七色の虹を照らす太陽 TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』視聴レポート #4 「未知なるミチ」

TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』視聴レポート #4 「未知なるミチ」

 七色の虹を照らす太陽

 

もくじ

 

※当記事は、TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』のストーリーに関するネタバレ、あるいは、アプリ『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバルオールスターズ』のストーリーに関するネタバレを含みます。アニメ未視聴の方、アプリ未プレイの方は、予めご了承ください。

 

第3話の記事はこちらから↓

 

tsuruhime-loveruby.hateblo.jp

 

 『DIVE!』にくぎ付け。でもそれだいぶ違うかも...?

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輝きを、見つけた。

 優木せつ菜が「はじまりの歌」として、虹ヶ咲学園の屋上で情熱的なパフォーマンスをみせた『DIVE!』。

 せつ菜が届けたかった「大好き」は、二人の少女へ届く。天王寺璃奈と、宮下愛。2人に「スクールアイドル」の姿は、強く強く刻み込まれた。

 

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愛は、周りを見ていた。

 しかし、愛が受け取ったのは、璃奈とも、あるいは侑とも、違うものだった。

 『DIVE!』のステージにくぎ付けになる二人。しかし、璃奈が真っ直ぐステージのせつ菜を見つめるのに対して、愛はせつ菜を見つめるのはもちろん、周囲を見回している。周りの生徒はみな、せつ菜に夢中である。

 

 この愛の行動は、侑と比べてみても面白い。

 1話の『CHASE!』のステージで、せつ菜のパフォーマンスに衝撃を受けた侑。演出は想像の世界に入り、その世界には侑とせつ菜しかいない。侑にはせつ菜しか見えていない。侑はせつ菜を、そのパフォーマンスを、それだけを見て、それだけに魅了されているのだ。

 

 しかし、愛は違う。愛が見ているのは、せつ菜一人ではない。

愛「屋上から聴こえる歌に、盛り上がってるみんなを見て、自分も未知なる道にチャレンジしたいって、そう思ったんだ」

 愛は、「盛り上がっているみんな」を見たから、スクールアイドルを志した。

 それぞれの形でときめいた愛と璃奈は、スクールアイドル同好会に入部することになる。

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愛さんはやってみたい!

 

ヒーローは、浅く広く。

 ようやく始動したスクールアイドル同好会。そこに、入部希望の愛と璃奈がやってくる。

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大歓迎のニューカマー

愛「ところで、スクールアイドル同好会って、何するの?」

せつ菜「えーっと、実は今、それを探しているところでして......」

  しかし、一度はバラバラになってしまった同好会はようやくの再始動。手探り状態の活動。まだまだ前途は多難だった。

 

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ライブがやりたい。かすみんはかわいい。

 まだ何も決まっていない同好会。そんな彼女たちのとりあえずの目標は、ライブをすること。

 しかし、やりたいライブの内容すら、メンバーの方向性は揃わない。かすみの全国ツアー、輪になって踊りたいエマ、演劇大好きのしずく、すやぴな彼方、大好きが「爆発」するせつ菜、「かわいい」の歩夢......。

愛「みんな言ってること全然違うけど、すごいやる気だねえ」

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愛はときどき鋭い。

 愛はときどき鋭い。「方向性の違い」をクリティカルに指摘され、同好会メンバーははっとする。しかし、この愛の発言には深い洞察はないと思う。単純に、愛はみんなの熱意にびっくりしているのだ。

 同好会のメンバーは、みんな「スクールアイドル」に対して強いこだわりを持っている。それは譲れないこだわりである。だからこそ、歩調を合わせようとした彼女たちはぶつかり合ってしまった。彼女たちにとっては、ぶつかってしまったことは苦い思い出なのであるが、愛にとっては七色の譲れないこだわりと情熱を持つ彼女たちとの出会いはとても新鮮なのだ。

 

愛「とにかく、楽しいのがいいかな!」

 侑に意見を求められて、「楽しい」ライブにしたいという愛。

 「楽しい」というのは、誰にでも平等に分かちあうことのできる感情だ。愛の挙げた「楽しい」にメンバーがまたはっとさせられるのは、きっと本来のアイドルグループ、あるいは部活動ならこういう普遍的な感情を共有することで一つになり、歩調を合わせて目標を目指していくからだ。彼女たちには、それができなかった。何度でもいうが、これは良し悪しの問題ではない。人間は、生きていける道で生きていくしかない。一色ではなく七色の道を歩いていくことが、彼女たちの唯一の道なのだ。

