16年目のラブレター TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』視聴レポート #7 「ハルカカナタ」

TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』視聴レポート #7「ハルカカナタ」

 

16年目のラブレター

 

※当記事は、TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』のストーリーに関するネタバレ、あるいは、アプリ『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバルオールスターズ』のストーリーに関するネタバレを含みます。アニメ未視聴の方、アプリ未プレイの方は、予めご了承ください。

 

↓第6話の記事はこちらから

 

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どんな「カタチ」だって

 「ふつう」って、「あたりまえ」って、難しい。

 私たちは、どこまでいっても結局自分のことしか分からない。なぜなら、誰か別の人になることは、究極的にはできないから。それなのに、私たちはどこかで「ふつう」を、「あたりまえ」を、作ってしまう。

 どんな「カタチ」だっていい。

 教室の隅の女の子が教えてくれた。一見武骨で機械的でも、それも人によっては満面の「笑顔」なのだ。笑顔に望ましいカタチなんて無い。それは「家族」も同じはずだ。家族のカタチだって、ひとそれぞれ、十人十色である。どれかが正解だなんてことは、無いはずだ。

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これが近江家の家族の「カタチ」

 中川家は、教育熱心で向上心に溢れる家族。菜々の両親は、大切な娘にきちんと勉強して、豊かで幸せな道を歩んで欲しいと思っている。時にそれは、菜々にとって重荷となり、「大好き」に嘘をつかせ、彼女を苦しめた。

 近江家は、苦しい経済状況におかれている。もしかしたら母子家庭かもしれない近江家では母は夜勤に出て、家事は姉の彼方が担っている。娘二人を私立の学校に通わせるだけの経済力がないだけに、姉の彼方は特待生として虹ヶ咲学園に通う。さらに、彼方はアルバイトもして、家計の苦しさを少しでも支援しようとする。そんな環境の中で、彼女もまた自分の大好きに嘘をついて、蓋をかぶせてしまった。

 どちらも一つの、家族の「カタチ」であることは間違いない。そして、家族はその人だけのものだ。それぞれにそれぞれの事情があり、それは誰かが口を出したりもできなければ、代わってあげることもできない。それは菜々の、彼方の内側にある問題なのだ。

 

 内側にある問題を解決するのは、最終的には自分の力でなくてはならない。だからこそ、他人が内側に抱えている問題に向き合うことは難しい。アドバイスをすればいいとか、共感すればいいとか、そんな単純なことじゃない。傘をさして、お互いの傘がぶつからないように、手をつないで、時には離して、歩く。みんな違うって、こんなに難しい。それでも、みんな違うって、またこんなにも素晴らしいことである。これは、そんな物語なのだ。

 

ハルカ先へ

 遥の決意は固かった。

 近江家では、母の忙しさは全て姉の彼方が埋め合わせていた。遥の2つ上である彼方は、母を助けるために、家事を手伝うようになった。苦しい家庭の中そだった彼方にとって、寝る間も惜しんで粉骨砕身に働く母を手伝うことは、まったくもって疑いようのない当たり前のことだった。

 高校に進学した彼方。彼女は、特待生として虹ヶ咲学園に通うことを選んだ。本来的な設定では「転校生」である彼方が当初東雲学園にいたのかどうかは、アニガサキの世界線では検証しようがないけれど、どちらにせよ虹ヶ咲学園の特待生として入学したのは彼方自身の意思なのだろう。彼方の母は、彼方に「かなが心配することじゃないよ。大丈夫だから」。そう言ったに違いない。でも、彼方は頑固に聞かなかった。彼女は、その背中には到底背負いきれないほどの責任感を、無意識のうちに背負ってしまっていた。

 高校生の彼方は、家計を助けるためにアルバイトも始めた。家事に、勉強に、アルバイト。どう考えても背負いきれない重荷も、彼方にとってはあたりまえのことだった。その証拠に、彼方は自分がスクールアイドル活動をすることを「わがまま」と言う。

