2020-2021 ブログ納め&ブログ始め

 あけましておめでとうございます。こばとんです。

 2020年。新型コロナウイルスに世界中が振り回されたとんでもない一年は、ひとことで言えば「異例」の一年でした。緊急事態宣言が出されたり、オリンピックが延期になったり、100年前のスペイン風邪の流行に匹敵し、必ず歴史に刻まれるであろうこの大混乱については、いまさら語る必要もないほど読者のみなさんも痛感していたことでしょう。

 この記事は「2020-2021 ブログ納め&ブログ始め」と題し、この異例の一年の中での『こばとんの徒然日記』の歩みを振り返るとともに、一年の計を立てる、オーディオコメンタリーのような記事です。自分で書いた文章に自分で解説を入れるのは野暮の極みですが、もともと野暮な私の記事に注釈を加えてもさしてその価値が変わりはしないでしょう。それに、一年の創作活動を言語化してまとめておくことは、きっと自分の立ち位置を相対化することができるし、遥か先まで行ったとしても、いつかこの現在地を振り返ることもできるようになります。さっそく、始めていきましょう。

 

 

睦月

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  「将来を見据えて、いろいろなことに臆せず挑戦すること」。これが、2020年の抱負でもあり、この一年ブログを書き続けた理由でもありました。遡っていただければわかりますが、当ブログの開設は2019年。一本熱い記事を書いた後、多忙ゆえにその更新は停滞、というか完全に止まってしまっていました。しかし、2020年はわたしにとって、就活と決別して大学院に進学し、「人文科学」の世界で生きていく、その第一歩目になる年でした。なんでもいいから一歩目を踏み出さなければ、先へと進んでいくことはできない。「今後はもうちょっとライトな感じで、旅行記や本・音楽など好きなものついて書いていきたいと思っています」と語っているのは、内容が多少薄くても定期更新を続けるためでした。一年間の挑戦が、ここからはじまります。

 

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  1月には、「ラブライブ!フェス」にも参加しました。もともとは、「Aqoursの物語を見届けたら、ラブライブ!のファンは辞めよう」と思っていた私。しかし、卒業論文執筆の闇の中で少しでも光を得たかった私は、最後のチャンスである完全見切れ席に滑り込みで応募、当選し、さいたまスーパーアリーナへと向かいました。

 ここで虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会、QU4RTZと『Beautiful Moonlight』に改めて出会ったことは、私のオタクとしての2020年を大きく左右する出来事だったのですが、それが効いてくるのはもう少し後のおはなし。それまで不動の「ラブライブ!で一番好きな曲」だった『夜空はなんでも知ってるの?』について、CYaRon!のパフォーマンスという視点から「アーティスト」としてのAqoursについて語ります。ライブから自分の物語を作っていく、2019年以前の私が詰まった記事です。

 

如月

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  大きな闇は、背後のもうすぐそこまで迫っていました。

 卒業論文を書き上げて、卒業式までの間は、何にも縛られぬ自由な時間。ここで、多くの学生は卒業旅行として、普段は行くことのないどこか遠くへと向かうわけです。

 私もその例に漏れず、卒業旅行の計画を打ち上げます。人生初のヨーロッパ旅行。記事に溢れる期待とは裏腹に、その進展は初めから不穏な空気を孕んだものになりました。中国・武漢で見つかった新型コロナウイルスCOVID-19の流行。旅行先の一つであったイタリアでその流行が深刻なものになると、旅行を強行するか、あるいは中止するのか。二者択一の決断を迫られます。下した決断は「中止」。本来の旅行期間中も刻々と事態が深刻さを増していたこと、それから後に欧米から帰国した邦人が日本に少なからずウイルスを持ち込んだことを考えれば、この決断に間違いはなかったと考えています。しかし、キャンセル料の負債と、それから本来記事になるはずだった海外旅行の中止。全てを失ったところから、2020年が始まることになったのでした。

 

弥生・卯月

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  失ったキャンセル料を取り戻すために。目が回るほどアルバイトのシフトを叩き込んだ3月と4月は、アルバイト先の店舗としてもマスクの着用、ビニールカーテンの設置など、新型コロナウイルス対策に追われた多忙の時期になりました。

 定期更新とは程遠い当時の更新頻度ですが、同時に記事の内容の模索も始まっていました。当初は①旅行記②書籍紹介③その他趣味(音楽・アニメ・鉄道・野球等)といったコンテンツを予定していた当ブログは、一番大きな①を失ったことで、暗中模索の状態に陥っていたわけです。『氷菓』新刊を紹介する上記記事は、模索のなかでは上手くいった方。「誰かをしあわせにする、内容のある記事」を書くこともまた、私のブログの大きなモットーだけに、当時はかなり苦しんでいた記憶があります。まだまだ、先の景色は見えないままでした。

 

皐月

tsuruhime-loveruby.hateblo.jp  新型コロナウイルスの影響はついに日本にも波及し、感染者の増大を受けた日本政府は緊急事態宣言を発令しました。卒業式も入学式もふっとんだ大学院は授業すら始められず、空虚の時間が過ぎるばかり。しかし、ゴールデンウイークも終わり感染者数もある程度落ち着くと、徐々に経済活動も再開してゆくことになりました。5月中旬より大学院の授業が始まったことで、生活リズムも一変。このあたりからようやく、記事の定期更新が軌道に乗ってきます。

 『内浦と私』は、緊急事態宣言下で苦しい状態にあった淡島マリンパークを支援させていただいたときに綴った記事。自分の経験を綴るエッセイは、どちらかと言えば得意分野。これからもたくさんの記事を書いていくことになるでしょう。

 

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  新譜の発売も滞り、過去の音楽ばかり聴いていたこの時期。私立恵比寿中学について書いた『運命と戦うことで今を奏でる』は、名曲『響』の歌詞を題名に採用した意欲作。大好きな気持ちを直球に長文でぶつけるスタイルをここで確立し、さらに多くのエビ中ファンからの反響をいただけたことも、その後の自信につながったことを考えると、2020年の中でも特に大きな記事であったということができます。当時の私は既存の「ストーリー」に頼ることを極度に嫌い、考察より自分に引き付けたことばで表現することにこだわっていた時期。読み返すと、ちょっと斜にかまえて評論的な当時のスタイルがほほえましくもあります。

 

水無月

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  「音楽」のジャンルで手ごたえをつかんだ私は、プレイリストを紹介していくような記事を書き始めます。当時のマイブームは(今でも大好きだけど)、ヒップホップグループSOUL'd OUT。自分の好きなものを「紹介する」というスタイルで、YouTubeを貼り付けて話していく方法の記事が続いていきます。この方法ものちに行き詰ってしまうのですが.......。彼らの最高にダサいのにそれが最高にカッコいい、試作と工夫に満ちながらキャッチーでオリジナリティあふれる音楽は、確実に私の音楽世界に大きな影響を与えたことは間違いありません。

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  徐々に新譜の発売も始まったこの頃。6月初めには、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会から『無敵級*ビリーバー』の発売が発表され、試聴動画が発表されました。発売された2月以降、完全に『Beautiful Moonlight』に打ちのめされ、虜になり、狂ったように聴き続けていた私は、楽しみにしていたこのシングルを聴いて衝撃を受けます。作曲にDECO*27さんを迎え、完全にそれまでのラブライブ!のイメージを一新する、柑橘系のフルーツのような新鮮さと瑞々しさに溢れた『無敵級*ビリーバー』。美しいメロディーで夜のお台場と彼女たちを描く『未来ハーモニー』。何かが始まった、そう思いました。

 この記事も、それまでのYouTubeを貼り付けて曲を「紹介」していくスタイルを堅持していますが、何よりこの記事の価値は、当時パッションに満ち溢れていたニジガクのファンたちに見つけてもらい、繋がることができた点でしょうか。自分たちの想いを考察記事や感想記事に紡いでいく素敵な人たちと繋がり、目の当たりにすることで、このブログの文章にも化学反応が起こっていきます。

 

文月

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  忙しかった春学期から徐々に解放された7月末。少しづつ、自分のなかで起こっていた化学反応は、ひとつの記事に昇華されました。「『無敵級*ビリーバー』と、かすみの鏡の向こう側」。それまででは想像できないほどの反響をいただいたのもそうですが、私としても抜群の達成感があった記事でした。約12000字と特大のボリュームになりましたが、自分の中で滾る熱い感情を、ゆっくり時間をかけて構成を作り、整理し、温度を保ったままぶつけ、情緒的でかつ理性的に書けたこの記事は、会心の作品でした。

 大きな反響を得られたと同時に、多くの人との出会いを得られたのもこの記事でした。それまでは内輪の数人にしか読んでもらえなかったのが、いきなり世界が広がったような気がしました。なにより、同じ「文章を書く」という行為をしている仲間、自分よりはるかに魅力的な文章を書く多くの人に出会えたのも、私にとってすごく大きなことでした。

 

葉月

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 『無敵級*ビリーバー』記事を確かな自信に変えて、もっともっといろいろな記事を書こうと思っていた夏休み。しかしこのあたりから、母が骨折して家がてんやわんやの大騒ぎになるなど、コロナウイルス以外の要素にもふりまわされ始めることになります。前厄だからなの?2021年はもう少し波乱を減らしてほしいです、神様。

 8月は様々なジャンルの記事を書きましたが、特筆したいのはこの記事。「ニジガクに10人目のメンバー、三船栞子ちゃん加入」という、ラブライブ!の歴史の中でも衝撃的なニュース。その衝撃そのままに、三船栞子ちゃんという女の子と向き合って書いたのがこの記事です。『無敵級*ビリーバー』記事が音楽を起点として書くそれまでのスタイルに乗っかった記事なのに対して、栞子ちゃんの記事は完全に音楽とは乖離して、物語を読んで自分なりに物語を噛みしめていく記事。後のアニガサキ視聴レポートに繋がっていく部分もあったと思います。

 

長月

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  ニジガクの記事を書いていくうちに培った「大好き」をぶつけていく方法を、そのまま私の趣味の一つである野球にぶつけたのがこの記事。後で話しますが、私は「ラブライブのブロガー」を目指しているわけではなく、「文章を書く」という一連の営みの中の通過点としてラブライブがあるわけですから、そこでの経験が他分野に活きたこの記事は一つの成功例かもしれません。今のところは、私のことをラブライブを経て知っていただいた読者の方が多いと思うのですが、いつかはもっといろんなジャンルの文章を読んでもらえればいいな......と思っているので、この記事は私にとって一つの大切なマイルストーンです。

