「非公認教習所」で取る、運転免許取得奮闘記・前編

 昨日、普通自動車運転免許取得から2年を迎え、埼玉県の鴻巣運転免許センターまで免許の更新に出かけてきました。

 埼玉県民には「鴻巣」と聞けば免許センターと相場が決まっているのは周知の事実だと思いますが(?)、私はたぶんきっと、他の埼玉県民のみなさんよりも、免許センターの隅から隅まで思い出に詰まった場所です。

 それはなぜかといえば、半年(それ以上だったかも......?)にもわたる、とても苦しく、ちょっと独特で、でも今考えれば楽しくもあった、そんなみなさんとは一風変わった教習所体験があったわけで......。

 免許センターに行く機会も少なくなりそうですし(事故や違反を起こさなければね)、感慨深い気持ちに浸る機会も少なくなるでしょうから、あの、興味深い半年間のことを、ちょこっとだけまとめてみようと思います。まあ誰かの参考になることは無いでしょうが、こんな免許の取りかたもあるんだなあ、と、くすっと笑ってもらえればうれしいです。

 

挑戦の始まり

 その挑戦が始まったのは、池袋の鄙びたビルの2階を訪れた時からでした。

 「免許を取る」のは、大学生にとっては一つの定番イベントと言えるでしょう。大学を推薦で決めたひとは入学前の春休みに取ったり、地道に通う人もいれば友人と合宿免許に行って一気に決める人もいると思います。「男はMT」という謎の観念からMTに挑戦して泣きそうになる人もいれば、堅実にささっとATで免許を取る人もいます。

 しかし、私の方法は、ある意味このどれもから逸脱しています。そして、私の立場から見れば、これらどの方法も同じと言えるでしょう。

 そう、私が「入学」したのは、いわゆる「非公認教習所」なるところです。

 ほとんどすべてのみなさんが通っているのは「公認教習所」のはずです。では、何が「非公認」なのか。みなさんの通う教習所は何を「公認」されているのか。

 それは、簡単に言えば、「試験の際に、実技の試験を免除にできることを許可されている」教習所のことです。みなさんは、免許を取る際にめんどくさいめんどくさいと言いながら各都道府県の免許センターまで学科試験を受けに行かれたと思いますが、実はそれ、「免許センターで受けるべき実技の試験を、教習所の試験によって免除されている」状態なのです。知らなかったでしょ?

 非公認教習所と公認教習所の違いはもっとあるのですが、それはおはなしをする中で少しづつ、見ていくとしましょう。

 

 様々な契約事項を聞き、入所手続きをします。なお、非公認教習所は非常に料金が安く見えますが、払った金額は一定のコマ数分でそれで取れなければ追加の金額を取られる。MTならまず無理。と伝えられます。まず無理なら最初から安いって案内しなければええやん?まあいいけど。MTで取る時点で物好きなチャレンジであるのは否定できんし。

 

 続いて、学科の授業。ここは大きな違いがあります。聞いてビックリ、早く行って頑張って詰め込めば、最速1日、あるいは2日で学科が終了します。ちなみに古ーいビデオを延々と見るだけ。適当か?あと、時期の問題もあってか、同時に受講する人もおらず。座学大嫌い人間には最高のスタイルだわ。まあこんなんじゃ全然覚えられないから試験前日に泣きながら詰め込む羽目になるんだけどさ。

 

 座学をさっさと終わらせれば、どきどきの初乗車。

 と、その前に。地価の高い都内で、おんぼろ教室の側に教習コースがあるわけがありません。ここからバスに乗って、埼玉県内の河川敷までバスに乗ります。首都高が混んでなければ早くて30分くらいかな?この往復1時間は確かに無駄なように感じるかもしれませんが、わたしとしてはそこまで苦ではありませんでした。なにより、首都高に乗れるのが楽しい。朝から夜までいろんな時間に首都高に乗るのですが、街の景色、空の色、運悪く渋滞にはまったりしたら車で通勤する人たちを高いバスの車窓からのぞき込んだりして、存分に楽しんでいました。