 愛はそんな多様性の中ではやはり異色である。愛の持つ才能は、どちらかと言えばグループで何かひとつのことをなしえる時に発揮される。この力は、「協調性」と言い換えてもいい。愛は共感力が高く、いつも周囲に目を配っている。彼女が1人入るだけで、グループとしての一体感は段違いに向上するだろう。

 しかし、「普遍性」は強さであり弱さでもある。「普遍性」を持っている限りは、それはオンリーワンになり得ないからだ。むしろ、オンリーワンになり得ないからこそ、それは普遍性たり得るし、協調性を発揮できる。「協調性」の世界に生きてきた愛にとっては、それぞれに譲れないこだわりを持つ同好会メンバーとの出会いは、未知との遭遇といっても過言ではないものであった。

 

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「特訓」も、また七色。

 彼女たちは、「特訓」をするにあたっても意見が合わなかった。

 結局、エマの提案した「グループに分かれて練習する」という解決策によって、彼女たちは理想のライブに向かって特訓を重ねていくことになる。

 ところで、このシーンはなかなか興味深い。「歌の練習がしたい!」と想像以上の積極性をみせる歩夢は、後のシーンでランニングにも躊躇をみせるあたり、運動は苦手なのであろうか。一方「ダンスかあ......」と逡巡をみせる彼方は、きっちりエマ・果林とダンス練習に参加している。結果的には学年別になっているこの特訓のシーンだが、それぞれの特訓がどういう経緯で決まったのか、想像は深まるばかりである。

 

 さて、本題に戻ろう。

愛「私たち、全部参加してもいい?」 

 愛は、璃奈とともに全ての特訓に参加することを希望する。他のメンバーは自分の「やりたい特訓」を選んだのに反して、愛はどれか一つを選ぶのではなく、全てをやることを望んだ。ある意味では、これは稀有な「積極性」だ。きっと全ての特訓に参加するのは、一つの練習に参加するより大変だろう。しかし、別の視点、そして少し意地悪な視点から見れば、自分の意思で参加する練習を選んだ他の同好会メンバーと違って、彼女は自分のやりたい特訓をひとつに選べなかった。

 各班の練習はそれぞれ別の時間に行われているのではなく、放課後の部活動の時間に並行して行われているはずだ。3つの特訓すべてに参加した愛と璃奈は、一日であわただしく移動していったか、あるいはそれぞれの日に別の特訓に参加したということになろう。各特訓ごとの濃度は、1/3になっているはずだ。強いこだわりを持つ他の同好会のメンバーは「狭く深く」であるのに対し、彼女のスタンスは「広く浅く」なのである。彼女の大きな特徴は、ここにも見て取れる。

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愛の指導は、教育という観点からみても完璧である。

 「部室棟のヒーロー」とまで称された彼女は、ダンスの練習でその高い能力の片鱗を魅せている。柔軟運動に苦戦する璃奈と彼方に対して、お手上げ状態のエマと果林。一方愛は見事に柔軟運動をこなしてみせたあと、彼方と璃奈にたいしては適切なアドバイスをしたうえで、確かな「成長」を実感させ、それをモチベーションにして練習に対する意欲を高めている。まさに完璧な指導である。しかし、完璧であればいいというわけでもないのが、人間の難しいところだ。愛は、完璧であるが故の苦悩にみまわれることになる。

 

 文武両道ってどうなの?

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「部室棟のヒーロー」

 とにかく、愛は完璧である。

 「部室棟のヒーロー」である彼女は、友達も多く、部活の助っ人に引っ張りだこ。どんな競技でもこなし、学内にファンも多そうだ。それでいて、先述したように、愛は人に教えるのもとびきり上手である。天才肌で高い能力を持つ人は往々にして習得の苦労を知らず、指導に苦戦するといった話もよく聞くが、彼女にそれは当てはまらない。それだけ人気があっても、彼女は気取らない。人付き合いのあまり得意ではない璃奈と親友であることからも、愛の懐の深さが伺える。きっと、人を選ばずに誰とでも仲良くなって上手くやっていけるタイプなのだと思う。それに、愛は成績もよい。テストでは90点以上の好成績を残している。まさに文武両道、才色兼備。学園のスターにこれ以上相応しい女の子はなかなかいないだろう。

 

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「完璧」もまた大変だって、ほんと......?

