことではない。エマは果林と少しでも一緒にいたい、それだけなのだ。

 メンバーがそれぞれの「ぽかぽか」を挙げる中で、一番最初にエマの頭の中に浮かんだ人。エマは決して自覚していないと思うが、答えはもう出ているのだ。答えはエマの中にある。エマにとって心をポカポカさせてくれるものは、あの日にエマの心をポカポカさせてくれた、エマにとって最初の友だち。そう、果林その人なのだ。

 

Il cuore

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ミナリンスキーの強力ライバル登場!?

 果林のつてによって、エマたちは服飾同好会に協力してもらえることになった。

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和も、洋も。まさに二刀流。

 どんな服も似合うエマ。喜ぶ同好会メンバーをみて、エマは「心をポカポカにする」が、少しわかり始めた気がした。

 しかし、すぐにエマは違和感に気づく。

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「騒がしいのは苦手」......なの?

 写真撮影を拒み、出ていってしまう果林。いろいろな衣装でメンバーの心をポカポカにすることはできても、果林のこころをぽかぽかにすることは、できなかったような気がしたのだ。

 

 違和感が確証に変わるのは、その日の夜。

 いつも通り、果林の部屋を訪れたエマ。そこで、エマはスクールアイドルの雑誌を見つける。かねてより、果林とスクールアイドル活動をしたいと思っていたエマ。誘って一緒に活動をして、エマは、もしかしたら、果林がスクールアイドルに興味があるのかもしれないという推測をもっていた。スクールアイドルの雑誌を見たエマは、ついに思い切って踏み込んでみることにする。このあたりのバランス感覚は、告白に近いものがあるかもしれない。エマは、思い切って勝負をかけたのだ。

 しかし、それは思わぬ衝突をもたらす。

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想いが届かないことも、ある。

 エマ「もしかして興味ある?だったら入ろう!同好会。すっごく楽しいよ!みんな本気でスクールアイドルやってて......」

果林「ないわよ、興味なんて全然。その雑誌は、エマのためになるかと思っただけ」

エマ「でも......」

果林「私、読者モデルの仕事もあるし、スクールアイドルなんてやってる暇ないの。知ってるでしょ?」

エマ「そっか......いつも手伝ってくれてたから、もしかしたら一緒にできるのかもって」

果林「頑張ってるエマを応援したいと思っただけよ。そんな風に思われるのなら、もうやめておくわ」

エマ「果林ちゃん.......」

果林「それ、持って行っていいわよ。衣装の参考にでもして。それと、もう誘わないで」

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どっちが、本当の果林ちゃんなの......?

 エマがスクールアイドル活動をすることは、果林の心をぽかぽかにするどころか、果林を傷つけてしまっていたのか......?こころにもやもやを残したまま、PVの撮影は始まった。エマの「人のこころをポカポカさせるアイドル」がどんなものなのかも、答えは出ていなかった。衣装をひとつに絞れなかったのは、それを象徴している。エマの頭のなかは、果林のことでいっぱいだった。

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侑と彼方は、エマの異変を見逃さなかった。

 

Ridere!

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それは、扉を開く手紙。

 一枚の紙が、エマの背中を押した。

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 確かに、果林はいつだってクールだった。読者モデルのイメージ通り、ちょっと素っ気なくクールでストイックで、突然のファンにもスマートに応対して。みんなが果林に持つイメージがこちらなのは、間違いなかった。

 しかし、エマは果林の違う一面にも少しずつ気づいていった。おせっかいに親切にしてくれるところ。冗談をいったりもするところ。親友のためなら一肌脱ぐ熱い気持ち。部屋は意外に片付いていないし、だらしないところだってある。

 まだ、「心」は分かちあえていなかった。果林の気持ちの奥まで、エマは入っていけなかった。拒絶されてしまった。それでも、エマは「本当の果林」を見たい、受け入れたい、そう思っていた。

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今、一番興味があることは......スクールアイドル。

 エマは、間違っていなかった。果林の下へ駆け出す。学園から学生寮までの道。もう、迷わない。

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もう、迷わない。

 アンケート用紙を探す果林。そこに、エマがやってくる。

エマ「来て!」 

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 運命のドアは、力いっぱい開かれた。

果林「ちょっと、一体なんなの?」

エマ「今日、私に付き合って。お願い」 

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 デートの舞台は、もちろんお台場。

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二人の冒険が、始まる。

 見たいのは、その笑顔。

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いっぱい食べる君の笑顔が、好き

Q3:休みにやってみたいことは?

「友だちと思い切り遊ぶ

お台場をブラブラ食べ歩いたり」

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果林はやっぱりあんまり食べなくて、いっつもたくさん食べているのはエマだけど

 確かめたいのは、本当の気持ち。

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エマといる果林は、いつもより輝いてみえて

 「本当の果林ちゃん」はどっち......?

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やっぱり、そうだよね

 次第に、自然な笑顔は増えていって。

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エマは、そんな果林を見ていて

 今、エマのなかでそれは確証に変わった。

 

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それは、ふたたびの告白

果林「こんなに遊んだの、久しぶり」

エマ「果林ちゃん。これ、果林ちゃんのでしょ?もらった雑誌に挟まってたの。それって、本当の気持ち?一番興味があるのがスクールアイドルって」 

  エマには、覚悟が決まっていた。覚悟を決めた人の放つ言葉は、強い。今度は、今度こそ、エマの言葉は、まっすぐ果林へと届いていく。

 そして、これはエマにとっても大切なことだった。

 エマ「前に言ったの、覚えてる?私、見てくれた人の心をポカポカにするアイドルになりたいって。でも、私は一番近くにいる果林ちゃんの心も温められてあげられてなかった。そんな私が、誰かの心を変えるなんて、無理なのかもしれないけど」

「果林ちゃんの笑顔、久しぶりに見たよ。私、もっと果林ちゃんに笑っててほしい!もっともっと、果林ちゃんのこと知りたい!」

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エマの言葉は、果林の心の奥の奥まで届いた

  果林は、ついに自分の、本当の気持ちをエマに話した。はっとしたエマの表情は、エマが望んでもこれまで得られなかったことの一つが今、果たされたことを示す。それでも、果林はまだ自分の気持ちから逃げていた。果林は「悪いのは私」とエマに謝る。果林は、まだ自分の気持ちから逃げていた。

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まだ素直になれない果林は、まっすぐなエマに背を向ける

 果林には、分かっていないことがある。いや、実は分かっているのかもしれない。エマが欲しいのは、一つは果林の心をポカポカにして、本当の気持ちを知ること。そしてもうひとつは、果林自身なのである。スクールアイドルとして、果林と一緒にスクールアイドルをする。それが、果林が真っ直ぐ自分の気持ちと向き合うことであり、エマの望むことなのだ。スクールアイドルから逃げているようでは、エマの夢も、果林の笑顔も、手に入らない。果林の心も、エマの心も、「ポカポカ」にはならないのだ。

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エマは、果林を包み込む

エマ「どんな果林ちゃんでも、笑顔でいられればそれが一番だよ。だから、きっと大丈夫」

「もっと果林ちゃんの気持ち、聞かせて!私に」 

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エマが果林の心をポカポカにする、その瞬間

 

La Bella Patria

きっとこの場所で

夢が待ってる

澄み渡る空を越えて

伝えたいの もっと

 

まだ知らない 運命のドア

開いたなら(ドキドキだね)

広がる世界

ちょっと怖い でも

トランクいっぱいに

詰め込んだ思い出

ぎゅっと抱きしめて

 

高鳴ってく(胸の中)

自分の気持ちに(もう)

ウソをつくのって

すっごくむずかしいね(そうでしょ?)

心に耳をすませて

 

きっとこの場所で

夢が目覚めてくから

光り出す(瞬間へ)

この手を伸ばすの今

叶えていくんだ 

これから何が起こっても

ゆずれない(この想い)

勇気にかえていこうよ

La Bella Patria

この歌声 届くように 

 『La Bella Patria』は、「美しい故郷」という意味。果林へのメッセージだが、この曲は同時にエマの想いを歌ったものに見える。エマは、どうして果林にこの曲を、自分の故郷・スイスのことを歌い、届けたのか。

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エマの、とびきりのやさしさを届けるために

目を閉じれば思い出す 故郷の景色

それだけで優しくなれる あなたにも 誰にも 

 それは、きっとエマが果林に、とびきり優しくなりたかったから。やさしく果林を包み込んで、「ぽかぽか」を届けたかったから。

  これが、エマにとっていちばんの方法。たった一つの、「ぽかぽか」を届けるやりかた。

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 どこまでも広がっている、エヴァーグリーンと空。澄み渡っている、スカイブルーの空の下。それは、エマが誰かに、みんなに、果林に、いちばん優しくなれる場所。

 エマは、そんな大切な場所から、果林に歌を届けた。果林を優しく包み込んだ。果林をせいいっぱいの力で「ぽかぽか」させた。

 

 始まりは、あの日のスクールアイドル。「ぽかぽか」をくれたその子をみて、エマの中には譲れない思いが芽生えた。

 思いを、勇気に変えて。エマは、一人で日本へとやって来た。これは、すごいことだ。並大抵の勇気ではない。

 道に迷ったとき、また「ぽかぽか」をもらった。優しくて、友達思いで、でも不器用な女の子。その子はいつだって、エマを助けてくれた。エマの夢は、そんな暖かい風を受けて、順調に大海原へと漕ぎ出した。

 

 今度は、エマが「ぽかぽか」を返す番。先に「ぽかぽか」をもらって、思いを勇気に変えたのはエマ。そんな勇気で、今度は果林の背中を押してあげたい。凍らせて仕舞い込んだ果林の心を、とびきり暖かく抱きしめて溶かしてあげたい。果林の思いが勇気にかわったなら、歩調を合わせて一緒に歩いていきたい。

 そのために、エマはめいっぱいのやさしさを、心を込めて歌う。自分の故郷の景色を、「ぽかぽか」をもらった瞬間を、手にした勇気を、想いながら。

 果林「スクールアイドル、できるかしら、私に」

エマ「やりたいと思ったときから、きっともう始まってるんだと思う」

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エマの夢

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果林の夢

二人の夢は、もう始まっているのだ

 

今しかできないことを

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「当然よ?私が撮ったんだもの」

 果林が撮ったエマのPVは、エマが目指すスクールアイドルの答えになった。スイスからエマを心配する家族にも、エマの「ぽかぽか」は届いた。再生数もうなぎのぼりのようだ。「みんなをぽかぽかさせちゃうようなスクールアイドルになりたい」というエマの夢は、また一歩前進した。

 果林も、ついにスクールアイドル同好会の一員になった。新たなライバルに先制攻撃をしかけるかすみに、果林はこう豪語する。

果林「 モデルでもスクールアイドルでも、トップを取ってみせるわ」

  ところで、「今しかできないこと」って、何だろう。その答えは、5話のストーリーのなかではなかなか見つけることができない。

 しかし、ラブライブ!において今しかできないことと言えば、答えは決まっている、そう、「スクールアイドル」である。

 果林は読者モデルに忙しいが、読者モデルは部活ではない。高校を卒業して大学に入っても続けていくことだし、果林は相当人気モデルのようだ。果林はモデルを職業として、人生の長きにわたってやっていくのかもしれない。

 しかし、スクールアイドルは違う。スクールアイドルは永遠ではない。高校を卒業してしまったら、彼女たちは「アイドル」にはなれるかもしれないが、それはもう「スクールアイドル」ではない。永遠でないからこそ、スクールアイドルは強く強く輝くのだ。

 そして、時間が限られているのはエマもまた同じである。スイスからはるばるやってきたエマだが、留学というのはそもそも期間限定のものである。同じ大学へ進めればそれが一番だろうが、決してエマの進路が日本にあるとは限らない。高校を卒業したら、彼女はスイスに戻ってしまうかもしれないのだ。

 だから、「今しかできないこと」は、スクールアイドルであり、そしてエマと果林が一緒に過ごす時間でもある。だからこそ、エマは果林に、自分に素直になってスクールアイドルをしてほしいと願った。エマも果林も、このかけがえのない時間がけっして永遠には続かないことを知っている。どんな気持ちが、どんな事情があったとしても、過ぎてしまった時間は取り戻せないのだ。

別々の道をゆく その日がくるとしても

かけがえのない今日は 二度とこない! 

  彼女たちは、かけがえのない今日を生きている。夢に向かって駆けるその時間は、甘くて、ときにほろ苦くて、そして愛おしい。限られた時間。だからこそ、彼女たちは全力でその道を駆け抜けられる。エマの勇気も、思い切ってぶつけた思いも、果林の悩みも、夢に向かって努力する時間も。「今しかできないこと」だからこそ、輝くのだ。

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今を生きる彼女たちは、輝いている

 

出典一覧

※引用したアニメ画像は、特に表記が無い場合、すべてTVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』(©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会)第1,2,5話より引用。

歌詞は『La Bella Patria』作詞:Ayaka Miyake、『Evergreen』作詞:Ryota Saito,近谷直之

七色の虹を照らす太陽 TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』視聴レポート #4 「未知なるミチ」

TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』視聴レポート #4 「未知なるミチ」

 七色の虹を照らす太陽

 

もくじ

 

※当記事は、TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』のストーリーに関するネタバレ、あるいは、アプリ『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバルオールスターズ』のストーリーに関するネタバレを含みます。アニメ未視聴の方、アプリ未プレイの方は、予めご了承ください。

 

第3話の記事はこちらから↓

 

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 『DIVE!』にくぎ付け。でもそれだいぶ違うかも...?

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輝きを、見つけた。

 優木せつ菜が「はじまりの歌」として、虹ヶ咲学園の屋上で情熱的なパフォーマンスをみせた『DIVE!』。

 せつ菜が届けたかった「大好き」は、二人の少女へ届く。天王寺璃奈と、宮下愛。2人に「スクールアイドル」の姿は、強く強く刻み込まれた。

 

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愛は、周りを見ていた。

 しかし、愛が受け取ったのは、璃奈とも、あるいは侑とも、違うものだった。

 『DIVE!』のステージにくぎ付けになる二人。しかし、璃奈が真っ直ぐステージのせつ菜を見つめるのに対して、愛はせつ菜を見つめるのはもちろん、周囲を見回している。周りの生徒はみな、せつ菜に夢中である。

 

 この愛の行動は、侑と比べてみても面白い。

 1話の『CHASE!』のステージで、せつ菜のパフォーマンスに衝撃を受けた侑。演出は想像の世界に入り、その世界には侑とせつ菜しかいない。侑にはせつ菜しか見えていない。侑はせつ菜を、そのパフォーマンスを、それだけを見て、それだけに魅了されているのだ。

 

 しかし、愛は違う。愛が見ているのは、せつ菜一人ではない。

愛「屋上から聴こえる歌に、盛り上がってるみんなを見て、自分も未知なる道にチャレンジしたいって、そう思ったんだ」

 愛は、「盛り上がっているみんな」を見たから、スクールアイドルを志した。

 それぞれの形でときめいた愛と璃奈は、スクールアイドル同好会に入部することになる。

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愛さんはやってみたい!

