無敵級*アクトレス TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』視聴レポート #8 「しずく、モノクローム」

TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』視聴レポート #8 「しずく、モノクローム

 

無敵級*アクトレス

 

 

※当記事は、TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』のストーリーに関するネタバレ、あるいは、アプリ『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバルオールスターズ』のストーリーに関するネタバレを含みます。アニメ未視聴の方、アプリ未プレイの方は、予めご了承ください。

 

↓第7話の記事はこちら

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プロローグ

 お久しぶりです。こばとんです。

 アニガサキの視聴レポートは2話以来、答えを出していくのではなく、自分なりに「物語」を再構成するような形で書いてきました。うまくいったところ、いかなかったところ。いろいろあると思いますが、今回は少し力を抜いて、より感覚的にお話していこうと思います。せっかくだし「仮面を外して」ね。よろしくお願いします。

 8話はしずくちゃんの担当回でした。第1話で部長の存在が示され、またなかなかに男性的なキャラクターで描かれたこともあって、いろんな想像(妄想?)が各人の心のなかにあったと思います。スクールアイドルと、演劇。それを天秤にかけるような、そんな話かな、なんて想像も......。

 でも、実際は違いました。

 個人的な印象ですが、アニガサキはとにかく「自分の中の問題」を描いていく物語だと思っています。それぞれの問題は、それぞれの中にある。それは誰かが外側から何かをしてあげれば途端に雲散霧消するような、そういう問題ではないんですよね。だからこそ、パーソナルスペースを維持しながら、そっと寄り添う。時に背中を押して、時に話を聞いて、そうやって隣にいることで、自分で答えを見つけていける。みんなが違う夢を目指しているけれど、でも同好会のみんなが必要。そんな物語かなあって。

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主役を、かならず取り返す。

 そして、8話でしずくちゃんが向き合うのも、自分の問題。失った主役を取り返すために、あがいてもがく、そんな演劇が大好きな桜坂しずくの物語......。さあ、さっそく物語のページをめくっていきましょう。

 

特別な人

 第6話のレポートで、私はこんなことを書いていました。

出会ったときから、表情がなくとも、璃奈の気持ちを正確に把握できた愛。愛はまさに璃奈にとって、唯一無二の特別な存在だった。別に、愛が人の気持ちを読み取れる特別な能力を持っているとか、そういうことではない。これができる人は、璃奈にとって愛しかいない。璃奈にとって愛は「特別な人」なのだ。

向き合う顔が、笑顔なら TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』視聴レポート #6 「笑顔のカタチ(⸝⸝>▿<⸝⸝)」 - こばとんの徒然日記

  「特別な人」。璃奈ちゃんを新しい世界に導いてくれたのは、表情がなくとも璃奈の気持ちを完璧に理解してくれる愛ちゃんでした。愛ちゃんは翻訳者として、璃奈ちゃんの感情を受け止め、理解し、翻訳して、璃奈ちゃんの背中を押して外の世界へと連れ出してくれたのでした。そして、第6話では、そんな璃奈ちゃんが愛ちゃんがいない場所で、はじめて「友だち」を作る。そんな璃奈ちゃんの自立のお話だったわけです。

 8話におけるしずくとかすみの関係は、まさにこの「特別な人」なのだと思います。しずくちゃんにとってのかすみちゃんは、璃奈ちゃんにとっての愛ちゃん。その証拠は、8話の前半に散らばっています。

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かすみちゃんは、すぐしずくちゃんの異変に気付く。

 演劇の自主練をしながらどこか落ち込むしずくちゃんに、かすみちゃんは違和感を覚えます。「しず子がおかしい」。そう思ったかすみちゃんは、じっとしずくちゃんを観察しています。

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しずくちゃんのこの表情も、きづいたのはかすみちゃんだけ。

 演劇部の話になった途端に、怯んだような表情をみせるしずくちゃん。かすみちゃんを除く8人には、しずくちゃんの異変に気付く感じはありません。

璃奈「しずくちゃんの様子がおかしい......?」

かすみ「うん。なんかね、いつものしず子よりも、しゅーんって感じで......」

璃奈「うーん。そうだったような、そうじゃなかったような......」

  璃奈ちゃんもまた、しずくちゃんの様子がおかしいことに確証はないようでした。結果的には色葉、今日子、浅希の三人から降板の話を聞いて、かすみちゃんの違和感は確証に変わるのです。