 しかし、完璧故の苦悩もある。それは、「なんでもできてしまう」ということだ。

 進むべき道を選ぶとき、私たちは自分の意思と、それから適性とを天秤にかける。二つのフィルターによって、私たちが選ぶ道は初めから選択肢が絞られる。

 例えば、「かわいい」を目指すかすみは、せつ菜の目指す「大好き」を伝えられるアイドルのレベルに応えることはできなかった。これは、決してかすみがせつ菜より劣っているわけではない。お互いに持っている能力が、特徴が違うだけだ。だからこそ、かすみは「かわいい」を選び、せつ菜は「大好き」を伝えることを選んだ。同好会メンバーには、こうやって、自分の道を追求するメンバーが揃っている。彼女たちは自分たちが進む道を、進まなくてはいけない道を、他ではありえない道を、歩いている。だからこそ、足並みは揃わない。彼女たちは同じスピードで、違う道を歩いているのだ。

 しかし、愛にはまだ自分の道が分からない。それは、愛にはどの道だって歩いていける力があるからだ。そして、彼女は誰かに求められるままに、いろいろな道を歩いてきた。それが彼女の望みでもあった。そして、彼女はどんなことだってできた。彼女はきっと、無私にみんなの期待に応えてきたのだろう。人に助っ人をお願いされれば、なんだって断らずに受けてきた。それゆえ、彼女はスクールアイドル同好会に入るまでに特定の部活に参加していた気配がない。彼女のスマホの待ち受けが妙にシンプルなのも、もしかしたら、彼女には「趣味」と呼べるようなはっきりとしたものがないことを暗示しているのかもしてない。今、そんな彼女が何かを感じて、七色のスクールアイドル同好会に飛び込んできたのだ。

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彼女の待ち受けは、とてもシンプルなものだった。

 

 正解がないって人生、意外といいかも......?

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「害論」ではないことを祈る

 かすみとしずくによる特訓は、座学のようだ。ところでこれ、何の特訓なんだろうか?愛と璃奈がいない時、ふたりでどんなことをしてるの......?

 それはさておき、かすみ先生による講義は、とても示唆に富んでいる。

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「かすみ先生」はまた、しくじり先生でもある。失敗と内省を経た言葉。だから、その言葉には真理がある。

かすみ「スクールアイドル同好会には何が必要なのか答えなさい!」

 かすみは、しずくの答えにも、璃奈の答えにも、正解と告げる。どころか、愛の「わからない」という、授業なら絶対に正解にはなり得ない答えに対しても、正解であるというのだ。正解は一つではないし、わからないのも正解とは、どういうことなのか。

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「わからない」が、正解!?

かすみ「今の質問には、はっきりした答えなんて無いんです。ファンのみなさんに喜んでもらえることなら、どれも正解ってことです」

愛「へえ~、奥が深いんだね!」

  「はっきりした答えが無い」と聞いて、みなさんはきっとくすっと笑ったことだろう。あるいは、かすみの成長にほほえんだかもしれない。彼女たちが、「スクールアイドルには答えが無い」という答えにたどり着いたのは、つい最近だ。彼女たちは、ラブライブ!出場を目指して努力を重ねていた。彼女たちはラブライブ!参加のために正解を探し、そして行き詰った。部長・せつ菜が正解だと思っている方法は、みんなの理解を得られなかった。彼女たちはお互い衝突し、それによってお互いの「違い」を分かりあって、「答えが無い」という正解を得たのだ。

 

 そろそろ、ソロアイドルの話をしようか。

 彼女たちにはもう、グループで活動するという選択肢は残っていなかった。

愛「かすみんが、アイドルはどれも正解って言ってたけど、実際その通りっていうか。

みんなやっぱりタイプ違うけど、すっごく優しくておもしろくて、そこが最高って感じだし、このメンバーでどんなライブすることになるんだろうって、考えただけでめっちゃわくわくするよ!」

彼方「愛ちゃんは鋭いねえ」

 同好会廃部を経験していない愛は、スクールアイドル同好会の「経緯」を知らない。しかし、いつか知らなければならないし、同好会のメンバーからすれば、いつか話さなければならないことだった。

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彼女たちの傷はまだ、かさぶたのままで、完全に癒えてはいないのだ。

