不思議で魅力的な「無駄」な路線のおはなし
こんばんは。こばとんです。
こうやって切り出すのもすっかり久しぶりになりました。久しぶりに「おはなし」カテゴリーの(とても内容のないゆるゆるとした)記事を更新させていただきたいと思います。カロリーの高い記事ばっかりじゃあ書く方も読む方も疲れちゃうもんね。
もはやあまりに多い私の趣味の中で埋もれてしまっていますが、実は私、すこしばかり鉄分の多いオタクなんです。そんな私ですが、先日こんなツイートをしていました。
性癖は「非電化複線私鉄」です
— こばとん (@kobaton825) 2020年8月18日
— こばとん (@kobaton825) 2020年8月18日
今日は、私が日本で一番好きな路線のひとつである、名古屋の北端を走る、不思議なショートトリップについておはなししましょう。
「不思議な鉄道王国」の中京圏
街にはそれぞれの顔があります。それは鉄道も同じです。
まさに「正統派」ともいえる東京圏で主に育った私にとって、名古屋を中心とした中京圏はとても不思議な世界でした。
中京圏には顕著な特徴があります。それは、「圧倒的に車社会であること」。
東京に住んでいれば、車の必要性は感じないでしょう。むしろ、鉄道・バスといった公共交通機関を使うか、あるいは自転車や徒歩で移動した方が、圧倒的に移動しやすいのが東京という街です。
東京圏では、車社会はグラデーション状に郊外へと広がっています。放射状に延びる私鉄各線の奥へ行けば行くほど、生活の車依存度は高まります。個人的な感覚では、武蔵野線の内外くらいがそのボーダーラインでしょうか。
一方中京圏は、まったく事情の異なった社会が広がっています。自動車を積極的に選ばず、公共交通機関で通勤する人は、ごく一部の地域に限られます。それ以外の世界は、圧倒的に車社会が広がります。これは中京圏の大きな特徴です。
これを最も痛感するのが、名古屋名物スカーレットの電車。名鉄に乗った時です。
東京、あるいは大阪では、多くの通勤電車は10両を基本編成とします。それか、少し短くて8両。6両編成は、どちらかといえば短いという印象を受けます。
一方、名鉄に乗ると、6両はぜんぜん普通で、4両みたいな車両が平然と本線を走っていきます。でも、決して鉄道網は未発達なわけでは無く、比較的縦横無尽に鉄道が走っているのです。これは、私にとってはカルチャーショックに近いものがありました。この名古屋の鉄道の雰囲気は、他の都市にはあまりないものです。
さらに、鉄道を取り巻く環境が少し特殊な中京圏には、ユニークな路線も多く存在します。
よく挙げられるものとしては、一つは日本で唯一の専用道を走るガイドウェイバスである「名古屋ガイドウェイバス」、そしてもう一つが、今日おはなしする「城北線」です。
城北線に乗る
東海交通事業城北線は、勝川駅から枇杷島駅の11kmを結ぶ路線です。
地図を見れば一見、とても利用客の多そうな場所を走っていることが分かるでしょう。ほんらい貨物線として作られた点も含めて、ロケーションは武蔵野線のような感じがします。しかし、その内実は全くもって予想できないようなものなのです。
城北線がどんな路線なのか、特徴を挙げればきりがありません。
〇名古屋の市街地を走る、愛知県で唯一の非電化路線
〇街中を走るのにとんでもないローカル線だし、なんか無駄に複線で高架の上を走
る
〇線路はJR東海が保有しているのに、運用しているのは子会社の「東海交通事業」
(これを第二種鉄道事業者と呼びます)
〇異様に悪い他路線との乗り継ぎと、意味不明な場所にある勝川駅
これだけ聞いても「へえ」となるだけかもしれません。城北線の魅力はどんなところにあるのか、実際に乗ってみることにしましょう。
名古屋駅から大垣行の東海道本線に乗り込み、揺られることわずか一駅。ここが枇杷島駅です。
幹線の駅らしく、長く広く立派なホームに降り立つと、端っこのホームに気動車が一両、アイドリング音を立てているのが見えます。城北線です。
エスカレーターを登ってコンコースに出ます。どうも、一度改札を出なくても城北線のホームに行けるようです。なんだ、接続いいじゃん。そう思ってホームに降りていきます。接続がいいのは実はここだけなんだけど。
しゃちほこをかたどった「城北線」のマーク。「勝川⇔枇杷島」と表示される、短距離路線特有の幕の表示。微妙に汚れた車体。ワンマンの表示。人っ子一人いない車内。オレンジ色の精算機とバスのような運賃表示器。
ローカル線が大好きな私からすれば最高な車両。ここが名古屋のど真ん中では無くどこかの山の中であるような、そんな錯覚すら起こすようなローカルっぷり。最高ですね。
発車時刻まで、厚かましくもうろうろと写真を撮りまくっていましたが、乗客が増える気配はありません。ようやく、わずかに数人の乗客をのせると、気動車は大きな音を立てて走り出しました。
短い城北線には、駅も数えるほどしかありません。枇杷島を出たら、尾張星の宮・小田井・比良・味美と停まり、終点の勝川へと向かいます。
地図を見るとわかってもらえると思いますが、これだけの都市部を走る路線ですから、他の路線とも交差します。小田井付近で名鉄犬山線・地下鉄鶴舞線と、味美付近では名鉄小牧線と、それぞれ交差しています。
しかし、それらの交点には乗換駅が一つも存在しません。単に清々しく無いのであればまだいいのですが、その内容はもっと混迷を極めています。
