栞子加入と、ラブライブ!のこれから

※本記事では、『ラブライブ!』、『ラブライブ!サンシャイン!!』、『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』に関連するコンテンツに関するネタバレを含みます。予めご了承ください。

 

 三船栞子ちゃんの虹ヶ咲学園スクールアイドル加入。予見できなくはなかったとはいえ、まさかの発表には多くのラブライバーが驚き、さまざまな議論を巻き起こしました。

  この記事では、「栞子の加入」という点に焦点を当てて、いろいろな視点から栞子、そしてニジガクとラブライブ!を見ていくことによって、「栞子の加入」をどのように捉えていくのか、というおはなしをしたいと思います。

 

生徒会長・三船栞子

 三船栞子は、アプリ「ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル オールスターズ(以下、スクスタ)」に登場する人物です。

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スクールアイドル・三船栞子のプロフィール(スクスタより)

 主人公である「あなた」は、スクールアイドルに興味をもち、スクールアイドルを応援したいと、所属する虹ヶ咲学園のスクールアイドル同好会を訪れます。しかし、そこにいたのは部員の中須かすみ一人。生徒会長の中川菜々から「10人部員を集められなかったら廃部」と告げられた「あなた」とかすみは、散り散りになった部員を呼び戻し、新しい部員を呼び込んで、最後は優木せつ菜こと中川菜々を呼び戻して、スクールアイドル同好会は再び歩き出します。

 しかし、そんなスクールアイドル同好会と生徒会長・せつ菜の前に立ち向かう1年生が現れます。三船栞子です。

 栞子は、せつ菜を「生徒会長に向いていない」と一刀両断し、自らが生徒会長に立候補し選挙にもちこみ、せつ菜を破り生徒会長の座につきます。

 さらに、「すべての人を適正どおりに導く」という究極的な効率主義を掲げる栞子は、一方的に「スクールアイドル同好会の廃部」を宣告します。

「私は、高校生という将来のための準備期間において、スクールアイドル活動は無意味であると考えます」 

              スクスタ メインストーリー8章10話より

  論理的な栞子にしてはいやに感情的な宣告です。しかし、生徒会長として圧倒的な実績を生み出す栞子を前にして、スクールアイドル同好会のメンバーはどうにか説得を試み、試行錯誤を繰り返すことになるのでした。

 

「生徒会長はスクールアイドル活動を認めない」という伝統

 完全に敵として、圧倒的な存在感とともにストーリーに登場する栞子。しかし、翻って考えれば、ラブライブの世界では「生徒会長はスクールアイドル活動を認めない」というのは、ラブライブの世界では至極定番な流れともいえるものです。

 μ'sでも、当初生徒会長の絢瀬絵里はスクールアイドル活動を認めませんでした。またAqoursでも同様に、生徒会長の黒澤ダイヤはスクールアイドル部を承認しませんでした。絵里の場合は「自身のバレエでの挫折とプロとは言えないスクールアイドルへの嫌悪感」、ダイヤの場合は「かつてのスクールアイドル活動でのメンバー果南の怪我と仲違い」を原因としていますが、結果は同じで、最後はリーダーであるところの穂乃果や千歌の熱意に絆されて、自らもスクールアイドル活動に打ち込んでいくことになるのでした。

 ニジガクでは、大枠は同じであれど若干事情が異なっている部分があります。一つは栞子加入までかなりの時間がかかっていること。もうひとつは栞子がかなり厳しくスクールアイドル活動を批判し、かつメンバーのせつ菜を糾弾し選挙で破って生徒会長に就任していることです。

 特に後者は、明らかに栞子とせつ菜の間に怨恨が残ったとしても不思議のないストーリー展開だけに、栞子加入に納得できない理由にも挙げられているように思います。それでいて、ストーリーのなかのせつ菜は飄々と自らの敗北を受け入れ、栞子を簡単に認めます。どこかちぐはぐしているといえば、確かにそうかもしれません。

 