 彼方ちゃんにとっての「わがまま」とは何か、それは、スクスタのストーリーからヒントを得ることにしたい。

スクールアイドルをしているからって、誰も彼方のことをわがままだとは言わないでしょう。しかし、彼方はわがままだといって譲りません。どうも、彼方にはやりたいことがたくさんあって、その中でも特に譲れないのがスクールアイドルであるようです。しかし、それは、彼方はそれ以外のやりたいことを、すべて我慢しているということを意味しています。 きっと、彼方にとっては、勉強をして特待生の資格と奨学金を維持すること、節約しながら遥ちゃんのお弁当を作ること、そのすべては「当たり前にやらなくちゃいけないこと」なのだと思います。彼方はそのことを、全く疑ってはいません。嫌がってもいません。だからこそ、彼方にとっては、時間がないのにスクールアイドルをすることは「わがまま」なのです。いや、もっと言えば、彼方にとっては自分がどうしても譲れないスクールアイドルをすること、それでさえも、彼方の中では「わがまま」になってしまうのです。

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  苦しい母を助ける「娘」として、かわいい妹を守る「姉」として。彼方は、あまりに多くの物を望んで背負い込みすぎた。そして、それは彼方が忙しい自分の状態をエクスキューズする方法でもあった。「娘」だから、母を助けなくちゃいけない。「姉」だから、妹の面倒を見なくちゃいけない。やりたくてやっていることだから、自分が本当にやりたいことは「わがまま」......。

 これは、彼方が悪いのではない。むしろ、ぎりぎりの状態で彼方を踏みとどまらせるために、彼方を目を逸らすための魔法。彼方はそうやって、気づかぬうちに現実を心の底の、深い深いところへと、押し込めていた。

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彼女は、喜んで「重荷」を背負う。

 しかし、そうやって彼方によって「守るべきかわいい妹」として封じ込められた遥も、高校生になった。晴れて東雲学園に入学した遥は、強豪スクールアイドル部のセンターを射止める。成長するにしたがって、視野も広がる。遥は、自分が叶えてきた夢の後ろに、彼方の犠牲があることを知る。高校生になった遥は、アルバイトだってできる。それに、彼方の多大なる犠牲を知った遥には、それを見てみぬふりをして自分の人生を歩いていくことなんて、できっこないことだった。

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決意の、朝。

 夜になっても、特待生維持のために勉強を惜しまない彼方。そんな彼方をみた遥には、ある決意が生まれようとしていた。

 遥「お姉ちゃん、あのね、今日お姉ちゃんの同好会、見学しに行ってもいい?」

 張り切る彼方と、突然の遥訪問に浮足立つ同好会。それが遥と彼方、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会、いや東雲学園まで巻き込む事件の始まりだとは、まだ遥以外誰も知らなかった。成長した遥は、遥か先へと、進んでいこうとしていたのだ。

 

噛み合わぬ歯車

 遥は、いつ「それ」を決意したのか。

 彼方が夜も勉強しているのを見ているシーン。これが「きっかけ」なのは確かだ。しかし、ここではまだ「決意」とまではいかないような気がする。

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この時.....?

 同好会を見学に来た遥は、張り切って走る彼方に驚く。侑の「同好会の活動が再会してから、彼方さんすごく頑張ってるんだよ」という言葉に対して、遥はなにかに気づき、そして物憂げな表情を浮かべる。彼方が自分自身の夢を見つけているということに、ここで確信をもったのであろう。遥の決意は、ここでもう決まっていたかもしれない。

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それとも、この時......?