 

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  多忙と混乱を極めた夏休み。そんな環境の中で脳みそも混乱してしまったのか、ニジガクの2ndライブを前にした私は、とんでもなく壮大な企画をおっぱじめ、そして異常な達成感と、どっしりとした疲労を手に入れるわけです。虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会2ndライブカウントダウン企画『ニジガクカウントダウンウィーク』。3rdアルバム『Just Bellieve!!』の各曲について、スクスタのキズナエピソードからそれぞれの曲を読み解き、ライブでの注目ポイントを語っていく記事は、毎日更新ながら1万字近いボリューム感。あのね、正直、毎日更新でこの分量はやめた方が良いと思います。裏話ですが、この企画まで私はスクスタのプレイ状況が芳しくなく、この企画はニジガク全スクールアイドルのキズナエピソードを全て開放するところから始まったこと、それから、『Just Believe!!』、『無敵級*ビリーバー』、『未来ハーモニ』の3曲を紹介する#0が存在していたものの、力尽きてお蔵入りになったことを付け加えておきます。なんでこんな修行みたいなことしたんだろうね?自分でもわかりません。でも、楽しかったよ。


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  2020年は、両手の指で数えるほどしか遊びに出ていないのですが、9月に一度沼津に行くことができました。久しぶりの「こばとんの旅行日記」は沼津・内浦です。ルビィちゃんの誕生日に行けたのはよかったなあ。旅行記は、ネタがあればこれからもビシバシ書いていくと思うのですが、これはいかんせんコロナの感染状況次第でしょうか。はやく新型コロナウイルス感染の心配なしに、平和にどこにでも行ける世界になったらいいなあ。

 

神無月

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  秋学期が始まった10月。10月3日から、TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』がはじまりました。

 1話記事は、「最速視聴レポート」と題されているように、放送終了後から数時間で上がった即席めんのような記事。はじめは、各話終了後は簡単な感想記事をささっと上げて、全話放送後にまとめて記事を書くつもりだったのですが、あまりにアニガサキが名作だったことと、それからニジガクのブロガーたちがめちゃくちゃ熱い記事を毎週上げているに触発されて、私も各話放送後に毎回熱い視聴レポートを書いていくことになりました。

 

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  アニガサキは、各話それぞれが各メンバーの担当回になっているすっきりした構成でした。2話が推しのかすみちゃん回になるということで、気合を入れてかすみちゃん回の記事を書いたところ、手ごたえ上々。勢いそのままに3話せつ菜ちゃん回の記事を書くと、こちらは反響も抜群。ここから、どちらかと言えば「考察」っぽいテイストで、記事を構成していくことになります。

 

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  ところが、4話に至った時に「わからない」となってしまったんですね。もちろん、ニジガクには虹色のメンバーがいて、それぞれに違うのですから、私にとって全員が「わかる」とは限りません。むしろ全員が「わかる」というのは綺麗ごとでしょう。理解できるところも、理解できないところも、否定することなくその共通点も違いも共有する。それがほんとうに他人を尊重し、向き合っていこうとする態度だと思うからです。愛さんは好きなキャラクターですが、かすみちゃんやせつ菜ちゃんの時のようにすっきりした結論をだすことはできませんでした。ここから、アニガサキ視聴レポートにおいて、「自分のカタチ」を探す試みが始まりました。

 

霜月

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  11月はまさにアニガサキ視聴レポート「試行錯誤の月」となりました。5話記事は文学的に、6話記事は少しまえのスタイルに戻って、7話記事は歌詞の考察も交えつつ。「考察」ってどうしても、自分はこんなすごいことに気付けた!っていうマウントの取り合いに無意識に陥ってしまいがちで、でもそれでは「大好き」な気持ちも、しあわせも届けることができなくなってしまいます。アニガサキを観るとあまりに「気づき」が多くなってしまって、勢いそのままにぶつけるとどうしても情報量過多になってしまうんですよね。自分の書きたい文章ってなんだろう。そんなちょっと哲学的な悩みを抱えつつ、11月は4本の記事を書きました。

 突然の私事ですが、11月23日に祖母が永眠しました。祖母は、「文章を書く」ということに人一倍こだわりのある人で、かつては記者として活躍したこともありました。これから歩いていきたい「文章を書いていく」という道は、祖母が志し、そして叶わなかった道でもあります。祖母から受け取ったものを大切に抱きしめて、先へと進んでいきます。

 8話記事は、しずくちゃん回でありながらかすみちゃんの視点から描いた記事。物語を中心からではなく、ちょっとずらした視点から物語を見るのは私に合っているようで(本業の研究もそういう視点に拠っています)、かすかな手ごたえを感じた記事でもありました。

 

師走

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  12月は特に研究面で忙しい月になりましたが、そんな中でも青息吐息ながらアニガサキ視聴レポートだけは更新することができました。アニガサキ視聴レポート、結構負担が大きくて、結局アニガサキ放映期間中にはアニガサキ視聴レポート以外の記事を更新することができませんでした。アニガサキが終わったことは悲しくもありますが、侑ちゃんが新しい挑戦に向かっていったように、私としてもこれからどんなことを書いていこうか、という希望にあふれた気持ちもあります。......まあまだ12・13話の記事を上げていないんですが。もうちょっとだけ待っていてください。

 12月更新記事の中で特にお気に入りなのは、11話記事です。「物語を端っこから見る」視点で、ファンの目線で、特に色葉ちゃんと浅希ちゃん。それから今日子ちゃんが同好会の動向(「同好会」だけにね!)、それから悩める歩夢ちゃんに少しでも関わってくるかな、と希望を込めて書いたのですが、ドンピシャの展開が来て震えました。恐怖で。アニガサキはやっぱすごいよ。

 もちろん悩んでばかりでしたが、12月は少しでも自分で「好きだ」と思える記事を書くことができました。この感覚を2021年へとつなげていって、もっとレベルアップしていきたいと思っています。

 

一年の計

 さて、2020年を振り返ってまいりました。

 夢に向かって一歩踏み出す。そのためにブログの定期更新を始めた一年でしたが、予想もしていなかったところまでやってくることになりました。今いるこの場所が、夢に近づいた場所なのか、それともちょっと遠回りになっているのか、あるいは真反対に進んできているのか、それはわかりません。しかし、一つだけ分かったことがあります。

 それは、私が「文章を書いて、それを読んでもらう」ことが好きなこと。授業で発表したり、論文を書いたり、Twitterであれこれ話したり。漠然と楽しいと感じていた営みの何が楽しかったのか、それを具体的に知ることができたのは、2020年最大の成果といっても過言ではないでしょう。

 2021年は、こうして気づいた自分の中のキモチをどうやって将来の自分、もっと言えば生業につなげていくのか、その具体的な方法を探していかなくてはいけません。研究に打ち込むこと、この場所で誰かに「しあわせ」を届けられる記事を書いていくことが基本であることは変わりません。一方で、一次創作や二次創作など今までチャレンジしたことのない領域にも踏み込んでいくこと。「こばとんの徒然日記」を飛び出して、もっと大きな世界で自分の文章を書いていくこと。それを目標に取り組んでいきます。未来図はまだ描けないけれど、計画通りの未来に行くよりは、想像できない世界へと飛ばされていく方が楽しいに決まっています。今年もまた、想像もできないくらい遠くまで行って、ちっぽけな自分を懐かしむようにこの記事を一年後に読み返せたらいいな。そう思うのです。

 なにはともあれ、私がここまでやってこれたのも、これから先の不確実な未来へ進んでいこうと勇気を出すことができるのも、私を見つけ、そして私の文章をたくさん読んでいただいたみなさんのおかげです。いつかみなさんをどこかへ連れていけるような物書きになりたい。不束者ですが今年もどうぞ、よろしくお願いいたします。

 

 それではまた。

 こばと

「みんな」の夢を、叶えるために TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』視聴レポート #11 「みんなの夢、私の夢」

TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』視聴レポート #11 「みんなの夢、私の夢」

 

「みんな」の夢を、叶えるために

 

 

※当記事は、TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』のストーリーに関するネタバレ、あるいは、アプリ『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバルオールスターズ』のストーリーに関するネタバレを含みます。アニメ未視聴の方、アプリ未プレイの方は、予めご了承ください。

 

↓第10話の記事はこちら

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 こんにちは、こばとんです。

 11話です。波乱が予想された11話ですが、やはり波乱なお話になりました。

 ご覧になった方はお分かりだと思いますが、11話は衝撃的なシーンをもって唐突に終わり、その解決は全て12話に投げられています。今晩が待ちきれずに、眠れぬ夜を過ごした人もさぞ多いことでしょう。11話のストーリーは11話だけで完結していません。特に、歩夢ちゃんと侑ちゃんの衝突に関しては、意図的なかたちで解決が次週に持ち越されているのですから、明らかになった事実はまだ半分、あるいはそれ以下ということになるでしょう。アニガサキで、ここまで焦らされるのは初めてですが、それもまた一興。やきもきした気持ちを精いっぱい楽しんでいます。

 さて、問題となるのはこの「視聴レポート」です。これまで毎話ごとに、アニガサキの物語を読んで抱いた感想、疑問、自分の解釈など好き勝手に書いてきた本連載記事ですが、11話に至って大きなピンチに瀕しています。なぜなら、11話では、メインの物語である侑ちゃんと歩夢ちゃんの物語に関して、まだ全てが明らかになったわけではないからです。このブログの趣旨は物語の先を読んで当てることではありませんので、そういった内容を書くことはありません。それも一つの楽しみなんだけどね。Twitterでいっぱいつぶやきます。それに、素晴らしかった11話の演出やその意味については、もっと語るべき人がたくさん語ってくれています(面白いからいろいろ調べてみてね)。と、いうことで、当記事では歩夢ちゃんと侑ちゃんについてのお話はしません。歩夢ちゃんのことは12話と、それから12話を観終えた後の自分に託して、当記事ではまったく違う目線で、アニガサキの「大好き」をお話していこうと思います。いやあ、「違うよ」とか、侑ちゃんの夢とか、話したいことはたくさんあるけど.......未練は断ち切りましょう。それでは、お話を始めていきます。

 

初めての「みんなで叶える物語」

東京・お台場にある、自由な校風と専攻の多様さで人気の高校「虹ヶ咲学園」。
スクールアイドルの魅力にときめいた普通科2年の高咲侑は、
幼馴染の上原歩夢とともに「スクールアイドル同好会」の門を叩く。

時にライバルとして、時に仲間として、
それぞれの想いを胸に日々活動するメンバーたち。

「夢を追いかけている人を応援できたら……。」

9人と1人の少女たちが紡ぐ、初めての「みんなで叶える物語(スクールアイドルプロジェクト)」。

届け!ときめき――。

いままた夢を、追いかけていこう!

TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』HP「ストーリー」より(ストーリー | TVアニメ | ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会)

 「みんなで叶える物語」。それは、ラブライブ!シリーズで一貫して受け継いできた、ラブライブ!シリーズで一番大事なコンセプトです。これまでラブライブ!は、アニメのおもに外側において、投票企画やグループ名の公募、みんなで作る曲など、私たちを巻き込んで物語を紡いできました。まさに「みんなで叶える物語」だったわけです。μ'sのFinal Love Live!はまさに「みんなで叶える物語」の集大成ともいえる空間で、長い苦労と快進撃の末にたどり着いた先の東京ドームで、みんなで声を合わせて叫ぶ「今が最高!」は、まさに「みんなで叶える物語」を全身で体感する瞬間でした。

 μ'sの夢はAqoursに受け継がれて、そしてやって来た3つ目の夢。しかし、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会は、「みんなで叶える物語」が「初めての」ものだと主張するのです。これは、どういうことなのでしょうか。現実世界の時系列から言えば、虹ヶ咲の物語はどう考えても「初めての」ものではありません。それとも、彼女たちにとって「初めての」ものだというのでしょうか。うーん。しっくりこないですよね。μ'sやAqoursのみんなにとっても、スクールアイドルプロジェクトという物語は「初めての」ものだったはずです。改めてここで「初めての」を強調する理由には、ならない気がします。アニガサキは前2作に対して前後関係のわからないお話ですから、もしかしたらラブライブ!の世界において時系列で先頭にくるかもしれません。しかし、いまのところ検証しようのないお話です。

 ......えーっと、長々話してきましたが、今のところなにかこの「初めての」に対して満足できる見通しがあるわけではありません。でも、この違和感を大事にしたいんですよね。なぜなら、アニガサキのお話は、「みんなで叶える物語」として、前の2作とは大きく異なる一面を持っていると思うからです。

 

「みんな」の夢

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ぎゅうぎゅう

 唐突ですが、アニガサキって登場人物が多くないですか?これまでの同好会メンバー以外の登場人物をまとめてみましょう。

  ・伝統のモブ3人衆:色葉、浅希、今日子

  ・生徒会関連:生徒会副会長、生徒会書記

  ・服飾同好会のみなさん

  ・演劇部部長

  ・東雲学園のみなさん:遥、かさね、クリスティー

  ・藤黄学園のみなさん:美咲、姫乃

  ・新聞部のみなさん

 すべてを網羅したわけではありませんが、声があてられていてある程度行動を起こした人物をざっと書き出してみれば、これだけの人物がアニガサキに登場しています。そして何より、彼女たちがただの「モブキャラ」では無い点が特筆されます。アニガサキの10人以外の登場人物は、驚くほど自由に物語の中を動き回っています。時には、彼女たちが物語の重要な登場人物として、ストーリーを支配することさえあり得るのです。7話における遥ちゃんが一番分かりやすい例でしょうか。あるいは、9話において姫乃ちゃんが重要人物であることは、9話の記事で既に書いた通りです。

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 さらに言えば、アニガサキは「9人とひとり」の物語です。10人の物語ではありません。スクールアイドルではない、高咲侑という異質な人間があたりまえのように同好会に参加しています。そして彼女は明らかに、「外側」の人間です。9話において、ステージに向かうメンバーを横目に、彼女は一目散に観客席へと駆け出していきました。

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彼女の居場所は、ステージではなく観客席にある。

 アイドルではない侑ちゃん。たとえ彼女が「マネージャー」だったとしても、アイドルの戦場であるステージとステージ裏を離れるという選択はあり得ないでしょう。高校野球で例えたら、彼女はベンチにいるマネージャーではなく、観客席にいる観客のひとりです。10話においてせつ菜ちゃんが「私たちには見えない景色」と侑のダイバーフェスの感想を評していますが、それは決定的に視点が違うことに起因しています。彼女は完全にプレイヤーサイドの人間ではありません。彼女はあくまでも、今のところは、「いち観客」なのです。

 高咲侑というファンがど真ん中に置かれている物語、それがアニガサキです。そう考えると、アニガサキは「みんなで叶える物語」からかけ離れています。彼女たちがステージで叶える夢を、侑ちゃんが一緒に叶えることは出来ません。プレイヤーのフィールド(アイドルの場合は一般的にはステージ)と、オーディエンスのいる観客席の間には、厳然とした区別があります。たとえ甲子園で負けても、スタンドのファンに涙を流す権利はあっても、甲子園の砂を持って帰る権利はない、そういうことです。

 それでも、アニガサキは確かに「みんなで叶える物語」なのです。どういうことなのか。それは、「みんな」が指す範囲が、前の二作とは決定的に違うのだと思います。「みんな」とは、9人のことではありません。侑ちゃんも、さっき列挙した9人の周りにいる多くの人たちも含まれます。μ'sやAqoursも確かに「みんな」の夢を叶えましたが、それは9人の夢にそれを応援するみんなの夢を託して叶える夢でした。だからこそ、物語では9人の夢こそが描かれたのです。作品の中では学校のみんなが、そして作品の外ではファンである私たちが、彼女たちに夢を託して、応援して、一緒に叶えていく。彼女たちの夢の延長線上に、私たちの夢がある。それが、これまでのラブライブ!でした。しかし、アニガサキはそうではない。プレイヤーとファン、両方含めて「みんな」。作品の中で、9人の、侑ちゃんの、作品に出てくるみんなの、そして作品を見ている私たちの、そのすべての夢を叶えてしまおう。初めての「みんなで叶える物語」は、これまでとはまた別の、スクールアイドルと、そしてファンの、みんなが叶える物語なんじゃないかと、ふと考えてみるのでした。

 

ファンが叶える物語

 侑ちゃんと歩夢ちゃんの衝突が描かれる一方で、11話では侑ちゃんの提唱する新しいライブ「スクールアイドルフェスティバル」の計画が進行していきます。

 生徒会に一度ははねかえされてしまうスクールアイドルフェスティバルの申請書。まだまだ曖昧な彼女たちの夢のカタチを、クッキーを型抜きするように外側から提案してくれるのは、彼女たち自身ではなく「ファン」のみんなでした。

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見るだけでほんわかするよね、この3人。

 夏休みだからか空っぽの「かすみんボックス」。ライブの内容の周知が足りないということを教えてくれたのは、色葉ちゃん・浅希ちゃん・今日子ちゃんの3人。焼き菓子同好会に所属する3人は、ニジガクのみんなをイメージしたクッキーを差し入れてくれました。

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 色葉ちゃんは、愛ちゃんのファン。

 

 スクールアイドルフェスティバルを開催するにあたって、共同開催する他の学校のスクールアイドルは不可欠。侑ちゃんたちは、人脈のある東雲学園と藤黄学園のスクールアイドルを訪ねます。

 彼方ちゃんから既にスクールアイドルフェスティバルの話を聞いていた遥ちゃんは、スクールアイドルフェスティバルに乗り気です。

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 遥ちゃんは、彼方ちゃんのライバルで、そして一番近くにいるファン。

 

「果林さんと同じステージに立てるなんて.......!」という若干不純な動機は置いておくとして、藤黄学園もスクールアイドルフェスティバルに前向きです。

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 姫乃ちゃんは、果林ちゃんのファン。

 

 ダイバーフェスはその最も大きいものですが、一番最初の歩夢ちゃんとかすみちゃんのPVから、いろんな活動を積み重ねてきたスクールアイドル同好会とそのメンバーは、その過程の中でたくさんのファンを手に入れてきたのです。

 それは、お世話になったニジガクの他の同好会も一緒です。彼女たちの持つ魅力は、たしかに学園の内外の人たちを巻き込みつつあるのです。

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 服飾同好会のみんなは、エマちゃんのファン。

 虹ヶ咲学園の中にもどんどんニジガクのメンバーひとりひとりのファンが増えていって。

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 そして、次第にその輪はどんどん大きくなって、彼女たちと直接関係のない人たちも、たくさんの人がニジガクのみんなを応援するようになります。

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彼女たちのまわりは、スクールアイドルが大好きな「ファン」であふれています。

 

 

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かすみんボックスのかわいさは維持して、「かすみん」一人を押し出す要素が上手くオミットされてるのすごい。

 そんなみんなが届けた声は、どっしりとかすみんボックスの中に集まりました。

 そして、その気持ちは、生徒会の役員にまで届き、ついにスクールアイドルフェスティバルは承認されるのです。

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 生徒会副会長は、せつ菜ちゃんのファン。

 

かすみ「だってかすみんたちの夢だけ叶えるより、応援してくれるみんなのやりたいことも叶った方が、絶対楽しいじゃないですか!」

 「応援してくれるみんな」の夢。彼女たちは、それを叶えることを目標にします。「みんな」は、ニジガクのスクールアイドル9人と、それから侑ちゃんひとりと、それから「応援してくれるみんな」も含めて「みんな」なのです。ライブだけじゃない、スクールアイドル好きみんなが楽しめる、スクールアイドルのお祭り。それがスクールアイドルフェスフェスティバルです。そして、スクールアイドルだけじゃない、スクールアイドル好き「みんな」の夢を叶えるストーリー、それがアニガサキの物語なのです。

 

 私たちも、アニガサキの物語の中で同好会のみんなに魅了されてきたファンたちと同じように、アニガサキを画面越しに見ながら、同時に彼女たちに魅了されて、ファンになってきたのではないでしょうか。思い出してみて下さい。放映の時間だけに限らず、配信されるアニガサキを繰り返し繰り返し見ていた毎日。『DIVE!』や、『VIVID WORLD』のPVを、何度も何度も再生した私たち。『ツナガルコネクト』の璃奈ちゃんのステージを目撃して、璃奈ちゃんに全部もっていかれてしまったのも、作品中のみんなと同じです。しずくちゃんの舞台だって、私たちは美咲ちゃんや姫乃ちゃんと同時に目撃しているのです。そして、作品中ではしきりに、彼女たちの評判が、動画などSNSで拡散されていく様子が描かれます。私たちも、アニガサキを見ながらにして、「ヒトリダケナンテエラベナイヨー!!!」と毎週叫びながら、アニガサキと同じペースで物語を受け取り、体感して、彼女たちのファンになって、そして「みんな」の一員になっていたのです。

 アニメをみて、たくさん感想をつぶやいて、絵を描いて、議論して、そしてこうやってブログを書いて。そうやって「大好き」を表現してきたのも、作品中の「ファン」たちと一緒です。だからこそきっと、スクールアイドルフェスティバルには、私たちも巻き込まれていくのかもしれません。あるいは、アニガサキ自体がスクールアイドルアイドルフェスティバルということもできるでしょうか。

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 私たちは、ニジガクのファン。

 初めての、「みんなで叶える物語」。その物語と一緒に私たちも駆け抜けて、「みんな」の夢を叶えられたらいいな、そう思うのです。

 

 

 ところで......