栞子のスクールアイドル嫌い

 ちぐはぐといえば、栞子の態度もその通りです。一度は厳しくスクールアイドル同好会の廃部を宣告した栞子ですが、同好会メンバーの必死のアピールや、自身の生徒会長としての政策が軌道に乗らないことから、思ったよりも簡単にスクールアイドル同好会の活動を認めていきます。随所で見せる「スクールアイドルへの屈折した思い」も、栞子の抱える複雑な事情を暗示しています。

 生徒会長となった栞子の最大の特徴であり特技は「人の適性を見抜く」ことです。生徒会長就任当初は、これを活かして大きな成果を出していたようです。

 そして、この特技は、せつ菜に対しても同様であったのです。栞子は、せつ菜が「生徒会長に向いていない」と主張します。栞子との選挙戦のなかで、せつ菜もまた自分が、生徒会長に対して強い気持ちを持っていないことに気づかされていくのでした。

「すみません、私が生徒会長をやっている理由って、そういう強い思いがあってのことじゃないんです......。

両親に言われて、その通りにしてきたという部分が大きいです。

自ら行動してリーダーシップを取れるような、そんな人間になってほしいと、小さいころから言われてきました」。 

               スクスタ メインストーリー9章3話より

  この、親の縛りから自立できないという問題が、せつ菜自身が抱える問題であることは、せつ菜に関係するストーリーでも語られている通りです。そしてここでもまた、せつ菜は同じ問題を突きつけられています。最終的に生徒会長を降板したせつ菜は、それまで親の反対を恐れて隠してきたスクールアイドル活動をついに親へと話すことになり、ようやく親と、そして自らの気持ちと向き合うこととなったのでした。

 つまり、「せつ菜に生徒会長失格と伝え、自らがせつ菜を破って生徒会長になった」ということも、栞子がせつ菜に生徒会長が適性でないことを伝えることを意味していたと考えられます。だからこそ、結果的に自分と向き合ったせつ菜は、栞子を恨むことなくスクールアイドル活動へと専念していくことになります。

 しかし、これは同時に、栞子は「せつ菜に生徒会長とスクールアイドル活動の両立を諫め、生徒会長の適性がないことを勧め、スクールアイドル活動に専念するように伝えた」とも見えます。そうであるとしたなら、本当に栞子はスクールアイドルが嫌いなのでしょうか......?栞子の本心がストーリー各所で見え隠れしているように思えます。

 

 薫子と栞子

 ストーリーが進んでいくと、徐々に栞子がどうして「スクールアイドル同好会廃部」を強固に主張するのか、あるいは、どうして栞子が「適性にあった選択」を勧めるのか、その背景が少しづつ明らかになっていきます。

 結論から言えば、栞子の態度や行動の背景にあるのは、姉・薫子の存在です。薫子はスクールアイドル通のにこやルビィも知っている伝説的な存在で、スクールアイドルに対し様々なサポートを行い、スクールアイドルフェスティバル開催の立役者でした。

 しかし、栞子はそんな姉に対して「適性に合った生き方をしていれば安泰な三船の跡取りだったのに、何もかも失った」と考えています。薫子の身になにがあったのかは明らかではありませんが、「スクールアイドルの支援活動に力を入れた結果、名門三船家の跡取りの立場を失った」ということでしょう。いったいスクールアイドルによってどうして跡取りの立場を失ったのか、誰が薫子に代わって三船家の跡取りの座についたのかは、いまだ不明のままです。

 ところで、ルビィによれば薫子は「スクールアイドルが大好きで、色んなサポートをしてた」ということですが、この関わり方はニジガクにおける「あなた」と同じです。栞子の前で「あなた」がその熱意をもって十人十色のニジガクメンバーを率いて、様々な難題に取り組みクリアしていく姿、そしてそれを導く「あなた」の姿。それが、栞子の心を動かす大きな要因のひとつであったことは間違いないでしょう。

 