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かすみちゃんの勘は、確証に変わる。

 かすみちゃんだけがしずくちゃんの異変に気付くことができるのは、かすみちゃんがしずくちゃんの「特別な人」だからです。どうしてその人が自分にとって「特別」なのか、それに理由はありません。もし突き詰めればなにか理由がわかるかもしれませんが、大切なのは理由ではなく、その人が「特別な人」であるということです。そして、「特別な人」は、誰よりも「大切な人」でもあります。

璃奈「私の時は、愛さんが、ぐいって引っ張ってくれた。みんなが、励ましてくれた。だから、ライブができた。私には、愛さんがいた、しずくちゃんには.......」

かすみ「私、行ってくる!」 

  寄り添うことは、理解してあげることは、出来る。でも、内面にまで踏み込むことは、言葉を越えた想いを伝えることは、「特別な人」にしかできない。しずくちゃんを引っ張ってあげられる人は、かすみちゃんしかいなかったのです。

 

それぞれの仮面

  「仮面」。それは、8話のキーワードでもあり、また1年生のキーワードでもあります。

 しずくちゃんは、昔の映画や演劇が好きという趣味が周りから、「変な子」と思われたり、嫌われないために、いい子を演じてきた。本当の自分を隠していたのです。「いい子」の仮面をかぶり、演じ続ける。それが、桜坂しずくという女の子でした。

 ところで一概に仮面といってもわかりにくいものです。イメージをはっきりさせるために、仮面を辞書で引いてみましょう。

かめん【仮面】

①木・土・紙などで種々の顔の形に作り、顔にかぶるもの。宗教儀礼や演劇・余興に用いる。めん。めんも。

②比喩的に、正体や本心を隠すみせかけのもの。「ーをはぎ取る」

           出典:『広辞苑 第六版』 岩波書店 2008

 璃奈ちゃんのつける仮面と、しずくちゃんのつける仮面。それはどちらも仮面なれど、その意味は違います。

 璃奈ちゃんのつける璃奈ちゃんボードは、①の意味での仮面です。一見璃奈ちゃんボードは、自分の本心を隠したいとか、そういった外向きの感情に関連するものに見えますが、そうではありません。6話の記事で、私は璃奈ちゃんボードをこう説明しました。

開発された璃奈ちゃんボードは、このときの段ボールの発展形だ。だから、璃奈ちゃんボードの主眼は、「璃奈の感情をボードで伝えること」ではない。璃奈が、素顔で誰かと向き合ったときに感じる「誤解されるかもしれない」という不安を解くための、おまじないのようなもの。言うなれば、服や眼鏡やイヤリングのような、一つのファッションアイテムなのだ。ボードに表情を描くのは、相手に璃奈の表情を伝えるためではない。璃奈自身の感情が表現できているという安心感を、璃奈自身に与えるためという方がいいかもしれない。璃奈ちゃんボードは、SNSのような璃奈の外側にあるコミュニケーションツールではない。それは、璃奈が誰かに対して心を開いて話すために、璃奈の気持ちを変えることができる、璃奈自身が身につけ、身につけているあいだは璃奈自身と一緒になる、そんなファッションアイテムなのである。

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 璃奈ちゃんが開発した璃奈ちゃんボードは、璃奈ちゃんが自分の表情を気にすることなく、相手とコミュニケーションを円滑に取ることができるための、「顔にかぶるもの」としての仮面です。そこには、「隠す」といったネガティブな意味は一切含まれていません。

 一方でしずくちゃんが被っている仮面は、②の意味での仮面です。しずくちゃんは、相手から本当の自分を隠すためにいい子の仮面を被りました。そして、それはしずくちゃんにとってネガティブな仮面でした。それは、しずくちゃん自身が(正確には劇中劇で)話している通りです。

黒しずく「私の歌は誰にも届かない。子どもの頃のこと、覚えてる?みんなと少しだけ違う。ただそれだけのことだったけど、わたしはいつも不安だった。誰かに変な子って思われたら、嫌われたらどうしよう。 いつもそんな風におびえていた。だから、本当の自分を隠すようになった。そしたら、すごく楽になれた。あの日からずっと、私は嘘の私のまま。自分を偽っている人の歌が、誰かに届くわけがない。そうでしょ?」