 教習コースは荒川の河川敷にあります。が、これまた見たことの無いようなロケーション。普通の教習所って大体駅前にあるもんね。バスを降りたら、そこにはプレハブの小屋がいくつか。半分くらいは事務所と教官の休憩所、それから、もう半分が待合室。この待合室がまた、どこかの田舎の駅のような雰囲気。あまり虫とかには遭遇しませんでしたが、自然の中にいることが嫌いな人には厳しいかも。

 でも、この雰囲気はこれはこれでいいんだよね。ちなみに教習コースには時折顔を出す野良猫なんかがいて、ほのぼのした感じは好きでしたけどね。ちなみにここから直接車で帰った方が遥かに早く家に戻れますが、それは言わないお約束。

 待合室では「乗車票」なるものを発行します。ここには、そのコマで乗車する車の番号が書かれます。Macのパソコンが1台置いてあって、学生証のバーコードを読み取れば発行できます。なんでここだけこんなハイテクなのさ。

 あっ、言い忘れていたんだけど、ここ非公認教習所では一コマは90分です。なお、一日に連続して2コマ入れる荒業も可能です(論理上は3コマもできたのかも。でも忘れちゃった。そもそも一気に270分も教習を受けるのはそうとうな暴挙だけどな)。このトンデモ条件を利用すれば、超最速で免許取得に至ることができます......が、これは論理上のおはなし。これから見ていくように、非公認教習所での免許取得はいばらの道。個人的な意見ですが、早く免許を取れるということはほとんどありません。

 

愉快な河川敷教習

 ここからは車に初乗車するのですが、ここの経験は皆さんとそう変わらないでしょう。MTで免許を取ったなら全く一緒です。「半クラッチ」の状態を作るの、超難しいよね。アクセルを踏んだだけで加速できるAT車はマジでおもちゃだと思う。1コマ目は車を動かせただけで感動した記憶があります。

 一番最初に目標になるのは「仮免許」の取得です。仮免を受けるためには、教官から「みきわめ」なるものを得る必要があります。しかし、仮免を受けるためにクリアしておかないといけない項目は、既に免許を取得した皆さんならご存じの通り、とっても多いのです。ここから、長い長い戦いが始まりを迎えます。

 

 最初に苦戦したのは「左寄せ」。自動車を運転していて、一番怖いのはバイクです。交差点を左折する際に、車両の左側から直進してくるバイクを巻き込んでしまう危険性があるからです。それを防ぐために、左折の前には左後方を確認してから車体を道路左に寄せ、それから左折していく必要があります。

 が、これ、意外と難しいんです。十分に寄せるには、車の側方感覚をしっかりと把握している必要があります。仮免の試験は、かなり厳密な運転が求められる試験です。どんな交差点であれ、しっかりと左寄せをしてから、安全確認をして左折する必要があります。

 まあここまではいいでしょう。いいよ。きちんとできないのは自分が不器用な面もあるしね。たださ、左折をしようとしたらブレーキ踏まれるのさ、で、無言でドアを開けて、隙間を指さすんです。怖いって。怖いよ。泣くかと思ったわ。いや寄せられない自分が悪いんだけども。怖い。左折恐怖症になっちゃう。

 

 ちなみに、教習所特有の条件、というのもあったりします。まあね、他の教習所で運転できる経験なんてないからわからないんだけど、どうやら、うちの教習所のコースは、格段に狭かったようなのです。

 なんで土地のある河川敷にあるのに狭いのさ!と怒りたくなりますが、まあいいでしょう。それはいいんや。時折信号機の電灯が切れてるのもご愛敬。ね。「ああ、あれ切れてるけど青ね。」って言われるんだわ。どんな信号機だよ。すぐなれるけど。というか、在籍中に3回くらい切れてたけど、LEDにしないんか?

 話が逸れました。コースが狭いということは、コース内にある様々なセクションのそれぞれの距離も短くなっています。つまりどういうことか。それは、「たとえ次の交差点までほんの数メートルしかなくても、しっかり左寄せをしなくてはならない」ということを意味します。これがきつかったんだわ。だってさ、酷いとこでは、左折して次に左折するまで3mもない時があるんだわ。いや無理でしょ。だって車の幅より狭いまであるじゃん。毎回ドア開けられるし。正直絶望していました。まあなんだかんだどうにかできるようになったけどね。でもこの技術、どこかで使うんか?