歩夢と栞子

 栞子の心を大きく変えたのは、栞子自身の挫折です。生徒会長に就任して、高らかに自らの理想を掲げた栞子ですが、そのあまりに合理的かつ論理的な方針は、各部の理解を得ることができず、何度ミーティングを行っても全く妥協点を見出すことができずにいました。

 栞子の苦境を見た「あなた」は、学校説明会成功はスクールアイドル同好会にとっても悲願であることから、栞子へと働きかけを行います。

 「あなた」が栞子に行ったことは2つ。一つは栞子をスクールアイドル同好会に体験入部させること、もう一つは「あなた」自身が栞子を手伝い、部活と生徒会との調整に奔走することです。

 まずは一つ目の体験入部について。「一番意味のないこと」と栞子が考えるスクールアイドル活動を栞子自身にさせることで、栞子にも部活側の意見や考えをわかってもらおうというのが「あなた」の狙いでした(実際は別の狙いもあったと思うのですが、その話は後程しましょう)。

  体験入部してスクールアイドル活動を始めた栞子は、持ち前の真面目さ、向上心、そして習い事である日舞の経験を活かし、他のメンバーを驚かせるような活躍を見せます。そして同時に、学校説明会で一人しかパフォーマンスができないことが分かり、栞子の推薦もあって歩夢が選ばれます。

 栞子は、「一人しか歌えず、他のメンバーの機会がなくなってしまったこと」、そして「歩夢が厳しい練習を乗り越えられなさそうであること」を、「歩夢が挫折してしまった」と捉え、再び挫折した人を出してしまった、と悔やみます。

 しかし、「あなた」が栞子に諭したように、これは到底挫折と呼べるものではありません。こんなことで「挫折」になってしまうのであれば、世の中の人はみんな挫折だらけの人生になってしまいます。こんなことでは簡単に挫折しない。ではなぜ、栞子はこれらのことを挫折だと思ったのか。大きな疑問が残ります。

 とはいえ、歩夢は最高のパフォーマンスを見せ、学校説明会は大成功に終わります。栞子は、挫折したと思っていた歩夢の演技に、あるいはそれをサポートするメンバーの姿に、そして自身の体験入部の経験によって、それまでの余りに尖った考えを改めていくことになります。

栞子「上原さんをスクールアイドルに誘ったのはあなただと聞きました。なぜ彼女を?」

「練習中、同好会のみなさんのことを観察させてもらいましたが、正直......彼女が一番スクールアイドルに向いていないように思えます。」

「でも、一番最初に上原さんのことを誘ったと聞きました。どうしてですか?」

              スクスタ メインストーリー14章1話より

 栞子にとって「適性」が無いように見える歩夢。彼女が壁を乗り越え、スクールアイドルとして多くの人を魅了するという事実を目の当たりにしたことで、栞子自身もそれまでの考えを改めました。それが一番分かるのが、この発言だと思います。

 そして、もう一つ大事な点は、この質問に対する答えとして「歩夢ちゃんには素質がある」と答えた「あなた」の言葉を、栞子は「あなたがそういうなら」と受け入れます。生徒会に来てほしいと思うほど、「あなた」のことを信頼した栞子。この信頼こそが、栞子の内面を変えていくことになるのです。

 

栞子自身の抱える問題

 学校説明会における栞子の挫折に対しての、「あなた」のもうひとつの解決策は、「あなた」自身も協力して各部との調整を行うことでした。

 「あなた」は、自らの方針を強硬に押し出す栞子に対して、その意思を尊重しつつ、「譲歩」を提案します。栞子がそれだけ強い意志を持っているのと同じように、各部の生徒たちも同じように強い思いを持っている。そのことを伝えようとしたのです。スクールアイドル同好会への体験入部も、その一環であったといえましょう。

 

 譲れない条件を一つ、という「あなた」の提案に対し、栞子は「試験結果によっては希望の部活に入れない可能性がある」という、一番通すには難しい条件を挙げます。

 ニジガクメンバーも途端に難色を示す条件ですが、「あなた」は決して否定しませんでした。これは、非常に大切な決断であったと思います。

 なぜなら、栞子は実は、「自分に自信がなく、かつ誰も信用できない」状態にあったと思うからです。一見強気に見える栞子ですが、それにしては不思議な言動、行動が随所に見えます。