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 今日子ちゃんは、歩夢ちゃんのファン。

 今は侑ちゃんしか見えていない歩夢ちゃんにも、ファンはいます。歩夢ちゃんの進む未来に、きれいな虹がかかっていたらいいな。

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歩夢ちゃんの笑顔がまた、見れますように......!

※引用したアニメ画像は、特に表記が無い場合、すべてTVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』(©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会)第6,9,11話より引用。

夢は別れのプレリュード TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』視聴レポート #10 「夏、はじまる。」

TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』視聴レポート #10 「夏、はじまる。」

 

夢は別れのプレリュード

 

 

※当記事は、TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』のストーリーに関するネタバレ、あるいは、アプリ『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバルオールスターズ』のストーリーに関するネタバレを含みます。アニメ未視聴の方、アプリ未プレイの方は、予めご了承ください。

 

↓第9話の記事はこちら

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夏、はじまる。

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夏、はじまる。

 何言ってるんだろうっていうくらい季節感が無いですが、現実の季節に逆行していくのがアニガサキのスタイル。それより、具体的な時期が確定したということが、アニガサキの物語を考えていくうえで大きい気がします。

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22点でにゃんにゃん。

 22点という深刻な点数に対して、ここに海未ちゃんがいれば即刻確保軟禁され成績が上がるまで大勉強会だったかもしれませんが、アニガサキではあっさりと流されます。私はこれまでもアニガサキがすごく個人主義のお話で、お互いの内側に抱える問題には干渉しない、ということを言ってきたのですが、これもそうかもしれません。とはいえ、「これで1学期はおしまい」なわけです。これまで、入学式も新入生勧誘もなかったアニガサキにおいて、初めて「今」が具体的にいつなのか示された瞬間でした。

 この時点で夏であることは、これまでのラブライブ!のストーリーと変わりありません。もしかしたら、アニガサキにも2期が期待できるかもしれませんね......!

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 合宿所って学校じゃん!

 学校なんかい!合宿回だと思っていたけどこれ実質お泊り回じゃん。学校で「合宿」をするアイドルアニメ、初なのではないでしょうか。思い返してみれば、アニガサキはこれまでほとんどお台場を出たことがありません。どんなに遠くても東雲や門前仲町で、すごくコンパクトな範囲に限られています。まるで当初の2020年東京オリンピックの計画のようです。例えば、しずく回の8話では鎌倉を登場させてもよかったと思うのですが、登場することはおろかそもそもしずくちゃんが鎌倉に住んでいることすら触れられず仕舞いでした。これも8話ですが、藤黄学園との合同演劇祭も会場は虹ヶ咲学園。9話のダイバーフェスも、お台場で行われるフェスでした。はっきりした理由は分かりませんが、あらためて、アニガサキがどんなコンセプトで作られた作品なのか、考える時のヒントにはなりそうです。

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驚くほど美味しいんですか!?

 ポジティブすぎるせつ菜ちゃんに爆笑。お料理をするシーンですが、せつ菜ちゃん以外のメンバーは、ピザを生地から仕込んだ彼方ちゃんを筆頭に、みんなそつなく料理をこなしています。ニジガクのみなさんの家事力の高さよ。優木せつ菜さんのスーパーポジティブはまあなんというか、見習いたいよね。ちょっと気になったのは璃奈ちゃんボード。スクスタでは璃奈ちゃんボードはデフォルトに装備されているものなのですが、アニガサキでは璃奈ちゃんボードは表現したいときに限って着用される追加装備なんですよね。10話ではかなり璃奈ちゃんボードの出番が多かったですが、これに関してはアニガサキが終わった後に、新たにアニガサキでの璃奈ちゃんボードについて考える必要があるかもです。

 

 さて、そんな合宿回の10話ですが、8話が一年生回だったとしたら、10話は二年生回とも言えるでしょうか。特に侑ちゃんと歩夢ちゃん、そしてせつ菜ちゃんにスポットライトが当たりながら、物語が進んでいきます。

 

侑と歩夢

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 歩夢ちゃん。

 10話では、歩夢ちゃんが侑ちゃんに抱える複雑な感情が描かれました。

 侑ちゃんと歩夢ちゃんは、同じ団地、同じマンション、となりの部屋に住む、幼馴染。そんな、超濃密な関係性です。

 彼女たちはこれまでいつだって一緒でした。小学校も、中学校も、そして高校も。1年365日を当たり前のように同じ空間で過ごし、全ての思い出を共有して、ここまで生きてきました。彼女たちから「熟年夫婦」感が強く漂うのも、実質的にパートナーのような生活を長い間続けてきたことから考えれば、至極当然なことと言えるかもしれません。虹ヶ咲学園に入学した2人。ラブライブ!の物語の特徴として、「主人公は高校2年生の段階から話が始まる」という点が挙げられると思います。始まるタイミングは、決して入学のタイミングではないわけです。彼女たちは、それぞれの理由でスクールアイドルに惹かれていき、部活動にのめり込んでいくことになります。

 彼女たちの物語もまた、2年生から始まります。そして、彼女たちの事情を表す言葉は、やはりこれだったと思うのです。

歩夢「でも、私たちもう2年だし、ふたりで予備校通うっていってたよね?スクールアイドルなんてやってる暇ないんじゃ......?」

 彼女たちは確かに、「大学受験」という問題を抱えているのです。これまで、ラブライブ!では限られた時間に関すテーマは取り扱われつつも、将来の進路に関することが大きく描かれてきたことは無かったので、非常に印象に残っています。

 

「出会い」と「別れ」

 出会いがあれば、また別れがあります。それは、生きている限りは、表裏一体のものです。そして、そのスパンはそれぞれでも、思ったよりもすぐに別離はやってくるのです。

 大学受験は、初めての「自己責任」での進路選択の機会です。小学校・中学校はもちろんのこと、高校も大概の場合は、自分の意思だけで選択されることは少ないように感じます。しかし、大学受験は違います。高校進学率は97%、大学進学率は58%。97%の人が同じ道を歩んできた人生も、高校を卒業するタイミングで一気に多彩に散らばっていきます。大学に行くか行かないかというのは、その選択の最も大きなものでしょう。ひとえに大学といってもたくさんありますし、それに専門学校という選択肢だってあります。大学に入学するにしても、学科を選ばなくてはいけないケースがほとんどです。高校を卒業して、大学を受験する。この瞬間は、私たちが初めて自分が何者になりたいのか、それを真剣に考え始める瞬間なのです。

 受験も就活も、信じられないほど早く始まってしまうものです。彼女たちは華の高校生活を過ごしながら、しかし予備校通いを始めることによって、確かにその決断へと歩みを進めていっているのです。そして、それはもしかしたら、18年ほぼ完全に時間を共有してきたお互いが、初めて別の道を進み始める瞬間になるかもしれないのです。

 

「何者」かになること

 ニジガクのメンバーは、それぞれ何者になりたいのかを追求してきました。そして、彼女たちはスクールアイドル活動、もっと広く表現するなら部活動の中で、自分が何者になりたいのかを考え、向き合い、まだ自信は持てないまでも答えを見つけてきたのです。それがバラバラなのは、むしろ当たり前のことでした。今彼女たちは、虹のように集まってカラフルに、スクールアイドルとして空を彩っているかもしれませんが、しかしいずれ確かにプリズムに触れたようにそれぞれの色に従って、ばらばらに拡散していってしまうからです。

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夢と希望にあふれた、私たちのライブ!

 それがもっともわかりやすいシーンは、楽しいパーティーの終わりのライブの話でした。「私たちのライブ」はどんなものになるのか。8人はそれぞれ、これまでの各当番回で見つけてきた答えをそれぞれ抱きしめて、それぞれのステージへのイメージを膨らませているのです。もう、彼女たちは準備万端でした。

 歩夢ちゃんの答えだけが異質なことは、鋭い皆さんはきっと気づいていることでしょう。

歩夢「ステージに立つだけで、胸がいっぱいになっちゃいそうだよ」

 ステージに立つ「だけ」。いまの歩夢ちゃんに想像できるのは、そこまで。まだまだ、歩夢ちゃんは自分が何者になりたいのか、それを見極められていないのです。

 ここで忘れてはいけないのが、侑ちゃんの答えです。

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それだけで、ときめき。

愛「ねえ、ゆうゆはどんなライブ見てみたい?」

侑「え?んー、私は......。みんなのステージが見られるだけで、ときめいちゃう」

  みんなのステージが見られる「だけ」でいい。まだ侑ちゃんにも、自分が何者になりたいのか、明確なビジョンはないのです。10話を観ると、どうしても侑ちゃんが一人でに成長していって、歩夢ちゃんが一人取り残されていたような状態がそれ以前からあったような感覚がありますが、きっとそうではないのです。侑ちゃんは3話までは多くの出番がありましたが、4話以降はすっかり影が薄くなってしまいます。それに、3話までの侑ちゃんは、まだ夢の手前に立って、かすみちゃんやせつ菜ちゃんの背中を押していたのであって、侑ちゃん自身が成長できていたわけではありません。2話から9話まで、8人が驚くようなスピードで成長していく中で、侑ちゃんと歩夢ちゃんは確かに、まだスタートラインにとどまっていたのでした。

 

限られた時間

 しかし、10話に入ってくると、状況は変わってきます。

侑「みんな、すごいなあ。自分のやりたいこと、すっごく分かってて。私も、なにか......」 

  侑ちゃんは、驚くほどの成長をみせるメンバーを見て、考えさせられることがあったようです。そもそも、侑ちゃんはアイドルでない以上、スクールアイドル同好会においての立場は曖昧です。自分が何者であるのか、それを一番示さなくてはいけないのは、侑ちゃんなのだと思います。