 楽しそうな彼方だが、練習ではなかなかうまくいかない面もみせる。既に苦手であるという描写があった柔軟性の練習では、当時苦戦していて、成長した璃奈と比べても差がついてしまっている。それが多忙のせいかは分からないが、どちらにせよ彼方が自分の夢に向かって進んでいくためには、「スクールアイドル」として活躍していくためには、もっともっと多くの時間を必要としていることを示している。

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彼方には、時間が必要だ。

 

 そして、練習を終えてのティータイム。ほのぼのとした時間が流れる中、彼方は突然電池が切れたように眠ってしまう。

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彼方は、突然力尽きた。

 ここからのシーンはとても深刻で、そして遥の「それ」へと一直線に落ちていくのだが、なんというかすごく「不思議」がたくさんある。そんなひっかかりを、ひとつひとつ拾っていくことにしたい。

 エマのクッキーとかすみのコッペパンが用意されたティーパーティーは、このほのぼのと仲の良い場所が彼方にとって本当に居心地の良い場所であることを示している。が、ここで安心したのか、彼方は突然電源が切れたかのように寝てしまう。

 遥の驚きぶりからみて、彼方が披露して疲れていることは想定内でも、ここまでだとは考えていなかったことが伺える。すくなくとも、彼方は家では疲れている素振りは見せなかったのかもしれない。それは、母や遥を心配させたくなかったからだろうか。

 

 一方、同好会メンバーの彼方への温度感は、あまりに遥と違う。

しずく「はい、私の知る限り、彼方さんは寝るのが大好きだと思いますよ」

  「寝るのが大好き」という表現は、ちょっと不思議である。自分の意思に反して寝てしまう彼方のことを「寝るのが大好き」と言えるだろうか。なにははっきりしたことを言うことはできないが、すくなくとも、同好会メンバーにとって彼方が寝てしまうことはある程度普通のことだった。「他人の変化や異変に気付くのは、実はかなり難しい」ということだろうか。他人の領域に過剰に干渉していかないのは、この同好会のいいところであり悪いところである。同好会メンバーは、遥の慌てる様子をみて、ようやく彼方に起きていた変化に立て続けに気づき始める。

遥「恥ずかしくなんかないよお姉ちゃん。疲れて当然だよ。いっぱい無理してるんだから」

彼方「ん?無理してるって、何を?」 

 彼方が今置かれている境遇を決して嫌なものだとは思っていないことは、既に述べたとおりである。これだけ忙しくても、彼方は心から「無理している」とは思っていない。これは、心配をかけないようにそう見せているとかではなく、ほんとうに思っていないのだ。きっと、彼方は同好会メンバーにも家のことやアルバイトのことは話していないのだろう。「良く寝る」というだけで異変に気付けというのは、こう考えると酷かもしれない。

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遥の言葉に聞き入るみんな。

 遥が話し出すと、同好会のメンバーは遥の言葉に聞き入っている。誰一人として、口をはさんだり、目を背けたり、何かを食べたりもしない。もしかしたら、同好会のメンバーは遥の決意を、あるいはその譲らない気迫を、感じ取ったのかもしれない。ただ、彼方の「そうだったの?」という言葉だけが、この深刻な空気の中で浮いている。

遥「いつも私を優先してくれたお姉ちゃんが、やっとやりたいことに出会えたんだって」 

 侑は、ここで一瞬口を開く。何に反応したのかと言えば、「やりたいこと」だろうか。彼方の一番やりたいことは、スクールアイドル。侑は、大事なことを聞き逃さなかった。

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彼女は、揺るがぬ決意を持っていた。

遥「今のお姉ちゃんには、同好会が一番大事な場所だって、よくわかったの。だから私、決めたよ」

彼方「ん?何を?」

遥「私、スクールアイドル辞める」

  「それ」は、穏やかに遥の口から放たれた。彼方はまだ、「それ」が放たれる瞬間まで、いや脳内で咀嚼してその意味をかみしめるまで、遥の揺るがぬ決意には気づかなかった。蓋をした自分の世界の中の「かわいい妹」が、立ち上がろうとしていることに。