 今回の折衝においても、栞子は自らの条件を決して下ろすことはありませんでした。それは、栞子本人の発言からも読み取れます。

「あなたも言うこともわかりますが、全員の意見に耳を傾けていてはまとまるものもまとまりません。みんな好き放題言ってあとはこちらに丸投げですから」

              スクスタ メインストーリー13章6話より

 こうは言っていますが、栞子はこれまで妥協を示していたというような記述はありません。せつ菜と歩夢が目撃したように、議論は平行線だったのです。それは、栞子自身が他人を信用していないからではないでしょうか。栞子は、自分の意見が、理想が初めから他人に理解してもらえないと決め込んで話し合いに臨んでいます。相手を信用して、相手の立場に立って全く考えていないのです。他人を信用しない人を、信用する人はいません。同時に、自分を信用しない人は、他人を信用することはできません。栞子は、この「負のスパイラル」の中にいるように見えます。

 思い出してほしいのは、歩夢が少し壁にぶつかったのを、栞子が「挫折」と捉えたことです。その時の栞子の考え方には、素直に納得できない、何とも言えない違和感がありました。それは、栞子が自分を、そして他人を信用していないからではないでしょうか。

 自分を信用していない栞子にとって、歩夢がぶつかった壁ですら、あるいは他のメンバーが失った機会ですら、それは重大な「挫折」なのです。それを乗り越えられるという自信は、栞子のなかには存在しません。 

  推測に推測を重ねることになって恐縮ですが、栞子にはこれまであまり「成功体験」をしたことが無かったのかもしれません。だからこそ、栞子には自信がないのです。「成功するイメージ」が描けない栞子には、ほんの少し壁にぶつかっただけでも「挫折」と映ってしまうのです。

壁にぶつかった子は挫折してしまったのだと、そしてそれは「適性」に従わなかったからであり、取り返せない大切な機会を失ってしまったのだと、栞子はそう思い込んで疑わないのです。

 栞子にとってもっと深刻なことは、ほんの少し向き合えば、他人を信頼すれば、すぐにその思い込みが解けるものを、向き合おうとしないことです。

 本当は挫折の向こう側で得たものがあるかもしれないのに、栞子はそれを知ることができない。だからこそ、栞子にとって、例えば姉・薫子の失敗は取り返しのつかない完璧な失敗であると映るのです。

 さらに踏むこむと、もしかしたら、栞子は「自分が失敗すること」を恐れているのかもしれません。自分が失敗してしまうことが、そしてそれによってすべてを失ってしまうことが、怖くてたまらない。だから栞子は自分が信じ込む「正しさ」に、「適性」に、こだわりしがみつくのではないでしょうか。

 そんな栞子に対して、「あなた」が取った方法はまさに完璧でした。スクールアイド活動を通じて、歩夢が努力する姿を見せることによって、「挫折」を乗り越える方法を示し、さらに栞子が一番譲れない、とても難しい条件を曲げずに各部と調整をして、学校説明会を成功に導くことで、これは栞子にとっての成功体験となり、「あなた」は栞子自身に「自信」をつけることに成功したのです。

 自らに「自信」をもち、さらに「あなた」を信用した栞子は、こころの中にあったわだかまりを少しづつ解消し、歩夢を信じることで歩夢の挫折を立ち直らせ、さらに姉が残した「スクールアイドルフェスティバル」に向き合うことができたのです。

 

10人目のメンバー

 今度は少し栞子から視点を変えて、「あなた」の視点でストーリーを見ていきます。

 スクールアイドル同好会にとって敵といえる立場で登場する栞子ですが、納得できないと反発するメンバーとは違い「あなた」は初めから栞子の誠実さや想いに気づき、ただの意地悪や悪意によるものではないことを見抜いていました。

