こばとんの読書日記 『りゅうおうのおしごと! 13』

 藤井棋聖の活躍ぶりの中で、「フィクションがノンフィクションになってしまう」と騒がれ、Twitterを賑わせた『りゅうおうのおしごと!』。先日、最新刊となる13巻が発売されましたので、早速購入して読みました。既に12巻までの読書日記は当ブログでも以下の記事にて発表済みですが、「ほんとうに本の紹介としてこれでいいのか」という感もあります。作者の背景とかに光を当てすぎているので、メタ読みすぎん?と言われてしまえば言い返す言葉はありません。もちろん、とっても好きな本なので、それだけ考えて記事を書いたし、これでもきちんと魅力を伝えきったつもりではありますが......。

 

tsuruhime-loveruby.hateblo.jp

  そんな微妙な心残りもありますし、最新刊も発売になったところですので、改めて『りゅうおうのおしごと!』13巻の魅力を伝えられるようなブログを書いていきたいと思います。発売されてすぐですから、ネタバレしないように、という点は十分留意しているつもりです。その分あまり踏み込んだ記事にはならないかもしれませんが......。早速、見ていきましょう!あ、12巻までの展開などにつきましては、過去ブログを読んでみてくださいね。きれいにわかりやすくまとめたつもりです。

 

 

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表紙のあいちゃんの表情が、素晴らしい......。

 13巻で描かれるのは、女流棋士・雛鶴あいちゃんとそのライバルであり友だちである水越澪ちゃん、貞任綾乃ちゃん、シャルロット・イゾアールちゃんの「JS研」メンバーの、お別れのお話。海外に旅立ってしまうことになった澪ちゃん。残されるJS研メンバーは、澪ちゃんの見送りにでかけますが、澪ちゃんが「最後に一つだけお願いがある」と言い出して.......?

 

 この13巻は、(あとがきで筆者も述べているように)8巻のように短編にドラマCDの脚本を織り交ぜたスタイルです。その分、「ラブコメ」としてのライトノベル感は、もはやライトノベルと呼んでいいかわからないほど本質的だった7巻以降の巻に比べれば、だいぶソフトに感じます。

 

 しかし、ドラマパートはむしろ休息であると言わんばかりに、物語は加速します。この人、なんでこんなに勝負を瑞々しく描けるんだろう?どうしてこうも、簡単でいてしかし周到に、見事に文脈をおさえて、本質までたどり着いて書けるんだろう.......?

 とにかく、白鳥先生の対局描写は、これで一つの完成形だと思います。もちろんほんの少し将棋をかじっただけの私がどうこう言える問題ではないのかもしれませんが、将棋の勝負の張りつめた部分が、そして静かながら熱く燃え滾る闘志が、そしてなにより、勝ち負けや善悪を越えた、究極的に本質的な将棋の姿が、見事にライトノベルというエンタメに落とし込まれているのです。もちろん、修辞を尽くせば、もっと律義に上品に、対局を描くことはできるでしょうし、そんな名作もたくさんあるでしょう。でも、『りゅうおうのおしごと!』の対局描写は、とかく無駄なく、美しく、「ライトノベル」という世界で最も完璧な形で描かれていることは、読めば分かってもらえるはずです。とにかくこの対局描写は必見です。

 

 1巻から読んできて13巻にもなると、丁寧に丁寧に描いてきてくれたキャラクターから、気持ちが離れなくなるんですよね。個人的には、ここはすごく本を読む際に大切なところです。あまりにキャラクターの掘り下げが少なければ、キャラクターは私たちのこころのなかに移り住んでこない。一方で、あまりにキャラクターを露骨に掘り下げれば、キャラクターは私たちのこころのなかで動きを失って死んでしまう。例えば『りゅうおうのおしごと!』なら、自分のなかに雛鶴あいや他のみんなが移り住んできて、そこではまた物語が続いている。永遠にこの子たちの話が続いてくれたらいいのに、というくらいにまでキャラクターが私たちのこころのなかに移り住めば、もう愛おしくて離れなくなります。それなのにキャラクターたちの「別離」なんて書かれた日には、気持ちがもう.......。巻を重ねれば重ねれるほど、この愛おしく切ない気持ちはどんどん強くなっていきます。

 

 ところで、13巻は時間的には非常に短い期間を書いているのですが、筆者自身がその理由を「新型コロナウイルスの影響で、外出自粛になった影響が大きい」と書いています。こころのどこかで「やっぱりそうか」という気持ちがありました。やっぱりそうなんだな。それはどういうことかと言うと、「いとも簡単に書いているように見えるシーンだって、丹念で精緻な取材に支えられているんだ」、ということなのだと思うのです。ほんのさりげないシーンから、手に汗握る臨場感あふれるシーンまで、きっとコツコツとした地道な取材に支えられているんだろうな。そんな努力が、この作品を素晴らしいものにしているんだろうな。

 すっかり売れっ子作家になった作者の努力の影をみてなんだか少し安心する一方で、その伏線の回収にはため息が出ます。今回の13巻も伏線になっていて、14巻以降の最終章に繋がっていくとのことですが、それにしてもこれまでも巧妙で大胆な伏線に驚かされてきたものです。特に10巻の伏線回収は個人的には感動したなあ。読んだ人ならわかるでしょう。いやあ、1巻から見てきたことが、いや時にはそれが伏線だったと気づかなかったことが、こんなところまでつながっているなんて.......。八一とあいの師弟関係が綺麗に紐解かれたとき、本当に一杯食わされたなあ、と感じたものです。どこが伏線になってるんだろう、最終章はどんな展開になるんだろう。これからの展開がとにかく楽しみです。

 しかしいったい作家とは、どれほどの全体像をもって作品に取り組むものなのでしょうか。直接聞ける機会があるなら聞いてみたいものです。どんなことを考えてるんだろう、どこまで構成を練っているのかな。気になることばかりです。今のわたしの頭では届かなさそうです。でもその前にきっと、最終章で派手に綺麗に見事に伏線を回収されてまたため息をついちゃうんだろうな。

 

 

 すっかり自分の話に引き付けてしまいましたが、13巻の感想を書いてきました。とつぜん言い訳がましくなりますが、「感想」とか「解釈」って、これでいいと思うんです。その話から何を受け取ったのか、なにに心動かされたのか、そういうのが一番大事だと思うんです。そういう気持ちこそが、人に「好き」を、感動を伝えられるのだと、そう信じています。

 

 わたしも、筆者の見事な筆致に、高い取材力に、完璧な構成に、感服してばかりもいられません。わたしも、私自身も、良い文章が書きたいのだから。そのためには何が必要なのか、そんなことは、この本から一番の感動をもって教えてもらったから。大切に胸にしまいこんだから......。

『うちも、もう才能を言い訳にして逃げるのはやめるのです。なりたいものがあって、そのための環境も整っているのなら、あとは努力をすればいいだけなのです』

『ただの努力で足りないのなら、もっと努力すればいいのです。強烈な......努力を』 

 

 みなさんは、澪ちゃんから、あいちゃんから、綾乃ちゃんから、いや他のたくさんの登場人物から、どんなことを教えてもらい、どんなことを気づかされ、そしてどんなことに感動しますか?誰にでもきっと何か大切なものをくれる、そんな作品だと私は思います。

 『りゅうおうのおしごと!』13巻、必読です!