 彼方が愛のことを鋭いというのはそういうことだ。愛は誰かがそのことを説明する前に、経緯を知らないにも関わらず、この同好会の抱える問題に気づいた。もちろん、愛はこの時もなにか深い考えがあって言ったわけではないだろう。愛は単純にこれまでとは違う環境を楽しんでいる。しかし、これはスクールアイドル同好会に正式に「入部」している愛にとっても、避けては通れない問題であった。

 

 かすみ「ソロアイドルですか......」

せつ菜「私たちだからできる、新しい一歩です。部員一人ひとりが、ソロアイドルとしてステージに立つ。その選択肢は、みなさんの頭の中にもあるはずです」

かすみ「はい。でもそれって、簡単には決められないことですよね」

 どうして「簡単には決められない」のか。進む道は一つとわかっていながら、踏み出すことができないのか。

 それは、やはりソロアイドルのハードルの高さによるものだ。ソロアイドルは、一人でステージに立たなければならない。そこには、グループの全員による何倍ものパワーもなければ、メンバー同士が呼応しあって発動するシナジーもない。ステージに立った等身大の、偽りのない一人の力で、ファンと対峙する。ソロアイドルの難しさは、ニジガクの2ndライブでも痛感したものだ。ソロアイドルのステージは、どこまでも孤独だ。自分の内側にある輝き、それだけで、観客席を照らさなければならない。

 

 そんな事実に沈み込むメンバーに反して、愛が反応したポイントは、これまた少し違う点だった。

彼方「グループはみんな協力しあえるけど、ソロアイドルは誰にも助けてはもらえないだろうし」

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「助けてもらえない」。それは、初めて直面する世界。

 愛がはっとした表情を見せるのは、彼方のこの発言のあとだ。愛にとってのキーワードは、「助ける」なのだと思う。

 宮下愛は、文字通り最強の「助っ人」だった。彼女は、人を助けることで生きてきた。それが彼女の生きがいであり、彼女のアイデンティティーだった。どこかの部活に所属することなく、様々な部活で助っ人として活躍する。困っている人を見つけたら、すぐに助ける。それが、宮下愛の生き方だった。

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「手伝う」が、彼女の本質なのだ。

愛「やるからにはばっちり頑張るし、みんなのことも手伝うよ!」

 こういってスクールアイドル同好会に入部してきた愛。愛は、スクールアイドル同好会ににおいても、「助っ人」の意識をもって参加してきた。だからこそ、愛にとって同好会の活動は新鮮だった。彼女たちは、お互いがそれぞれ別の道を目指す。そして、彼女たちの目指すソロアイドルのステージは、「助け合えない」ひとりのステージだというのだ。

 

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「完璧」故の苦悩

 愛にとって、これは青天の霹靂だった。それまでの常識がひっくり返ってしまったと言ってもよい。

 なぜなら、「誰かを助ける」という軸を失ってしまった瞬間、愛が自分がどんなスクールアイドルを目指せばいいか、てんでわからなくなってしまったからだ。

 愛はこれまで、「正解」を出し続けてきた。スポーツも勉強も、愛にとっては「正解」のあるものだった*1。そして、「人を助ける」ことが彼女にとっての正解だった。つまり、彼女の価値基準は自分の内側には存在しない。外側に存在しているのだ。彼女が『DIVE!』のステージでせつ菜ではなく魅了される観客を見ていたのも、目指すスクールアイドルに「楽しい」という普遍的な感情を挙げたのも、特定の部活に所属せずに助っ人を続けていたのも、それは彼女が常に自分の「外側」に影響されてきたからだ。ある意味で、彼女の内側は空虚だった。彼女は空虚だからこそ、どんなスポーツにも、勉強にも万能の能力を発揮し、そして誰とでも仲良くなっていけるのだ。

 そんな彼女が目指す「ソロアイドル」。これは彼女にとって初めて、自分の「内側」を見つめる機会だったのかもしれない。

 

「未知なるミチ」

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愛は、苦悩した。

 ソロアイドルの話を聞いてからというもの、彼女は悩みに悩んだ。授業を受けている間も、土曜日のランニングに向かうまでも、彼女はずっと悩んでいた。

 そんな彼女に「内側」の世界を与えてくれたのは、エマだった。

 待ち合わせより2時間も早く家を出た愛は、走ってレインボー公園に向かった。そして、1時間の余裕を残して到着した。

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実際は、エマとの会話は30分以上はあったのではないか。

 そして、レインボーブリッジの上で、同じように早く到着していたエマと出会った。

 エマは優しく、愛にソロアイドルの話を聞く。愛は、こう答えた。

エマ「昨日はソロアイドルって聞いて、驚いた?」

愛「たしかに驚いたけど、一番驚いたのは自分に対してなんだよね。同好会のみんなが悩んでいるのって、自分を出せるかってことでしょ?