 

ヒーローは、浅く広く。

 ようやく始動したスクールアイドル同好会。そこに、入部希望の愛と璃奈がやってくる。

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大歓迎のニューカマー

愛「ところで、スクールアイドル同好会って、何するの?」

せつ菜「えーっと、実は今、それを探しているところでして......」

  しかし、一度はバラバラになってしまった同好会はようやくの再始動。手探り状態の活動。まだまだ前途は多難だった。

 

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ライブがやりたい。かすみんはかわいい。

 まだ何も決まっていない同好会。そんな彼女たちのとりあえずの目標は、ライブをすること。

 しかし、やりたいライブの内容すら、メンバーの方向性は揃わない。かすみの全国ツアー、輪になって踊りたいエマ、演劇大好きのしずく、すやぴな彼方、大好きが「爆発」するせつ菜、「かわいい」の歩夢......。

愛「みんな言ってること全然違うけど、すごいやる気だねえ」

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愛はときどき鋭い。

 愛はときどき鋭い。「方向性の違い」をクリティカルに指摘され、同好会メンバーははっとする。しかし、この愛の発言には深い洞察はないと思う。単純に、愛はみんなの熱意にびっくりしているのだ。

 同好会のメンバーは、みんな「スクールアイドル」に対して強いこだわりを持っている。それは譲れないこだわりである。だからこそ、歩調を合わせようとした彼女たちはぶつかり合ってしまった。彼女たちにとっては、ぶつかってしまったことは苦い思い出なのであるが、愛にとっては七色の譲れないこだわりと情熱を持つ彼女たちとの出会いはとても新鮮なのだ。

 

愛「とにかく、楽しいのがいいかな!」

 侑に意見を求められて、「楽しい」ライブにしたいという愛。

 「楽しい」というのは、誰にでも平等に分かちあうことのできる感情だ。愛の挙げた「楽しい」にメンバーがまたはっとさせられるのは、きっと本来のアイドルグループ、あるいは部活動ならこういう普遍的な感情を共有することで一つになり、歩調を合わせて目標を目指していくからだ。彼女たちには、それができなかった。何度でもいうが、これは良し悪しの問題ではない。人間は、生きていける道で生きていくしかない。一色ではなく七色の道を歩いていくことが、彼女たちの唯一の道なのだ。

 愛はそんな多様性の中ではやはり異色である。愛の持つ才能は、どちらかと言えばグループで何かひとつのことをなしえる時に発揮される。この力は、「協調性」と言い換えてもいい。愛は共感力が高く、いつも周囲に目を配っている。彼女が1人入るだけで、グループとしての一体感は段違いに向上するだろう。

 しかし、「普遍性」は強さであり弱さでもある。「普遍性」を持っている限りは、それはオンリーワンになり得ないからだ。むしろ、オンリーワンになり得ないからこそ、それは普遍性たり得るし、協調性を発揮できる。「協調性」の世界に生きてきた愛にとっては、それぞれに譲れないこだわりを持つ同好会メンバーとの出会いは、未知との遭遇といっても過言ではないものであった。

 

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「特訓」も、また七色。

 彼女たちは、「特訓」をするにあたっても意見が合わなかった。

 結局、エマの提案した「グループに分かれて練習する」という解決策によって、彼女たちは理想のライブに向かって特訓を重ねていくことになる。

 ところで、このシーンはなかなか興味深い。「歌の練習がしたい!」と想像以上の積極性をみせる歩夢は、後のシーンでランニングにも躊躇をみせるあたり、運動は苦手なのであろうか。一方「ダンスかあ......」と逡巡をみせる彼方は、きっちりエマ・果林とダンス練習に参加している。結果的には学年別になっているこの特訓のシーンだが、それぞれの特訓がどういう経緯で決まったのか、想像は深まるばかりである。

 

 さて、本題に戻ろう。

愛「私たち、全部参加してもいい?」 

 愛は、璃奈とともに全ての特訓に参加することを希望する。他のメンバーは自分の「やりたい特訓」を選んだのに反して、愛はどれか一つを選ぶのではなく、全てをやることを望んだ。ある意味では、これは稀有な「積極性」だ。きっと全ての特訓に参加するのは、一つの練習に参加するより大変だろう。しかし、別の視点、そして少し意地悪な視点から見れば、自分の意思で参加する練習を選んだ他の同好会メンバーと違って、彼女は自分のやりたい特訓をひとつに選べなかった。

 各班の練習はそれぞれ別の時間に行われているのではなく、放課後の部活動の時間に並行して行われているはずだ。3つの特訓すべてに参加した愛と璃奈は、一日であわただしく移動していったか、あるいはそれぞれの日に別の特訓に参加したということになろう。各特訓ごとの濃度は、1/3になっているはずだ。強いこだわりを持つ他の同好会のメンバーは「狭く深く」であるのに対し、彼女のスタンスは「広く浅く」なのである。彼女の大きな特徴は、ここにも見て取れる。

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愛の指導は、教育という観点からみても完璧である。

 「部室棟のヒーロー」とまで称された彼女は、ダンスの練習でその高い能力の片鱗を魅せている。柔軟運動に苦戦する璃奈と彼方に対して、お手上げ状態のエマと果林。一方愛は見事に柔軟運動をこなしてみせたあと、彼方と璃奈にたいしては適切なアドバイスをしたうえで、確かな「成長」を実感させ、それをモチベーションにして練習に対する意欲を高めている。まさに完璧な指導である。しかし、完璧であればいいというわけでもないのが、人間の難しいところだ。愛は、完璧であるが故の苦悩にみまわれることになる。

 

 文武両道ってどうなの?

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「部室棟のヒーロー」

 とにかく、愛は完璧である。

 「部室棟のヒーロー」である彼女は、友達も多く、部活の助っ人に引っ張りだこ。どんな競技でもこなし、学内にファンも多そうだ。それでいて、先述したように、愛は人に教えるのもとびきり上手である。天才肌で高い能力を持つ人は往々にして習得の苦労を知らず、指導に苦戦するといった話もよく聞くが、彼女にそれは当てはまらない。それだけ人気があっても、彼女は気取らない。人付き合いのあまり得意ではない璃奈と親友であることからも、愛の懐の深さが伺える。きっと、人を選ばずに誰とでも仲良くなって上手くやっていけるタイプなのだと思う。それに、愛は成績もよい。テストでは90点以上の好成績を残している。まさに文武両道、才色兼備。学園のスターにこれ以上相応しい女の子はなかなかいないだろう。

 

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「完璧」もまた大変だって、ほんと......?

 しかし、完璧故の苦悩もある。それは、「なんでもできてしまう」ということだ。

 進むべき道を選ぶとき、私たちは自分の意思と、それから適性とを天秤にかける。二つのフィルターによって、私たちが選ぶ道は初めから選択肢が絞られる。

 例えば、「かわいい」を目指すかすみは、せつ菜の目指す「大好き」を伝えられるアイドルのレベルに応えることはできなかった。これは、決してかすみがせつ菜より劣っているわけではない。お互いに持っている能力が、特徴が違うだけだ。だからこそ、かすみは「かわいい」を選び、せつ菜は「大好き」を伝えることを選んだ。同好会メンバーには、こうやって、自分の道を追求するメンバーが揃っている。彼女たちは自分たちが進む道を、進まなくてはいけない道を、他ではありえない道を、歩いている。だからこそ、足並みは揃わない。彼女たちは同じスピードで、違う道を歩いているのだ。

 しかし、愛にはまだ自分の道が分からない。それは、愛にはどの道だって歩いていける力があるからだ。そして、彼女は誰かに求められるままに、いろいろな道を歩いてきた。それが彼女の望みでもあった。そして、彼女はどんなことだってできた。彼女はきっと、無私にみんなの期待に応えてきたのだろう。人に助っ人をお願いされれば、なんだって断らずに受けてきた。それゆえ、彼女はスクールアイドル同好会に入るまでに特定の部活に参加していた気配がない。彼女のスマホの待ち受けが妙にシンプルなのも、もしかしたら、彼女には「趣味」と呼べるようなはっきりとしたものがないことを暗示しているのかもしてない。今、そんな彼女が何かを感じて、七色のスクールアイドル同好会に飛び込んできたのだ。

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彼女の待ち受けは、とてもシンプルなものだった。

 

 正解がないって人生、意外といいかも......?

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「害論」ではないことを祈る

 かすみとしずくによる特訓は、座学のようだ。ところでこれ、何の特訓なんだろうか?愛と璃奈がいない時、ふたりでどんなことをしてるの......?

 それはさておき、かすみ先生による講義は、とても示唆に富んでいる。

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「かすみ先生」はまた、しくじり先生でもある。失敗と内省を経た言葉。だから、その言葉には真理がある。

かすみ「スクールアイドル同好会には何が必要なのか答えなさい!」

 かすみは、しずくの答えにも、璃奈の答えにも、正解と告げる。どころか、愛の「わからない」という、授業なら絶対に正解にはなり得ない答えに対しても、正解であるというのだ。正解は一つではないし、わからないのも正解とは、どういうことなのか。

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「わからない」が、正解!?

かすみ「今の質問には、はっきりした答えなんて無いんです。ファンのみなさんに喜んでもらえることなら、どれも正解ってことです」

愛「へえ~、奥が深いんだね!」

  「はっきりした答えが無い」と聞いて、みなさんはきっとくすっと笑ったことだろう。あるいは、かすみの成長にほほえんだかもしれない。彼女たちが、「スクールアイドルには答えが無い」という答えにたどり着いたのは、つい最近だ。彼女たちは、ラブライブ!出場を目指して努力を重ねていた。彼女たちはラブライブ!参加のために正解を探し、そして行き詰った。部長・せつ菜が正解だと思っている方法は、みんなの理解を得られなかった。彼女たちはお互い衝突し、それによってお互いの「違い」を分かりあって、「答えが無い」という正解を得たのだ。

 

 そろそろ、ソロアイドルの話をしようか。

 彼女たちにはもう、グループで活動するという選択肢は残っていなかった。

愛「かすみんが、アイドルはどれも正解って言ってたけど、実際その通りっていうか。

みんなやっぱりタイプ違うけど、すっごく優しくておもしろくて、そこが最高って感じだし、このメンバーでどんなライブすることになるんだろうって、考えただけでめっちゃわくわくするよ!」

彼方「愛ちゃんは鋭いねえ」

 同好会廃部を経験していない愛は、スクールアイドル同好会の「経緯」を知らない。しかし、いつか知らなければならないし、同好会のメンバーからすれば、いつか話さなければならないことだった。

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彼女たちの傷はまだ、かさぶたのままで、完全に癒えてはいないのだ。

 彼方が愛のことを鋭いというのはそういうことだ。愛は誰かがそのことを説明する前に、経緯を知らないにも関わらず、この同好会の抱える問題に気づいた。もちろん、愛はこの時もなにか深い考えがあって言ったわけではないだろう。愛は単純にこれまでとは違う環境を楽しんでいる。しかし、これはスクールアイドル同好会に正式に「入部」している愛にとっても、避けては通れない問題であった。

 

 かすみ「ソロアイドルですか......」

せつ菜「私たちだからできる、新しい一歩です。部員一人ひとりが、ソロアイドルとしてステージに立つ。その選択肢は、みなさんの頭の中にもあるはずです」

かすみ「はい。でもそれって、簡単には決められないことですよね」

 どうして「簡単には決められない」のか。進む道は一つとわかっていながら、踏み出すことができないのか。

 それは、やはりソロアイドルのハードルの高さによるものだ。ソロアイドルは、一人でステージに立たなければならない。そこには、グループの全員による何倍ものパワーもなければ、メンバー同士が呼応しあって発動するシナジーもない。ステージに立った等身大の、偽りのない一人の力で、ファンと対峙する。ソロアイドルの難しさは、ニジガクの2ndライブでも痛感したものだ。ソロアイドルのステージは、どこまでも孤独だ。自分の内側にある輝き、それだけで、観客席を照らさなければならない。

 

 そんな事実に沈み込むメンバーに反して、愛が反応したポイントは、これまた少し違う点だった。

彼方「グループはみんな協力しあえるけど、ソロアイドルは誰にも助けてはもらえないだろうし」

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「助けてもらえない」。それは、初めて直面する世界。

 愛がはっとした表情を見せるのは、彼方のこの発言のあとだ。愛にとってのキーワードは、「助ける」なのだと思う。

 宮下愛は、文字通り最強の「助っ人」だった。彼女は、人を助けることで生きてきた。それが彼女の生きがいであり、彼女のアイデンティティーだった。どこかの部活に所属することなく、様々な部活で助っ人として活躍する。困っている人を見つけたら、すぐに助ける。それが、宮下愛の生き方だった。

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「手伝う」が、彼女の本質なのだ。

愛「やるからにはばっちり頑張るし、みんなのことも手伝うよ!」

 こういってスクールアイドル同好会に入部してきた愛。愛は、スクールアイドル同好会ににおいても、「助っ人」の意識をもって参加してきた。だからこそ、愛にとって同好会の活動は新鮮だった。彼女たちは、お互いがそれぞれ別の道を目指す。そして、彼女たちの目指すソロアイドルのステージは、「助け合えない」ひとりのステージだというのだ。

 

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「完璧」故の苦悩

 愛にとって、これは青天の霹靂だった。それまでの常識がひっくり返ってしまったと言ってもよい。

 なぜなら、「誰かを助ける」という軸を失ってしまった瞬間、愛が自分がどんなスクールアイドルを目指せばいいか、てんでわからなくなってしまったからだ。

 愛はこれまで、「正解」を出し続けてきた。スポーツも勉強も、愛にとっては「正解」のあるものだった*1。そして、「人を助ける」ことが彼女にとっての正解だった。つまり、彼女の価値基準は自分の内側には存在しない。外側に存在しているのだ。彼女が『DIVE!』のステージでせつ菜ではなく魅了される観客を見ていたのも、目指すスクールアイドルに「楽しい」という普遍的な感情を挙げたのも、特定の部活に所属せずに助っ人を続けていたのも、それは彼女が常に自分の「外側」に影響されてきたからだ。ある意味で、彼女の内側は空虚だった。彼女は空虚だからこそ、どんなスポーツにも、勉強にも万能の能力を発揮し、そして誰とでも仲良くなっていけるのだ。

 そんな彼女が目指す「ソロアイドル」。これは彼女にとって初めて、自分の「内側」を見つめる機会だったのかもしれない。

 

「未知なるミチ」

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愛は、苦悩した。

 ソロアイドルの話を聞いてからというもの、彼女は悩みに悩んだ。授業を受けている間も、土曜日のランニングに向かうまでも、彼女はずっと悩んでいた。

 そんな彼女に「内側」の世界を与えてくれたのは、エマだった。

 待ち合わせより2時間も早く家を出た愛は、走ってレインボー公園に向かった。そして、1時間の余裕を残して到着した。

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実際は、エマとの会話は30分以上はあったのではないか。

 そして、レインボーブリッジの上で、同じように早く到着していたエマと出会った。

 エマは優しく、愛にソロアイドルの話を聞く。愛は、こう答えた。

エマ「昨日はソロアイドルって聞いて、驚いた?」

愛「たしかに驚いたけど、一番驚いたのは自分に対してなんだよね。同好会のみんなが悩んでいるのって、自分を出せるかってことでしょ?

今まで色んな部活で助っ人やってたけど、考えてみたら、みんなと一緒にやる競技ばかりでさ。いやあ、めっちゃハードル高いよねえ」

 「自分をどう出すか」を考える同好会メンバーを見て、愛は「驚いた」。愛は、これまで「自分をどう出すか」ということをまったく考えてこなかったからだ。愛は、「みんなとどうしようか」ということをいつも考えてきた。そして、それが愛の一番の魅力だった。

 だから、愛は「自分を出す」ということをハードルが高いと感じていた。愛にとっては、まだ人生で一度もやったことも、いや考えたこともない道。そう、まさに「未知なるミチ」なのだ。

 

 答えは、愛らしく自然と、偶然的に、見つかった。

エマ「そろそろ走ろっか。9時だし、もう行く時間だよ?」

愛「うける!「ソロ」で「そろそろ」、「9時」だしい「く時」間って、ダジャレだよね!しかも上手いし」

エマ「全然気づかなかったよ」

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エマが、みんなが気づかない「楽しい」を見つける、そんな力。

 愛が内側に持っている力は、「楽しい」を見つけることだ。愛は、楽しいことが好きなだけじゃない。楽しいことを見つけることが、誰よりも上手なのだ。エマは、まさか自分の発言がダジャレだなんて、気づきもしなかった。この力は、他の同好会メンバーにはないものだ。愛が同好会に入ったことで、一気に同好会は明るくなった。それは、愛がいつだって肯定的で、かつどんな子にも親しく接し、あだ名をつけ、それぞれのメンバーを理解するように努め、距離を縮めたからである。

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この一体感こそ、愛の力なのだ。

 4話全体でほのぼのとした同好会の日常が描かれたのは、それ自体が愛がもたらしたものだからだ。

 

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エマの答えに付け加えることは、ない。

 最後の答えは、エマが教えてくれた。

エマ「私たち、いろいろあって、ようやくスタートラインに立ったばかりなんだ。みんなが不安で、でもほんとうは、それと同じくらい、これからに期待してると思うんだ。そうじゃなきゃ、悩まないもの。まだ、一歩を踏み出す勇気が出ないだけ。愛ちゃんが来てから、同好会のみんなの笑顔、すっごく増えてるんだよ?」

愛「そうなの?自覚ないけど」

エマ「ないからすごいんだよ」

 

愛「そんなことでいいんだ!誰かに楽しんでもらうのが好き。自分が楽しむことが好き。そんな楽しいを、みんなと分かち合えるスクールアイドル。それができたら、あたしは未知なる道に、駆け出していける......!

「ミチ」だけに!

 愛の答えは、最初から愛の中にあった。「楽しい」という普遍的な感情でも、それを見つける天才なら、それだけでもう、オンリーワンのアイドルなのだ。なにか特別な個性を、強いこだわりをもっていなくてもいい。なにより、そんな愛が虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会にいることが大事なのだ。

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彼女は、太陽になりたい。

 虹が輝くのは、太陽の光に照らされるからだ。「太陽になりたい」と愛が歌うように、宮下愛は、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会にとっての太陽なのかもしれない。愛自身には、強い色はない。むしろ、愛はたくさんの「色」を理解して、それを共有して、それぞれを繋いでいける。彼女は決して「スクールアイドル」像を持っていないかもしれない。「色」を持っていないかもしれない。しかし、それもまた「正解」なのだ。彼女は虹を照らす太陽の、オレンジ色の光なのだ。

 

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ひとりだけど、ひとりじゃない。みんなを巻き込む力が、愛にはある。

愛「みんなと、一緒。ステージは、ひとりじゃない!

 そんな彼女が出した答え『サイコーハート』は、早速虹を照らすことになった。彼女の「楽しい」を見つけて、共有する力があれば、ソロアイドルのステージは決して一人ではないということを示したのだ。このステージは、彼女たちに勇気を与えた。

侑「すごいね.......あれが愛ちゃんのステージなんだ!

私、みんなのステージも見てみたい。ひとりだけど、一人ひとりだからこそ、いろんなこと、できるかも!そんなみんながライブをやったら、なんか、すっごいことになりそうな気がしてきちゃった!