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衝撃の発言だった。

 部屋にいる全員が、遥の言葉に打ちのめされた。狼狽した彼方の歯車は、妹とかみ合っていたはずのその動きがもうおかしくなっていたことを、一気に露呈する。

彼方「彼方ちゃんが寝ちゃったせいで、遥ちゃんのこと心配させちゃったの?大丈夫だよ~」 

  この言葉は、現状を取り繕うとするだけの言葉だ。まるで、何か大きな失敗をしてしまったことをごまかすような、そんな地に足のつかない言葉。

 一方の遥は、真剣そのもの。「お姉ちゃんにはやりたいことを全力でやってほしい」。だから、スクールアイドルを辞めるという。でもそれって、少し立ち止まって考えてみると、少しおかしい。遥と彼方には、どちらかが夢を諦めて、どちらかが夢を追いかけるという、両極端しかないようにみえる。実際、ここで初めて、疑問が差し挟まれる。しずくである。

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ただ一人、しずくだけが疑問を口にする。

しずく「あの.......、そのために遥さんはスクールアイドルを辞めるんですか?」 

  遥は、しずくの方を一瞥もしない。ずっと、彼方だけを見ている。誰が何を言っても自分の意思を曲げるつもりが無いということを、同好会メンバーも感じとったのかもしれない。

遥「お姉ちゃんが苦労してるの分かってて、夢を諦めるなんてできないよ」 

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目を逸らす遥。

  ここで、遥は彼方から目を逸らす。遥は本心ではスクールアイドルを辞めたくはない、ということか。

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彼方の答えは、完全に言い訳に感じられた。

彼方「そんなの、気にしなくていいんだよ~。だって、遥ちゃんは大事な妹なんだもん」 

  「そんなの」とは強い言葉だ。彼方はそこまでの意識を持っていないかもしれないが、この「そんなの」は、彼方の負担を指しているようにも読めるが、遥の決意を指しているようにも取れる。遥の追及から逃げる彼方は、とっさに遥を傷つけてしまった。

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「妹だったら、気にしちゃいけないの......?」

遥「どうして......妹だったら、気にしちゃいけないの?」

彼方「心配させちゃってごめんね。彼方ちゃん、もっと頑張るから」

  もうここは、全く噛み合っていない。遥の質問に対する答えは、多分無い。だって、妹だから気にしちゃいけないなんてことは、ありえない。それに、遥は彼方に少しでも負担を減らしてもらうことを望んでいるのに、そんな遥に対して「もっと頑張る」なんて言ってしまったら.....。

 遥「お姉ちゃんの、わからずや!」

  遥が走り去っても、すぐに止められる人はだれもいなかった。苦い空気だけが、部室に残される。ワンテンポ遅れて、侑が追いかけてゆく。

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苦い空気だけが残された。

 ところで、ここで立ち上がっているのが愛・果林・かすみの3人であることは面白い。なにか共通点があるかな、と考えてみたが、しっくりくる考えは得られていない。もともと果林は最初から立っていたし、こじつけという感もあるが......。ちょっとしたアイデアとして思っているのは、この3人は遥が来る作戦会議の中で、遥を「スクールアイドルのライバル」として見ていたメンバーなんじゃないか、ということである。しずくだけは、明確にライバル意識を抱いていなかった。これは8話へと繋がっていくのかもしれないが、逆に言えば愛と果林はかすみの姿勢を否定していない。どころか、ちゃっかりスクールアイドルのことを沢山調べていそうな果林は、「東雲学園と虹ヶ咲学園のスクールアイドルじゃあ知名度は天と地ほどの差」と言っている。あるいみで、この3人は「彼方の妹」としてではなく、「ライバル校のスクールアイドル」として遥を見ているのではないか、と言う気がするのだ。

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侑も、固い決意を口に去っていく遥をただ見送るだけだった。