 せつ菜と歩夢から、生徒会のミーティングがうまくいっていないことを伝えられた「あなた」は、すぐに行動します。栞子が強硬策に出る背景を知った「あなた」は、栞子に協力を申し出ます。そこで提案したことの一つが、「栞子の体験入部」だったわけです。

 これは、既に見てきた通り、栞子が無駄だと思っているスクールアイドル活動について、栞子の理解を得るため、というのが表向きの理由ですが、実はこの時点で、既に「あなた」は栞子のスクールアイドルに対する想いを見抜き、スクールアイドル同好会に勧誘することまで、計算していたように思います。学校説明会もスクールアイドルフェスティバルも、栞子に協力することで得る目的の一つですが、本当は栞子自身が、「あなた」ちゃんが欲しかったものなのではないか.......そう考えずにいられません。

 ラブライブ!サンシャイン!!では、スクールアイドルに憧れるも姉の反対を恐れるルビイを、花丸が一緒に体験入部させることでルビイがスクールアイドル部に入部することを後押ししましたが、それと同じなのではないか、ということです。

 真剣にスクールアイドルの活動に取り組む栞子をみて、「あなた」は確信を深めます。そこで、学校説明会が成功に終わった後、栞子との間の信頼感も深いものになった「あなた」は、栞子をスクールアイドル同好会にスカウトします。しかし、この時は栞子に断られてしまいます。

 この後、栞子のこころを動かしたのは、「あなた」だけの力というよりは、スクールアイドル同好会のメンバーの熱意と、それから栞子自身でした。スクールアイドルフェスティバル実現へと奔走するメンバーの熱意、それから、歩夢と「あなた」の衝突。特に後者では、むしろ栞子はその関係修復を手伝い、最後は自身も熱意をもってスクールアイドルフェスティバルの成功に尽力しました。

 スクールアイドルフェスティバルを見に来た薫子との対話、そして、メンバーの後押しによって、栞子はスクールアイドルフェスティバルの舞台に立ちます。

歩夢「大切なのはやりたいかどうか。やりたいって気持ちがあるんだったか、その気持ちに嘘をついても辛いだけ」

「栞子ちゃん、私にそう言ってくれたよね。だから一緒にやろうよ!栞子ちゃんのやりたいことを、夢を、私たちと一緒に叶えよう!」

(中略)

栞子「私、やってみたい!私も一緒にステージに立ちたいです!」

「よろしくお願いします!!」

                 スクスタ ストーリー17章9話より

 このシーンは、まさにここまで紡いできた17章にわたるストーリーの集大成といえるでしょう。最初にかすみに出会い、幼馴染の歩夢をスクールアイドルに誘うところから、メンバー集め、栞子の登場、様々な苦難、栞子との接近、歩夢との衝突......。すべてはここ、栞子の加入に繋がっていたのです。

 そして、最後は栞子自身が自分の気持ちに向きあって、スクールアイドル同好会への入部を決めるのです。

 さて、ここまでの経緯を見ると、改めてスクスタの1stシーズンは、スクールアイドルフェスティバルを成功させるというのが一つの話の流れであるとしたら、もう一つは「10人のスクールアイドル同好会のメンバーを集める」というのが、もう一つの話の流れなのではないでしょうか。実は、栞子加入は、1章で見てきた「あなた」のメンバー集めの延長線上にあるのではないか。だからこそ、時に「贔屓しすぎ」と言われるほど丁寧に、栞子のことが描かれているのだと思います。

 栞子と「あなた」。その信頼関係の構築を丁寧に描いたスクスタの1stシーズン。そのストーリーを読み切ったあなたには、栞子を「10人目のメンバー」として受け入れる心の準備が、しっかりとできているはずです。

 

「9」と「10」

 ここからはストーリーを離れて、少しマクロな視点でお話していくことにしましょう。

 私は栞子の加入をとても喜びましたし、きっとそういうラブライバーの方々も多かったと思います。しかし一方で、栞子加入を必ずしも喜ばなかった人たちがいることも、そして見逃せないくらい批判があることも、同時に理解しています。