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舞台上での白しずくと黒しずくには、身長差がある。

 8話における劇中劇をどう捉えるのか、それはすごく難しい問題だと思います。少なくとも、この劇中劇は唐突に白しずくと黒しずくの対話によって開始され、最初はあきらかにしずくちゃんの脳内として描かれつつも、最終的には藤黄学園との合同演劇祭での公演『荒野の雨』へと地続きに繋がっていきます。私は演劇に関して全くの門外漢ですし、それについては既に様々な記事で刮目するような考察がたくさん上がっているようですから、いまさらどうこう言うつもりはありません。しかし、やはり合同演劇祭以前のシーンは、演劇としての『荒野の雨』ではなくしずくの脳内での物語だと思うのです。あるいは、『荒野の雨』の脚本が、しずくちゃんの心の中に抱える問題と同期したのかもしれません。舞台上での黒しずくが部長が演じるもので、身長など細かな部分に違いがあります。一方、それ以前のしずくは、完全に同一なのです。こうやって丁寧に解決させるところがいかにもアニガサキって感じがするよね。

 とすれば、劇中劇内でのしずくちゃんの発言、とくに黒しずくの発言は、しずくちゃんの本心であるということになります。少し丁寧に、黒しずくの言うことに耳を傾けてみましょう。

 引用したシーン。しずくちゃんがどうして仮面を被っているのかが明らかになるわけですが、ここでは明らかに(少なくとも「荒野の雨」を前に主役降板の危機に直面するしずくちゃんが。このあたり、スクスタのストーリーとの整合性を考えるのはちょっと難しいよね)仮面を被る自分を、自分自身で好意的に捉えてはいないことが分かります。つまり、しずくちゃんにとって「いい子の仮面」はネガティブなものなのです。

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「仮面」は、しずくちゃんにとってはポジティブなものではありませんでした。

 もう一つ気になるのは「楽になった」という言葉、この言葉、かすみちゃんとの教室でのシーンでしずくちゃんが本心を話すときにも言っています。「楽になった」ということは、それ自体は決して悪いことじゃないと思います。あんまり気を張ってばかりいても、いつか人間切れてしまいます。だから、時々息を抜いて、「楽になる」ことはすごく大事です。

 でも、しずくちゃんはむしろ仮面を被ったことで辛くなってしまっています。それは「楽になった」ことが、本質的には「逃げてしまった」ことを指しているからだと思います。逃げてばかりいても、問題は解決しません。ずっと頑張る必要はありませんが、問題をいつまでも放置するわけにもいかないのが人間です。追い詰められたしずくちゃんは、自分にとってネガティブな仮面を外す決意をする必要があったのです。ポジティブな仮面をつけることで自分を表現する璃奈ちゃんと、ネガティブな仮面を外さなくては自分を表現できないしずくちゃん。この対比、すごく面白いですよね。

 

「大好き」を大切に。「逃げ」ることには厳しく。

 8話最大の見せ場は何と言っても教室のシーンでしょう。しずかす推しとしてはあまりに甘く、ほろ苦く、他の味がわからなくなるくらい濃密なシーンなのですが、このシーンでのかすみちゃんはしずくちゃんに対して少し厳しく、それが少し引っかかってしまった人もいるでしょう。

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「雷鳴」

かすみ「なーに、甘っちょろいこと言ってんだー!」

 かすみちゃんが拳を振り上げて、しずくちゃんの額の寸前で止めて、最後はデコピンをするシーン。これまでのラブライブでは、がっつり叩かれていたので、ここもやっぱりアニガサキだなあ、と強く感じるシーンなのですが、なぜここまでかすみちゃんはしずくちゃんに対して厳しく接したのでしょうか。