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侑ちゃんの、夢。

 10話を経て、侑ちゃんは自分の「夢」についに気づきます。10話が終わるときには、歩夢ちゃんと侑ちゃんのあいだには決定的な相違ができてしまっているのです。

歩夢「ねえ、侑ちゃん。ほんとうは今頃、二人で予備校行ってたかもしれないんだよね~」

「でも、やっぱりこうして一緒にいる」

「同好会に入るって決めた日のこと、覚えてる?」

侑「うん、もちろん」

歩夢「侑ちゃんがあの時、 私のスクールアイドルの夢を、一緒に見るって言ってくれたの、すごく嬉しかったな」

侑「スクールアイドルの夢、そっか。あの時、歩夢が勇気を出してくれたおかげなんだ。歩夢の夢を一緒に追いかけて、いまの私がいる。そして、みんなとも!」

歩夢「えっ?」

侑「まわりにどんどん輪が広がって、いつのまにか、スクールアイドルが好きな人たちで、すごく大きな力が生まれてた。ありがとう、歩夢」

「私も勇気を出して、いまの自分にできること、やってみる!」

  噛み合わない会話。この後、ひとりだけ取り残される歩夢ちゃんを横目に、侑は「スクールアイドルフェスティバル」の開催を宣言します。これは、侑ちゃんが8人と同じように、自分の夢を見つけて、そして自分が目指す何者かに向かって駆けだした、そんな独り立ちの時でもありました。

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ひとり、取り残される。

 侑ちゃんと歩夢ちゃんが噛み合わなかった理由は、歩夢ちゃんは「侑ちゃんが自分の夢を一緒に見てくれる」ことを望んでいるのに対して、侑ちゃんは「(みんなの)スクールアイドルの夢を一緒に見たい」と思っているということです。

  なにより、歩夢ちゃんがここで「予備校に行くはずだった」という話を戻してくるのが、すごく面白いと思うのです。このことは、確かに1話で心に残ったフレーズではありましたが、侑ちゃんも、そして視聴者の私たちも、すっかり忘れてしまったことだと思います。思えば、お皿洗いのシーンもそうですね。一緒にお皿洗いしたのが中学校の時なのかそれとも小学校の時なのか、私たちにはそれほど重要な問題ではないように思えます。それに、侑ちゃんは「ずっと一緒にいるかも」という歩夢ちゃんの発言を否定していないのです。

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おしどり夫婦の揃わない足並みは、外からはわからない。

 一連の歩夢ちゃんの行動を愛が重すぎる(メンヘラ)などと呼ぶむきもあるようですが、私は歩夢ちゃんの行動を突き放してしまうのではなく、上原歩夢という女の子を理解したい、そんな気持ちでいます。ここは、歩夢ちゃんの文脈を考えてみましょう。

 「予備校に行くはずだった」のと、「スクールアイドルをして、一緒にいる」ということは、歩夢ちゃんの中では対置されています。つまり、予備校に行くということは、歩夢ちゃんにとっては侑ちゃんと離れてしまう可能性があるということなのです。それは、すでに話してきたとおりです。予備校に行くといくことは、進路を考えるということと同義です。いつも侑ちゃんと一緒にいる歩夢ちゃんは、侑ちゃんが必ずしも歩夢ちゃんと同じ道を選ばないかもしれないということに無意識か意識してか、気づいていたのかもしれません。

 しかし、彼女たちが入部した「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」は、みんなが「それぞれの夢」を目指す場所でした。かすみちゃんから果林ちゃんまで、8人がそれぞれの夢を見つけていくなかで、侑ちゃんも自分の夢を見つけなくてはという意識が芽生えていきました。そして、侑ちゃんは自分の夢を、ついに見つけたのです。

 「大好きな人とずっと一緒にいたい」という歩夢ちゃんの想いは、誰でも持っているものだと思います。それに、ときにそう言った想いを抱えきれずに、壁にぶつかってしまうこともあるものです。

 それでも、これは歩夢ちゃんにとって絶対に逃げられない問題です。そして、きっと歩夢ちゃんの思う通りにはならないかもしれません。どれだけ長い時間一緒でも、どんんなにたくさんの思い出を積み重ねても、向き合わなければならない絶対的な真実。それは―

「どんなに仲良しでも―たった一人きりの友だちでも、きみはクリスマス・イブは家族で過ごした。それと、同じだ」

                      重松清『きみの友だち』 

  誰かにとっての何かでいたい。誰にでも普遍的にある欲求です。しかし、「誰かにとっての何かである」というのは、すごく難しいことです。「友だち」でいること。「恋人」でいること。「家族」でいること。「夫婦」でいること。そして、「自分」でいること。私たちの持っている時間は有限です。有限の時間しか持っていない私たちは、自分で物事に優先順位をつけて、日々を過ごしていきます。私たちは、望みの全てを叶えることはできません。「無限」も、「永遠」も、そこにはありません。そして、私たちはどんな言葉でその関係を表しても、結局は他人なのです。私たちは生きていく上で、「時間が有限」であること、そして「人間は結局一人」であることを、嫌と言うほど実感しながら生きていきます。それほど、私たちの人生は、「出会い」と「別れ」に溢れているのです。

 

夢は別れのプレリュード

 きっとこれから侑ちゃんと歩夢ちゃんは、その事実と折り合いをつけていくのでしょう。このことを「大人になる」と簡単な言葉でまとめてしまうのはやめておきます。「限られた時間」は、ラブライブ!を通底する大きなテーマの一つです。それぞれの夢を目指す彼女たちもまた、ラブライブ!の世界を生きているのです。

 彼女たちが「夢」を抱いた時、同時に彼女たちの背後には「別れ」が忍び寄っています。「3年生の卒業」という別れにμ'sやAqoursが向き合ったのと同じように、彼女たちもまた夢を抱いたが故の別れと向き合っています。そして、この別れは、1年の積み重ねからの別れではありません。16年という長い歳月をかけて築き上げてきた関係が相対化されるのです。歩夢ちゃんに、すぐその残酷な事実を受け入れろというのは酷でしょうし、彼女たちはぶつかり合って、間違いに気づいて、そして成長していくのです。

 

侑とせつ菜

せつ菜「あの、いつか侑さんの大好きが見つかったら、今度は私に応援させてください」

侑「私の?」

せつ菜「はい、侑さん自身の、大好きを」

  10話で歩夢ちゃんを置いて成長した侑ちゃん。その成長の陰にはどんな背景があるかと言ったら、それは明らかにせつ菜ちゃんでしょう。

 これまでも、アニガサキの各話では、担当回のメンバーに関わらず細やかなところまで「成長」が描かれてきました。10話でひときわ成長をみせるのは、侑ちゃんと、それからせつ菜ちゃんです。合宿をするにあたって、始めは頑固に「練習」することを求めてきたせつ菜ちゃんも、物語を追うごとに少しづつ柔らかくなってきます。そして、せつ菜ちゃんが音楽室でかけた言葉こそが、侑ちゃんを新しい夢へと導いたのです。

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夢を見つけた9人と、ひとり。

 これまでも、同好会のメンバーはそれぞれ影響しあうことによって成長してきました。10話における侑ちゃんとせつ菜ちゃんの成長も、また同じものです。だからこそ、歩夢ちゃんの足踏みは目立ちます。侑ちゃんしか見えていない歩夢ちゃんには、他のメンバーと影響しあって成長することは難しいのかもしれません。

 一方、そんな歩夢ちゃんを置いて、侑ちゃんは2つの夢へと走り出します。一つは、スクールアイドルフェスティバルを開く夢。これは、同好会みんなの夢でもあります。もう一つは、侑ちゃん自身の夢。そして、その全貌はまだ明らかになっていません。しかし、そのヒントは音楽室のシーンにたくさん散らばっています。

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それは、あの時と同じように見えて、流れる想いは逆向きな、そんな時間。

せつ菜「ピアノ、随分上手になりましたね」

侑「ううん、まだまだだよ。いっぱい練習したら、もっと上手くなるかなあ」

せつ菜「 私も、歌やダンスを、何度も練習しました」

侑「何度も、か。やっぱり、何事も練習あるのみだね!」

  ピアノはある程度は幼いうちから始めないと、大人になってから習得するのはなかなか難しい......と、そんな現実的な話ではなく、しかしなかなか現実的な感じを受けるレベルで、侑ちゃんはピアノが弾けるようになりました。しかし、侑ちゃんは褒めるせつ菜ちゃんに対して「まだまだ」と答えています。これは、本気で上手くなろうと思って努力した人でないと出ないセリフです。自分が努力して今の現在地にたどり着いたことを分かっているからこそ、更に高みを目指すためにはもっと努力を重ねる必要があることを知っているのです。

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音を奏でる。そんな夢。

 侑ちゃんの夢、それはきっと、音楽に関することで、そして、ピアノをうまくなったら、近づいていくことができる夢.......。みなまでは言いませんが、スクスタでの音楽科から普通科へと設定が変更になっている侑ちゃんが目指す「音楽の夢」。そして、それを拒む歩夢ちゃん。これからどんな話になっていくのか、想像は膨らむばかりです。

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美しい月あかりは、二人の未来をどう照らすのか。

 

※引用したアニメ画像は、特に表記が無い場合、すべてTVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』(©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会)第10話より引用。

参考文献:重松清『きみの友だち』 新潮文庫 2005

ライバルで仲間 TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』視聴レポート #9 「仲間でライバル」

TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』視聴レポート #9 「仲間でライバル」

 

ライバルで仲間

 

 

※当記事は、TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』のストーリーに関するネタバレ、あるいは、アプリ『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバルオールスターズ』のストーリーに関するネタバレを含みます。アニメ未視聴の方、アプリ未プレイの方は、予めご了承ください。

 

↓第8話の記事はこちら

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 こんにちは。こばとんです。

 アニガサキ9話は「仲間でライバル」。9人目の個人回となった果林ちゃん回ですが、ここで虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会自体のコンセプトテーマを持ってくるのには驚きました。てっきり最終話くらいのタイトルに持ってくるものかと......。

 こうなってくると、これからの計4話(だよね?)で、何を描いていくのかが俄然気になります。これまで一人づつ繊細に、丁寧に、鮮やかに。9人それぞれを描いてきたアニガサキですが、その分「全体のテーマ」は少し見えにくくなっている感じもして......。その点、十人十色の同好会メンバーはそれぞれ個人を尊重して、「仲間でライバル」であるということは大きなテーマの一つかな?と思っていたので、ここで回収するのは少しびっくりでした。これから先、どんな物語を展開していくんでしょうか。これまでの8話を通じて、アニガサキへの期待と不安はすっかり信頼へと変わっているので、ただ楽しみに待つのみです。やっぱり鍵を握るのは「高咲侑」ですかね?