 逆に、「彼方の妹」としての遥と、それから彼方との間の問題に関しては、遥の決意が固い限り、口を出すことはできない。それは「家庭の問題」であるし、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のメンバーたちはそういった個人の問題には立ち入ることはしない。特にスクールアイドルとしての遥の実力を知る侑は、この問題についてなにか思うところがありそうだ。しかし、彼女は遥に追いついても、自分の意思を遥にぶつけることはしない。遥の決意のほどを問いかけることしかできなかった。それはやはり、この問題に関して侑は口をはさむべき立場ではないし、それに個人の問題に土足で入っていくのは彼女たちのとっては明確に「違う」のだと思う。それが、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の物語なのだ。

彼方「遥ちゃんが、怒った......」

 これまで、近江姉妹はケンカしたことが無かったのだろう。ケンカは決して良いことというわけでもないし気持ちのいいことでもないが、「ケンカするほど仲がいい」という言葉もある。お互いが意見をぶつけ合えるようになってこそ、ケンカは成立する。立場があまりに違いすぎたら、それは「ケンカ」にならない。お互いが対等だからこそ、初めてケンカは成立する。そして、これは近江姉妹にとって初めてのケンカだった。

 

夢のカナタへ

 7話は遥が動いていくことで物語が進んでいくが、やはり問題は彼方の中にあるのだと思う。

 成長した遥は、彼方の抱えている問題の全てを見抜いていた。彼方が「やりたい」と思っていろんな家族の負担を背負っていること、彼方がスクールアイドル同好会の活動を楽しんでいること、スクールアイドルが彼方の「本当にやりたいこと」であること、そして、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会が彼方がこれから生きていく場所であること。それを、遥は全部分かって、覚悟を固めたうえで、スクールアイドルをやめる、と言い出したのだ。

 一方で、彼方はそんな成長した遥を、真っ直ぐ見ることができていなかった。彼方は多忙の中で、自分のなかに「守るべき彼方」のイメージを作ってしまっていた。彼方は、成長した遥を受け入れ、自分の中の遥をアップデートすることができていないのだ。だからこそ、姉妹の歯車はあれほどに噛み合わなかった。

 人は、それぞれの道を歩いている。はじめはどこまでも並んでいきそうな道でも、いつか少しづつ離れていく。兄弟姉妹だって、友達だって、どこで道が分かれていくかはわからない。それでも確かに、道は分かれていくのだ。遥は、東雲学園で自分の場所を見つけた。努力を重ねた遥は、センターの座を射止めた。少しづつ遥は、姉のもとを、家族のもとを離れて、自分の道を歩き始めようとしている。

 それは、彼方も一緒だった。彼方には、新しい居場所ができた。そしてそこには、彼方にとってきっと大切な存在になっていきそうな人たちがいる。彼方は、その場所を心地いいと思っている。

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ここが、彼方の新しい居場所。

 遥が全て分かっているように、彼方も全て分かっていた。問題は、彼方が自分の気持ちを認めることができるかどうか。家族の「カタチ」が新しいものになっていくことを、姉妹の関係が変わっていくことを、彼方が認めて、受け入れることができるか。「問題」は、彼方の中にあった。

 

 こういうときに背中を押すのは、スクールアイドル同好会のみんなだ。変わらなくちゃいけないのは、彼方自身。そしてこれは、彼方が解決しなくてはいけない問題。それでも、背中を押してあげることなら、できるのだ。

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「ダメ」なことは「ダメ」と言える、そんな関係。

 遥の決断を受けて、「いっそ自分がスクールアイドルを辞める」といいだした彼方を、侑は強く止める。自暴自棄な選択。それだけはダメだと、本当に間違っていることにはまっすぐ「NO」を伝えられるのも、同好会のいいところ。