 それは「大好き」を大切にしながら、「逃げ」は許さない。そんな同好会メンバーのお互いに対する姿勢があると思うのです。

 もうここまで2回も6話の話をしていて、6話好きすぎかよって感じなのですが(いや6話大好きだけどね?)、再び6話に戻ってみましょう。

 璃奈ちゃんが色葉、今日子、浅希の三人と上手く話せず、翌日の練習を休んでしまった時。メンバーは璃奈ちゃんの家へと駆け付けます。

 段ボールの中にいる璃奈ちゃんに対して、愛ちゃんはこう話しかけたのでした。

璃奈「ごめんね、勝手にやすんで」

愛「ほんとだよ、心配したんだぞ。どうしたの?」

 愛ちゃんは、「璃奈ちゃんが勝手に練習を休んだ」ということに対しては、優しい言葉をかけません。それは、自分のライブの前日に無断で練習を欠席する、ということは、明らかに倫理的に良くない「逃げ」だからです。他人の「大好き」を否定しないのも同好会メンバーですが、きちんとダメなところはダメと伝える、それが同好会の人間関係です。その後の璃奈ちゃんの告白に対しては、同好会のメンバーたちはまっすぐ向き合います。璃奈ちゃんが自分と向き合おうとすることには、同好会メンバーは優しくそっと寄り添うのです。

 しずくちゃんの場合、自分が嫌だと思っている仮面を外すことを怖がるのは「逃げ」です。なぜなら、それはしずくちゃんが必ず向き合わなくてはいけない問題だからです。「大好きな歌を届けたい」。いまそれがしずくちゃんが望むことなのだとしたら、しずくちゃんがいつまでも仮面を外せずにいるのは、「大好き」とは矛盾する行為です。だからこそ、かすみちゃんはしずくちゃんに厳しく接したわけです。愛ちゃんが璃奈ちゃんに、かすみちゃんがしずくちゃんに、そんな対応を取ることができるのも、二人の信頼関係が確固としたもので、そして彼女たちにとって「特別な人」だからです。

 

Super Perfect Believer

 しずくちゃんの回で、かすみちゃんの話を沢山するのもなんですが......。

 教室でのシーンのかすみちゃん、めちゃくちゃかすみちゃんって感じですよね!大好きです!

 璃奈ちゃんに「特別な人」の話をされて、決意したかすみちゃんはしずくちゃんを見つけ出します。

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すぐにはしずくちゃんを真っ直ぐ見れないのも、いかにもかすみちゃんらしい。

しずく「どうしたの?」

かすみ「どうって、そりゃあ......。

昨日、変な感じで別れちゃったじゃん?だから、どうしてるかなって」 

 愛ちゃんは真っ直ぐな子だから、璃奈ちゃんにいつも真っ直ぐ言葉をかけているけど、かすみちゃんはむしろ素直じゃなくて、そしてどうしようもなく不器用なんですよね。最初は強引にしずくちゃんを拘束して、遊びに連れ出して。しずくちゃんを笑顔にさせようと頑張るところは涙が出るほど友だち想いで好きなんですけど、最後にオーディションのことを口に出しちゃって、結局しずくちゃんは「変な感じ」で帰っちゃう。しずくちゃんに笑顔を取り戻させるための企画としては、最後のあれで台無しだったわけです。でも、それがかすみちゃんなんですよね。素直で器用だったら、それはもうかすみちゃんじゃないんです。それに、不器用で素直じゃないからこそ効果的に伝わることもあって......。愛ちゃんやエマちゃんならもっとうまくやれたかもしれないけど、でもしずくちゃんにはかすみちゃんじゃなきゃいけないわけです(実際、このシーンの裏ではエマちゃんを中心にして首飾りを作っているわけで、みんなしずくちゃんのことを考えてるんですよね。それでも、しずくちゃんを引っ張ってあげられるのは、かすみちゃんだけなんだなあ、って、いいよね)。

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つながってる。

 いざ、しずくちゃんの目の前に来ても、言葉を濁してしまうかすみちゃん。かすみちゃんがどうして素直じゃないかと言えば、そこにはもう一つの仮面があるわけです。

 かすみちゃんが被っているのは「かわいいかすみん」の仮面。それは、璃奈ちゃんとも、しずくちゃんとも、また違う仮面だと思います。

とにかく、「可愛さを演じる」という点では、中須かすみという女の子に隙は無い。「猫を被る」といっても、全方向に向かって猫を被っているのだからすごい。とにかく徹底している。いつどこを切り取っても、かすみちゃんは「可愛い」。