 「未知なるミチ」に向けて、愛はもう走り出している。虹色のメンバーも、太陽を追いかけて今、走り出したのだった。

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虹色はいま、太陽の光を追いかけて、走り出す。

 

 「笑いのレベルが赤ちゃん」な侑にダジャレを披露する愛。入部当初は自分の「特訓」を選べなかった愛も、遂に自分の「特訓」を見つけた。スクールアイドル・宮下愛の物語は、もう動き出しているのだった。

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遂に愛も、自分だけの「特訓」を見つけた。そしてそれは、愛が自分だけの「スクールアイドル」を見つけたということだ。

二頭体制に、どうなる高咲侑。

 ここからは余談だが、4話はこれまでの三話と大きく構成が異なっているように感じた。高咲侑の出番が圧倒的に少なくなっているのだ。

 1話~3話では、それぞれの話を担当する歩夢・かすみ・せつ菜と、侑との個人的関係を軸にして話が進んだ。もちろん、背後には探偵果林の暗躍やかすみとせつ菜の関係など、伏線的な要素はあるのだが、基本的には侑と、それから各回のヒロインとのやり取りが中心だった。それゆえ、すっきりして無駄のない構成と感じた視聴者も多かったのではないだろうか。

 しかし、その様相は4話ではっきりと変わった、これまでヒロインと対峙し続けた侑は、登場人物のひとりといった立ち位置に落ち着いた。その分、エマや彼方といったメンバーが愛とコミュニケーションをとり、ストーリーの鍵となった。

 一つの理由は、愛自身は侑を必要としないということだ。愛は、人を助ける女の子だ。すくなくとも今の時点では、侑の助けは必要としていないのだ。誰かを助けるという点で、愛と侑は非常に似たところがあるといえよう。

 もう一つは、新同好会の動向である。この点を少し掘り下げてみたい。

 一度廃部になる前のスクールアイドル同好会の部長はせつ菜だった。しかし、一度廃部になる間にかすみが新しく二代目のスクールアイドル同好会を立ち上げ、かすみは自称「二代目部長」となった。せつ菜はそれに合流する形で、同好会に復帰したのだ。

 書類上、どういう処理になっているのかは知りようがないが、4話におけるスクールアイドル同好会は、かすみとせつ菜の2人によって運用されている。どちらかが主導権を取ることなく、二人でメンバーの前に立ち、議論を進める。

 想像としては、実際はせつ菜が書類上の部長で、しかしせつ菜は過去のことがあるからこそ、かすみにある程度同好会の運営を任せつつ、2人で回している、といったところだろうか。しかし、どちらにせよ、この状況は一時的なものという印象を受ける。かすみにせよせつ菜にせよ、「大好き」を押し付けてしまった苦い思い出がある。ソロアイドルに対してもそうだが、この「かすみ・せつ菜二頭体制」とでも呼ぶべき現状にも、不安が残る。

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かすみとせつ菜の二頭体制は、いつまで続くのか。

 2話でかすみが侑に「専属マネージャー」と呼んでいたが、まだまだ侑の立ち位置ははっきりしない。歩夢・かすみ・せつ菜といったメンバーに対しては侑の立ち位置と必要性は明確だが、愛や璃奈、エマ、彼方に関してはそうではない。

 それに、今は同好会にとって「凪」の時間。9人全員が揃って、同好会が本格的に始動したときに、また一つ波乱が起こる予感が、ひしひしとしている。そして、その波乱のまんなかにいるのは、高咲侑その人であると思うのだ。

 どちらにせよ、構成が大きく変わったことは、4話ブログがとんでもなく難産になった(公開が5話放送後になってしまいました、大変申し訳ございません)ことと不可分の問題である。5話以降どうやってアニガサキの物語を受け止めていくのか、そして言葉に紡いでいくのか。妥協なく、自分だけの「正解」を探していきたい。 

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わたしも、愛さんを追いかけて、自分だけの輝きを!

※引用したアニメ画像は、特に表記が無い場合、すべてTVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』(©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会)第4話より引用。

*1:この点に関してはいろいろな意見があってしかるべきだと思う。スポーツも勉強も奥が深く、ほんとうは正解があるとは言えない面も大きい。しかし、これに関しては、愛がチームスポーツを中心に助っ人をしていたことと、それから愛は情報処理学科所属で、勉強も理数系が中心だったということが背景にあるのだろう。少なくとも彼女にとって、これらのことは「正解」があることだったのだ。

せつ菜の、ほんとうのわがまま TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』視聴レポート #3 「大好きを叫ぶ」

TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』視聴レポート #3 「大好きを叫ぶ」

せつ菜の、ほんとうのわがまま 

もくじ

 

※当記事は、TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』のストーリーに関するネタバレ、あるいは、アプリ『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバルオールスターズ』のストーリーに関するネタバレを含みます。アニメ未視聴の方、アプリ未プレイの方は、予めご了承ください。

第2話の記事はこちらから↓

 

tsuruhime-loveruby.hateblo.jp

 

スクールアイドル同好会廃部の真相

 スクールアイドル同好会が廃部になる。そこから、この物語は始まる。

 まずは、どうしてスクールアイドル同好会は廃部になったのか。そこから、話を始めていきたい。すこし混乱している部分もあるだろう。時系列に並べて丁寧に追いかかけていく。

 ①ラブライブ!出場を目指して結成された「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」は、その方向性を巡った部長・せつ菜とかすみとの対立によって、活動継続困難に陥る。この対立以外に具体的にどんな軋みが起こっていったのか、それはわからない。どちらにせよ、この問題はせつ菜とかすみの二人だけの問題ではなかった。ただし、5人の足並みが完全に揃わなくなってしまったわけではない。むしろ、飛び出したのはせつ菜と、かすみであった。残された3人のエマ・彼方・しずくは、果林の協力を仰ぎつつ、同好会廃部の真相を追求しようとする。

 

 ②予定されていた「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」のお披露目ステージは、せつ菜ひとりによって強行された。せつ菜によれば、これは「けじめ」らしい。ほぼ同時期に、せつ菜はグループの解散をメンバーに通告する。時系列的にどちらが先かは絞りきれないが、解散通告を先と見た方が良いかもしれない。メンバーには「解散」と伝えておいて、せつ菜はひとりでステージに立ったのだ。

 

 ③スクールアイドル同好会は、せつ菜ひとりのお披露目ステージを見て感化され、入部を希望していた侑と歩夢の目の前で、生徒会長・中川菜々自身によって廃部となった。

 

 ④スクールアイドル同好会の復活を狙うかすみは、ネームプレートを生徒会室から盗み出して、部室奪還を狙う。しかし、既にスクールアイドル同好会の部室は剥奪され、その場所にはワンダーフォーゲル部が入室していた。

 

 ⑤かすみは歩夢と侑に出会い、非公式でスクールアイドル同好会の活動を再開させる。果林に率いられた3人は、生徒名簿から中川菜々が優木せつ菜であることを突き止め、菜々の下へ廃部の理由を問い詰めに向かう。

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優木せつ菜はもういない。彼女はそう答えた。

 結局、廃部の直接的な原因はわからなかった。しかし、一つはっきりしたのは、生徒会長・中川菜々自身は、スクールアイドル同好会の活動継続自体は否定していないということだ。菜々の下までやってきた果林たちに、菜々はこう告げる。

菜々「優木せつ菜は、もういません!私は、スクールアイドルを辞めたんです。もし皆さんがまだ、スクールアイドルを続けるなら、ラブライブ!を目指すつもりなら、皆さんだけで続けてください」

  菜々は、これはあくまでも優木せつ菜の脱退である、と言っている。もしかしたら、スクールアイドル同好会が廃部になったのも、部活の成立条件である5人を、せつ菜の退部によって割り込んでしまったからというのが真相かもしれない。どちらにせよ、生徒会長の中川菜々には、スクールアイドル同好会の活動自体を迫害するつもりはなかった。

 しかし、論理がそうであったとしても、せつ菜の行動はあまりに身勝手だとしか言いようがない。スクールアイドル同好会の部長はせつ菜だったわけで、それにメンバーへの説明も不十分に尽きる。お披露目ライブのせつ菜単独ステージも、みんなと相談した結果とは到底思えない。それに、隠していたとはいえ、校則に従ったとはいえ、スクールアイドル同好会を廃部にした中川菜々は優木せつ菜その人である。これが単なる「脱退」というのはあまりに屁理屈だ(せつ菜はそれもわかっているかもしれないが......)。事実、しずくは「私たちとはもう.......」と語る。この発言からは、「せつ菜はしずくたちと一緒に活動することを拒否している」という彼女たちの認識が見て取れる。ここに、両者の理解は全くすれ違ってしまった。

 

「本音」と「建前」

 「中川菜々」と「優木せつ菜」。ふたつの名前は、そのまま彼女の二面性を表している。

 生徒会長としての「中川菜々」は、建前だ。彼女は校則という建前によって動いている。スクールアイドル同好会を廃部にしたのも、音楽室を無許可で使った侑をたしなめたのも、はんぺんを飼うことを認めないのも、あるいは「5人集まればスクールアイドル同好会の申請はできる」というのも、校則にそうあるからだ。中川菜々は、生徒会長という立場のもと「建前」で行動しているのだ。そこに私情はさしはさまない。中川菜々は、優秀な生徒会長だった。

 一方で、そんな菜々が「本音」として作り上げたのが、スクールアイドルとしての「優木せつ菜」だった。彼女がどうして2つのキャラクターを使い分けているのか、その明確な理由はまだアニメの物語では明らかになっていない。しかし、3話において、自宅での彼女の描写が示唆的に挿入される。自宅でスクールアイドル衣装を箱にしまい込む菜々。母が部屋に入ろうとすると、菜々はその箱をクローゼットへと急いでしまい込む。来週の模試に言及しつつ勉強の進捗を聞く母に、菜々は「もちろん」と答える。

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「大好き」は、クローゼットに仕舞い込まれる。

 ここでは、スクールアイドル活動は菜々の母にとって好ましいものではなく、菜々は母に秘密でスクールアイドル活動をしていることが分かる。どころか、CDすらも仕舞い込まれている以上、「スクールアイドルを好きでいること」自体、菜々の母にとっては好ましくないのだろう。

 そして、母が菜々に求めるのは「勉強」であることが伺える。菜々は、母に反抗する素振りを見せない。「いい娘」であろうとする、菜々の苦悩が見て取れる。

 母の期待を裏切らず、隠れてスクールアイドル活動をするためには、菜々は芸名を使うしかなかった。だからこそ「優木せつ菜」は、菜々の「本音」だったのだ。

 

 しかし、「優木せつ菜」の夢は打ち砕かれた。虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会は、大海原に乗り出してすぐに、完全に座礁してしまったのだ。

 その原因はせつ菜にあった。スクールアイドル同好会を設立し、メンバーを

集め、「スクールアイドル同好会部長」となった優木せつ菜は、「ラブライブ!」を目指すという「建前」のために、自分の大好きを他人に押し付けてしまっていたのだ。いつの間にか、「本音」と「建前」はすり替わってしまった。「大好き」を叫びたかっただけなのに、せつ菜は他人の「大好き」を傷つけてしまった。

 せつ菜にとって一番ショックだったのは、これが無意識であったことだ。せつ菜は、必死に走ってきただけだと思っていた。しかし、それは最初は「自分のため」だったのに、いつのまにか「みんなのため」になっていた。2話の衝突のシーンで、かすみの絶叫のあとにせつ菜がはっとした素振りをみせるのは、その瞬間に、そのことに気づいたからであろう。

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「罪」の意識が生まれる瞬間。

 せつ菜は、母と同じことをしていた。せつ菜に「勉強」を強い、いい子でいることを求める母。それに反抗して始めたはずのスクールアイドルだったが、せつ菜はメンバーに自分の「大好き」を強い、厳しい練習でかすみを限界に追い詰めてしまった。まったく同じことをしていたのだ。この瞬間のショックは、せつ菜にとって絶望的なものだった。せつ菜がスクールアイドルを辞めようと決断したのは、この瞬間だったに違いない。

 しかし、視聴者は決してせつ菜を責められないことを知っている。それは、2話でかすみが同じ気づきを得ていたからである。せつ菜に「大好き」を押し付けられたかすみも、歩夢に「かわいい」を押し付けてしまった。そして、侑が言うように、それは「仕方がない」ことなのだ。

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失敗を乗り越えたかすみは、一回りも二回りも成長した。

かすみ「せつ菜先輩は、絶対必要です!確かに、厳しすぎたところもありましたけど......。 今は、ちょっとだけ気持ちが分かる気がするんですよ。前の繰り返しになるのは嫌ですけど、きっと、そうじゃないやり方もあるはずで、それを見つけるには、かすみんと全然違うせつ菜先輩がいてくれないと、ダメなんだと思うんです」

  このかすみの発言は、この物語のテーマの根幹にかかわる。かすみは、自分の失敗によって、人はそれぞれ誰もが違うということに気づいた。そして、自分が自分らしく輝くためには、「違いを認める」ことが大切だと思い知った。十人十色のトキメキを表現するためには、お互いの違いを認めなければならない。虹が虹であるためには、一色だけではいけない。他の色があってはじめて、虹は虹たりえるのだ。

 せつ菜とぶつかったかすみがせつ菜の気持ちに寄り添い、せつ菜を赦したことで、「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」にせつ菜を受け入れる準備は整った。メンバーがせつ菜が辞めるのは嫌だと口をそろえることでも、それは分かるだろう。あとは果林の言う通り、せつ菜の気持ち次第なのだ。

 

「期待」と「わがまま」

 「大好き」を押し付けてしまったせつ菜。しかし、その言動を見ていくと、まだ解き明かさなければならない疑問があることに気づく。

 スクールアイドルをやりたいなら、家出など強硬策を取って親に反抗してみてはどうだろうか。メンバーの足並みがそろわなくて、自分の求めるレベルに達しなかったとしても、そのレベルでも妥協して「お披露目ライブ」に臨むという選択肢はなかったのだろうか。ラブライブ!までにはきっと、まだ時間的猶予はあるのだと思う。

 この疑問を解く答えは、「期待」。そしてそれと対立する「わがまま」にある。

 菜々(モノローグ)「期待されるのは嫌いじゃなかったけど、一つくらい、自分の大好きなことも、やってみたかった」

  中川菜々は、いつだって期待に応えようとする女の子だった。否、「いつだって期待に応えようとせずにはいられない」女の子だった。

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菜々には、「期待」を裏切る選択肢は、いつだって、はじめから、なかった。

 母にとって理想的な娘であろうとし続けたのも、母の期待を裏切りたくなかったからだ。菜々にとって、期待に応えることは大好きを貫くことより優先すべきことだった。だから、菜々は「母の期待を裏切らない範疇で」芸名を使ってスクールアイドル活動を始めた。初めから菜々の中には、「母の期待を裏切る」という選択肢はなかったのだ。「優木せつ菜」としてのスクールアイドル活動は、菜々にとって最大限かつ唯一の、自分の「大好き」を貫く方法だった。

 せつ菜がラブライブ!を目指し続け、厳しく高いパフォーマンスを求め続けたのも、「期待」によるものだった。菜々が生徒会室で自身のライブ動画を見るシーン。その活動休止を惜しむ声に悔しさを覚える菜々だが、一番気にしていたのは「(ラブライブ!にエントリーすれば)いい線いってたかもしれないのに」というコメントだ。

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ファンの「期待」が、せつ菜を追い詰める。

 菜々は、優木せつ菜に対して、ファンがラブライブ!に出場し、あわよくば優勝してほしいという「期待」をかけていたことを敏感に感じ取っていた。そして、その「期待」に応えようとしたのだ。せつ菜が手を抜くことができなかった理由はここにある。中川菜々は、期待に応える女の子だ。これは、菜々の本能といってもいいかもしれない。菜々にとって、その期待に応えないという選択肢はない。その瞬間、菜々にとってそれはただの「わがまま」になってしまうからだ。

菜々(モノローグ)「私の大好きは、誰かの大好きを否定していたんだ。それは結局、ただのわがままでしかなく。私の大好きは、ファンどころか、仲間にも届いていなかった」

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望まざる決断。悔しかったに違いない。

 菜々にとって「本音」である大好きをつらぬきたいという気持ちと、「期待」に応えたいという本能は、両立しなかった。大好きをつらぬき、ファンの「期待」に応えようとしたせつ菜は、他人の「大好き」を否定してしまった。それは、せつ菜が「本音」を隠さなければならない理由である、母の「期待」による圧力と全く同じものだった。これでは、自分が大好きをつらぬいたとしても、その大好きによって誰かが傷つき、自分と同じ気持ちをしなくてはならなくなる。苦悩したせつ菜は、スクールアイドルを辞める道を択んだ。

 

音楽室の邂逅

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ラブライブ!の音楽は、いつだって鍵盤の調べに乗せて。

 話は少し戻って、音楽室のシーン。拙いピアノで『CHASE!』を弾く侑*1のもとへ、菜々がやってくる。

 ここでは、彼女は「建前」である生徒会長としての菜々である。しかし、侑はそんな菜々のペースを崩してゆく。せつ菜のことが好きだとまくしたてる侑。

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これは、告白である。

侑「うん、大好きなんだ!」

 侑は、せつ菜一人のお披露目ライブのステージを見ていた。そして、そのせつ菜が大好きだと言う。この言葉を聞いて、菜々ははっとした表情を見せる。しかし、ここは建前としての生徒会長の中川菜々である。同好会が再始動していることを聞いても、菜々は動じない。せつ菜のことを「優木さん」と呼び、せつ菜が菜々と別人であるという設定を揺るがさない。淡々と、校則に則って、スクールアイドル同好会は人数が揃えば申請が可能であると侑に伝える。