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「答え」を、見つける手助け。

 エマが立ち上がって、彼方の側へと座る。

エマ「それはほんとうに、彼方ちゃんが望むことなの?」

  同好会のメンバ-は、彼方に答えを伝えることはしない。彼方自身が答えを見つけられるように、そっと寄り添ってくれる。答えが見つかるまで、待ってくれる。

 彼方は少しづつ、自分の想いを吐露する。それは、遥が見抜いていたことと同じ。彼方はそんな自分の望みと、遥の幸せを守りたいという望みとの両方を叶えたいという想いの両方を抱えているのは、「わがまま」だという。

果林「それはわがままじゃなくて、自分に正直っていうんじゃない?」 

  「わがまま」なんかじゃない。彼方は、自分を守るためにかけた魔法を解く必要があった。「本当にやりたいこと」から逃げないということ。そして......。

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あの日一番遥を見ていたのが、侑だった。

 侑「遥ちゃんはもう、守ってもらうだけの人じゃないと思う」

  もう遥ちゃんは、彼方ちゃんに「守られる」だけの存在じゃない。自分の両足でしっかり立って、自分で歩いていける。礼儀正しくて、姉想いで、努力もできる、そんな魅力的で大人な女性に成長したのだ。それでも、姉妹は「似たもの同士」。いや、もっと言えば親子も似たもの同士なのだと思う。全てを背負って頑張る母の背中を見て育った彼方は、母と遥のために全てを一人で背負おうとしたし、そんな彼方の背中を二年遅れで見てきた遥にとっても、一人で背負うという選択肢しかなかったのだと思う。でも、それでは二人の大きな夢をかなえることはできない。それに、これまで家庭は母と彼方の二人で背負ってきたはずだ。今度は、大きくなった遥と、三人で支えあっていけばいい。

 魔法にかかっている間に彼方は、遥のことを「妹」という存在に封じ込めて、「守らなきゃいけない存在」なのだとすっかり決めつけてしまっていた。でも、もう遥は先へ進んでいる。夢の彼方へ向かうために、あとは、彼方が変わるだけなのだ。

 

ハルカカナタ

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聞いて!

 『Butterfly』。気高く、美しく、飾らない、美しい旋律。

Hey...... Now listen!

初めてで一番の You're my dearest trasure

記憶のなかで 溢れるLovin' tune

駆け足のDay by day 手つないでTime goes by

強くなれたんだ そのぬくもりで

 

ひとりきりじゃもう 両手いっぱい 広げてもまだ

足りないほどに大きなDreams 今一緒にだきしめよう

 

Butterfly 羽を広げたら

ハルカカナタ 高く飛ぼう

雪の向こうに美しい空 待ってるの

 

Butterfly 夢へ羽ばたいて

花の季節迎えよう

叶えていけるきっと 信じてWe can fly

 「My dearest」は、「最愛の人」。

 『Butterfly』は、彼方と遥が一緒に歩んできた16年で、最初のラブレター*1

 16年の間、彼方はずっと魔法の繭のなかにいた。「わがまま」をたくさん抱え込んで、涙は傘でしのいで、その時を待っていた。

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雨空のなか、彼方はいつも、傘の下にいた。

 二人がぶつかったあの日は、大雨だった。でも、雨はいつまでも降り続けるのではない。雨空があるから、晴れた時には虹がかかる。

 ふたりがそれぞれの「Dreams」を認めて、分け合った時、初めて蝶は羽ばたく。蝶は、一枚の羽根では飛び立てない。二つの羽が揃って初めて、青空へと飛び立てる。たくさん雨が降ったからこそ、二人の飛び立つ空は美しい虹で祝福される。

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気持ちは、届いた。

 

 彼方「ごめんね、遥ちゃんのこと、分かってなくて。遥ちゃん、彼方ちゃんのこと、とっても大事に思っていてくれたんだね。ありがとう」

 あの日、遥を傷つけた彼方。初めてのケンカは、彼方の謝罪によって終結した。そしてそれは、彼方と遥に新しい関係が生まれようとしていることを意味していた。

 そしてもうひとつは、彼方は遥の前でその夢が叶えられるものだ、ということを示したのでもあった。アルバイトをしていても、家事に勉強に必死でも、ステージに立てる。スクールアイドルとして輝ける。遥ちゃんを悔しくさせるくらいに、いや東雲学園のアイドルたちにすら想いを届けられるくらいの、スクールアイドルになれるのだと。