小田井駅は、名鉄犬山線・地下鉄鶴舞線の上小田井駅とかなり接近していますが、乗り換えを考慮した構造にはなっていません。別個の駅です。とは言っても、そう気合を入れずとも少し歩けば乗り換えはできるでしょう。大目に見積もって10分くらいかな?もっとも、そうするだけの理由は一つもありませんが。
もっと混乱するのは味美駅です。こちら、名鉄小牧線にも同名の「味美駅」が存在します。しかし、こちらは小田井と上小田井の間より遠くなっています。到底「接続駅」とは言えなさそうです。
もっと深刻な話をすれば、枇杷島駅付近を除きほぼ全線が高架であるにも関わらず、エレベーターは小田井駅にしかありません(なかったはず、間違ってたらごめん)。これでは、到底お客さんは使ってくれそうにありません。
極めつけは終着駅の勝川です。ここではJR中央本線と接続しますが、何故か駅は500mほど離れています。ここまで来ると、まるで「この路線を使うんじゃねえ」と、拒絶されているがごとくです。
城北線の勝川駅が離れた位置にあるのには理由がありますが、ここでは長々とご説明するのはやめましょう。簡単に言えば、実はこの路線を作ったのはJR東海ではなく別の会社(正確には公団)で、JR東海は2032年まではこの城北線をお金を払って借りていることになっています。2032年以降は城北線は正式にJR東海のものになるのですが、それまでに勝川駅をJRの駅まで伸ばすと、賃貸料も上がる上に建設費もかかります。2032年までの期限付きで、ここ城北線はこの不思議な状態を維持し続けることになるのです。
ちなみに中央本線の勝川駅には、城北線の「導入空間」が用意されています。上下線の間に城北線が入れるように、準備してあるのです。2032年を過ぎたら、ここまで城北線が延びてくることになるのでしょうか。
不思議なショートトリップ
さて、枇杷島駅を発車する時に話を戻しましょう。枇杷島駅を出ると、すぐに城北線の路盤は高くなっていきます。高架の上に出て、すぐに着くのが尾張星の宮駅です。
「尾張星の宮」と名乗っていますが、他に星の宮駅はありません。じゃあなんで「尾張」ってつけたんだよ。でも「星の宮」って地名、お洒落で好きかも。
尾張星の宮を出ると、城北線はもっともっと高いところを走るようになります。枇杷島から乗ったのであれば、進行方向右手の車窓を見るといいでしょう。名古屋の街を一望できます。かなり高いところを走るので、爽快感があります。
ちなみに右側は高速道路(名二環)と完全に並走しているので、防音壁しか見えません。お気をつけて。
尾張星の宮からは、名古屋の街を右手に気動車は小田井・比良・味美と快走していきます。「快走」といっても、たいして速度は出しません。こんなに早く走れそうな、新幹線にも顔負けといった線路の上を、煌びやかな街を見下ろしながら、単行の気動車がトコトコと走っていく。「ノスタルジー」とも少し違うようなわびさびの感覚がここにはあります。夜に乗ってもまたいい雰囲気な気がする。
乗車したのはお昼ごろでしたが、ほとんど乗客はなくガラガラ。はっきり言ってしまえば、こんなちぐはぐで不可思議な「無駄」が、巨大な都市の中心近くに鎮座していることが、とにかく魅力的でしょうがないんですよね。名古屋の街に横たわる壮大な「無駄」は、もはや芸術作品に近いかもしれません。
走ることわずか15分強。単行の気動車は終点の勝川駅に滑り込みます。勝川はホーム一つの簡易な駅。この駅がこれほどまでにそっけないのは前述した通りの理由によります。JRの勝川駅には、階段を降りてから少し歩く必要があります。最後の最後まで、本当に中途半端なところも、もはやご愛敬です。
ところで、城北線に乗るときに改札を通過していませんが、どうもこの城北線は交通系ICカードに対応していない様子。なんなら多分全駅どこにも改札がないと思う。運賃を払うことはもちろん問題がないのですが、私のTOICAは名古屋駅で入場したっきりの状態。このままでは勝川駅で入場できません。はて、どうしましょうか。
思い切って降車時に運転手さんに聞いて観ると、どうも日常的に起こっている問題らしく、さっと紙が出てきました。
へえ、初めて見たよこんなの。これを勝川駅で見せれば万事解決とのこと。お忙しい中ありがとうございました。運転手さんへの感謝を胸に、JRの勝川駅まで歩きます。
到着したJR勝川駅は、近年高架化されたこともありとてもきれいで現代的な駅。この駅にいつか城北線が乗りいれる日が来るのでしょうか。
上下線の間に不自然にあいた城北線用のスペースを眺めていたら、名古屋行きの列車がやってきました。不思議な路線「城北線」の旅は、車窓に離れていく城北線の高架を眺めながら、終わりを告げたのでした。
名古屋の街中に存在する、不思議でちぐはぐ、市街地のなかにありながらローカルな鉄道旅を楽しめる。そんな唯一無二の路線「城北線」。
名古屋に訪れたときには、ぜひ「城北線」でショートでスローなトリップを楽しんでみてはいかがでしょうか。あ、ICカードを使って枇杷島から乗るときはちゃんと一回枇杷島駅で出場するんだよ、二の舞を演じないでね。
それではまた。
こばとん
※当記事は、2017年8月に訪れた時の記録を記事にしたものです。現在の状況とは異なる点がある可能性がありますので、ご注意ください。
新型コロナウイルスの流行につき、旅行される際には十分な感染対策を講じるなど、感染対策に留意した上で楽しく観光しましょう。