 菜々が初めて取り乱したのは、侑のこの発言の後だった。

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「始まり」を受け取ったから。

侑「でも、時々思っちゃうんだよね。あのライブが最後じゃなくて、始まりだったら、最高だろうなって」

 突然のこの言葉。しかし、普通にあのライブを見て、それが「始まりである」と思うだろうか。せつ菜一人が上がったステージを見て、現地のファンは「せつ菜ちゃん一人?」と、5人が揃わなかった不完全なライブに疑念と不審の声を上げていた。動画のコメントも、スクールアイドルを辞めるせつ菜に対して、惜しむようなコメントばかりがついていた。誰がどう見ても、あのライブはせつ菜にとっての「最後の」ライブだった。それを、侑は「始まりだったら最高だ」と言う。

 侑が、どこまで深く考えてこの発言をしているかはわからない。しかし、この発言はせつ菜にとっては限りなく重要なものであった。

 そもそも、せつ菜はどうしてあのステージに一人で立ったのだろうか。いくら責任があるといっても、ステージをキャンセルする選択肢だって、あったように思う。しかし、せつ菜は一人でステージに立った。

 それに、もう一つ気になることがある。侑は、せつ菜に出会ったその日から、スクールアイドルのファンになった。中でも、せつ菜は別格だというのが、侑の評価だ。侑は、必死になってせつ菜の情報を探したが、お披露目ライブの『CHASE!』のステージ以外に、せつ菜の動画は見つからなかった。スクールアイドルを辞める決断をしたせつ菜が、自身の動画を削除したからであろう。

 では、どうしてせつ菜はお披露目ライブのライブ映像だけ残したのか。それは、あのお披露目ライブは、せつ菜が誰かにメッセージを届けるために行ったものだったからだ。

 そのメッセージは何か。誰のためのメッセージなのか。「答えらしきもの」は、彼女自身が語っている。

 菜々(モノローグ) 「けじめでやったステージが、少しでも同好会のためになったのなら。優木せつ菜だけが消えて、新しいスクールアイドル同好会が生まれる。それが、私の最後のわがままです」

 お披露目ライブが「少しでも同好会のために」なって、スクールアイドル同好会が新しく生まれるなら、せつ菜はそれでいいというのだ。その新生スクールアイドル同好会の中に、せつ菜はいない。

 しかし、私はこれがせつ菜のほんとうの望みではないと思う。せつ菜の「ほんとうのわがまま」は、別にあるのではないか。

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去り行く彼女。希望はなくなってしまったのだろうか。

 せつ菜は、スクールアイドルを辞めたくなかった。スクールアイドル活動を続けたかった。

 しかし、今のせつ菜は、メンバーを傷つけ、同好会を解散させ、スクールアイドル同好会を廃部にまで追い込んだ。メンバーの赦しと、そして何か大きなきっかけが無ければ、せつ菜はスクールアイドル同好会に戻れるわけがなかった。

 メンバーの赦しが、かすみのエピソードもあって既に得られていることは、先に述べたとおりだ。しかし、せつ菜にはまだきっかけが無かった。少なくともアニメの物語の中では、元スクールアイドル同好会メンバーの誰も、せつ菜に向かって「同好会に戻ってきて欲しい」と伝えてはいない。せつ菜自身から同好会復帰を切り出す選択肢だけはあり得ない。せつ菜は「第三者」を必要としていた。

 せつ菜が「第三者」を必要とした理由は、もう一つあった。それは、「期待」に関わることである。

 中川菜々は期待に応える女の子だ。彼女は、どんなことがあっても期待に応えようとする。自分の大好きなことをやってみたい。そう思って始めたスクールアイドル活動も、スクールアイドル同好会の部長という立場と、それからラブライブ!に出場してほしいというファンの「期待」と両立させることができなかった。しかし、それでも彼女は「期待」を裏切りたくない。

 もう一度「優木せつ菜」のストーリーを始めるためには、同好会のメンバーでもなく、それまでのファンの誰かでもない、「第三者」が必要だった。そして、せつ菜は部長としてはスクールアイドル同好会には戻れない。それでは、せつ菜はまた同じことを繰り返してしまうからだ。

 

 せつ菜は、誰かがせつ菜の想いに気づいてくれることを願って、その僅かな希望に賭けて、一人でお披露目ライブのステージに立った。そして、その映像だけを残した。メッセージを受け取った誰かがせつ菜の前に現れて、せつ菜にきっかけを与えてくれることを願って。

 奇跡は起こった。メッセージは伝わったのだ。メッセージを受け取ったのは高咲侑、その人だった。侑は、「あのライブが始まりになればいい」といった。それは、せつ菜が伝えたかったメッセージそのものだったのだ。

 

最後の賭け

菜々「なんでそんなこと言うんですか。いい幕引きだったじゃないですか」

 侑の発言を聞いた菜々は、こう答える。一見すればせつ菜の復帰を否定しているように見える発言だが、発言の真意は別のところにある。

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菜々は「最後の賭け」に出た。

 侑の発言を聞いたせつ菜は、メッセージを受け取った人間が、「第三者」たりえる人が現れたことを知った。

菜々「せつ菜さんは、あそこで辞めて正解だったんです。あのまま続けていたら、彼女は部員のみなさんをもっと傷つけて、同好会は、再起不能になっていたはずです」

「高咲さんは、ラブライブをご存じでしょうか?」

ラブライブは、スクールアイドルとそのファンにとって、最高のステージ。あなたもせつ菜さんのファンなら、そこに出て欲しいと思うでしょ?スクールアイドルが大好きだったせつ菜さんも、同好会を作り、グループを結成し、全国のアイドルグループとの競争に、勝ち抜こうとしていました。

勝利に必要なのは、メンバーが一つの色にまとまること。ですが、まとめようとすればするほど、衝突は増えていって、その原因が、全部自分にあることに気づきました。せつ菜さんの大好きは、自分本位なわがままに過ぎませんでした。そんな彼女が、スクールアイドルになろうとおもったこと自体が、間違いだったのです」

  ここでの菜々の言葉は、「建前」ではない。「本音」を話している。確かにここで彼女は「中川菜々」として、「優木せつ菜」を別人として話しているが、しかし途中では「自分」が主語になっている。最後は結局他人としての表現に戻るが、どう考えてもこれはせつ菜以外の視点ではない。ここでは、中川菜々=優木せつ菜として、菜々は本心を侑にぶつけているのだ。

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「幻滅しましたか?」

菜々「幻滅しましたか?」 

  これは、菜々にとって最大にして最後の賭けだった。菜々は、侑が菜々にとって待ちわびた「第三者」であるかどうかを確かめたかった。菜々はここで、想いの丈の全てを侑にぶつけた。「第三者」は、スクールアイドルではなく、しかしファンでもなく、菜々を理解し、そして「ラブライブ!」を目指すことを菜々に期待しない者でなければならない。そうでなければ、菜々は、せつ菜は、同好会に戻れない。もしそれでも同好会に戻ったなら、彼女は同じことを繰り返してしまうだけだからだ。

 音楽室での菜々のこの言葉は、一見取り付く島もないような対応に見えるが、そうではない。せつ菜は、侑が「第三者」であることを確認するために、侑から「幻滅などしていない」という言葉を引き出すために、この話をしたのだ。「優木せつ菜」は、もういない。スクールアイドル同好会の廃部によって、優木せつ菜はもういなくなった。残されたのは、「建前」としての中川菜々だけだ。中川菜々として、侑が「第三者」かどうかを確かめるには、せつ菜がスクールアイドル同好会に戻るには、この方法しかなかった。

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強く握る拳にかける想いは、どんなものだったろうか。

 侑は、答えなかった。答えられなかったのか、答えを出さなかったのか、それは分からない。しかし、侑がここで簡単に答えを出さないことには、好感が持てる。この問題は、そう簡単な問題ではない。菜々の人生そのものにかかわるような、そんな問題だからだ。

 しかし、どちらにせよ、菜々の賭けはこの段階では失敗に終わった。歩夢が現れると、菜々は硬い声で「失礼します」と一言残し、音楽室を去って行った。菜々の「最後のわがまま」がせつ菜のいない新生スクールアイドル同好会の誕生になったのは、ここで菜々の最後の賭けが失敗に終わり、せつ菜がスクールアイドル同好会に戻る道が閉ざされたからだ。

 

ほんとうのわがまま

 果林たちと合流した侑は、彼女たちが既にせつ菜を赦していることを知る。実は、侑は音楽室のタイミングでせつ菜を受け入れる覚悟ができていたが、そのためにはグループのみんなの総意を確認して、合意をとってからではないといけないと考えていたというのは、さすがに深く考えすぎだろうか。せつ菜を新生スクールアイドル同好会に迎え入れる準備は整った。交渉役には、侑が自ら立候補した。果林の言う通り、あとは、せつ菜の気持ち次第だった。

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せつ菜のスクールアイドル復帰交渉は、侑に託された。

 侑は、歩夢とかすみに放送をかけさせて、「優木せつ菜」と「中川菜々」の二人を屋上へ呼び出す。菜々は呼び出しをしたのが誰かを考えるにあたってエマか果林を*2疑っているし、「最後の賭け」に失敗した時点で、菜々は侑が「第三者」となる関係を諦め、スクールアイドルを辞める覚悟が決まっていたのであろう。ここで、侑が呼び出してくる可能性は菜々の頭の中には無かった。

 しかし、屋上に立っていたのは侑だった。

侑「こんにちは、せつ菜ちゃん」

 侑が会いたかったのは、優木せつ菜だ。「彼女」は、しばらくは中川菜々として話すが、しかし侑は終始せつ菜に向かって話しかける。

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思えば屋上は、せつ菜とかすみがぶつかった場所でもあった。

 侑はまっすぐに音楽室でのことを謝るが、菜々は菜々だった。突然の謝罪に驚きつつも、それでも淡々と受け応える菜々。そこには、せつ菜の影はみえなかった。

菜々「 話が、終わったのなら......」

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せつ菜には、まだ未練が残っていた。

 この瞬間、菜々の中のせつ菜が顔を出した。呼び出し人が侑だと知って、菜々は再び、侑が「第三者」になってくれることを期待した。そうでないのなら、名残惜しさも見せずに去ればいい。後ろ髪をひかれるようなこの台詞は、菜々が、まだスクールアイドルに未練を残している、何よりの証拠だった。

 

 そんな菜々を見た侑は、こう切り出す。

 侑「まだあるの!

私は、幻滅なんて、してないよ。

スクールアイドルとして、せつ菜ちゃんに同好会に戻ってほしいんだ」 

 これは、菜々が待ち望んだ言葉だ。音楽室で侑と出会ったときに、菜々は最後の賭けをした。「優木せつ菜」が生き残る、唯一の可能性を侑に託した。すぐには答えは出なかった。しかし、確かに今、侑はそれに答えた。この瞬間、菜々の中で眠っていた「優木せつ菜」は息を吹き返した。

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「菜々」から「せつ菜」へと変わり、取り乱す彼女。

せつ菜「 何を......。もう全部わかっているんでしょ?私が同好会にいたら、みんなのためにならないんです!私がいたら、ラブライブ!に出られないんですよ!」

  優木せつ菜は、ほんとうのわがままを侑にぶつけた。せつ菜がスクールアイドル活動を再開するには、誰も傷つけずに活動を続けるには、この言葉が必要だった。

侑「だったら!だったら、ラブライブ!なんて、出なくていい!」 

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ラブライブ!なんて出なくていい!」。これは、せつ菜を呪縛から解き放つ、魔法の言葉。

 この言葉が侑に口から放たれた瞬間、それまでせつ菜の「大好き」を縛っていた、「期待」の鎖は解かれた。せつ菜は真に解放されたのだ。これでもう、せつ菜はだれも傷つけなくていい。もう同じ過ちを、繰り返さなくていい。

侑「私は、せつ菜ちゃんが幸せになれないのが嫌なだけ。ラブライブ!みたいな最高のステージじゃなくてもいいんだよ。せつ菜ちゃんの歌が聴ければ、じゅうぶんなんだ。スクールアイドルがいて、ファンがいる。それでいいんじゃない?」 

せつ菜「どうして、こんな私に......」

侑「言ったでしょ。大好きだって。こんなに好きにさせたのは、せつ菜ちゃんだよ」

せつ菜「あなたみたいな人は、初めてです」

 これは、「いい屁理屈」だ。菜々が、はんぺんを「生徒会おさんぽ役員」として虹ヶ咲学園の一員として迎え入れたのと同じである。はんぺんが、校則を破らずに虹ヶ咲学園で生活するには屁理屈が必要だったように、せつ菜が、「期待」を裏切らず、「大好き」をつらぬいてスクールアイドル活動を続けるためには、屁理屈が必要だったのだ。そして、それはこういう屁理屈だ。

 せつ菜のファンは、せつ菜のステージを見たい。そして、せつ菜がよりレベルの高いステージに立つことを望むのは、当然のファン心理だ。スクールアイドルがいて、ファンがいる。それだけの関係は、ほんとうはありえない。それに、スクールアイドルとして活動するにも、目標はどうしても必要になる。それが最高のステージであるラブライブ!に設定されることは、何の不思議もないことだろう。

 でも、侑はそうではない。侑はファンであって、ファンでない。侑はせつ菜に「ラブライブ!に出なくていい」という唯一の人間だ。それは、侑が長年せつ菜のファンをしてきたわけでもなく、しかしスクールアイドルとして活動しているわけでもない、「第三者」だからこそ実現する。そして、せつ菜はそんな侑一人の期待に応えるために活動すればいい。そうすれば、せつ菜は「期待」に応えられるし、ラブライブ!に縛られずに「大好き」をつらぬける。侑の「大好き」に応えることがせつ菜の「大好き」になる。こうなってはじめて、せつ菜は「建前」と「期待」でがんじがらめになった世界の中で、「大好き」を、思う存分、叫ぶことができるようになる。

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中川菜々と優木せつ菜。そのすべてを受け入れてくれる人に、せつ菜は初めて出会った。

 侑は、せつ菜の「期待」も「わがまま」も、「本音」も「建前」も乗り越えて、そのすべてを抱きしめてくれる、せつ菜にとってはじめての人だった。期待には応えたい。でも大好きはつらぬきたい。「建前」を駆使して、どうにかそんな相反する自分の理想を追い求める。時にはまわりが見えなくなって、自分の「大好き」でひとを傷つける。それでも、諦められない。捨てられない。そんな不器用でわがままなせつ菜の全てを受け入れてくれる唯一の人が、侑だった。

せつ菜「期待されるのは、嫌いじゃありません。ですが......ほんとうに良いんですか?私のほんとうのわがままを、大好きをつらぬいても、いいんですか?」

侑「もちろん!」 

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未来は、明るいものになった。

  スクールアイドル活動をしたい。大好きを、何かに縛られることなく、存分に叫びたい。菜々の「ほんとうのわがまま」は、今侑によって受け入れられた。不器用な中川菜々が生み出した「本音」の自分。優木せつ菜は、その全てを理解して受け止める高咲侑と出会って、ようやく誕生したのだ。今初めて、せつ菜が「大好きを叫ぶ」ための準備が整った。

せつ菜「わかっているんですか?あなたは今、自分が思っている以上に、すごいことを言ったんですからね。

どうなっても知りませんよ?」 

  スクールアイドル優木せつ菜の物語は、彼女が侑の前で眼鏡をはずし、髪を解いた、この瞬間に始まった。「大好き」を叫ぶスクールアイドルによる、伝説の物語の開演である。

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今、侑の目の前で、「優木せつ菜」が生まれる。

せつ菜「スクールアイドル同好会、優木せつ菜でした!」 

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侑とせつ菜の出会いが、物語をスタートさせる。

 大好きを叫んだせつ菜の向かう先は、まだ誰にも分からない。しかし、せつ菜の頭上に広がる青空は、どこまでも澄んで広がっている。その未来がせつ菜にとって幸せなものになることは、疑いようがない。

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「優木せつ菜」の物語は、まだ始まったばかりだ。

※引用したアニメ画像は、特に表記が無い場合、すべてTVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』(©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会)第3話より引用。

*1:スクスタでは「あなた」は音楽科所属だったが、アニガサキで侑は普通科所属である。「初めて」と侑は言っているし、片手で単音を弾いていることからみて、侑はピアノ未経験であると思われる。しかし、テンポはゆっくりだが、『CHASE!』を耳コピして弾いていることから、ある程度の音感はあるようだ。今後、侑が作曲するような描写があるかどうか、注目である。

*2:菜々はどうしてエマを疑ったのか。これは推論だが、冒頭の生徒会室のシーンで、解散についてしずくと彼方が追及の姿勢を見せるなか、エマは「せつ菜ちゃん......!」と呼びかけるだけだ。そして、せつ菜はエマの言葉にだけ動揺している。せつ菜は、旧同好会のメンバーで直接菜々を呼び戻す可能性があるのは、エマかしかいない。エマでなければあるいは、部外者だが菜々自身が芸名で活動する理由に踏み込もうとしていた果林だと考えていたのではないだろうか。菜々にとって、侑以外にきっかけを与えてくれる人になれる候補は、エマか果林しかいなかったのだ。

かすみ猫と、夢のワンダーランド TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』視聴レポート #2 「Cutest♡ガール」

TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』視聴レポート #2 「Cutest♡ガール」 

かすみ猫と、夢のワンダーランド

 

 もくじ

 

※当記事は、TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』のストーリーに関するネタバレ、あるいは、アプリ『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバルオールスターズ』のストーリーに関するネタバレを含みます。アニメ未視聴の方、アプリ未プレイの方は、予めご了承ください。

泥棒猫が狙うもの

「世界で一番のワンダーランド。そんな場所に行けると、思ってたのに......」 

  まっすぐな想いと、まったく同じ大きさのまっすぐな想い。ふたつの想いはぶつかって、かすみは同好会を飛び出した。巨大なエネルギー同士の衝突は大爆発を伴って、それぞれ想いを抱えるメンバーはちりぢりになってしまった。

 

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はんぺんは猫。かすみも猫......?