今まで色んな部活で助っ人やってたけど、考えてみたら、みんなと一緒にやる競技ばかりでさ。いやあ、めっちゃハードル高いよねえ」

 「自分をどう出すか」を考える同好会メンバーを見て、愛は「驚いた」。愛は、これまで「自分をどう出すか」ということをまったく考えてこなかったからだ。愛は、「みんなとどうしようか」ということをいつも考えてきた。そして、それが愛の一番の魅力だった。

 だから、愛は「自分を出す」ということをハードルが高いと感じていた。愛にとっては、まだ人生で一度もやったことも、いや考えたこともない道。そう、まさに「未知なるミチ」なのだ。

 

 答えは、愛らしく自然と、偶然的に、見つかった。

エマ「そろそろ走ろっか。9時だし、もう行く時間だよ?」

愛「うける!「ソロ」で「そろそろ」、「9時」だしい「く時」間って、ダジャレだよね!しかも上手いし」

エマ「全然気づかなかったよ」

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エマが、みんなが気づかない「楽しい」を見つける、そんな力。

 愛が内側に持っている力は、「楽しい」を見つけることだ。愛は、楽しいことが好きなだけじゃない。楽しいことを見つけることが、誰よりも上手なのだ。エマは、まさか自分の発言がダジャレだなんて、気づきもしなかった。この力は、他の同好会メンバーにはないものだ。愛が同好会に入ったことで、一気に同好会は明るくなった。それは、愛がいつだって肯定的で、かつどんな子にも親しく接し、あだ名をつけ、それぞれのメンバーを理解するように努め、距離を縮めたからである。

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この一体感こそ、愛の力なのだ。

 4話全体でほのぼのとした同好会の日常が描かれたのは、それ自体が愛がもたらしたものだからだ。

 

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エマの答えに付け加えることは、ない。

 最後の答えは、エマが教えてくれた。

エマ「私たち、いろいろあって、ようやくスタートラインに立ったばかりなんだ。みんなが不安で、でもほんとうは、それと同じくらい、これからに期待してると思うんだ。そうじゃなきゃ、悩まないもの。まだ、一歩を踏み出す勇気が出ないだけ。愛ちゃんが来てから、同好会のみんなの笑顔、すっごく増えてるんだよ?」

愛「そうなの?自覚ないけど」

エマ「ないからすごいんだよ」

 

愛「そんなことでいいんだ!誰かに楽しんでもらうのが好き。自分が楽しむことが好き。そんな楽しいを、みんなと分かち合えるスクールアイドル。それができたら、あたしは未知なる道に、駆け出していける......!

「ミチ」だけに!

 愛の答えは、最初から愛の中にあった。「楽しい」という普遍的な感情でも、それを見つける天才なら、それだけでもう、オンリーワンのアイドルなのだ。なにか特別な個性を、強いこだわりをもっていなくてもいい。なにより、そんな愛が虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会にいることが大事なのだ。

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彼女は、太陽になりたい。

 虹が輝くのは、太陽の光に照らされるからだ。「太陽になりたい」と愛が歌うように、宮下愛は、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会にとっての太陽なのかもしれない。愛自身には、強い色はない。むしろ、愛はたくさんの「色」を理解して、それを共有して、それぞれを繋いでいける。彼女は決して「スクールアイドル」像を持っていないかもしれない。「色」を持っていないかもしれない。しかし、それもまた「正解」なのだ。彼女は虹を照らす太陽の、オレンジ色の光なのだ。

 

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ひとりだけど、ひとりじゃない。みんなを巻き込む力が、愛にはある。

愛「みんなと、一緒。ステージは、ひとりじゃない!

 そんな彼女が出した答え『サイコーハート』は、早速虹を照らすことになった。彼女の「楽しい」を見つけて、共有する力があれば、ソロアイドルのステージは決して一人ではないということを示したのだ。このステージは、彼女たちに勇気を与えた。

侑「すごいね.......あれが愛ちゃんのステージなんだ!

私、みんなのステージも見てみたい。ひとりだけど、一人ひとりだからこそ、いろんなこと、できるかも!そんなみんながライブをやったら、なんか、すっごいことになりそうな気がしてきちゃった!