 それはやはり、ラブライブシリーズにおける「9」という数字がとても大切なものであると考えている人が多いから、ということに尽きるでしょう。

  特にμ'sでは、「9」は絶対的な数字でした。一節によると9人姉妹でもあるとされる音楽の神様「ミューズ」の名を冠したグループにおいて、「9」はコンセプトの根幹にかかわる数字でした。実際に、μ'sは「9」人にこだわり、3年生の3人が卒業するのに合わせて解散することを決めるほど、「9人でいること」が、そして「9」という数字が、外せない非常に大切なものでした。そのため、とくにμ'sに強い思い入れのあるファンは、10人目のメンバーである栞子加入に抵抗感のある人が多いのではないでしょうか。

 一方Aqoursでは、μ'sを引き継ぎ「9」人でのグループ活動を行いますが、「9」の重要性はμ'sより低下したと言えるかもしれません。

 それを象徴するのが、ライバルユニットとのコラボである「Saint Aqours Snow」での活動、そして、3年生引退後も6人で活動を続けるこという決断に、如実に現れていると言えるでしょう。特に、2期にSaint Snowと一緒に『Awaken the Power』を歌ったときは、一部のファンで今回と同じような嫌悪感を示した人もいたと記憶しています。

 しかし、Saint Snowの加入も、アニメのストーリーで丁寧に彼女たちの努力と葛藤を描き、また同時にライブでの彼女たちの圧倒的なパフォーマンスによって、多くのラブライバーがなんの違和感もなく認めるものになってきました。「11人のステージ」でも、彼女たちは私たちに多くの感動を与えてくれました。その後、Saint Snowの鹿角理亞の加入が取りざたされ、結局この話は無くなりますが、それは「Aqoursはこの9人だから」という理由ではなく、「理亞ちゃんはそれでいいのか」という理由であったことからも、「9」が絶対的なものではないことが言えると思います。

 その一方で、Aqoursにおいては「10」が、もっと大きな意味を持つ数字であるとも言えます。『No.10』という曲まで存在することからわかる通り、「10番目のメンバー」は私たちである、という認識があるからです。私自身も、「10という数字がAqoursとそのファンにとって大切な数字である」ということは否定する気はありません。

 しかし、あくまでもラブライブはそれぞれ個別のストーリーであることを忘れてはいけないと思います。そもそも、ラブライブは媒体によって世界線・キャラクター設定などが大きく異なる「パラレルな世界」を一つの特徴にしてきました。今回リリースされたアプリ「スクスタ」でも、時間軸は完全にズレてμ's、Aqours、ニジガクは同時に存在することになっており、あくまでもμ'sのストーリーの後日譚としてスタートするサンシャインのアニメとは一線を画しています。もちろん、「9」や「10」という数字をとても大切にしているファンの方々の気持ちもわかりますが、ラブライブの世界では、統一した世界観や設定を振りかざすことは、無意味に終わる可能性が高いのです。ラブライブシリーズは変化を恐れないコンテンツです。次のラブライブ!スーパースター!!が5人から始まることを考えても、これからもラブライブが見せてくれる世界に一緒に行きたいのであれば、どんな変化があっても驚かないくらいの気持ちを持っている必要があると言えるでしょう。

 

「11人目」はやってくるか?

 「10人目のメンバー」である栞子の加入。実は、これはプロジェクト発足当時から全く予期されていないものではありませんでした。

 一つは、μ's、Aqoursと違って説明文に「9人のスクールアイドル」と明記されていないこと、そしてもうひとつは、PDPとして最初にメンバーが発表されたときに、9人のメンバーイラストの下に「and more...」という文字列が添えられていることです。

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ラブライブ!スクールアイドルフェスティバルHPより(https://lovelive-sif.bushimo.jp/pdp-result201708/)


 すっかり忘れられていたこの「and more...」ですが、栞子加入によって俄かに問題となってきました。なぜなら、栞子に次ぐ「11人目、12人目のメンバーの加入」すら、可能性としてはあり得るからです。