『無敵級*ビリーバー』と、かすみの鏡の向こう側 - こばとんの徒然日記

  猫を被るアイドル、それが中須かすみちゃんだと私は思います。かすみちゃんはいつだって、「かわいいかすみん」を演じている。そして、かすみちゃんは絶対に素を見せない。「かわいいかすみん」の仮面が100%かすみちゃんを覆いかぶさった瞬間が、かすみちゃんの追い求める「かわいい」が達成された瞬間でしょう。仮面をつけて想いを伝えるのが璃奈ちゃん、仮面を外して想いを伝えようとするのがしずくちゃんなら、仮面と完全に同一になることを目指しているのがかすみちゃんなのです。

「可愛いものが好き」なかすみちゃんは、自分の周りを「可愛いもの」で覆い尽くすことによって、自身をかわいく見せている。かすみちゃんは、それを自分の唯一の拠り所だと信じ、頑なにその場所を守り続けている。しかし、かすみちゃんは未だ「自分自身のほんとうのかわいさ」には気づいていないのだ。この、ちょっとしたことで壊れてしまいそうな危うい自我と、それを覆い尽くす完璧で隙のない「かわいいかすみん」の二面性こそが、中須かすみというアイドルそのものなのである。

『無敵級*ビリーバー』と、かすみの鏡の向こう側 - こばとんの徒然日記

  かすみちゃんは、自分自身の「かわいさ」を信じていません。だからこそ、努力を続けます。「かわいい」で自分を彩り続けるのです。自分自身を信じられなくても、「かわいい」に向かって健気に努力を重ねて、完璧な「かわいい」を演じる。そんな仮面のことを誰よりも信じ、愛しているのがかすみちゃんなのです。根底にある自分自身への自信のなさ、昔からのコンプレックスやトラウマは、璃奈ちゃんも、かすみちゃんも、しずくちゃんも、そして形は違えど仮面を被っていることは、同じです。

 では、かすみちゃんとしずくちゃんの違いはどこにあるのでしょうか。それは「仮面を被ろうと被るまいと、自分を信じて、好きでいられるか」というところにあると思うのです。璃奈ちゃんが璃奈ちゃんボードという仮面を被ることは決してネガティブなことではないということは、既に書いた通りです。同じように、かすみちゃんにとっても仮面を被っていることは決してネガティブなことではありません。それは、かすみちゃんが完璧に仮面を被った自分を信じ、愛することができているからです。逃げるために仮面を被り、自己嫌悪に陥ってしまったしずくちゃんとの違いは、ここにあります。

 しずくちゃんをデコピンしたあとのかすみちゃんは、こう切り出します。

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「私」なかすみちゃんの、心からの言葉。

かすみ「嫌われるかもしれないからなんだ。かすみんだって、こーんなにかわいいのに、褒めてくれない人がたくさんいるんだよ?しず子だって、かすみんのことかわいいっていってくれたことないよね?しず子はどう思ってるの?」

 ちょっと唐突にも思えるかすみちゃんのこのセリフ。しかし、かすみちゃんの被っている仮面とその経緯を考えれば、かすみちゃんの言いたいことが見えてきます。かすみちゃんは誰かが「かわいい」と言ってくれなくても、それでも自分は「かわいい」と信じ続けるのです。自分で自分のことを嫌いになってしまったら、もうそれ以上好きになってくれる人も、好きになれる人も、いなくなってしまいます。だからこそ、これだけかすみちゃんに詰め寄られても、仮面を被る自分を嫌い続けるしずくちゃんの答えは自信なさげです。

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人は目を泳がせる時、嘘をついているとも言いますよね。

しずく「か、かわいいんじゃないかな.......?」

 「かわいいよ」とまっすぐ言えないことが、今のしずくちゃんを表しているような気がします。侑ちゃんだったらまっすぐ「かわいいよ」って言って、かえってかすみちゃんの方が恥ずかしくなっていそうですよね。自分を信じることが出来なければ、自分の感情も、言葉も、全て信じることのできない偽物になってしまいかねません。だからこそ、かすみちゃんは次のセリフをぶつけます。

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私は、桜坂しずくのこと、大好きだから!