 ストーリーを導いていくのは、かわいい猫だった。

 野良猫はんぺんを連れ出したかすみは、生徒会長室へ忍び込む。かすみは、はんぺんを囮にして、生徒会長中川菜々の意識を逸らす。

 しかし、かすみもまた猫だった。策略をもって菜々と対した果林は、かすみを囮にして、菜々の意識を逸らす。まんまと生徒名簿を持ち出した果林。決定的証拠。これが、菜々を、せつ菜を、追い詰める。

 

 かすみが盗み出したのは、「スクールアイドル同好会」のプレートだった。

 これは、決して策士果林さんに対して、かすみがちょっとおバカさんだとか、そういう話ではない。ちょっとおっちょこちょいだとか、そういうことはあるかもしれないけれど。ともあれ、生徒会長に犯行現場を目撃された泥棒猫・かすみは、こう言い残して逃げていく。

かすみ「しかし、目的は果たしました。さらば!」

 はんぺんを使って生徒会長室に忍び込むかすみの「計画的犯行」は、見事に成功した。そして、かすみは目的を果たして逃げ去った。そう、かすみが狙っていた獲物は「スクールアイドル同好会」のプレート、そのものだったからだ。

かすみ「にひひ、大成功です!」 

 しかし、一瞬にしてかすみの計画は暗転する。

 スクールアイドル同好会の部室は、もう失われていたのだ。それは、物理的に取り返すことが不可能になっていた。「ワンダーフォーゲル部」によって占拠された部室。かすみがどうしても取り返したかったプレートは、もうどうしたってその定位置に戻すことはできなくなっていたのだ。

 

ロスト・ワンダーランド

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かすみにとって一番大切な場所は、あっさりと奪われてしまった。

 絶望するかすみは、思わず膝から崩れ落ちる。

 プレートを取り返したかすみが一番最初に向かったのは、部室だった。

 そもそも、プレートを取り返しただけでは、鍵を開けて部室に入れる保証はない。それに、また生徒会長にプレートを取られてしまえば、かすみの計画は水泡に帰してしまう。

 それでも、かすみがプレートを取り返したのは、そして部室に向かったのは、かすみにとっては「場所」としての同好会が一番大切だからである。かすみにとっての「ワンダーランド」とは、スクールアイドル同好会であり、その部室なのだ。かすみにとっては、確かにライブができなかったことも、みんなと連絡が取れないことも一大事ではあるのだが、それ以上に「スクールアイドル同好会の場所」がこの世から無くなってしまうことの方が、遥かに深刻なのだ。だから、かすみはせつ菜と話をするとか、どうにかしてメンバーと連絡をとるとか、そんなことよりも真っ先にプレートを取り返すことを目指した。それは、何より同好会が無くなってしまったら、かすみにとって大切な居場所である同好会が、その部室が、かすみの「ワンダーランド」が、失われてしまうことを意味しているからだ。

 かすみがどうしてここまで場所としての「スクールアイドル同好会」に固執するのか。それは今のところ分からない。「かわいい」を表現するなら、もっと他の方法だってあっていいはずである。それでも、かすみは「スクールアイドル同好会」にこだわる。

 あえて答えを出すとしたら、それは「スクールアイドル同好会」が、かすみにとって唯一の居場所であり、「かわいいを表現できる場所」だからということになると思う。裏返して言えば、かすみの考える「かわいい」は、スクールアイドル同好会以外の場所では表現できないということを意味する。それがかすみ自身が表現できないということなのか、それとも誰もそれを受け入れてくれないということなのか、あるいはその両方なのか。これ以上は妄想にしかならないので止めておくが、やはりかすみにとって「スクールアイドル同好会」という居場所が、ワンダーランドが、唯一無二なものであることは間違いない。

 泥棒猫かすみ。よく、「犬は人に付き、猫は家に付く」と言う。そう考えると、誰かについていくのではなく、場所としての「スクールアイドル同好会」に居付くかすみは「猫」として見え......なくもない。ちょっと考えすぎかもしれないが.......。

 どちらにせよ、かすみ猫の居場所は無くなってしまった。それは、野良猫かすみが次の住処を探す、これからそんなストーリーが始まるということを意味しているのだった。

 

「かすみんワンダーランド」と、その行方

「ワンダーランド」を取り戻す。部室を奪われ、部室奪回の強硬策を「薄情者」のしずくに取り合ってもらえなかったかすみは、ついにある決断をする。

かすみ「こうなったら、かすみんが部長になって、同好会を存続させるしか......!

かわいいあふれる、かすみんワンダーランドを作っちゃいますよ~」

 まさに渡りに船。悩むかすみの前に表れたのは、「スクールアイドルにご興味がありそう」な、侑と歩夢の二人だった。

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かすみ、絶好調です!

 かすみに疑惑の目をむける歩夢と、興味津々の侑。そんな二人を、かすみは「スクールアイドル同好会」に勧誘する。

かすみ「大丈夫です!信じてください!かすみん、最強にかわいいスクールアイドル同好会にしてみせますから!」

 これは、かすみによる「スクールアイドル同好会」の復活宣言である。今ここで、中須かすみ部長による「新生・虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」が誕生した。

かすみ「早速これから同好会を始めますよ!ついてきてください!」

 「入部決定」の歩夢と、専属マネージャーの侑。二人を抱え込んだ同好会は、一歩目を踏み出していく。

 

 動き出した同好会。かすみたちが一番最初に取り組んだのは、活動場所を探すことだった。

 スクールアイドル同好会は、既にせつ菜によって、歩夢たちの目の前で、廃部となった。つまり、かすみが始めた新生スクールアイドル同好会は、非公認の存在だった。ましてや、かすみは生徒会長室からプレートを盗み出した「泥棒猫」だ。ただでさえ無数の部活でひしめく虹ヶ咲学園においては、いくら学校が広いとはいえ、学園内で活動するのは不可能なことだった。

 公園を転々とするかすみたち。なかなかいい場所が見つからないかすみに対して、侑は潮風公園を提案する。広くて静かな潮風公園。野良猫かすみたちの仮住まいとしては、おあつらえ向きだった。

 

かすみ「なにはともあれ、しばらくはここが虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の部室ですよ!」

 やはり、かすみにとって大切なのが「場所」であることは、この発言からも読み取れる。「スクールアイドル同好会」のプレートは、かすみにとって自分の居場所の、「ワンダーランド」の象徴なのだ。だからこそ、このプレートを生徒会長室から盗み出してきたのであり、だからこそ、そのプレートを置くことで、公園すらも部室に変わる。変えることができるのである。「部員を集める」ことよりも、「部室を決める」ことが先に来るのも、かすみにとって「居場所」がいかに大切かを物語る。

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「部室」を取り戻すことは、かすみにとっては「ワンダーランド」を取り戻すことなのだ。

 とはいえ、準備は整った。次のステップは「部員募集」。そのための自己紹介の動画づくりが、かすみの率いる新生スクールアイドル同好会の行方を、大きく左右していくのである。

 

 

「かわいい」と「かわいい」は、決して交わらない

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歩夢が踏み出した理由もまた「かわいい」だった。

歩夢「かわいい......。だったら、やろうかな」

 話は少し戻って、歩夢がかすみの「新生スクールアイドル同好会」に入部するときのことである。目の前で「スクールアイドル同好会の廃部」を宣言され、部室が失われる瞬間を見せつけられた歩夢にとっては、かすみの提案は簡単に信用していいものだとは感じられなかったのだろう。歩夢には、侑に対して猛アピールをみせるかすみに対する警戒感もあったかもしれない。

 それでも、歩夢はかすみを信じた。なぜ信じたのかといえば、それはかすみが「最強にかわいいスクールアイドル同好会」にしてみせると言ったからだ。歩夢は「かわいい」から、かすみの新生スクールアイドル同好会に入部を決めた。

 

 歩夢がスクールアイドルを始めたのも、「かわいい」を目指したからである。

歩夢「私、好きなの!

ピンクとか、かわいい服だって、今でも大好きだし、着てみたいって思う。

自分に素直になりたい。だから、見ててほしい」

  歩夢が、自分と素直に向き合って目指したのは、ピンクでかわいい服を着る、そんなスクールアイドルだった。だからこそ、歩夢は「かわいい」スクールアイドル同好会ならと、かすみの新生スクールアイドル同好会への入部を決意した。

 歩夢とかすみは、侑の関心を引こうとつばぜり合いを始める。並んで座る歩夢と侑。かすみは、外側にいたり、間に入り込んだり。歩夢とかすみ、二人の駆け引きは、コロコロと変わる位置関係で見事に表現されている。「かすかす」で先制攻撃をかける歩夢には、危機感すら見て取れる。

 「かわいい」を目指すスクールアイドルである、歩夢とかすみ。ライバル同士の二人の関係が、始まろうとしていた。

 

 しかし、かすみの「かわいい」と、歩夢の「かわいい」は、絶対に交わらなかった。

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あふれだすかすみの「かわいい」に、もう降参である。

 かすみが考える「かわいい」を、最大限に詰め込んだかすみの自己紹介。侑は、初めて見るスクールアイドルの自己紹介に大喜びだったが、歩夢は違った。「は?」。これが歩夢の第一声である。かすみの考える「かわいい」は、歩夢には理解できないものだった。

 次は歩夢の番。かすみの求める「かわいい」を再現できない歩夢は、追い詰められる。呆れるかすみが提案したのは、かの「あゆぴょん」。しかし、歩夢は恥ずかしさのあまりに声が小さくなってしまったり、気持ちが入らなかったり。

かすみ「不合格ですね」

 かすみの考える「かわいい」は、歩夢にとってはあまりに難しいものだった。「かわいい」と聞くだけで、怖がる歩夢。いまここで、二つの「かわいい」は、全く交わることなく、根本的にすれ違ってしまったのだ。

 

すれ違う理由

 活動が終わったあと、デックス東京ビーチの中で座り込んで話す3人。

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アニガサキでは、高低差の描写がとても効果的に使われている。

 侑はかすみに、「同好会がなぜ廃部になったのか」という、かねてからの質問をぶつける。

 かすみはこう答えた。

かすみ「もとはと言えば、せつ菜先輩がいけないんです」 

  「大好き」を届けたいせつ菜と、「かわいい」を目指すかすみ。

 かすみは、こうやって二人がぶつかってしまったことを、2つの理由で理解していたのだと思う。

 一つは、「自分の価値観を押し付けてくるせつ菜が悪い」ということ。

 2話は、せつ菜とかすみがぶつかるシーンから始まる。かすみに、より高いパフォーマンスを求めるせつ菜。他のメンバーがせつ菜をたしなめていることから見ても、せつ菜の要求は、客観的に見ても少し高すぎるところがあったのかもしれない。いずれにせよ、明確に方向性の違うせつ菜の要求に耐えられなくなってしまったかすみは、同好会を飛び出すことになってしまった。「せつ菜先輩がいけないんです」という言葉には、かすみのはっきりとした怒りが見て取れる。同好会廃部の原因は、せつ菜にあると見ているわけだ。

 もう一つは、「最初から方向性が違っていたことで対立が起こった」ということ。

 「こんなの全然かわいくない!」。そうせつ菜に言い放つかすみ。かすみは、同好会の中で(ここが大事!)、自分の思う「かわいい」を表現することを目指していた。それなのに、せつ菜の方向性での努力を強いられ、耐えられなくなってしまった。かすみは、皆の方向性が一致しなければ、同好会は「ワンダーランド」になり得ないと思っている。その証拠に、後で侑が「みんなの方向性が違っていても、それは仕方がない」といったときに、「それでは困る」と答えている。かすみは、みんなの方向性が同じである、そんな同好会を作る必要があると考えていた。

 

 だからこそ、かすみは自分で「かわいいスクールアイドル同好会」を設立した。最初に入部したメンバーは、自分と同じく「かわいい」アイドルを目指す歩夢だった。みんなが「かわいい」を目指す同好会。「かすみんワンダーランド」設立を目指すかすみの計画に、死角はない。はずだった。

 

 しかし、歩夢の「かわいい」と、かすみの「かわいい」は、交わらなかった。

 かすみはきっと、良かれと思って歩夢に「かわいい」を叩き込んだのだと思う。かすみは、同好会がうまくいかなかったのは、せつ菜の「大好きを伝える」とかすみの「かわいい」の、全く違うベクトルのものがぶつかったからだと思っていた。だからこそ、新生スクールアイドル同好会は「かわいい」がコンセプトだったのだ。みんなが同じベクトルであれば、同好会は上手くいくと思っていた。

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自らの過ちに気づくかすみ。この子は、いつだって人のことを大切に思える子だ。

 しかし、怖がる歩夢を見て、かすみは気づいた。かすみが歩夢に「かわいい」を叩き込んだのは、あの厳しかったせつ菜と、全く同じことをしていたのだ。

 

 このことは、かすみに2つのことを導いた。

 ひとつは、かすみがせつ菜と同じ立場に立ったこと。

 これまでかすみは、せつ菜に対して怒っていた。「ムキ―ッってなっちゃって」と、かすみも言っている。感情的な時ほど、人間は客観的に物が見れなくなる。しかし今、かすみはせつ菜と同じことをしてしまった。自分が絶対的に悪いと思っていたものが、自分自身すら無意識にやってしまうことであると気づいたのだ。ベッドにうつぶせになってもがくかすみの気持ち。これは、いわば「ブーメラン」だ。これほど辛いことはない。

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かすみにとって、憂鬱な夜になった。

 もう一つは、「かすみんワンダーランド」計画が、決定的に頓挫してしまったことだ。

 かすみは、同好会廃部の理由を「方向性の違い」に求めた。だからこそ、方向性が同じ「かわいい」スクールアイドル同好会を作れば、うまくいくと考えていた。

 しかし、それは間違いだった。人の目指すもの、考えることはもちろん十人十色だが、「かわいい」もまた十人十色だった。かすみの考える「かわいい」と、歩夢が考える「かわいい」は、根本的に違っていたのだ。これでは、またお互いにぶつかりあって、新生スクールアイドル同好会も活動不能に追い込まれてしまう。

 

 同好会を飛び出したかすみ猫は、ついに、袋小路に追い込まれた。

 

かわいいから合格です!

 しかし、かすみは逃げなかった。

 「歩夢に対して酷いことをしてしまった」というかすみ。歩夢が自分の指示に従って練習していると聞いたかすみは、罪悪感の悲しみのなかで、侑に抱き着いて助けを求める。かすみにとって、この瞬間が一番つらかったかもしれない。

 でも、かすみは自分の行動を正当化しなかった。

かすみ「やりたいことは、やりたいんです。

けど、人にやりたいことを押し付けるのは、嫌なんですよ。

なのに、かすみん、歩夢先輩におんなじことしちゃって......。 

  かすみは、正直に自分の想いを侑に明かした。悪いことをしている自分を、ごまかさなかった。それは、歩夢が現れたときにも分かる。遅れてやって来た歩夢が、「あの、自己紹介なんだけど.......」と切り出すと、かすみは「ああ......」と、両手を前に出して歩夢を制止しようとする。かすみとしては、ここで歩夢に自己紹介をやらせてしまったら、それは完全に人にやりたいことを押し付けたことになってしまう。かすみは、ここで歩夢を止めて、正直に謝るつもりだったのだろう。中須かすみという人間のもつ正直さ、真っ直ぐさ、人を思いやれるこころ。そんな魅力が、ここには詰まっている。

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歩夢を制止するかすみ。かすみの人格が凝縮された一枚だ。

 

 そんなかすみを救ったのは、侑と、それから歩夢だった。

 侑は、かすみにこう言った。

侑 「つまり、それぞれやりたいことが違ってたってことでしょ?それでケンカしちゃうのは、仕方ないと思うけどなあ」

  これは、完璧な救済だ。侑は、かすみもせつ菜も、お互いぶつかってしまったことも人に押し付けてしまったことも、「仕方がない」と言った。その責任は、せつ菜にも、そしてかすみにも無いんだよ、ということを、真っ直ぐかすみに伝えたのだ。かすみが悩んでいたことは、誰にでもあることであって、決して悪いことではない、と。

 しかし、これではあまりにも説得力がない。なにしろ、かすみはこの問題とずっと向き合って、そして挫折してきた。論理は経験に勝らないのだ。

 

 答えを持ってきたのは、歩夢だった。

 先日はあれだけ苦労した歩夢の自己紹介だったが、今日は、見事に、それを成功させてみたのだ。

 それは、歩夢自身が、自分自身の「かわいい」を見つけたからだ。自分のかわいいを見失っていた歩夢。きっかけを与えてくれたのは、すれ違いに歩夢と出会った果林だった。

果林「でも、それはあなたの言葉?