 「未知なるミチ」に向けて、愛はもう走り出している。虹色のメンバーも、太陽を追いかけて今、走り出したのだった。

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虹色はいま、太陽の光を追いかけて、走り出す。

 

 「笑いのレベルが赤ちゃん」な侑にダジャレを披露する愛。入部当初は自分の「特訓」を選べなかった愛も、遂に自分の「特訓」を見つけた。スクールアイドル・宮下愛の物語は、もう動き出しているのだった。

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遂に愛も、自分だけの「特訓」を見つけた。そしてそれは、愛が自分だけの「スクールアイドル」を見つけたということだ。

二頭体制に、どうなる高咲侑。

 ここからは余談だが、4話はこれまでの三話と大きく構成が異なっているように感じた。高咲侑の出番が圧倒的に少なくなっているのだ。

 1話~3話では、それぞれの話を担当する歩夢・かすみ・せつ菜と、侑との個人的関係を軸にして話が進んだ。もちろん、背後には探偵果林の暗躍やかすみとせつ菜の関係など、伏線的な要素はあるのだが、基本的には侑と、それから各回のヒロインとのやり取りが中心だった。それゆえ、すっきりして無駄のない構成と感じた視聴者も多かったのではないだろうか。

 しかし、その様相は4話ではっきりと変わった、これまでヒロインと対峙し続けた侑は、登場人物のひとりといった立ち位置に落ち着いた。その分、エマや彼方といったメンバーが愛とコミュニケーションをとり、ストーリーの鍵となった。

 一つの理由は、愛自身は侑を必要としないということだ。愛は、人を助ける女の子だ。すくなくとも今の時点では、侑の助けは必要としていないのだ。誰かを助けるという点で、愛と侑は非常に似たところがあるといえよう。

 もう一つは、新同好会の動向である。この点を少し掘り下げてみたい。

 一度廃部になる前のスクールアイドル同好会の部長はせつ菜だった。しかし、一度廃部になる間にかすみが新しく二代目のスクールアイドル同好会を立ち上げ、かすみは自称「二代目部長」となった。せつ菜はそれに合流する形で、同好会に復帰したのだ。

 書類上、どういう処理になっているのかは知りようがないが、4話におけるスクールアイドル同好会は、かすみとせつ菜の2人によって運用されている。どちらかが主導権を取ることなく、二人でメンバーの前に立ち、議論を進める。

 想像としては、実際はせつ菜が書類上の部長で、しかしせつ菜は過去のことがあるからこそ、かすみにある程度同好会の運営を任せつつ、2人で回している、といったところだろうか。しかし、どちらにせよ、この状況は一時的なものという印象を受ける。かすみにせよせつ菜にせよ、「大好き」を押し付けてしまった苦い思い出がある。ソロアイドルに対してもそうだが、この「かすみ・せつ菜二頭体制」とでも呼ぶべき現状にも、不安が残る。

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かすみとせつ菜の二頭体制は、いつまで続くのか。

 2話でかすみが侑に「専属マネージャー」と呼んでいたが、まだまだ侑の立ち位置ははっきりしない。歩夢・かすみ・せつ菜といったメンバーに対しては侑の立ち位置と必要性は明確だが、愛や璃奈、エマ、彼方に関してはそうではない。

 それに、今は同好会にとって「凪」の時間。9人全員が揃って、同好会が本格的に始動したときに、また一つ波乱が起こる予感が、ひしひしとしている。そして、その波乱のまんなかにいるのは、高咲侑その人であると思うのだ。

 どちらにせよ、構成が大きく変わったことは、4話ブログがとんでもなく難産になった(公開が5話放送後になってしまいました、大変申し訳ございません)ことと不可分の問題である。5話以降どうやってアニガサキの物語を受け止めていくのか、そして言葉に紡いでいくのか。妥協なく、自分だけの「正解」を探していきたい。 

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わたしも、愛さんを追いかけて、自分だけの輝きを!

※引用したアニメ画像は、特に表記が無い場合、すべてTVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』(©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会)第4話より引用。

*1:この点に関してはいろいろな意見があってしかるべきだと思う。スポーツも勉強も奥が深く、ほんとうは正解があるとは言えない面も大きい。しかし、これに関しては、愛がチームスポーツを中心に助っ人をしていたことと、それから愛は情報処理学科所属で、勉強も理数系が中心だったということが背景にあるのだろう。少なくとも彼女にとって、これらのことは「正解」があることだったのだ。