こばとんの読書日記 『氷菓』シリーズ

 お久しぶりです。こばとんです。

 えっとですね、ブログ更新がしばらく止まっていたのはですね、頭痛が数日続いていたんですね。

 結局なんともなくて、自宅待機で電子機器を多く使っていたせいかなあ、って感じなんですけど、まあしばらく体を休めていました。コロナかと思うと怖い。怖すぎる。

 

 ちょっと軽い感じにブログを書きたいので、今日は本の紹介でも。

 ご紹介するのは米澤穂信氷菓』。といっても、有名作だしいまさら紹介とは...って感じだよね。だからおおまかな紹介はサクッと。あ、今回はアニメではなく本だけのお話です。

 

 『氷菓』は、「省エネ」主義の冴えない高校生・折木奉太郎が入部した「古典部」において、好奇心旺盛なお嬢様・千反田えるにふりまわされながら、古典部員の福部里志伊原摩耶花とともに様々な日常の「謎」を解き明かしていく、友情と恋心も交差してちょっとほろ苦い学園青春ミステリです。

 ......なんか短くまとめすぎて違う作品の要約みたいになったな。まあアニメは必見のレベルだと思うので、ご存じない方はぜひ見てくださいな。

 

 アニメだけ見たことある人はもしかしたら知らない、という方もいるでしょうが、原作小説は『氷菓』、『愚者のエンドロール』、『クドリャフカの順番』、『遠回りする雛』、『ふたりの距離の概算』、『いまさら翼といわれても』のタイトルの違う6巻からなっています。映像化されているのは『遠まわりする雛』まで。

 

 『氷菓』では古典部の過去を解き明かすわけですが、なんだか論理展開が歴史学っぽいんですよねえ。「資料」をつい「史料」と書いてしまう歴史学徒諸君からみると、複数の史料を比較検討して、史料背景や時代背景、あるいは史料記述の客観性を考えたり....といったアプローチがなんかそれっぽくてクスッとするかも。私が思ってるだけで全然違うかもしれませんが。著者はどこかで歴史学かそれに類する学問を勉強したことがあるのではないか、と邪推するんです。調べてみたらどうも文化人類学を専攻していたようなんですが、真偽のほどは不明です。どうなんだろ。シリーズ全体の世界観からはどことなく歴史学文化人類学民俗学といった視点を感じるような気もします。

 

 著者の出身地である岐阜県高山市が舞台となっていますが、そんな「神山」の世界をみずみずしく描きだしているところは、本当にすごいな、と思います。雄大な自然に囲まれながらもどこか窮屈で、とても暖かいけど時にむさくるしいような。まあ私自身は「郊外」出身で都会にも田舎にもちょっとくびを突っ込んだだけなんで偉そうなことは言えませんが。

 

 折木奉太郎福部里志の関係性は、「男子同士の関係」って感じでとても共感ができると思います。こんなこといったらジェンダー的にも問題でしょうか。かもね。まあでも、いっつも二人一組であるのに、なんとなくドライでそっけないような、そういう信頼関係ってあるじゃん。こういう友達いたよね。男子校というある意味で「異常」な空間にいた私としては、とてもよく描けているとおもうんですよね。ひとつの"typical"な関係性ではあると思います。なんかこの前「男子はお互い気を遣わない」みたいなのが話題になっていましたが、気を遣わないというか、まさにこういう感じなんですわ。こういう関係はこういう関係ですごく好きですし、こういう関係の大切な友達もいます。自分はわりと男子とも女子ともなんも気にせず仲良くするひとではあるので、必ずしも友達がみんなこういう関係ってわけでもないけどさ。もちろん、いろんな関係があっていいと思うよ。

 

 キャラクターの中では伊原摩耶花が一番好きです。自我がしっかりしていて負けず嫌い。こだわったことには妥協せず取り組む。どっちかというと自分にとっての「理想」かもしれない。

 それに、「才能」と向き合っている摩耶花の姿には、何となく著者自身の強い思いがこもっている気がするんですよね。とくに『クドリャフカの順番』のエピソードは良いですよね。それからもう一つ、『いまさら翼といわれても』の中の「わたしたちの伝説の一冊」が注目すべき短編なのです。

 

 著者、米澤さんはもちろん長編も素晴らしいですが、短編もとても、むしろ長編を上回るほどに出色なのです。『遠まわりする雛』と『いまさら翼といわれても』は短編集のかたちをとっています。

 そのなかで一番のおすすめが、摩耶花を主人公として描く「わたしたちの伝説の一冊」です。摩耶花は漫画家を目指しているわけですが、この短編のテーマは漫画です。そういう意味では『クドリャフカの順番』の摩耶花のストーリーの後日譚ともいえるかな。「才能に仕える」とはどういうことか、その葛藤。才能を発揮する著者が書くだけに、重くこころに問いかけてきます。

 

 これは余談ですが、「わたしたちの伝説の一冊」の中に折木による太宰治走れメロス』の読書感想文が出てきますが、これ面白いですよね。さすが推理小説作家。こういう読み方、何かの定説とかではないですよね?わかんないんだけど。国語の授業で同じクラスにこれだけ読める人がいたら、正直敗北感で絶対認められないと思うわ。

 

 長編の方では『ふたりの距離の概算』がお気に入りです。舞台はマラソン大会ですが、話の構成、推理の展開を一つのイベントの中で進めていくのが技術って感じがするよね。少しずつ事件の全容が見えてくるようなストーリーは読み応えがあります。ミステリらしさが最も弾けている、そんな一作です。

 

 どうかな?伝えたいことを伝えつつ、できる限りネタバレをしてしまわないような配慮をしたんだけど、セーフかな?アウトかな?

 まだ読んでない人はぜひ『氷菓』シリーズを。どうでしょう。アニメだけの人も一回小説を読んでほしいな。とくに「手作りチョコレート事件」からの「遠まわりする雛」の部分は、アニメだけでは伝えられていない部分が多いような気がします。

 あと、二度と得ることのできない輝かしい青春に心がやられてしまうかもしれませんが、そのところは責任を負いかねますので、あしからず。

 

 それではまた。

 こばと