もっと伝える相手のことを意識した方がいいわよ」 

 歩夢にとってのファン一号は侑だった。と言えば簡単だが、もっと話は大きいのだと思っている。これは推測の域を出ないが、歩夢の「かわいい」は、侑が思う「かわいい」なのだ。もちろん、歩夢は自分の意思で、スクールアイドルになった。それは疑いがない。しかし、目指すのは、侑が「かわいい」と言ってくれる、そんなスクールアイドルなのではないか。

 だからこそ、歩夢はあの衣装を着て、決意のステージに立った。だからこそ、侑が「かわいい」と褒めちぎるかすみの登場はピンチだった。歩夢は「かわいい」と思わなかったかすみの自己紹介を、「かわいい」と喜ぶ侑を見た歩夢は、思わず「え?」と驚く。かすみの登場は、歩夢にとっても大ピンチだった。

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ライバルかすみの登場は、歩夢にとってもまた試練だった。

 侑の求めるかわいいがかすみのかわいさの中にもあると知った歩夢は、侑の「かわいい」にかける期待に応えるべく、かすみの「かわいい」に挑戦する、しかし、結果は散々だった。

 しかし、歩夢は試行錯誤の中で、果林の先ほどの言葉も力となって、答えを見つけた。侑が歩夢の中に見出す「かわいい」と、侑がかすみの中に見出す「かわいい」は、根本的に違うものだ。侑はかすみの「かわいい」に近づけようとしすぎて、自分の言葉を、「かわいい」を見失っていたのだ。

 歩夢の自己紹介に「あゆぴょん」が残ったのは、歩夢が侑のことを真っ直ぐ考えた結果だと思っているが、さすがに考えすぎだろうか......?

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いつか「あゆぴょんだぴょん」って言ってくれる日を、いつまでも待つ。

  なんにせよ、歩夢は、かすみの目の前で、歩夢とかすみの「かわいい」は当たり前に違うということ、そして、それは問題なく共存できることを、完璧に示したのだ。侑も、あの時かすみに抱き着いたのと同じように、歩夢にときめいて、そして「かわいい」と抱き着いた。今、この瞬間、ふたつの「かわいい」は、お互いの違いを、お互いのすばらしさを、認め合うことができたのだ。

 

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歩夢が見つけた自分なりの「かわいい」は、かすみの心を動かした。

かすみ「 かすみんの考えてたのとはちょっと違いますけど、かわいいから合格です」

  歩夢は、かっこいいから、きれいだから、セクシーだから、合格だったのではない。「かわいいから」合格だったのだ。かすみは、自分とは違う歩夢のかわいさを認めたのだ。

 かすみと歩夢の「かわいい」は、一見同じに見えたが、それは絶対に交わらないものだった。それが同じに見えて、決して交わらないからこそ、かすみは誰にでもある価値観の違いに気づき、そしてそれをお互いに尊重する。かすみの持つ「人に押し付けたくない」という理想を、信じることができたのだ。

 

 ここで、侑が提案する。

侑「多分、やりたいことが違っても、大丈夫だよ。

上手く、言えないけどさ。

自分なりの一番を 、それぞれ叶えるやり方って、きっとあると思うんだよね」

かすみ「そうでしょうか?」

侑「探してみようよ。それに、その方が楽しくない?」

  歩夢が結果で、かすみの目の前で示してくれた可能性。かすみは、その可能性を信じつつも、しかしまだ疑っていた。だからこそ、かすみは侑に聞き返した。

 侑は「探してみようよ」と応えた、この瞬間、はっとして、それからかすみの表情が晴れた。

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かすみは、侑を信じることにした。

 それは、侑がまだそんな場所が無いこと、それからそんな場所を作ることが難しいことを知っていて、それを踏まえたうえで、「一緒に探してみよう」と誘ったからだ。この言葉は、かすみが信じるに足りる、そんな説得力をもった言葉だった。せつ菜もかすみも、そんな同好会を、場所を、ワンダーランドを、作ることはできなかった。しかしかすみは、侑と出会って、そして歩夢と出会って、ワンダーランドへの第一歩目をクリアして、侑と一緒なら、侑についていけば、そんな世界が作れると確信したのだ。

 

夢のワンダーランド

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この「瞬間」、かすみと歩夢はライバルになった。

かすみ「でも、歩夢先輩!どんなに素敵な同好会でも、世界で一番かわいいのは、かすみんですからね!」

 かすみが、侑と歩夢と、いろんなかわいいもかっこいいも一緒にいられる「ワンダーランド」を目指したこの瞬間。この瞬間に、歩夢とかすみは完全にライバルになった。ライバルになれるのは、お互いを認め合っているから、お互いが対等だからだ。一番「かわいい」を目指すライバル。でも、そんな二人が一緒に活動できるのは、それぞれの「かわいい」を否定しないワンダーランド。その物語が、もう始まっているからだ。

 

いろんなかわいいもかっこいいも、一緒にいられる。そんな場所が本当に作れるなら.......。そこは絶対、世界で一番の ワンダーランドです!

 かすみが目指す「ワンダーランド」。失われた居場所を取り戻し、もっともっと素敵な世界へと。かすみがその景色を見ることができる日は、そう遠くないのかもしれない。

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これは、夢のワンダーランドへの第一歩。

※引用したアニメ画像は、特に表記が無い場合、すべてTVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』(©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会)第2話より引用。

TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』最速視聴レポート #1 「はじまりのトキメキ」

 みなさん!!!ついに始まりましたよ!テレビアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』!

 もうほんとに待ちきれなかったよねえ。でもなんか実感もなくて。毎週末が待ち遠しくて、シャワーのように素晴らしい新曲を浴び続けて、みんながみんな驚くほどかわいくて尊くて、そして恍惚の表情で怒涛の勢いで出てくる円盤にお金を溶かし続ける、あの時間。またくるんだなあって、終わった今ようやく実感しています。

 

 前置きなんてまどろっこしい!さあさあ、アニメについてお話していきましょう!

 

※当記事は、TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』のストーリーに関するネタバレ、あるいは、アプリ『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバルオールスターズ』のストーリーに関するネタバレを含みます。アニメ未視聴の方、アプリ未プレイの方は、予めご了承ください。

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TVアニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」PV ロングVer.

 


 

都会で、ちょっぴりオトナなお台場の高校生事情

 台場からのレインボーブリッジ。今回の舞台が凝縮されたようなシーンからアニメは始まりました。どことなく無敵級*ビリーバーを思い出す気もして......高まる期待!

 細かいところだけど、シーンが変わるときに入る「LOVELIVE!」、「SCHOOL IDOL PROJECT」のカットインは、どことなく『無敵級*ビリーバー』と、それから『未来ハーモニー』のPVっぽい感じ。演出とかのテイストもああいう感じになるのかな。

 

 そして、早速、ゆうぽむですよ!えっ、矢野さんの侑ちゃん、超イメージ通りなんだけど。声、めちゃくちゃ良いじゃん......!

侑「イマイチ、トキメキが足らないね~」

 舞台はダイバーシティの中。「都会」を意識してるよね。都会の女子高生って感じで、洗練された放課後。前々作や前作とは違うぞ、って感じがする。

侑「このまえ取り損ねたぬいぐるみさ~、ネット見たら、オークションに出てて......」 

  「取り損ねた」って、多分クレーンゲームのことだよね。ネット―オークションをなんの躊躇もなく使うこの描写も、「都会の子」感を強めてるなあって思ったり。

 

 さて、意味深なシーンはここから。

 侑ちゃんが歩夢ちゃんにふりふりで可愛い服を勧めるシーン。

 「似合うと思う」という侑ちゃんも、歩夢ちゃんは断ります。まあね。気持ちはわかるよ。

 「最近までよく着てた」が小学生の時の話なのはちょっと面白いよね。いや、さすがに最近じゃないでしょ。

 と、ここでイケメン侑ちゃん登場。

侑「着たい服着ればいいじゃん。歩夢は何着たってかわいいよ」

  そういうとこだぞ。そうやって数多くの女の子を勘違いさせていくんでしょ。ほら、歩夢ちゃんが泣いてるよ?知ってる。でも、想像してた侑ちゃんがそのままって感じ。好きだなあ。ちょっと男のこっぽさがあるのも、イメージ通り。

 で、「あゆぴょん」。は?いきなり頭をフリーズさせないでよ。それを切り札にするのはまだはやいでしょ?そしていちゃいちゃするゆうぽむ。解釈は完全に一致です。

 

 で、大事なのはそこじゃなくて.......。フリフリの服を断る歩夢ちゃん。これは伏線になりそう。かわいい服を着れるのが、スクールアイドルだしね。

 

 それから、コッペパン!これさ、あの投票の時のやつよね?『無敵級*ビリーバー』もそうだけど、そうやって遠い伏線を綺麗に回収するの、ずるいってば.......。

 いちゃいちゃゆうぽむは変わらず。自撮りを提案する歩夢ちゃんも、やっぱり都会の子なんだなっておもうなあ。

 

『CHASE!』と、不穏の影

 「なんかピンとくるの無いんだよねえ......。」

 侑ちゃんのこの言葉。何かが始まるぞ.......!

 画面が切り替わって、階段を降りてくるせつ菜。ダイバーシティ―の階段。この場所は、虹ヶ咲のみんなが初めてステージに立った場所でもあるし、大切な場所になりそうだね。

 そして、いきなりの『CHASE!』。さすがにびっくり。まあ、予想できたといえばできたけどさ。ばっちり使うとまでは.......。

 で、突然バトルアニメみたいになる演出。これは明確に、これまでのラブライブ!には無かったですね。まあ、今作は明らかに今までの系譜とはちょっとズレているので、このくらいやってくれた方がいい、みたいなとこもあるんだけど。

「あれ、せつ菜ちゃん一人?」

「新しいグループのお披露目だったよね?」 

  でもしっかり不穏がはじまるんだね。本来は新グループのお披露目のステージに、一人で立つせつ菜。拳を握りしめるせつ菜の気持ちは、どんななんだろうか......?

 ところで、注目するのは「せつ菜が一人でステージに立っていること。スクスタのようなストーリーのプロットなら、一人スクールアイドル同好会をあきらめないかすみが部室に残っているわけで......。かすみちゃんなら、ぜったいこのステージに出たと思うんだよね。でも、ステージに立ったのはせつ菜ひとり。でも、ちょっとメタでネタバレな話をすると、せつ菜=中川菜々さんはスクールアイドル同好会を廃部にしようとする人間なわけで......。おっと、スクスタ未プレイの人にはダメな情報か!見なかったことにして.......!どちらにせよ、これは、なにやら深い事情がありそうです......!

 

 とはいえ、バトルに負けてときめいてしまった侑ちゃんと歩夢ちゃんは、そのスクールアイドル同好会が自分の学校にあることを知ると......。話が動き出さないわけがありません。さあ、ストーリーの始まりです!

 

垣間見えるメンバーたちの現状、動き出すストーリー

 でさ、いきなり髪をほどいた侑ちゃん。ねえ、殺さないでよ。美少女じゃん。ねえ。

 そういえば、ラブライブ!のメンバーって、確かに髪色は色とりどりだけど、基本一色で統一されている気がするんだよね。だから、侑ちゃんはちょっと特殊だなあ、って思って.......。え?それがどんな意味があるのかって?いや、わからないなあ、誰か考察して記事にしてよ(他力本願)。

 マンションで隣の部屋に住んでるのは、スクスタに準拠。こんな関係って、ほんとにあるんかねえ。

 ところで、この後のシーン。授業では一人の侑ちゃん。歩夢ちゃんとは外で待ち合わせ。違うクラスなんだね。

 スクールアイドルの良さを熱弁する侑ちゃん。侑「せつ菜ちゃん」のあとに歩夢「ちゃん?」ってなったのは気になる。どういうことかな?侑ちゃんは歩夢ちゃんのこと呼び捨てにしてるし、「ちゃん」呼びしてるのにびっくりしてるとか?うーんなんだろう、なんか気づいた人がいたら教えて。

 

 歩夢ちゃんが予備校の心配をしてるのもあら?ってなったよね。進学校なのかな?これまで、あまりラブライブ!ではあんまり受験の話、なかったからね。これが話に絡んでくることもあるかなあ。

 猪突猛進な侑ちゃんにあきれながら振り回される歩夢ちゃんがかわいい。ところで、虹ヶ咲学園のモデルは東京ビックサイトなわけですが......。さすがに広すぎるよね。部室棟、多分うちの大学の学生会館より広いとおもうわ。そりゃ迷うよ。

 

 で、流しそうめん同好会ってなんすか???????

 

 歩夢「同好会だけで100個以上あるらしいよ?」侑「まじか」。

 この侑ちゃんのしゃべり方、新鮮で面白いなあ。中性的な感じ。でも、すごくスクスタのあなたちゃんっぽいよね。

 

 そして、璃奈ちゃん登場。璃奈ちゃんから出るのは意外だったなあ。

 いきなりのボード無し璃奈ちゃん。これは、いろいろと考察のしがいがありそう。まだ愛ちゃんによってボードが「開発」されていないのか、それとも、この世界線の璃奈ちゃんは普通にボードをしていない時もままあるのか......。これまでの璃奈ちゃんは、肌身離さず璃奈ちゃんボードをつけている印象が強かったので、どんな展開になるのかなあ。璃奈ちゃんボードに関しては、『アナログハート』でも外していたし、どうなのかなあ。いろいろと考えてみる必要もありそうですが、一方でまだ材料がそろっていない感じもするよね。

 表情をうまく出せないのは、この世界線でも一緒。愛さんと仲がいいのも、一緒。このシーンでは、早速その問題点が露呈していて、侑ちゃんは璃奈ちゃんの感情を受け取れず。璃奈ちゃん回で、しっかり触れられるかな。そうだと思う。侑ちゃんがあまり戸惑わずに接していることも、璃奈ちゃんにとっては大きいかなあって感じがする。

 愛さんは、面倒見の良さはイメージそのまま。でもちょっと、アニメ絵の愛ちゃんはなんか大人っぽいよね。

 

 で!ここで!ここでよ、侑ちゃんの裾を引く璃奈ちゃん!!!!かわいい!!!!!!超かわいい!!!!さすが、キュート系スクールアイドル。惚れちゃう。あ、その高咲侑って子、こう見えてすごい女たらしだと思うから気を付けて。

 

 上からの視点は、多分中川菜々さんのもの。しっかり見てるねえ。で、追ってくるわけだ。

 そして、ついにたどり着いたスクールアイドル同好会の部室。しかし、そこに表れたのは生徒会長の中川菜々。

 「優木せつ菜に会いに来た」と告げる侑ちゃん。しかし、そこで中川菜々さんから、衝撃の発言が飛び出します。

菜々「彼女はもう、ここには来ませんよ。

スクールアイドルは辞めたそうです。

彼女だけではありません。

このスクールアイドル同好会は、ただいまをもって、廃部となりました。」 

  いやあ、不穏ですなあ。そして、意味深な発言。

 「ただいまをもって」廃部になったって、どういうことなんでしょう。「ただいまをもって」っておかしいじゃん?だってさ、普通なら「廃部になっています」っていうのが普通じゃない?いくら菜々さんにその権限があったって、わざわざ侑ちゃんたちがいる前で、廃部を決定しなくてもいいわけだ。

 そう考えると、菜々さんは、侑ちゃんと歩夢ちゃんが来ることを待っていたと読めなくもない。確かに、スクールアイドル同好会は崩壊していた。すでに、廃部になる方針だった。しかし、それは歩夢ちゃんと侑ちゃんがスクールアイドルに気づき、そしてスクールアイドル同好会を探して、たどり着いた。それをもって、廃部になった。どうも、そんな感じがするんだよね。

 

 それから、各メンバーのシーン。演劇部のしずくちゃん。すやぴな彼方ちゃん。果林ちゃんと話すエマちゃん。それから、一人で学校に向かって吠えるかすみちゃん。

 果林ちゃんはまだスクールアイドル同好会のメンバーと言うわけでは無さそう。活動休止前のスクールアイドル同好会がせつ菜・しずく・彼方・エマ・かすみというメンバーだというのは、スクスタのストーリーと同じ。これから、アニメのストーリーとスクスタのストーリー。どのくらい一致するのか、それは終始、見どころになりそう。

 

侑「自分の夢はまだ、無いけどさ。夢を追いかけてる人を応援できたら、私も、何かが始まる。そんな気が、したんだけどなあ」 

 失意の侑ちゃん。この発言は、侑ちゃんの、これまでにない立場を如実に表した発言と言えるかも。侑ちゃん自身のストーリーは、まだスクスタでは描かれていないもの。だから、侑ちゃんのなかで何が始まっていくのか。それは、とても大事なストーリーの見どころであり、そして根幹になってきそう。

 

 買い物に行く二人。フリフリの衣装の前で考え込む歩夢。 

 門前仲町行きのバス。これ、ほんとにあるよね。それに乗って、帰る二人。どうも、二人のマンションは東雲にあるキャナルコート。ここ、『無敵級*ビリーバー』のPVに出てきたよね。発売になったグッズのパスケースも「東雲⇔虹ヶ咲学園」になっているし、ここが二人の住まいで間違いなさそう。

 

歩夢「私、好きなの!