 もちろん、今の時点で誰が11人目となるのかは、全く分かったことではありません。そもそもこのプロジェクト自体は、スクフェスの「転入生組」から3人のメンバー(しずく・エマ・彼方)を選ぶところからはじまったのですから、他の転入生がニジガクの新メンバーになる可能性も十分高いと言えます。次の2ndシーズン完結時には、ニジガクのメンバーは11人、いやそれ以上になっているかもしれません。

 

ニジガクのこれから

 ついさっき「9人こだわるのはどうか」という話をしたばかりですが、一つだけ、栞子の加入、そしてこれからのニジガクの展開には不安な面もあります。

 それは、ラブライブの一つの魅力である「家族感」や「部活の雰囲気」が失われてしまうことです。

 メンバーの多い、あるいは増えるアイドルアニメは多く存在します。特に、「アイドルマスターシンデレラガールズ」は非常に実力主義の雰囲気が強いコンテンツで、けた違いの人数のアイドルが所属し、一部のアイドルはボイスがついておらず、人気総選挙によって順位を競うという完全な競争社会が形成されています。

 これだけキャストがいれば、それぞれのアイドルの出番も少なくなります。そもそも声のついていないアイドルすら存在するから当たり前ではありますが、ライブやイベントにすべてのアイドルがそろい踏みすることはありません。毎回新鮮なメンバーでイベントが行われますが、一方で「実家のような安心感」みたいなものは難しいかもしれません。

 もちろん、この競争社会は悪いことばかりではありません。非常に解放感と自由度の高いコンテンツであるデレマスは、全くの別ジャンルとのコラボをしたり、あるいは非常にフレキシブルで自由なユニットなどを組むことができ、ファンに常に「新鮮さ」を届けることができています。コンテンツを維持していくためには、常に新しくある必要もあるのです。

 

 メンバーは多くても様相の異なるのがアイドルマスターミリオンスターズです。ここでは、アイドルは基本的に52人で固定されています。本家「アイドルマスター」から正統な系譜を継ぐコンテンツであることもあってか、比較的設定が重視され、同じ事務所の「52人」としての連帯感は非常に強いものがあります。「シアターデイズ」として音楽ゲームアプリ化する際に白石紬・桜守歌織という2人のキャラクターが加入しましたが、これはその後のメンバー増加を意味するものではなく、むしろ長期的なメンバーの増加を意味するものでした。

 一方で、52人もアイドルを抱えていれば、全員揃うのが難しいのはデレマス同様です。さらに言えば、どうしても固定メンバーの組み合わせでやっていく必要があり、またコラボレーションなどの取り組みも無いので、マンネリ感を脱却するのが非常に難しい感があります。

 

  ラブライブ!は、むしろ「グループでの活動」に重きを置いてきました。ライブも大きな障害が無い限りはメンバー全員の出演が基本であり、同じメンバーが長い時間を過ごし、成長し、また私たちもその成長を見守っていくことで、そのストーリーを皆で共有していく。次第にメンバーにもファンにも結束感が生まれる。声優コンテンツでありながら、本物のスクールアイドルの部活のような、あるいは本物のアイドルのようなストーリーを見せてくれるのが、その大きな魅力です。

 しかし、その長所は同時に、キャストをそれだけ拘束することを意味しています。特にμ'sではこの問題は大きく響き、「活動休止の背景には契約の問題がある」と言われるほどでした。そういう視点でみれば、アイドルマスターのような形態の方が、声優アイドルという形態には相性が良く継続性があるということになりますが、それでもしかし、上記のような面がラブライブ!に欠かせない魅力であると思います。

 

 さて、そこで栞子の加入です。これは将来的に転入生や新たなスクールアイドル達がスクスタ内で次々加入していき、大所帯となる「デレマス的」な加入なのでしょうか。あるいはあくまでも1人、2人の加入に終わり、単にグループの規模が大きくなるだけの「ミリマス的」な加入なのでしょうか。