かすみ「もしかしたら!しず子のこと好きじゃないって言う人もいるかもしれないけど、私は、桜坂しずくのこと、大好きだから!」

  ほんとうは、かすみちゃんだって自分の弱さから仮面を被っているのです。だから、こうやってしずくちゃんに「大好き」と伝えることだって、勇気と、覚悟をもって、恥ずかしさを押し殺して、言っているはずです。かすみちゃんの成長に涙が止まりません......。

 さて、ここでかすみちゃんは一人称「私」を使っています。普段のかすみちゃんの一人称が「かすみん」であることは説明不要かと思いますが、それは「かわいいかすみん」の一人称です。かすみちゃんはこれまでも、毎日劇場などで時折「私」という一人称を使っています。

想像以上にかわいくなった自分に驚いたかすみは、一瞬素の姿を見せたのである。「私」。学園や同好会での一人称は「かすみん」だが、それがある意味では「作られたキャラクター」であることの、これがひとつの証左であろう。ところで、ここで見せたかすみの素顔は、キズナエピソード18話での「追い込まれたかすみ」の素顔とは、質が違うものだと思う。かすみが、取り繕わずに「私」として我々に向き合ってくる瞬間がいつになるのだろうか。いつか来るのだと、今は信じていたい。

ニジガクカウントダウンウィーク! #2 Margaret - こばとんの徒然日記

  「私」は、計算していないかすみちゃんの一人称、つまり、かすみちゃんが被る仮面の下の、素のかすみちゃんの一人称です。ここで、かすみちゃんは仮面を脱いで、素のかすみちゃんとしてしずくちゃんに真っ直ぐ「大好き」だということで、本心から真っ直ぐ言葉を届けようとしました。かすみちゃんが勇気をだして、こころから「大好き」と言えるのは(それも実際はギリギリなところなんですけど)、かすみちゃんが最後は自分のことを信じているからだと思うのです。そこが、かすみちゃんとしずくちゃんの違いです。

 ここでのかすみちゃんの言葉は、かすみちゃんの背中を押してくれた璃奈ちゃんと、それから陰ながらしずくちゃんのために応援しているみんなの想いを乗せている部分もあるような気がします。仮面という視点でみるなら、かすみちゃんの背中を押すとき、璃奈ちゃんは璃奈ちゃんボードという仮面をつけて心をつたえているんですよね。それは、璃奈ちゃんボードをつけることが璃奈ちゃんにとっては本心を伝えるのに適した手段だからです。かすみちゃんにとっては、かわいいかすみんの仮面を脱いで見せることが、本心を伝える手段なわけです。どこまでも1年生の仮面がそれぞれに対比されているのは、ほんとうに面白いですよね。

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「仮面」で本心を伝えるのが、璃奈ちゃんのカタチ

 「信じること」。それは、今自分をさらけ出すために、しずくちゃんに求められていることです。そして「信じる」ことにおいては、かすみちゃんはしずくちゃんの先輩です。

かすみちゃんの最大の魅力は、武器は、一番誰にも負けないところは、「信じること」だ。

『無敵級*ビリーバー』と、かすみの鏡の向こう側 - こばとんの徒然日記

  『無敵級*ビリーバー』であるかすみちゃんの最大の武器は、「かわいいかすみん」を信じることです。かすみちゃんもまた、きっと自分自信にコンプレックスやトラウマを抱えているのです。だから、仮面をかぶる。それでも、かすみちゃんは、仮面を被った自分を誰よりも信じることができる。だからこそ、彼女は心折れることなく、「かわいい」に向かって努力を続けることができます。

かすみ「だから、心配しなくても.......」

  この後に続く言葉は何でしょうか。きっと、かすみちゃんが言いたいことはこうじゃないでしょうか。

 「かすみんのことは誰もかわいいって言ってくれないけど、それでも自分を信じて、自分の追及する「かわいい」を目指して頑張ってる。誰かがしず子のことを嫌いだと言ったとしても、少なくとも私は、桜坂しずくのことが大好き。一人でも好きって言ってくれる人がいるんだから、きっと大丈夫。心配しなくても、素の桜坂しずくは魅力的だし、好きって言ってくれる人もたくさんいるんじゃないかな。だから、しずくちゃんは「素の自分」をさらけ出すことに、もっと自信をもっていいんだよ」

 信じることに関しては「無敵級」のかすみちゃんが、今しずくちゃんのことを信じるといったのです。これほど心強いことはありません。かすみちゃんの後押しを受けて自分を信じることができたしずくちゃんは、今「無敵級」の大女優として、オーディションを勝ち抜き、舞台の上に堂々と立っているのでした。

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大女優のしずくちゃんは、無敵級だよ。

 