 アニガサキがこれだけ上手だと、もう伏線は綺麗に万全に張られている可能性もあるのですが......。ブログを1話づつ書いていくスタイルでは、どうしてもそのあたりの視点は曇ってしまう面があることは確かです。これに関しては、アニガサキ視聴レポート完走後にいろんな視点でアニガサキを串刺しにした記事を書きたいと思っていますので、乞うご期待ということで。きっと、アニガサキが終わったら巨大な喪失感とすっかりルーティンになった生活習慣で筆が止まらない気がします。

 さ、9話ですよ9話!とある事情からちょっと正気を保てる気がしませんが、早速おはなしを始めましょう!

 

ニジガクの現在地

 9話自体の物語に入る前に、少し現状整理をしたいと思っています。

 と言うのも、この9話というのはこれまでの個人回の結論でもありますが、この後のストーリーのはじまりでもあるからです。次回の10話は予告で見た通り合宿回で、10人全員、同好会全体の話になっていく可能性も高く、少なくともここで話の潮目が変わることはたしかでしょう。

 9話では、同好会が新たなステップに進む回であるだけに、アニガサキの世界全体の解像度がちょっと上がった気がします。

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圧倒的強者感のある東雲学園。

 まずは、スクールアイドル界の事情です。既に7話で彼方ちゃんの妹、遥ちゃんが登場し、スクフェスの転入生がそれぞれ所属していた学校がスクールアイドル部を擁し、活動していることは分かっていました。遥ちゃんの所属する東雲学園は少なくとも虹ヶ咲よりはかなり格上の強豪校です。しずくちゃんの所属する演劇部の合同演劇祭で、藤黄学園の存在が明らかになりました。藤黄学園にもスクールアイドル部があり、こちらも東雲と並んでかなり強豪のようです。

 実家より長い時間を過ごしているオタクも多そうなお台場ゲーマーズのシーンでは、スクールアイドルのグッズが販売されている様子です。この商品たちが合法なのかという疑問は置いておいて、スクールアイドル自体がそれなりの人気を持っていることがわかります。ただし、東雲学園や藤黄学園のスクールアイドルのグッズはある一方で、虹ヶ咲学園のスクールアイドルのグッズはありません。明らかに両学園に対して虹ヶ咲学園の知名度が、現状劣っているということが示されています。

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彼女たちのグッズは、まだ無い。

果林「ねえ、あなたのグッズはないの?」

せつ菜「え?ないですよ~。ちょっと悔しいですけどね。いつか私たちも、ここに並べるようになりたいです」

 せつ菜ちゃんの向上心溢れる発言に笑みを浮かべる果林ちゃんが印象的なシーン。ここでの発言から、優木せつ菜というスクールアイドルが同好会内でもその知名度、人気、経験において一歩先を行くことが分かります。明らかに果林ちゃんにとってせつ菜ちゃんは「スクールアイドルの先輩」なわけです。『先輩禁止』や『ダイヤさんと呼ばないで』で明確に年齢差などでの立場の違いを一掃し、横一線であることを強調した前作・前々作との違いが表れている気がします。彼女たちはやはり「個」としてスクールアイドル同好会に所属しているわけです。

 

 一方、スクールアイドルの音楽界での立ち位置も興味深いものがあります。

 9話で、果林ちゃんがステージに立つ「ダイバーフェス」。動員3000人の(微妙に少ない気もするけど?)大規模音楽イベントは、次のように紹介されます。

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ダイバーフェスにおいて、スクールアイドルは一つの枠を得ている。

侑「ダンスミュージックにロックにポップス、それにスクールアイドル。ほんとうにいろんな音楽が集まってるんだね~」

 この世界には「スクール」じゃないアイドルはいないのか?という疑問は置いておくとして、アニガサキの世界ではスクールアイドルは音楽の中の1ジャンルとして確立されていることが分かります。前々作、前作ではスクールアイドルは未発達のジャンルで、部活動自体への理解を得ることが出来なかったり、スクールアイドル自体の知名度を広げていったり。まだまだ「スクールアイドル」というジャンルが発展途上で、それが広がっていく様子も同時に描かれてきました。しかしアニガサキの世界においては、「スクールアイドル枠」が確保され、既にスクールアイドルは他の音楽ジャンルと並び称されるほどのアプリオリな概念です。

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「スクールアイドル」は、アニガサキの世界で燦然と輝いている。

 そもそも、「スクールアイドル」という言葉はラブライブ!の世界の中だけに存在する、この世の中には存在しない言葉です。ラブライブ!を知らない人からしたら、そんなリアリティーのない話、と思われても仕方ないくらいにフィクションです。アニガサキは前々作・前作との具体的な時系列は全くもって不明ですが、しかしそういう意味で全く状況は違うと言えるでしょう。スクールアイドルがあたりまえの世界を彼女たちは生きています。スクールアイドルがあたりまえになったのは、物語の中でも、私たちの中でも、偉大な先駆者たちのおかげです。そして、スクールアイドルの存在があたりまえだからこそ、彼女たちの物語は「スクールアイドルの物語」ではなく、「スクールアイドルに挑む一人ひとりの物語」として高度に成立しているんじゃないか、そう思うのです。

 

 仲間だけどライバル

 9話の物語の扉を開くのは、意外な人物でした。

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現れたのは......?

 そう、東雲学園の近江遥ちゃんと、そして、藤黄学園の綾小路姫乃ちゃんです!

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遥ちゃんと姫乃ちゃんは、ある提案を持ってきた。

 改めて説明すると、彼女たちはアプリ「ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル」のモブスクールアイドル「転入生」のメンバー。もとはと言えば、この虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会も転入生選挙の上位三人(しずく・エマ・彼方)を軸に始まったプロジェクトなので、彼女たちはかつての仲間あるいはライバルといった立ち位置でしょうか。

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かわいい....................。

 綾小路姫乃ちゃん、とっっても可愛くないですか?

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これが、アニガサキ品質......!

 唐突にすみません.......。いや、でもやっぱり、可愛くないですか?姫乃ちゃん。その麗しき横顔は、アニガサキ品質の作画によって国宝級の美しさを手に入れています。薔薇の髪飾りと艶やかな黒髪の素晴らしきマリアージュ。落ち着き払った声と凛とした立姿。これはまさに、「立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花」ってやつでは?それからさあ、スクールアイドル衣装めっちゃいいじゃん。その黄色のかわいらしい衣装を着るとイメージが変わってやばい。少ない登場機会で見事にギャップまで織り交ぜてくる隙の無さ。あとさあ、美咲ちゃんと並んだ時の身長差!!!!!コンパクトサイズな姫乃ちゃんがかわいい!なにそのいじらしい反応!頭なでなでしたいぞ、よしよし。

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愛おしい身長差。

 —こほん。

 推しのひとりなんです、姫乃ちゃん。彼女たちは、まだAqoursが産声を上げる前からずっと私たちの近くにいたわけで、その分愛着も強いものがあります。「動いてる!」「しゃべってる!」と、いちいち感動しているのです。

 せっかくですので、綾小路姫乃ちゃんのご紹介を。藤黄学園でスクールアイドルをする彼女は、華道部との掛け持ち。和服に身を包む少女ですが、写真が趣味でもあります。アニガサキでは穏やかな雰囲気を醸し出していますが、スクフェスでは意外と活発。スクールアイドルとして恥じらいをみせることも少なく積極的で、努力を重ねて「天下」を取ることを目指しています。

 

 そんな彼女が、1年生にして東雲学園のセンターを射止めた超大型新人の遥ちゃんと一緒に、虹ヶ咲学園までやって来たのです。その目的は、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会に、音楽イベント「ダイバーフェス」への出演を依頼しにくる、というものでした。「ライブがしたい」。ライブの機会を渇望する彼女たちにとって、動員3000人のフェスへの出演依頼は、1マス飛ばすどころか10マスくらいすっとばしたほどに願ってもない貴重な機会でした。かすみちゃんが食い気味の反応を見せていますが、きっとそれはメンバー全員が同じ気持ちだったでしょう。

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遥ちゃんは、ほんとうに優しい子だと思います。

 しかし、遥ちゃんは冴えない表情を浮かべます。彼女が申し訳なさそうに伝えたのは、「スクールアイドル枠で披露できるのは3曲、よって虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会が披露できるのは1曲」という、ごく当たり前の事実でした。しかし、遥ちゃんは同好会に実質体験入部までして、姉からきっと逐一活動の様子を聞いて、内部事情を知っている人間です。このあたりまえの事実は、彼女たちの事情に照らし合わせれば深刻な問題でした。ソロアイドルである彼女たちには、ステージに立つ1人を選ぶ必要が、裏を返せば、ステージに立てない8人を決める必要があったのです。

 

 「ソロアイドル」。4話でも葛藤が描かれた通り、彼女たちは「ソロアイドル」のもつ問題から目を背けていたわけではありません。しかし、遥ちゃんと姫乃ちゃんが持ってきた話によって、彼女たちは否応なくその問題と向き合う必要に迫られたのです。

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絆は、遠慮を生んでしまった。

 これまでの8話でしっかりと同好会メンバーの絆が深まってきただけに、この問題は治りかけた古傷に塩を塗り込まれるように痛く、辛い問題でした。彼女たちは決してかつての同好会廃部の危機を忘れたわけではなく、かつその上に新しく絆を積み重ねてきたのです。「くじ引き」といった日和見的な選択肢が上がるのは、決して甘すぎることとはいえないと思います。