ピンクとか、かわいい服だって、いまでも大好きだし、着てみたいって思う。

 自分に素直になりたい。だから、見ててほしい。

 私は、スクールアイドル、やってみたい!」 

  このシーン、泣いたよね。感動ですよ。

 でもね、一つだけ、気になることがあるの。それは、歩夢ちゃんの気持ち。

 スクスタでは、歩夢ちゃんがスクールアイドルを始めた理由は「あなたに誘われたから」だった。もちろん、歩夢ちゃん自身もスクールアイドルが好きって気持ちがあったけど、それは、「あなた」とぶつかって、初めて気づいた。「あなた」がいなければスクールアイドルを辞めようと思うほど、歩夢ちゃんの気持ちは他人本意だった。

 でも、アニメのストーリーは違う。歩夢ちゃんは、まっすぐスクールアイドルが好きだと言った。小さな違いかもしれないけれど、私はこの違いは大きいと思う。歩夢ちゃんのストーリーがどんなものになっていくのか、スタート地点はすこしずれている。アニメでは、歩夢ちゃんは「自分に素直になりたい」から、スクールアイドルを始める。これが、歩夢ちゃんのスクールアイドルへの気持の根幹。これからどんなストーリーが描かれたとしても、最後はここに帰ってくる。そんな気がする。

 

Dream with You

 そんなこと言ってる場合じゃないよ!!!!!!!!!!!

 いきなり始まるアカペラ。歌いだす歩夢ちゃん。

 ねえまって、え?いきなりソロ曲なの?確かに、虹ヶ咲の話はそういう話だけどさ。ちょっと、え?これ、9人全員ソロ曲が来るとかある?たしかに、これまでのラブライブ!はしっかり一人ひとりそれぞれに個人回を用意してきたから、出来なくはないけどさ.......。

 それから、そのクオリティ―よ。あれだけ感動して『無敵級*ビリーバー』と同じだけのクオリティーが、ここに用意されてるじゃん。これ、毎回やられたら、本当に命が持たないよ?ねえ。もう来週が楽しみで怖いんだけど。ねえねえねえ。3形態のニューシングル、3回リリースされてそれぞれ3曲収録だったよね?じゃあ、9人それぞれ来ることもあり得る、というか信憑性高いわけだ。まじ??????????正気????????

 

 あとね、曲ですよ、曲。久しぶりに、聴いた瞬間にびびっときちゃった。好き、って気持ち。これは自分にとって大切な曲になるって第六感の予感。完全にときめいちゃった。どうしてくれるの歩夢ちゃん。あなたの株も急上昇ですよ。ねえ。

 

 『Dream with You』。Youと侑が被っているのは、この命名を最大限に生かしている感じがします。でもね、Ayaka Miyakeさんだからね。勝ちは約束されておりました。

 しかも作曲はCarlos.Kさん。もうさ、勝ち確じゃん。まあもうね、圧倒されたんだけど。これはリリースはで待ちきれないやつですね。擦り切れるほど聴きます。聴いて待ちます。

 

侑「いつだって私は、歩夢の隣にいるよ」 

  スクスタのストーリーを読んでるとさ、これすらちょっと不穏に思えるよね。歩夢ちゃん......。侑ちゃんが隣にいなくなってしまう。そんな時間がくるのでしょうか。

 

期待と展望

 EDは『NEO SKY, NEO MAP!』。ここにきて畑亜貴さん×小高光太郎さんですか。急にこれまでのラブライブ!に戻っていく感じ。ずるいなあ。

 それでいて、これまでのラブライブ!にはなかった、おしゃれなED映像。虹ヶ咲のこのおしゃれな感じの演出、『未来ハーモニ』もそうだけど、死ぬほど好きなんですよね。これまでのラブライブ!とは違うという部分を、最大限生かしてるよな......。いいぞ、もっとやれ!

 優しいタッチの背景に、優しさの中に強さもある曲。きっとこの曲に何度も泣かされるんだろうなあ。私が一番好きなのは、傘を差したメンバーの演出。侑ちゃんは黒の傘をさしてるんだ。この子たちの歩いていく道は、どれだけ雨が降っても、きっと止んで、それから虹がかかるような気がして、もう、楽しみでしょうがないよね。

 

 最後は、コミカルな音楽とともにかすみん登場。そうだよね。この子がいないと、物語は加速していかないもんね。次回はかすみちゃん回の模様。こりゃあ、見逃せませんなあ。

 

 第一話では、イメージ通りのゆうぽむやメンバーを回収しつつ、すこしづつ不穏な伏線がばらまかれ、それでいて、感動する展開もあって、見どころ一杯でした。

 まだまだ、アニメでの虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会がどういうストーリーを辿っていくのか、スクスタと同じように進んでいくのか、あるいは、全然違うストーリーになっていくのか。栞子ちゃんが登場するのかも合わせて、まだまだ見えていない部分は多そうです。

 なにより、隅々まで完璧な作画。すでに期待を上回るストーリー。とても高い曲のクオリティー。そういう部分での不安は完全に一掃された気がします。やっぱラブライブ!はすごいんだって。これは覇権ですよ。一回も、いや一秒一瞬も、彼女たちの描いていくストーリーは見逃せないのです!

 

 それではまた、来週お会いしましょう!

 こばと

こばとんの旅行日記・黒澤ルビィ生誕祭in沼津

 こんばんは。こばとんです。

 ここ最近は虹ヶ咲の2ndライブ関連で熱が入ったブログを沢山更新していたので、おかげでスナック菓子くらい軽い内容のブログをどう書き始めたらいいかわからなくなってしまいました。リハビリですね。ちょっと砕けた感じでいきましょうか。

 ここ2か月、シングル『無敵級*ビリーバー』発売、三船栞子ちゃんのニジガク加入、そしてアルバム『Just Believe!!!』発売と虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会関連のイベントが続き、それに感化されて気合の入ったブログをたくさん世に出してきました。おかげで飛躍的に読者が増え、同じように言葉を紡いでいる人とも出会い、視野も一気に広がった感じがします。

 でもね、その分少し、他のジャンルの記事とか、ゆるい記事が書きにくくなった気もして.......。自意識過剰ですね。反省します。ブログなんて好きなこと書けばいいのよ。わかってる。でも、人間の心と言うのは複雑なものでして.......。結構いろんなジャンルのブログをこれからも書いていくと思います。それは悪しからずということで。

 戯言はこのあたりまでにしておきましょう。本題に入ります。

 今回のブログは忘備録的に書く、久しぶりの旅行記です。とはいえ、がっつりラブライブ!関連なのはご愛敬。

 

 

 9月21日、Aqoursにおける私の推しである黒澤ルビィちゃんの誕生日に、沼津に行ってきました。実は、母の仕事の関係でまとまった数のプレゼントが必要になったんです。なら、沼津で買って、いつもお世話になってる第nの故郷に貢献しようじゃないか、ということで遠征を敢行しました。沼津にお金は落とせるし、必要なものは買えるし、私は沼津に行けるし、一石三鳥?って感じです。

 キャラクターの誕生日に沼津を訪れるのは初めて。どんな感じなんだろう。混んでるかな。と、ドキドキで沼津に向かいました。

 

 

 

 

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今回のメインはあわしまマリンパーク

 4連休の人出はすごいものでしたね。早くも圏央道に乗ったらすぐに渋滞。箱根付近でちょこちょこ寄り道しながら、11:00頃にようやく内浦につきました。

 今回は伊豆縦貫道経由だったので山側から口野放水路のあの信号に出たのですが、やはりここがラブライブ!サンシャイン!!の世界の入り口という感じがして好きです。みんな言ってるよね。沼津市街から走ってくると、静浦くらいまでは意外と街中だったり、防波堤が高かったりするので、期待するほど海が見えないんですよね。それが、ここ口野の信号を曲がると、世界は一変する。ほんとうに一変するんだよね。この場所を選んだのはほんとうに慧眼だと思います。

 

 実は私、ここ内浦には深い思い入れがあります。既にそれで一本ブログを書いているので、それを読んでくれても嬉しいけど。貼っておきますね。

 

tsuruhime-loveruby.hateblo.jp

  そう、私にとって「初めての家族以外での旅行」の行先がここ、内浦だったのです。ラブライブ!サンシャイン!!はプロジェクト発足時から追いかけているわけですが、舞台がここと分かった時には運命を感じました。え?大げさじゃないかって?まあオタクはそんなもんだよ、っていうのもそうだけど、それだけでもないと思います。

 不思議と、あの旅行を、まだ思い出せるのです。もう17年も前なのに。6歳のわたしに、海辺の小さな街は大きなインパクトがありました。当時私が宿泊したのは山三ビュウホテル(安田屋さんのとなり、松濤館の向かい)の、かなり高い階の部屋でした。一度内浦を訪れた人ならわかると思いますが、内浦湾を見下ろす景色は絶景なんですよね。お隣、安田屋旅館は千歌ちゃんの実家でも話題ですが、太宰治ゆかりの宿でもあり、太宰はここでかの『斜陽』を書いたとされます。内浦湾が見えて、それから淡島がどっしりと浮かんでいて、背景には見事な富士山が映える。一度見たら忘れられない景色なんですよね。

 ここ内浦のすごいところは、確かにアニメの聖地なんだけど、「アニメに頼らなくても」十分な、圧倒的な魅力があるところだと思うのです。例えばガルパンの聖地・大洗は、「街全体がアニメを完全に受け入れているその雰囲気」がすごく魅力的なのですが、内浦は違います。

 内浦は、景色だけで勝負できる。そんな感じなんだよね。ただそこに、千歌ちゃんを走らせるだけでいい。Aqoursのみんなを、そこにイメージするだけでいいんです。この感覚は唯一無二。疑う人はぜひ内浦に行ってみてよ。後悔はしないと思うよ。

 

 

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船もだいぶ混雑していました

 さて、チケットを買ったら船で淡島にわたりましょう。さっきの昔話の続きをすると、淡島まではかつて日本で唯一(だったはず)の海上ロープウェイが走っていました。写真の「あわしま」と書いてある建物は、その名残。2017年くらいまではロープが残っていましたが、ついに撤去されてしまいました。船で行くのと、ロープウェイで行くの。どっちがいいかなあ。今の船で行くスタイルもなかなか味があっていいんですけどね。かつての海上ロープウェイも、今でも記憶に残ってるんだから多分楽しかったんだと思うな。

 

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ラッピングバス側面

 そういえば、この日は東海バスAqoursのラッピング高速バスがあわしまマリンパークの岸側にいました。来てるなんて知らなかったよ。年中いろんな企画をやっているのも聖地ならではって感じがします。このバス、内装もAqours仕様らしく.......。乗ってみたいね。

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あわしま側のロープウェイ駅跡。「山頂」という名前ですが、淡島神社まで登ったことのある人はここが全然山頂ではないことを痛いほどわかっているはず。

 知らないとなかなか気づかないかと思いますが、船からはかつてのロープウェイの遺構が良く見えます。そう、淡島側の駅「山頂駅」です。ちなみに私は鉄道オタクでもあり廃線オタクでもありそれからちょっとだけ廃墟オタクでもあり、思い出の地が荒廃してる姿を見に行ってみたくてたまりません(なんか語弊がある気がする)。一回そういうツアー組んでくれん?あったら行くわ。
 ちなみに、現在はここに立ち入ることはできません。淡島神社まであの地獄の山道を登っていくと、途中で右方向へと逸れていく立ち入り禁止の道を見つけられるはず。それがロープウェイの駅につながっています。当時、あわしまマリンパークに行くには山を下りていく必要があったんですよね(ロープウェイの記憶もあるし、山を下りていった記憶もある)。ちなみに、この場所は淡島神社はおろか、ロックテラスよりも(多分)低い場所。全然「山頂」ではないよね。

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なぜか「淡島水族館」表記なの、いつも気になってる

 船で島に向かうようになった今では、桟橋が島の玄関口です。ここ、あわしまマリンパークは非常に開放的な水族館で、屋外にも多くの動物がいます。関東圏だと鴨川シーワールドとかが同じ構造かな?開放的な水族館は健康的な感じがして好きです。薄暗い室内はおしゃれでいいけど、「そういう」雰囲気になるしね。よく考えたら私、水族館オタクでもあるんだよな。そのうち水族館に関する記事も出すことにしましょう。

 

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アシカさんです

 それにしても、いつ来てもこの水族館はノスタルジーな雰囲気があっていいですよね。先日としまえんが閉園となって、「普通の遊園地が無くなるなあ......」と思ったのですが、同様に「普通の水族館」も徐々に絶滅危惧に陥っている気もします。大きくて有名な水族館は、どんどんお洒落に、最新設備なんかを入れて、もはや動物じゃなくて演出を見に来てるのか???ってなるところも多いですし、一方の何の変哲もない小さな水族館は、徐々に寂れている気がするんですよね。でもさ、普通の水族館が一番いいじゃん。だってかわいいペンギンさんやイルカさんやカワウソさんを見に来るところなんですよ?インスタ映えだけがすべてみたいな世の中にはなってほしくない。

 と、世の流れに反して愚痴ってもしょうがないのですが、ここあわしまマリンパークは、そんな流れには完全に置いていかれてしまっています。時が止まったまま、朽ち果てていきそうな水族館。そこに、なだれ込んでいくラブライブ!サンシャイン!!。ほんとに、この奇跡のように時が止まった水族館がこうして残っているのはラブライブの力だと思う。だからこそ、もっともっとお金を落としていかなくちゃね。

 

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海を仕切って作ったイルカプールは、富士山を借景にするところが粋。この日は見えなかったけどね.......。

 アシカショーやイルカショーを見た後は、ゆったりと淡島を一周してみました。初めて一周したんだけど、思ったより簡単に回れました。20分くらいかな?どこかで30分以上とか見た気がしたんだけどな。

 水族館の反対側に回ると、内浦湾が一望できていいですね。右手には長井崎中学校。左手には三津のビーチと内浦の街。伊豆半島特有の箱庭感と、完全に凝縮されたAqoursの日常の世界.......。最高です。

 この日は驚くほど海が綺麗でした。のぞき込むだけで魚群が見えるし、海底にはウニがたくさん転がってるし。松浦家のダイビングショップはありませんが、ダイビングしてみたら楽しそう。

 

 さて、そろそろ淡島を離れるとしましょうか。三津方面に向かいます。

 内浦って深刻に車を停めるところが少ないんだよね。駐車場をやったらビジネスになる気がします。でも土地がないか。どうかな。

 なんだかとっても渋滞していますし、ここからはお散歩しながら内浦を楽しむことにしましょう。

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ここ、昔はどんな観光案内所だったんですかねえ。今はラブライブ!一色だけど。

 まずは三の浦総合案内所へ。ここは有名だよね。

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とにかく、どこまでもラブライブ!

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ルビィちゃんの誕生日なので

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祭壇。梨子ちゃんと一緒に。すごいね。

 内浦は比較的ラブライブ!っていう感じのゴテゴテのラッピングに溢れているかというと、意外とそうでもない部分もあるのですが、ここは違います。もうAqours一色。梨子ちゃんとルビィちゃんの誕生日と言うこともあって二人のフィギュアやねそべりがいっぱいでした。ちゃんとマスクしてるとこが面白い。

 

 

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内浦湾。浮かぶ淡島はなんかもう実家のような安心感。

 足を延ばしましょう。長浜城跡に向かいます。

 えっと、いちおう専攻は歴史学なので歴史のお話をすると、ここ長浜城は戦国時代に関東を治めた北条氏のお城です。ここは北条水軍の城。陸上だけではなく、海上でも戦国時代の覇権争いは繰り広げられていました。海をもつ多くの大名は、水軍も持っていなくてはいけなかったのです。しかし、もとから水軍や、それに適した人材を持っている大名というのはほとんどありませんでした。そこで、各大名は海賊を召し抱えて水軍の長を務めさせたわけです。これは忍びの者、つまり忍者にも同じようなことが言えるかも。戦国大名の水軍では、毛利氏の村上水軍豊臣氏の九鬼水軍は有名ですね。ここ駿河湾は、北条氏と、それから今川氏が滅んだあと駿河に入ってきた武田氏の水軍が対峙した場所でした。

 ちなみに、ここ長浜城の城主は梶原景宗。元海賊の彼は北条水軍の中では最も有名な、代表的な武将と言ってもいいでしょう。私もよくゲームでお世話になりました。

 ここ、長浜城は内浦湾がもっともよく見える場所のひとつで、ラブライブ!サンシャイン!!にも聖地として出てきます。あれだよね、PVを作るときだよね。

 

 

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かすみんも内浦を堪能したようです。

 長浜城を超すと重須と呼ばれる集落に入ります。ラブライブ!サンシャイン!!の聖地と言えるのは、ここ重須と、それから長井崎まででしょうか。それより南には、ぽつぽつと聖地があるだけになります。

 トンネルの手前を左手に逸れて歩いていくと、「あのバス停」が現れます。それから、見慣れた堤防。海越しに淡島。ここは晴れてると富士山の絶景スポットなんだけどね。今日は富士山は相変わらずご機嫌斜めの様子です。

 この防波堤にメンバーが腰かけているイラストもよく見ますが、実際に行ってみると海面、それから浜辺との高低差が大きいのでちょっと怖いです。2mくらいは優にあるんじゃないだろうか。真似をして写真を撮ったりするときは、怪我をしないようにね。

 

 さて、そろそろ日も陰ってきたことですし、引き上げるとしましょう。

 ところで、今回初めて伊豆三津シーパラダイスの立体駐に車を停めたのですが......。 

 まず、怖いね。アクセルとブレーキを踏み間違えたら海にまっさかさまになりそう。ちょっと解放感があるのはいいけど。

 それから、懐かしのホテルがよく見えました。そう、話は戻りますが山三ビュウホテルです。

 

