笑顔の魔法を、もう一度 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会2ndライブレポート②

 「ステージには魔物がいる」。

 今回以上に悔しいライブは、初めてだったかもしれない。

 

 とにかく、盛りだくさんのライブだった。虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会にとっては2回目のライブ。ラブライブ!フェス以来8か月ぶりの舞台。この8か月の間、虹ヶ咲の活動はまさに「アクセル全開」だった。

 ユニットシングル3枚、さらには3rdアルバム。そして、虹ヶ咲では初となる選挙によるシングルが発売された。栄えある初代1位は中須かすみちゃん。そして発表になったラブライブ!では初となるソロでのシングルは、作曲にDECO*27さんを呼ぶこれまでのラブライブ!とは一線を画すような一曲になった。『無敵級*ビリーバー』である。DECO*27さんが作曲してくれたことに喜んでいたまゆちを良く覚えている。初めての総選挙1位にふさわしい、かすみんとまゆちへの素敵なプレゼントだった。

 

 これだけ盛りだくさんのライブだが、開催に漕ぎつけるには多くの困難が伴った。

 ラブライブ!フェス開催は1月。まだこの時は、その「異変」は訪れていなかった。今から考えれば、ラブライブ!フェスが開催できたことは神様の粋ないたずら、もしくは雨空が一瞬にして晴れるような奇跡でしかなかった。2月になるとその異変の「影」は少しずつ大きくなり、3月にはついに日本でも深刻な問題になりはじめていた。そう、新型コロナウイルスの流行が始まったのだ。

 日本の、いや世界のすべての人々を様々な困難に陥らせたこのウイルス。ラブライブ!が受けた影響も甚大なものだった。予定していたAqoursのユニットライブは、かろうじてCYaRon!のみ開催するも、その後の2ユニット、そして全員揃っての「PARFECT WORLD」も延期、中止に。生放送イベント、さらにはCDリリースまでにも影響は波及していき、その動きは完全に停滞してしまった。

 

 既に発表されていた虹ヶ咲の2ndライブも、その開催が危ぶまれつつあった。夏には収まると言われていたウイルスは、その期待には見向きもしてくれなかった。ラブライブ!運営は、ぎりぎりまで「諦めない」運営をしてくれたと思う。限られた可能性のなかで、どうにか通常にできるだけ近い状態でライブをしてくれるよう模索している様子は、ひしひしと伝わってきた。しかし、叶わなかった。

 虹ヶ咲の2ndライブ、そしてAqoursの6thライブは、無観客有料生配信という形態をとることになった。事態はさらに深刻で、Aqoursに至っては6thライブの5大ドームツアーはすべてキャンセルとなった。この衝撃の決定は、ファンにとってもあまりの衝撃だった。「受け止められなかった」と言うより、「どう受け止めればいいかわからなかった」といった方が適切だろうか。こういった混乱を乗り越えて、遂に虹ヶ咲の2ndライブ当日がやって来たのだ。ファンの期待は大きかった。8か月分の想いが、それぞれの画面に集まった。

 

 今から考えれば、彼女たちにこれだけの「想い」を背負わせるのは、少々酷だったかもしれない。それは、どうしようもないことでもあった。しかし、彼女たちは決して逃げなかった。それだけは間違いない。

 

 ラブライブ!初の、無観客有料生配信ライブ。ついに、その幕が開いた。

 

 私たちも、どこか浮ついていた。ライブにはルーティンがある。会場に行く(遠方からのお客さんは、前日に現地入りして泊まる人もいるだろう)。少しずつ会場が近づいてくる電車の車窓。同じような服に身を包んだ、同じ想いを抱えた人たちが、少しづつ集まってくる。久しぶりに会う人もいるかもしれない。大好きなキャラや曲の話に花が咲くこともあるだろう。チケットをもぎってもらい、入場する。大きなスクリーンと大きなスピーカー。様々な予告や宣伝の映像が流れる。少しづつ上がっていく会場の温度。会場の一体感が醸成される。暗転。静寂の後の歓声。きらめくライトの先を、何千何万という人が見つめる。

 そんなことは、一つもなかった。画面の前に腰かけて、画面と、それからTwitterを見つめる。言いようのない淋しさは、確かにあった。何となく、心の準備ができていない気がした。しかし、それは誰のせいでもなかった。これが今の「最善」であることは、誰もが理解していた。しかし、わがままを聞いてはくれない。心の準備ができるまで待ってはくれない。時間が来れば、幕は開く。ただ、それだけのことだ。

 

 きっと彼女たちも、同じ気持ちであったに違いない。いや、「同じ」だなんておこがましい。多くの視線を集める彼女たちにかかるプレッシャーは、想像もつかない。観客のいないステージに一人で立つことが、どれほど心細いか。しかし、私たちと同じように、寂しさを、心もとなさを感じていたことは、絶対に間違いないと思う。