 

 冒頭で触れた通り、非公認教習所では、仮免試験の実技も鴻巣で受ける必要があります。が、鴻巣の仮免コースは、めっちゃくっちゃ広いんです。とにかくバカでかいの。気が遠くなるほど。

 MT車を運転する際は、「クラッチの切り替え」が大きなポイントになります。エンジンをかけたらギア1速で発進。スピードがついてきたらすぐ2速。さらに3速まで、スピードを長時間維持できるときは4速まで入れます。教官曰く「これがMTの醍醐味なんだから、MTで取る以上はギアをどんどん切り替えていかないと」とのこと。わたし、なんでMTにしたんだっけ......?

 さて、もちろん鴻巣で試験を受ける時も、「スムーズなギアチェンジ」というのは評価項目に入ります。スピードが出せて長距離まっすぐ走るときはスムーズに4速まで入れる。これができなかったら減点です。

 もちろん減点が積み重なると試験に落ちるので、狭い狭い教習所の中で必死に練習します。といっても、限度があると思うんだよね。だってカーブを抜けたら直線に入るけど、もうほんの少し走ったらカーブなんだよ?鴻巣の直線の半分くらいの距離ですよ。そこで60km/hくらいまで加速して、4速に入れなきゃいけない。もう修行です。カーブを抜け始めたらストイックに加速!速やかにギアチェンジ!60km/h出た!速やかに減速!次のカーブ!

 .......なんすかこれ。音ゲーのノーツの速度を最大にしてプレイしてるみたいな行為は。こういうのはちゃんと運転できるようになってからでいいの!まあ、文句も言わず、必死にやるんだけどさ。

 

 「S字カーブ」、「クランク」、「見通しの悪い交差点」といった項目ももちろんこなします。でもね、全然余裕でした。そんなことより、S字を抜けた次の交差点よ。こんな距離でどうやって寄せるんですかーーーー!!!!

 MT車の大敵、「坂道発進」もそこまで苦労はしませんでした。あれ、失敗すると怖いよね。半クラッチのつなぎに失敗してエンストすれば勢いよく後退するのよ。超怖いわ。教官が横に乗ってるときはいいんだけどさ、自分ひとりで練習している時の絶望感は異常です。というかATの坂道発進ってなんやねん。お遊びやろ。真っ逆さまに落ちていかないんだから。ねえ?

 ちなみに坂道発進を終えると、急カーブで左折します。この坂、どんな構造なんですか?なお、左折したら超一瞬で次の右折です。寄せも確認も大忙し。どうにかしてくれ......。

 

 練習していくうちに、自分の悪癖がわかるようになります。自分の場合はそうだなあ、寄せの甘さは最後まで言われたし、あとは停車時にギアを1速に戻し忘れる癖とか、ハンドルの持ち方の悪さとかかなあ。何回も何回も一番最初まで戻り、行きつ戻りつを繰り返しました。あまりに悔しいから、帰りのバスで泣きそうな気持ちでiPhoneのメモ帳に反省点を書き出して、次の乗車時まで意識を保つようにまでしていた記憶があります。

 仮免までに使えるコマ数をぎりぎり使って、というか本免まで考えるとちょっとオーバーするくらい使って、ようやく「みきわめ」を得ることができました。ついに、鴻巣行きの切符を手にしたのです。このころになると、必ず満点の運転ができていたわけではありませんでしたが、乗車手順から各項目のクリア、下車手順まで、きちんとどこが良くてどこが悪いか、きちんと意識してできるようになっていました。

 

 これまでの厳しい特訓とかけた時間から、不安をどうにか自信に変えて、わたしは母の運転で鴻巣に向かいました。合格になけなしの希望をかけて。まだ「鴻巣での実技試験」というのが、どういうものなのかということを、一つも知らないままに......。

 

つづく