エピローグ

 すっごく長くなっちゃいましたけど、要するに8話ってめちゃくちゃ『無敵級*ビリーバー』だよね!最高じゃない??って、そういうことなんです。いやあ、『無敵級*ビリーバー』ですよね......。

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この振り付けが『無敵級*ビリーバー』なことも、話題になりましたね。

 かすみちゃんは勇気を出してしずくちゃんに「大好き」だと告白したわけなんですが、やっぱりそれでもかすみちゃんにも危うさがあって、だからこそ真剣さを得たしずくちゃんの目をもう一度見た瞬間に、目を背けてしまいます。やっぱ勢いでの告白だったんだろうなあ。でも、そんな強さと弱さの二面性がやっぱりかすみちゃんの魅力ですよね。守りたくなっちゃう危うさと、頼もしい力強さの両面を持っているというか。やっぱそんなかすみちゃんがかわいいです。はい。

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kawaii

 それから、「かわいいかすみん」に戻った瞬間にかわいく頬をぷくっとさせて走り去っていくかすみちゃんが良いですよね。やっぱり「完璧」なんだよね。逆に、これだけ「完璧」に仮面をかぶるかすみちゃんが、一瞬仮面を外して届ける「大好き」だからこそ、しずくちゃんの心を変えることができたというか。最後にめちゃくちゃ拍手するかすみちゃんもね。やっぱしずかすなんだよなあ。

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しずかすって、いいなあ......。

 『Solitude Rain』、好きです(唐突)。やっぱりしずくちゃんは雨が似合うし、アンニュイな表情だ似合うよね。さすがは大女優。苦悩なんて見せちゃいけない感じも大女優でいいですよね。

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水も滴るしずくちゃん

 ところで、曲冒頭の「雷鳴」ですが、これはやっぱりあのシーンのことを指すのでしょうか。かすみちゃんのデコピンが「雷鳴」なのか、それとも告白が「雷鳴」なのかはわかりませんが、「雷が鳴ると梅雨が明ける」って話を思い出しました。舞台でも、雷鳴が鳴り響いたあと、雨が止むんですよね。いや、特にオチはない気づきなんだけど、好きだなあって。私、雨の日がとっても好きなので、雨が似合うしずくちゃんが大好きなんですよね。

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策士、惚れました。

 最後に。8話では、同好会以外のメンバーが物語の鍵になるような活躍をすることが多かった印象があります。色葉、今日子、浅希の三人もそうですけど、あとは部長。最後のシーンは痺れたよね。かっこええわ、部長。なんなら、1話でかすみちゃんと遭遇してるんですけど、しずくちゃんの成長を見込んで再オーディションをかけたんじゃないか、とまで邪推してしまうほどの策士感。舞台上で抜群の演技をみせるしずくちゃんに抱きしめられるとき、部長はどんな気持ちだったんだろうなあ。

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敏腕記者だよね。

 あとは、新聞部(?)のインタビュアーですよね。8話はしずくちゃんへのインタビューから話が始まって、しずくちゃんへのインタビューで話が終わるわけで、彼女はある意味でめちゃくちゃ重要な存在でもあるわけです。

インタビュアー「なるほど。演劇部に所属している、桜坂さんらしいアイドル像ですねえ」

 これが、最後のシーンでは

インタビュアー「素晴らしかったです!まさに、スクールアイドルの桜坂しずくさんにしかできない舞台でしたね」

  分かってんなあ、あんた。演劇部で直面した問題をしずくちゃん自身の力で乗り越えることで、スクールアイドルとしてのしずくちゃんもまた成長するんですよね。

 しずくちゃん回だったのに、あまりしずくちゃん自身を掘り下げる記事にはならなかったかもしれません。やっぱり仮面をかぶっているだけあって、しずくちゃんの本心に迫っていくのはすごく難しいんですよね。それはかすみちゃんも同様なわけで、もっともっとしずくちゃんに向き合っていかなくてはいけないんですが......。まだまだアニガサキの物語は続いていくわけですし、かすみちゃんを追いかけるように急成長するしずくちゃんが見たい、そう思うのでした。

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その瞳には、どんな未来が映っているのか。

 

※引用したアニメ画像は、特に表記が無い場合、すべてTVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』(©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会)第8話より引用。