 『未来ハーモニー』。はじけるようなイントロ。しかし、何かがちぐはぐな気がした。何が、というわけではない。しかし、何かが、確実にテンポを乱している。魔物は、ステージの上だけではなく、電子の海へと潜っていたのかもしれない。その魔物は、お台場のステージにも、私たちの画面にも、同じようにひそんでいた。何かが起こる、そう思った。

 

 いつも通りに、しかし何かが足りないまま、自己紹介が終わって、キャストがはけていく。聞きなれたイントロ。パステルイエローの衣装。『無敵級*ビリーバー』は、虹ヶ咲の特徴でもあるソロ曲。一人で立つステージ。セットリストのトップバッターは、総選挙1位のかすみんとまゆちに託された。

 

 「魔物」はそこにいた。声にならない声が出た。いや、声になっていたかもしれない。しかし、届けようのない声だった。拳を握りしめた。「頑張れ!」。そう叫んだ。

 

 振り返ってみれば、それは決して致命的ではなかった。まゆちは、すぐにかすみんへと戻っていった。涙は最後まで見せなかった。『無敵級*ビリーバー』の力強い歌詞は、ステージのまゆちの力になっていた。かすみんがまゆちの背中を押しているようにも思えた。最後まで、まゆちは自分を信じてステージに立った。見事だったと思う。

 もし、あの瞬間会場にいれば、声が届けられれば、空気を、気持ちを、通わせあっていれば。そう思わずにはいられなかった。思い出したのは、Aqours1stライブでの逢田さんのピアノ演奏だった。ピアノ演奏に失敗してしまった逢田さん。止まってしまった音。駆け寄るメンバー。あの時、私たちの声は、たしかに逢田さんの力になった。会場は一体感に包まれた。そして失敗を乗り越えたステージは、大きな感動を私たちに与えてくれたのだった。「怪我の功名」とは、まさにこういうことだ。お客さんで一杯になったステージは、失敗すらも感動に変えるような、「魔法」に包まれているのだ。たくさんの想いを乗せた「魔法」は何よりも強い。「ステージの魔物」なんか、目じゃないのだ。

 しかし、それはできなかった。叶わなかった。オンラインライブは、想像以上に非情なものだった。魔法はかからなかった。キャストは、反省を口にすることが多かった。私たちも、どうしてもそれにとらわれてしまったような気がする。

 強いまゆちは、最後までステージで笑顔を見せてくれた。折れなかった。昼公演のMCで「悔しい、次こそは」、そう言っていた。夜公演では、まゆちとかすみんはぎりぎりのところで魔物に打ち勝った。夜公演のMCでは「いい意味で吹っ切れた」と、まゆちは語っていた。しかし、それはかすみんのことを信じているからこその強がりだったと思う。2日目の最後のMCで、まゆちは「かすみんに申し訳ない」と泣いていた。かすみんに対する強い想いがにじんでいた。まゆちは、最後まで自分自身を、それからかすみんのことを、信じて向き合い続けた。目を背けなかった。

 かつて『無敵級*ビリーバー』の記事で、私はこう書いた。

「かすみちゃんの最大の魅力は、武器は、一番誰にも負けないところは、「信じること」だ」

こばとんの徒然日記『『無敵級*ビリーバー』と、かすみの鏡の向こう側』より

 今回のステージで見せたまゆちの姿は、まさにかすみんそのものだったと思っている。それは、「かわいいかすみん」そのものだったということではない。自分を信じるかすみんに、逆境に負けないかすみんに、ひとりで問題を乗り越えてしまう強いかすみんに、まゆちは完全に一致していたのだ。まゆちは、「本質的に」かすみんだった。

 だからこそ、私たちはまゆちを信じることができたのだ。次のステージのまゆちは、きっと十倍も百倍も成長している、そう確信した。この涙は、きっと何倍も未来のまゆちを、かすみんを輝かせるだろう。

 

 

 「失敗」の話をしてきた。誰がどう言おうと、今回のステージはまゆちにとって悔しいものだっただろう。彼女たちはプロだ。言い訳なんてありえないし、下手にかばってほしくもないはずだ。彼女たちは、最高のステージを完璧にこなすために練習を重ねているのだ。目指すステージを実現できなかったことは彼女にとって「失敗」であるに違いない。あえて強く言えば、この記事でそういう言葉をまゆちにかけるつもりは全くない。

 しかし、彼女たちに「想いを届けられなかった」ことは、あの得も言われぬ焦燥感と悔しさは、画面を突き破ってでも何かを届けたい衝動と、それができない無力さは、私たちに残された大きな課題だと思った。オンラインライブで痛いほど感じたことがある。それは、「私たちも確かにあのライブの構成員のひとりであり、私たちがいるからこそ、あのライブが成り立っている」ということだった。いや、いつもこういったことは、キャストが私たちに伝えてくれていたことだ。しかし、今回こういう形でライブをしたことで、確かに実感できた。私たちがあの場所にいる「意味」を、ひしひしと感じたのだ。