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果林ちゃんは、見ているところが違う。

果林「互いに遠慮しあった結果運頼み。そんなのでいいわけ?」

「衝突を怖がるのはわかるけど、それが足枷になるんじゃ意味ないわ。それで本当に、ソロアイドルとして成長したと言えるの?」

 「仲間」だけど、「ライバル」。彼女たちはその現実を突きつけられて。戸惑いました。しかし、果林ちゃんだけはシビアは反応を見せました。これだけシビアでサバサバしているのは、果林ちゃんだけが持っている強さ、魅力と言えるでしょう。少なくとも果林ちゃんがこの時厳しく現実を示さなければ、日和見的な姿勢はそのままに、いつまでも流されていってしまったでしょう。「ソロアイドルとしての成長」は、明らかになれ合いの環境では達成されません。4話で既に言及された通り、ソロアイドルは一人でステージに立つのです。誰も、ステージ上で助けてくれる人はいません。私も少しだけ経験がありますが、ステージでの孤独感というのは相当なものです。「みんなのこと見えてるよ」というアイドルのコメントは、それが積み重ねた練習と、努力と、経験に裏打ちされた自信があるからこその視野と余裕です。それを当たり前と思ってはいけないと思います。スポットライトを浴びた瞬間、全てが真っ白になってしまうことだってあります。もう後にも先にも進めないくらい混乱するときもあります。それでも、時は止められないのです。仲間が同じステージにいないなら、なおさらです。一度ステージに立ったら、ステージを降りるまで「待った」は許されません。それに、時間は限られていますから、やり直しも効かないわけです。ファンの力を除けば、ステージ上では自力救済しかありえません。一人でステージに立つ分、グループで活動する東雲学園や藤黄学園のひとりひとり以上のパフォーマンスが出来なければ、本来話にならないわけです。同好会の中でも、お互いがライバルとして常に切磋琢磨するからこそ、さらなる成長が見込めるのです。衝突を怖がる甘さが足枷になるというのは、そういうことです。

 姫乃ちゃんも、このことを良く分かっていたようです。

姫乃「私は、一人でそこに立ち向かうあなたを尊敬しているんです」

 この言葉は、「ステージに立つ」というのがどういうことかを知っている、経験豊富な姫乃ちゃんだからこその言葉でしょう。しかし、この言葉は思わぬ力をもって、果林ちゃんを追い詰めてしまうことになるわけです。

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すれ違う二人の心。

 

ライバルだけど仲間

  綾小路姫乃ちゃんについて長々と紹介したのは、決して私の私利私欲によるものではありません(ほんとか?)。なぜなら、姫乃ちゃんはこのストーリーの中で、欠かせない存在だと思うからです。

 逆説的な話ですが、このストーリー、姫乃ちゃんがここまで出なくても十分成立すると思いませんか?

 もちろん虹ヶ咲学園をダイバーフェスに推薦してくれたのは姫乃ちゃんの力ですが、その後に直面する「ソロアイドル」の問題のはもともと避けられない彼女たちだけの問題です。果林ちゃんの方向音痴だったり、可愛い側面が同好会のメンバーに少しずつバレていって、果林ちゃんが素直になれていくのも、さらに言えば、果林ちゃんが一人でステージ立つ怖さに改めて怖気づくのも、それは同好会と果林ちゃんの問題です。同好会としても、果林ちゃんとしても、向き合うべきして問題と向き合い、それを乗り越えていくのです。

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方向音痴な可愛い果林ちゃん

 しかし、姫乃ちゃんはとても印象的に物語に挿入されています。それは、この物語において綾小路姫乃という人物が、すごく重要な意味をもっているからです。

 8話のラストでは、わざわざ不穏な印象を受ける劇伴を使ってまで、「怪しい存在」として藤黄学園の二人を登場させます。9話冒頭でも、8話でしずくとかすみが向き合った教室のシーンの劇伴を使って、やはり観客の不安をあおります。明らかに危ない存在、もしかしたら敵なんじゃないかと思わせるような雰囲気で、綾小路姫乃は物語に登場します。視聴者の多くが、少し身構えるように姫乃ちゃんに向き合っていたでしょう。

 不安は、ある意味では的中します。先述したステージ裏での果林ちゃんと姫乃ちゃんが邂逅するシーンでは、姫乃ちゃんの言葉は果林ちゃんの不安を増大させ、果林ちゃんをステージから逃げようとするほどに追い込んでしまいました。

 果林ちゃんは、明らかに姫乃ちゃんのことを意識しています。

果林「遥ちゃんはともかく、綾小路さんは、好意だけで私たちを誘ったわけではないでしょうね」

 璃奈ちゃんと彼方ちゃんは、意外そうな反応をしています。彼女たちの中には、そういう意識はなかったのでしょう。しかし、9話を見ている私たちは、きっと果林ちゃんの気持ちに近かったのではないでしょうか。それは間違いなく、劇伴の魔法です。私たちは、巧妙に仕組まれた劇伴と演出にまんまと騙されていたのです。

 

 この不安感は、果林ちゃんのライブ後のシーンでちゃぶ台返しのように見事にひっくり返されます。

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「魔法」が解ける。

姫乃「素敵です......」

美咲「見られてよかったわね、果林さんのステージ。モデルデビューした時から大ファンって言ってたもんね」

姫乃「もう!美咲さんからかわないでください......!」

  この瞬間、魔法が解けます。あれだけ手強そうだった姫乃ちゃんは、一人のかわいらしい女の子だったのです。身長の高い美咲ちゃんと並ぶ姫乃ちゃんは、むしろ守りたい可愛さに溢れていて、驚くほど怖くなんかないのです。

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それは「推しとの対面」だった。

 魔法が解けたところで、話を巻き戻してみましょう。9話を後ろから見ていく作業です。すると、驚くほどに、姫乃ちゃんの発言に悪意が無かったことがわかっていきます。果林ちゃんがプレッシャーを感じてしまった舞台裏のシーンでも、姫乃ちゃんは終始笑顔で尊敬の念を伝えているだけです。むしろ、モデルデビュー時から追いかけているという超古参ファンの姫乃ちゃんにとっては、推しに会える貴重で短い時間に精いっぱい「尊敬」の気持ちを届けた、という方が適切でしょう。

 もはや「綾小路さんは、好意だけで私たちを誘ったわけではない」というシーンには、ちょっとクスッとしてしまいます。なんといっても、姫乃ちゃんは果林ちゃんのことが大好きなファンに過ぎません。もちろんスクールアイドルとしては「ライバル」であることは間違いありませんが、果林ちゃん個人に対して姫乃ちゃんがそれによって悪意を発動するというのは、明らかに考えすぎでしょう。果林ちゃんの自意識過剰といってもいいかもしれません。姫乃ちゃんが、推しのステージを見るために根回しして虹ヶ咲学園をダイバーフェスのステージに立たせようとした壮大な愛の計画を実行に移していたことを考えれば、果林ちゃんの虚勢は滑稽にすら見えます。

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笑顔に、偽りはなかった。

 まだまだ巻き戻して、冒頭のシーン。ダイバーフェスに虹ヶ咲学園を招待する遥ちゃんと姫乃ちゃんですが、やはりこのシーンでも悪意はまったく感じられません。叶わぬ願いですが、劇伴の音量だけを消すことができたら、もっとわかりやすいかもしれません。むしろ、このステージが彼女たちにとってマイナスな面もあることを主張するのは遥ちゃんの方で、姫乃ちゃんはネガティブなことは一言も言っていません。むしろ、心配そうな遥ちゃんを横目に、姫乃ちゃんは一歩前に出てまで彼女たちの背中を押そうとしています。姫乃ちゃんの中には、どう考えたって罠にかけようかという悪意は含まれていないのです。

 では、なぜ果林ちゃんは姫乃ちゃんをあわよくば「敵」だと思ったのか。それは、私たちの心の中に問いかけるためで十分なはずです。さっきまで私たちも、「魔法」にかけられて、姫乃ちゃんのことを心のどこかで警戒していませんでしたか?果林ちゃんも同じです。それは、誰にでも起きうることなのです。私たちは、どうしても物事に対して先入観をもってしまいます。それは、決して完全に逃れ得るものではありません。人に対して素直になるということは、これほどにまでも難しいのです。競争激しい読者モデルの世界で生きてきた果林ちゃんは、みんなが「ライバル」だと、決して誰もが好意を持っていないと、いやむしろ悪意を持っていると考えた方がいいと、そう学んできたのです。それは、果林ちゃんの中に先入観の高い壁を築き上げてしまいました。彼女は、このシビアさ故に同好会にソロアイドルは「仲間だけどライバル」であるという事実を教えることができましたが、一方でこの先入観故に「ライバルだけど仲間」ということに気付くことができなかったのです。人が「優しさ」をこれでもかと与えてくれても、私たちは素直になれなければ、それを受け取ることすら叶わない危険性を秘めています。姫乃ちゃんと、それからこのあまりに見事に計算された脚本と演出は、それを私たちに「実体験」させることで教えてくれるのです。

 

 自分を守るために築き上げた、高く冷たい氷の壁を崩すことができるのは、暖かなこころだけです。

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まだ果林には、必死に守っているものがある。

 5話で、エマちゃんによって開かれた果林ちゃんの心ですが、それはほんの入り口でしかなかったわけです。5話と同じように腕を抱える果林ちゃんには、まだまだ高い壁を作って守っているものがあります。だからこそ、果林ちゃんは姫乃ちゃんを意識しすぎるあまりに、プレッシャーに押しつぶされてステージに立てなくなりそうになっているのです。

 どうすればいいかって、もう答えは出ています。「ぽかぽかに」してあげればいいのです。そして、もうそれはエマちゃんだけの仕事ではありません。果林ちゃんには9人の「仲間」がいるのです。彼女たちはたしかに切磋琢磨して譲り合いはしませんが、しかしそれぞれの舞台に向かう時は確かに暖かい絆をもってお互いを応援できる、そんな仲間たちです。

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「Forza!」は、彼女たちのカタチ

 円陣が、みんなの団結力を上げるためのカタチだとしたら、ソロアイドルのニジガクには不向きです。9人の想いを、一人に託す。彼女たちのカタチは、ハイタッチです。一人一人は円で等しく繋がっているのではなく、線でそれぞれ繋がっています。その9色の線を一つに束ねて、想いを乗せてステージで歌うのが、選ばれた者の使命です。優しさによって、ぽかぽかな温度で繋がっている彼女たちの線を束ねているかぎり、ステージに立つ果林ちゃんは一人ではありません。

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「仲間でライバル」なのは、きっと9人だけじゃなくて。

 もっと言えば、果林ちゃんにはもっと多くの想いが乗っています。果林ちゃんのステージを心待ちにしていた姫乃ちゃんの気持ちも。そして、ステージの前にいる観客もまた、パフォーマンス次第では力になります。10人の想いを乗せた果林ちゃんは、色とりどりの観客席をロイヤルブルー一色に染めてみせました。この瞬間、果林ちゃんはもう何百、何千もの想いを乗せて、優しさを受け取って、誰よりも力強く、ステージに立っているのでした。 

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果林「仲間だけど、ライバル。ライバルだけど、仲間!」

 高い氷の壁を全てとかしきった果林ちゃんが見たのは、地球上のどこよりもあたたかい、ロイヤルブルーの海でした。「仲間でライバル」。新しい、彼女たちだけのカタチを示したニジガクの船は、いまその海へと漕ぎ出していくのでした。

 

P.S.