 個人的には、ラブライブ!の魅力は、キャラクター・キャスト共に醸し出す「家族感・部活感」にもあると思っています。μ'sならあの18人が、AqoursSaint Snowならあの22人が、アニメの内外、イベントや生放送などでも発揮する「このメンバーだから」という安心感は、ラブライブ!シリーズの大きな魅力の一つだと思っています。

 これからニジガクのメンバーがどのくらい増えていくのか、あるいは10人のままなのか。それは私にはわかりませんが、どんな展開であるにせよ、これまでのラブライブ!の「みんなで叶える物語」に欠かせない魅力を残していって欲しいと思うのです。

 

栞子加入記念生放送に思うこと

 先日、「Welcome!栞子ちゃん♡今日から一緒に生放送」と銘打って、栞子の加入を記念する生放送が行われ、初めて「三船栞子役」としてCVの小泉萌香さんが登場し、これがメンバーとの初共演になりました。

 これまで、ラブライブシリーズの声優はそのデビューも横一線で、同じペースで成長する姿をファンに見せてくれていたので、こうやって初々しく新メンバーが生放送に登場するというのはもちろん初めてのこととなりました。

 他の4人のメンバーに囲まれた小泉萌香さんは微妙な緊張感を漂わせていて、また周囲のメンバーもまたその距離感を測っている感じがあったり、いやマイペースに絡んでいったり、あるいは心配して助けたりと、まさに「新メンバー小泉萌香さんを見守り、迎える既存メンバー」の雰囲気は、スクスタのストーリーで栞子を迎えるニジガクメンバーそのものであり、冒頭のスペシャルドラマも併せて、これまでのラブライブシリーズの生放送の中でも屈指の名放送になった、と思っています。

 なにより一番うれしかったのは、ニジガクという、これまでのラブライブの流れを継ぐ「家族」に、小泉萌香さんが迎え入れられるんだな、そういう雰囲気があるな、と感じられたことです。これから今までの9人のなかに栞子が、小泉萌香さんが同じように入って、10人の家族として、ニジガクファミリーとしていろいろな姿を私たちに見せてくれるんだな、と思えました。

 そして、この「栞子の加入」という事態に対してのニジガクの答えは、最後の大西亜玖璃さんのコメントによって、すべてが表されているように感じました。

「歩夢ちゃん的にも、虹ヶ咲的にも、一歩づつ、一個一個、新しいことをしながら成長していくというのが、虹ヶ咲の新たなテーマでもあると思うので、驚くかもしれないけれど、こういう形もあるんだ、ああこんな新しく進化していく虹ヶ咲をこれからも応援したい!と思ってもらえるように、私たち力を合わせて頑張っていきますので、ぜひぜひ、これからの虹ヶ咲のことをいっぱい注目して、応援していただけたらと思います」

     「Welcome!栞子ちゃん 今日から一緒に生放送」発言より

  10人の虹ヶ咲というのは、ラブライブがこれから進化していくための「新しい形」なのです。いつまでも同じことをしていては、そのコンテンツはいつか進化が止まり死んでしまいます。

 そんな「新しい形」の中でも、これまでのラブライブの、本質的な部分での魅力を失わずに、きっと進んでいってくれるであろうと、最初の姿からは想像できないほどに成長した大西亜玖璃さんの揺るぎない発言から確信しました。

 これからラブライブ!に、どんな変化が起こるのか、どんな展開を見せるのか。そんな未来には期待もたくさんあり、不安もまた同じくらいたくさんあります。しかし、「ラブライブ !」に真剣に取り組み、変化をも力に変えようとするキャストを、新しいメンバーを丁寧に描くストーリーを見て、栞子が加わった「10人のニジガク」が、これからのラブライブをさらに次のステージへと私たちと一緒に進んでいくことができると信じることができました。

  栞子加入という大ニュースを受け入れた時、私はこれからも栞子を、ニジガクを、ラブライブシリーズを、応援していこうという強い意志を再確認したのでした。