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Googleでは廃業したことになってるけど、実際のとこどうなの?女将さんにもう一度会いたかったな......。

 最上階に近いところに海に面して広い窓が見えますが、多分ここに泊まったはずです。でもここ、どう考えても宴会場かなんかだよね?しかも、かなり多人数で一緒にねた記憶が.......。大広間だったのかなあ。どっかのタイミングで泊まってみるべきだったかなあ。しかし、とにかくその大きな窓からの景色はよかった覚えがあります。内浦にあるホテルの中ではかなり高い建物だしねえ。

 

 とんでもなく混雑している道を、ゆっくり沼津へ向かいます。名残惜しいなあ。

 沼津ではまず沼津港へ。ここは混んでました。大盛況。深海水族館もとっても好きだから、また行きたいけどなあ。

 目的は一つ、そう、ルビィちゃんのマンホールです。沼津港にあるんだよね。せっかく誕生日だし、実は一回も写真が撮れていないので。

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沼津港にあります。カラーマンホールもいつか撮りたいよね。

 もう時間があまり残されていないようです。行きたいところもっとあったけどなあ。つじ写真館さんに行けなかったのは悔やまれるところ。やっぱ泊まりでいつか来たいですね。朝の内浦とかも堪能したいし。あとはね、オタクと来たい。大所帯でもいいなあ。同じ趣味のひとと話す時間って至福だよね。今はリアルの知り合いでラブライブ!好きがあんまりいない状況なので、寂しく活動を続けております.......。ばりばりに車運転できるからね、誰か今度行きましょ。

 

 最後にBiVi沼津で開催されてるラブライブ!サンシャイン!!のプレミアムショップへ。これは開催期間ギリギリだったのでよかったかな。千歌ちゃんの夏祭りのポスターが買えたのはよかった。今年はコロナの影響で花火大会もお流れになりましたが、このポスターはほんとに粋だと思うの。

 

 えっと、オチがないんですよね......。名残惜しくも沼津を離れます。まあね、酷かったよ。渋滞が。沼津市街から東名に乗るところから渋滞。しかも東名も御殿場あたりから動かず......。6時に沼津を出たのに自宅についたのは10時半近く。疲労感で一杯でしたが、楽しい一日だったと思います。

 もちろん外出の際には新型コロナウイルス対策は不可欠です。今回の旅行も、マスクの着用・手洗い、除菌の徹底・できる限りレストラン等での飲食を避けるなど、様々な対策の上で旅行しております。みなさんもお気をつけ下さいね。

 とはいえ、いつまでも家にこもっていては折角の延長した学生生活ですから、いろんな経験をつみたいところです。順次対策のなかで一人旅とかを増やしていきたいな、当思った小旅行でした。

 

 それではまた。

 こばと

笑顔の魔法を、もう一度 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会2ndライブレポート②

 「ステージには魔物がいる」。

 今回以上に悔しいライブは、初めてだったかもしれない。

 

 とにかく、盛りだくさんのライブだった。虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会にとっては2回目のライブ。ラブライブ!フェス以来8か月ぶりの舞台。この8か月の間、虹ヶ咲の活動はまさに「アクセル全開」だった。

 ユニットシングル3枚、さらには3rdアルバム。そして、虹ヶ咲では初となる選挙によるシングルが発売された。栄えある初代1位は中須かすみちゃん。そして発表になったラブライブ!では初となるソロでのシングルは、作曲にDECO*27さんを呼ぶこれまでのラブライブ!とは一線を画すような一曲になった。『無敵級*ビリーバー』である。DECO*27さんが作曲してくれたことに喜んでいたまゆちを良く覚えている。初めての総選挙1位にふさわしい、かすみんとまゆちへの素敵なプレゼントだった。

 

 これだけ盛りだくさんのライブだが、開催に漕ぎつけるには多くの困難が伴った。

 ラブライブ!フェス開催は1月。まだこの時は、その「異変」は訪れていなかった。今から考えれば、ラブライブ!フェスが開催できたことは神様の粋ないたずら、もしくは雨空が一瞬にして晴れるような奇跡でしかなかった。2月になるとその異変の「影」は少しずつ大きくなり、3月にはついに日本でも深刻な問題になりはじめていた。そう、新型コロナウイルスの流行が始まったのだ。

 日本の、いや世界のすべての人々を様々な困難に陥らせたこのウイルス。ラブライブ!が受けた影響も甚大なものだった。予定していたAqoursのユニットライブは、かろうじてCYaRon!のみ開催するも、その後の2ユニット、そして全員揃っての「PARFECT WORLD」も延期、中止に。生放送イベント、さらにはCDリリースまでにも影響は波及していき、その動きは完全に停滞してしまった。

 

 既に発表されていた虹ヶ咲の2ndライブも、その開催が危ぶまれつつあった。夏には収まると言われていたウイルスは、その期待には見向きもしてくれなかった。ラブライブ!運営は、ぎりぎりまで「諦めない」運営をしてくれたと思う。限られた可能性のなかで、どうにか通常にできるだけ近い状態でライブをしてくれるよう模索している様子は、ひしひしと伝わってきた。しかし、叶わなかった。

 虹ヶ咲の2ndライブ、そしてAqoursの6thライブは、無観客有料生配信という形態をとることになった。事態はさらに深刻で、Aqoursに至っては6thライブの5大ドームツアーはすべてキャンセルとなった。この衝撃の決定は、ファンにとってもあまりの衝撃だった。「受け止められなかった」と言うより、「どう受け止めればいいかわからなかった」といった方が適切だろうか。こういった混乱を乗り越えて、遂に虹ヶ咲の2ndライブ当日がやって来たのだ。ファンの期待は大きかった。8か月分の想いが、それぞれの画面に集まった。

 

 今から考えれば、彼女たちにこれだけの「想い」を背負わせるのは、少々酷だったかもしれない。それは、どうしようもないことでもあった。しかし、彼女たちは決して逃げなかった。それだけは間違いない。

 

 ラブライブ!初の、無観客有料生配信ライブ。ついに、その幕が開いた。

 

 私たちも、どこか浮ついていた。ライブにはルーティンがある。会場に行く(遠方からのお客さんは、前日に現地入りして泊まる人もいるだろう)。少しずつ会場が近づいてくる電車の車窓。同じような服に身を包んだ、同じ想いを抱えた人たちが、少しづつ集まってくる。久しぶりに会う人もいるかもしれない。大好きなキャラや曲の話に花が咲くこともあるだろう。チケットをもぎってもらい、入場する。大きなスクリーンと大きなスピーカー。様々な予告や宣伝の映像が流れる。少しづつ上がっていく会場の温度。会場の一体感が醸成される。暗転。静寂の後の歓声。きらめくライトの先を、何千何万という人が見つめる。

 そんなことは、一つもなかった。画面の前に腰かけて、画面と、それからTwitterを見つめる。言いようのない淋しさは、確かにあった。何となく、心の準備ができていない気がした。しかし、それは誰のせいでもなかった。これが今の「最善」であることは、誰もが理解していた。しかし、わがままを聞いてはくれない。心の準備ができるまで待ってはくれない。時間が来れば、幕は開く。ただ、それだけのことだ。

 

 きっと彼女たちも、同じ気持ちであったに違いない。いや、「同じ」だなんておこがましい。多くの視線を集める彼女たちにかかるプレッシャーは、想像もつかない。観客のいないステージに一人で立つことが、どれほど心細いか。しかし、私たちと同じように、寂しさを、心もとなさを感じていたことは、絶対に間違いないと思う。

 『未来ハーモニー』。はじけるようなイントロ。しかし、何かがちぐはぐな気がした。何が、というわけではない。しかし、何かが、確実にテンポを乱している。魔物は、ステージの上だけではなく、電子の海へと潜っていたのかもしれない。その魔物は、お台場のステージにも、私たちの画面にも、同じようにひそんでいた。何かが起こる、そう思った。

 

 いつも通りに、しかし何かが足りないまま、自己紹介が終わって、キャストがはけていく。聞きなれたイントロ。パステルイエローの衣装。『無敵級*ビリーバー』は、虹ヶ咲の特徴でもあるソロ曲。一人で立つステージ。セットリストのトップバッターは、総選挙1位のかすみんとまゆちに託された。

 

 「魔物」はそこにいた。声にならない声が出た。いや、声になっていたかもしれない。しかし、届けようのない声だった。拳を握りしめた。「頑張れ!」。そう叫んだ。

 

 振り返ってみれば、それは決して致命的ではなかった。まゆちは、すぐにかすみんへと戻っていった。涙は最後まで見せなかった。『無敵級*ビリーバー』の力強い歌詞は、ステージのまゆちの力になっていた。かすみんがまゆちの背中を押しているようにも思えた。最後まで、まゆちは自分を信じてステージに立った。見事だったと思う。

 もし、あの瞬間会場にいれば、声が届けられれば、空気を、気持ちを、通わせあっていれば。そう思わずにはいられなかった。思い出したのは、Aqours1stライブでの逢田さんのピアノ演奏だった。ピアノ演奏に失敗してしまった逢田さん。止まってしまった音。駆け寄るメンバー。あの時、私たちの声は、たしかに逢田さんの力になった。会場は一体感に包まれた。そして失敗を乗り越えたステージは、大きな感動を私たちに与えてくれたのだった。「怪我の功名」とは、まさにこういうことだ。お客さんで一杯になったステージは、失敗すらも感動に変えるような、「魔法」に包まれているのだ。たくさんの想いを乗せた「魔法」は何よりも強い。「ステージの魔物」なんか、目じゃないのだ。

 しかし、それはできなかった。叶わなかった。オンラインライブは、想像以上に非情なものだった。魔法はかからなかった。キャストは、反省を口にすることが多かった。私たちも、どうしてもそれにとらわれてしまったような気がする。

 強いまゆちは、最後までステージで笑顔を見せてくれた。折れなかった。昼公演のMCで「悔しい、次こそは」、そう言っていた。夜公演では、まゆちとかすみんはぎりぎりのところで魔物に打ち勝った。夜公演のMCでは「いい意味で吹っ切れた」と、まゆちは語っていた。しかし、それはかすみんのことを信じているからこその強がりだったと思う。2日目の最後のMCで、まゆちは「かすみんに申し訳ない」と泣いていた。かすみんに対する強い想いがにじんでいた。まゆちは、最後まで自分自身を、それからかすみんのことを、信じて向き合い続けた。目を背けなかった。

 かつて『無敵級*ビリーバー』の記事で、私はこう書いた。

「かすみちゃんの最大の魅力は、武器は、一番誰にも負けないところは、「信じること」だ」

こばとんの徒然日記『『無敵級*ビリーバー』と、かすみの鏡の向こう側』より

 今回のステージで見せたまゆちの姿は、まさにかすみんそのものだったと思っている。それは、「かわいいかすみん」そのものだったということではない。自分を信じるかすみんに、逆境に負けないかすみんに、ひとりで問題を乗り越えてしまう強いかすみんに、まゆちは完全に一致していたのだ。まゆちは、「本質的に」かすみんだった。

 だからこそ、私たちはまゆちを信じることができたのだ。次のステージのまゆちは、きっと十倍も百倍も成長している、そう確信した。この涙は、きっと何倍も未来のまゆちを、かすみんを輝かせるだろう。

 

 

 「失敗」の話をしてきた。誰がどう言おうと、今回のステージはまゆちにとって悔しいものだっただろう。彼女たちはプロだ。言い訳なんてありえないし、下手にかばってほしくもないはずだ。彼女たちは、最高のステージを完璧にこなすために練習を重ねているのだ。目指すステージを実現できなかったことは彼女にとって「失敗」であるに違いない。あえて強く言えば、この記事でそういう言葉をまゆちにかけるつもりは全くない。

 しかし、彼女たちに「想いを届けられなかった」ことは、あの得も言われぬ焦燥感と悔しさは、画面を突き破ってでも何かを届けたい衝動と、それができない無力さは、私たちに残された大きな課題だと思った。オンラインライブで痛いほど感じたことがある。それは、「私たちも確かにあのライブの構成員のひとりであり、私たちがいるからこそ、あのライブが成り立っている」ということだった。いや、いつもこういったことは、キャストが私たちに伝えてくれていたことだ。しかし、今回こういう形でライブをしたことで、確かに実感できた。私たちがあの場所にいる「意味」を、ひしひしと感じたのだ。

 既に書いた通り、今回のライブ開催にあたって、ラブライブ!運営は最善を尽くしてくれたと思っている。今の情勢の中で、こうやってオンラインでも完全なライブを見られたことは、感謝しかない。ARを使った演出も見事だったし、オンラインという形でどうステージを届けるにあたって、とにかく工夫に満ちていたと思う。Twitterハッシュタグはきちんとキャストに届いていたし、「ニジガクアンコールメーター」なる取り組みもあった。限られた状況の中で、キャスト・そして運営には、とても楽しませてもらえたと思う。

 

 翻って、私たちはどうであろうか。もっともっと、キャストに想いを伝えられる方法はなかったであろうか。

 オンラインライブでは、どうしても私たちは受け身になってしまったような気がした。もちろん、方法は限られていたかもしれない。いますぐいい方法が思い付くわけでもない。しかし、ステージは双方向で作り上げていくものだと気づいた以上、私たちも想いを伝えなくてはならない。いつももらっている元気を、勇気を、直接お返しすることができる場所、それがライブだからだ。

 

 次のライブが、オンラインなのか、それとも会場にお客さんを入れて開催することができるのか。それは、まだわからない。知りようがない。

 しかし、出来るはずだ。Aqoursの5thライブで、私たちは自分たちの力で、あれだけ見事な虹をかけることができたではないか。もちろん、そこまでにたどり着く努力は大変なものがある。しかし、あの瞬間、私たちはたしかにキャストに想いを届けられたのだ。次のライブは、次のライブこそ、私たちが想いを届ける番ではないか。

 どんな形であっても、私たちは全力をかけて彼女たちに想いを伝えていかなければならない。次のライブでは、絶対にまゆちとかすみんは、成長した姿を見せてくれる。私たちは、それに応えなくてはならない。まゆちが悔しさを力に変えて次のステージを作るなら、私たちも今回、想いを直接伝えられなかった悔しさを存分にかみしめて、全力でかすみんとまゆちに届けていきたいのだ。

 

 かつて、私はこう書いていた。

『無敵級*ビリーバー』は、一つのかすみちゃんの到達点だ。努力を重ねたかすみちゃんは、ついに鏡の向こうの理想の自分へと、たどり着いてみせたのだ。

 しかし、そんなかすみちゃんも、いつか心が折れてしまいそうな時がくるかもしれない。負けてしまいそうな日がくるかもしれない。

 だから、いつか必ず、かすみちゃんの「素顔」を知りたい。いつでもかすみちゃんが本音を話せる相手になりたい。そして、困ったときにかすみちゃんを助けてあげたい。

 いつでも「喜ばせる側」でいたいかすみちゃんは、どんどん進んでいってしまう。かすみちゃんがどこまでも進んでいくのについていって、いつかかすみちゃんが壁にぶつかったときに、かすみちゃんに手を差し伸べられるように、必死にかすみちゃんについていく。

 「無敵級のビリーバー」を、支えられるような「あなた」でいたい。

 こばとんの徒然日記『『無敵級*ビリーバー』と、かすみの鏡の向こう側』より

  たった一人のステージで、壁にぶつかったかすみんを、そう、「無敵級のビリーバー」を、私たちは指をくわえてみていることしかできなかった。支えられなかった。想いを届けられなかった。

 今は、ただこれが悔しい。とにかく悔しい。私たちは、デジタルの壁を超えることができなかったのだ。

 

 

 自分を信じるかすみんとまゆちは、強い。今回も、一人でしっかりと立ち直ってみせた。きっと次のライブでも、もっともっと成長した姿を見せてくれるだろう。

 私たちも、かすみんを信じている。かすみんとまゆちも、きっと私たちを信じていてくれるだろう。

 だからこそ、次は全力で想いを届けたい。この悔しさを力に変えて、かすみんに、まゆちに、全力で想いを伝えたい。「笑顔の魔法」は、かすみんとまゆちだけではかけられない。鏡のようにかすみんとまゆちの想いを受け止めて、それを同じように返す。私たちがいて初めて、笑顔の魔法はかかるのだ。

 次こそは絶対に、笑顔の魔法をかけてみせる。誓いを新たにする、そんなライブだったと思う。

 

 

 曲は、リリースしたときが終わりではない。むしろ始まりである。ライブで披露して、そしてそれを何回も何回も重ねていって、それが、曲のストーリーになっていく。そうやって、物語は紡がれていく。

 かすみんと、まゆちと、それから私たちと。『無敵級*ビリーバー』の物語は、まだ始まったばかりだ。悔しさは、力に変えればいい。次の1ページは、もっともっと素敵な物語になる。その物語を紡いでいくのは、私たちの役目でもあるのだ。

 だから、私たちを信じていて欲しい。無敵級のビリーバーの信頼に、私たちはきっと応えてみせる。今かすみんとまゆちに届けたいのは、この誓いだ。

 

 

 
 ※文中で引用した記事はこちらです。かすみんについて、『無敵級*ビリーバー』について、もっと知りたいと思う方は、ぜひこちらの記事も読んでいただけると嬉しいです。

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