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「悔しい」という気持ちも、「ライバル」だからこそ。

彼方「スクールアイドルではライバルだよ。お互い頑張ろう」 

  この瞬間、魔法は解けた。彼方を封じ込めていた繭は、解け始めた。もう、彼方にとって遥は「守るべき妹」である必要はなくなった。彼方と遥は、対等な関係になったのだ。それは、彼方が遥を認めた、ということでもあった。

 『「仲間」で「ライバル」!?』それが、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のコンセプトなのだとしたら、彼女たちは「姉妹」で「ライバル」。お互いを大好きで、誰よりも想っていて、対等に認め合って、力を合わせて頑張る。そして、スクールアイドルのステージに立ったなら二人は「姉妹」の関係から解き放たれて、「ライバル」として切磋琢磨する。そんな姉妹の新しい「カタチ」。なんて素敵なんだろう!

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「姉妹」で「ライバル」。

 二人の羽ばたいていく虹がかかった空が、春の空気と花の香りを乗せて、限りなく祝福されたものになるのは、疑いようがない。

 

P.S.

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遥ちゃん......。かわいいよう......。

 料理をしてる遥ちゃん、新妻って感じがめちゃくちゃして良くないですか???こんなにかわいいんじゃあ、そりゃあどんな料理でも食べられるよ。遥ちゃんの料理が食べられて幸せなの、超わかるわ。というか遥ちゃんとけっこ......。

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「強敵」だよね、絶対。いいないいな~。

 東雲学園の二人(支倉かさねちゃん、クリスティーナちゃん)にも声がついていたのは、すごく幸せでしたね......。いやあ、μ'sの時代からスクフェスをプレイしていたら、自然と彼女たちへの愛情は積もっているものでして......。「しゃべってる!!!!!!」って感じですね。それだけで感動。

 せっかく東雲学園を出して、声もつけて、それから「ライバル」なので、東雲の曲が聴きたいです。圧倒的知名度の東雲学園の曲が聴きたい。遥ちゃんがセンターを張っているところがみたい。あ、いや、本編じゃなくてもいいの。あの、円盤の特典曲とかでどうですかね?ダメ?遥ちゃんに真剣なので、いつまでも東雲の新曲を信じ続けます。

 お騒がせしました。しばらくアニガサキブログは真面目な感じでやってるんですけど、こうやって砕けた感じでまたお話したいな~って思うこともあって。アニガサキレポートとして特に書き方とかは決めてなくて、各話終了後にフィーリングで決めてるんですけど。でもさ、あまりにアニガサキが文学的だから、感化されちゃうのよね。書きたいように書けばいいんですが......。みなさんはどっちがお好きですか?

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最後にね、お気に入り近江姉妹!

 

※引用したアニメ画像は、特に表記が無い場合、すべてTVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』(©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会)第8話より引用。

※歌詞は『Butterfly』作詞:Ayaka Miyake 作編曲Em.meより引用。

*1:手紙って、自分の気持ちを綴って「相対化」するじゃないですか。『Butterfly』のMVは、「lレターボックスって手法が使われているらしく、まあ専門外で細かいことは分からないんですけど、地の文にあたるアニメ本編とは違う文章ってことなんだと思うんですよ。じゃあどちらかの視点なのかというと、それも違う。わざわざレターボックスの外に彼方を配置しているので、これは遥の視点じゃない。でも、遥も確かにこれを見て受け取っているわけじゃないですか。だから、これはラブレター、ビデオレターの形で彼方から遥に送る、ラブレターなんじゃないかって、そう思っているのです。