 既に書いた通り、今回のライブ開催にあたって、ラブライブ!運営は最善を尽くしてくれたと思っている。今の情勢の中で、こうやってオンラインでも完全なライブを見られたことは、感謝しかない。ARを使った演出も見事だったし、オンラインという形でどうステージを届けるにあたって、とにかく工夫に満ちていたと思う。Twitterハッシュタグはきちんとキャストに届いていたし、「ニジガクアンコールメーター」なる取り組みもあった。限られた状況の中で、キャスト・そして運営には、とても楽しませてもらえたと思う。

 

 翻って、私たちはどうであろうか。もっともっと、キャストに想いを伝えられる方法はなかったであろうか。

 オンラインライブでは、どうしても私たちは受け身になってしまったような気がした。もちろん、方法は限られていたかもしれない。いますぐいい方法が思い付くわけでもない。しかし、ステージは双方向で作り上げていくものだと気づいた以上、私たちも想いを伝えなくてはならない。いつももらっている元気を、勇気を、直接お返しすることができる場所、それがライブだからだ。

 

 次のライブが、オンラインなのか、それとも会場にお客さんを入れて開催することができるのか。それは、まだわからない。知りようがない。

 しかし、出来るはずだ。Aqoursの5thライブで、私たちは自分たちの力で、あれだけ見事な虹をかけることができたではないか。もちろん、そこまでにたどり着く努力は大変なものがある。しかし、あの瞬間、私たちはたしかにキャストに想いを届けられたのだ。次のライブは、次のライブこそ、私たちが想いを届ける番ではないか。

 どんな形であっても、私たちは全力をかけて彼女たちに想いを伝えていかなければならない。次のライブでは、絶対にまゆちとかすみんは、成長した姿を見せてくれる。私たちは、それに応えなくてはならない。まゆちが悔しさを力に変えて次のステージを作るなら、私たちも今回、想いを直接伝えられなかった悔しさを存分にかみしめて、全力でかすみんとまゆちに届けていきたいのだ。

 

 かつて、私はこう書いていた。

『無敵級*ビリーバー』は、一つのかすみちゃんの到達点だ。努力を重ねたかすみちゃんは、ついに鏡の向こうの理想の自分へと、たどり着いてみせたのだ。

 しかし、そんなかすみちゃんも、いつか心が折れてしまいそうな時がくるかもしれない。負けてしまいそうな日がくるかもしれない。

 だから、いつか必ず、かすみちゃんの「素顔」を知りたい。いつでもかすみちゃんが本音を話せる相手になりたい。そして、困ったときにかすみちゃんを助けてあげたい。

 いつでも「喜ばせる側」でいたいかすみちゃんは、どんどん進んでいってしまう。かすみちゃんがどこまでも進んでいくのについていって、いつかかすみちゃんが壁にぶつかったときに、かすみちゃんに手を差し伸べられるように、必死にかすみちゃんについていく。

 「無敵級のビリーバー」を、支えられるような「あなた」でいたい。

 こばとんの徒然日記『『無敵級*ビリーバー』と、かすみの鏡の向こう側』より

  たった一人のステージで、壁にぶつかったかすみんを、そう、「無敵級のビリーバー」を、私たちは指をくわえてみていることしかできなかった。支えられなかった。想いを届けられなかった。

 今は、ただこれが悔しい。とにかく悔しい。私たちは、デジタルの壁を超えることができなかったのだ。

 

 

 自分を信じるかすみんとまゆちは、強い。今回も、一人でしっかりと立ち直ってみせた。きっと次のライブでも、もっともっと成長した姿を見せてくれるだろう。

 私たちも、かすみんを信じている。かすみんとまゆちも、きっと私たちを信じていてくれるだろう。

 だからこそ、次は全力で想いを届けたい。この悔しさを力に変えて、かすみんに、まゆちに、全力で想いを伝えたい。「笑顔の魔法」は、かすみんとまゆちだけではかけられない。鏡のようにかすみんとまゆちの想いを受け止めて、それを同じように返す。私たちがいて初めて、笑顔の魔法はかかるのだ。

 次こそは絶対に、笑顔の魔法をかけてみせる。誓いを新たにする、そんなライブだったと思う。

 

 

 曲は、リリースしたときが終わりではない。むしろ始まりである。ライブで披露して、そしてそれを何回も何回も重ねていって、それが、曲のストーリーになっていく。そうやって、物語は紡がれていく。

 かすみんと、まゆちと、それから私たちと。『無敵級*ビリーバー』の物語は、まだ始まったばかりだ。悔しさは、力に変えればいい。次の1ページは、もっともっと素敵な物語になる。その物語を紡いでいくのは、私たちの役目でもあるのだ。

 だから、私たちを信じていて欲しい。無敵級のビリーバーの信頼に、私たちはきっと応えてみせる。今かすみんとまゆちに届けたいのは、この誓いだ。

 

 

 
 ※文中で引用した記事はこちらです。かすみんについて、『無敵級*ビリーバー』について、もっと知りたいと思う方は、ぜひこちらの記事も読んでいただけると嬉しいです。

tsuruhime-loveruby.hateblo.jp