  「ライバルだけど、仲間!」のとこの果林ちゃんの声、力が入っていて泣けました。名演技だ.......。

 『VIVID WORLD』、大好きな曲です。ところで、この「ダイバーフェス」ですが、去年参加したバンダイナムコフェスティバルのGuilty Kissのステージを思い出しました。

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 どんな内容だったのかは上記の過去記事を参照してほしいのですが、とにかくギルキスのステージが圧巻だったんですよね。大人数で勢ぞろいしているアイドルマスター勢に比べればユニット一組のラブライブ!は目立たなくて、まさに「アウェー」だったんですけど......。とにかく、彼女たちのパフォーマンスは圧巻でした。自分たちの魅力全てをぶつけるステージ。歌にダンスに楽曲に、全てにおいて「この会場の全員を虜にしてやる」という気迫すら感じました。きっと果林ちゃんのステージもこんな感じだったんだろうな。

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「相乗効果」のステージを前にしたら、こんな感じになるのも分かるよ。

 それから、フェスって面白いんですよね。ワンマンライブとは全く違った面白さがあります。なにより、相乗効果がすごい。違うアーティストと共演する相乗効果もそうなんですけど、まったく違う背景をもったファンと、アーティストとの相乗効果がまた面白いんです。オタクってよく、コンテンツを知らない人の反応に興味があったりするじゃないですか。あれがライブでできるんです。普段の私たちなら気づかないところに気付いたり、想像しない反応があったりする。そんなイレギュラーが楽しめるのも、フェスの大きな魅力だなあ、と思ったりします。

 さて、来年の2月には2回目のバンナムフェスが開催され、そこにはニジガクも呼ばれています。もうわかりますね?そう、決して出番は多くないんですけど、出来れば見て欲しいと思います。侑ちゃんと同じように「トキメキ」を感じることが、きっとできるはずです......!(配信もあるのでぜひ!)

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バンナムフェスへ走ろう!トキメキに向かって走っていく、侑ちゃんのように!

 

※引用したアニメ画像は、特に表記が無い場合、すべてTVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』(©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会)第8話より引用。

無敵級*アクトレス TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』視聴レポート #8 「しずく、モノクローム」

TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』視聴レポート #8 「しずく、モノクローム

 

無敵級*アクトレス

 

 

※当記事は、TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』のストーリーに関するネタバレ、あるいは、アプリ『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバルオールスターズ』のストーリーに関するネタバレを含みます。アニメ未視聴の方、アプリ未プレイの方は、予めご了承ください。

 

↓第7話の記事はこちら

tsuruhime-loveruby.hateblo.jp

 

プロローグ

 お久しぶりです。こばとんです。

 アニガサキの視聴レポートは2話以来、答えを出していくのではなく、自分なりに「物語」を再構成するような形で書いてきました。うまくいったところ、いかなかったところ。いろいろあると思いますが、今回は少し力を抜いて、より感覚的にお話していこうと思います。せっかくだし「仮面を外して」ね。よろしくお願いします。

 8話はしずくちゃんの担当回でした。第1話で部長の存在が示され、またなかなかに男性的なキャラクターで描かれたこともあって、いろんな想像(妄想?)が各人の心のなかにあったと思います。スクールアイドルと、演劇。それを天秤にかけるような、そんな話かな、なんて想像も......。

 でも、実際は違いました。

 個人的な印象ですが、アニガサキはとにかく「自分の中の問題」を描いていく物語だと思っています。それぞれの問題は、それぞれの中にある。それは誰かが外側から何かをしてあげれば途端に雲散霧消するような、そういう問題ではないんですよね。だからこそ、パーソナルスペースを維持しながら、そっと寄り添う。時に背中を押して、時に話を聞いて、そうやって隣にいることで、自分で答えを見つけていける。みんなが違う夢を目指しているけれど、でも同好会のみんなが必要。そんな物語かなあって。

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主役を、かならず取り返す。

 そして、8話でしずくちゃんが向き合うのも、自分の問題。失った主役を取り返すために、あがいてもがく、そんな演劇が大好きな桜坂しずくの物語......。さあ、さっそく物語のページをめくっていきましょう。

 

特別な人

 第6話のレポートで、私はこんなことを書いていました。

出会ったときから、表情がなくとも、璃奈の気持ちを正確に把握できた愛。愛はまさに璃奈にとって、唯一無二の特別な存在だった。別に、愛が人の気持ちを読み取れる特別な能力を持っているとか、そういうことではない。これができる人は、璃奈にとって愛しかいない。璃奈にとって愛は「特別な人」なのだ。

向き合う顔が、笑顔なら TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』視聴レポート #6 「笑顔のカタチ(⸝⸝>▿<⸝⸝)」 - こばとんの徒然日記

  「特別な人」。璃奈ちゃんを新しい世界に導いてくれたのは、表情がなくとも璃奈の気持ちを完璧に理解してくれる愛ちゃんでした。愛ちゃんは翻訳者として、璃奈ちゃんの感情を受け止め、理解し、翻訳して、璃奈ちゃんの背中を押して外の世界へと連れ出してくれたのでした。そして、第6話では、そんな璃奈ちゃんが愛ちゃんがいない場所で、はじめて「友だち」を作る。そんな璃奈ちゃんの自立のお話だったわけです。

 8話におけるしずくとかすみの関係は、まさにこの「特別な人」なのだと思います。しずくちゃんにとってのかすみちゃんは、璃奈ちゃんにとっての愛ちゃん。その証拠は、8話の前半に散らばっています。

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かすみちゃんは、すぐしずくちゃんの異変に気付く。

 演劇の自主練をしながらどこか落ち込むしずくちゃんに、かすみちゃんは違和感を覚えます。「しず子がおかしい」。そう思ったかすみちゃんは、じっとしずくちゃんを観察しています。

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しずくちゃんのこの表情も、きづいたのはかすみちゃんだけ。

 演劇部の話になった途端に、怯んだような表情をみせるしずくちゃん。かすみちゃんを除く8人には、しずくちゃんの異変に気付く感じはありません。

璃奈「しずくちゃんの様子がおかしい......?」

かすみ「うん。なんかね、いつものしず子よりも、しゅーんって感じで......」

璃奈「うーん。そうだったような、そうじゃなかったような......」

  璃奈ちゃんもまた、しずくちゃんの様子がおかしいことに確証はないようでした。結果的には色葉、今日子、浅希の三人から降板の話を聞いて、かすみちゃんの違和感は確証に変わるのです。

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かすみちゃんの勘は、確証に変わる。

 かすみちゃんだけがしずくちゃんの異変に気付くことができるのは、かすみちゃんがしずくちゃんの「特別な人」だからです。どうしてその人が自分にとって「特別」なのか、それに理由はありません。もし突き詰めればなにか理由がわかるかもしれませんが、大切なのは理由ではなく、その人が「特別な人」であるということです。そして、「特別な人」は、誰よりも「大切な人」でもあります。

璃奈「私の時は、愛さんが、ぐいって引っ張ってくれた。みんなが、励ましてくれた。だから、ライブができた。私には、愛さんがいた、しずくちゃんには.......」

かすみ「私、行ってくる!」 

  寄り添うことは、理解してあげることは、出来る。でも、内面にまで踏み込むことは、言葉を越えた想いを伝えることは、「特別な人」にしかできない。しずくちゃんを引っ張ってあげられる人は、かすみちゃんしかいなかったのです。

 

それぞれの仮面

  「仮面」。それは、8話のキーワードでもあり、また1年生のキーワードでもあります。

 しずくちゃんは、昔の映画や演劇が好きという趣味が周りから、「変な子」と思われたり、嫌われないために、いい子を演じてきた。本当の自分を隠していたのです。「いい子」の仮面をかぶり、演じ続ける。それが、桜坂しずくという女の子でした。

 ところで一概に仮面といってもわかりにくいものです。イメージをはっきりさせるために、仮面を辞書で引いてみましょう。

かめん【仮面】

①木・土・紙などで種々の顔の形に作り、顔にかぶるもの。宗教儀礼や演劇・余興に用いる。めん。めんも。

②比喩的に、正体や本心を隠すみせかけのもの。「ーをはぎ取る」

           出典:『広辞苑 第六版』 岩波書店 2008

 璃奈ちゃんのつける仮面と、しずくちゃんのつける仮面。それはどちらも仮面なれど、その意味は違います。

 璃奈ちゃんのつける璃奈ちゃんボードは、①の意味での仮面です。一見璃奈ちゃんボードは、自分の本心を隠したいとか、そういった外向きの感情に関連するものに見えますが、そうではありません。6話の記事で、私は璃奈ちゃんボードをこう説明しました。

開発された璃奈ちゃんボードは、このときの段ボールの発展形だ。だから、璃奈ちゃんボードの主眼は、「璃奈の感情をボードで伝えること」ではない。璃奈が、素顔で誰かと向き合ったときに感じる「誤解されるかもしれない」という不安を解くための、おまじないのようなもの。言うなれば、服や眼鏡やイヤリングのような、一つのファッションアイテムなのだ。ボードに表情を描くのは、相手に璃奈の表情を伝えるためではない。璃奈自身の感情が表現できているという安心感を、璃奈自身に与えるためという方がいいかもしれない。璃奈ちゃんボードは、SNSのような璃奈の外側にあるコミュニケーションツールではない。それは、璃奈が誰かに対して心を開いて話すために、璃奈の気持ちを変えることができる、璃奈自身が身につけ、身につけているあいだは璃奈自身と一緒になる、そんなファッションアイテムなのである。

向き合う顔が、笑顔なら TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』視聴レポート #6 「笑顔のカタチ(⸝⸝>▿<⸝⸝)」 - こばとんの徒然日記

 璃奈ちゃんが開発した璃奈ちゃんボードは、璃奈ちゃんが自分の表情を気にすることなく、相手とコミュニケーションを円滑に取ることができるための、「顔にかぶるもの」としての仮面です。そこには、「隠す」といったネガティブな意味は一切含まれていません。

 一方でしずくちゃんが被っている仮面は、②の意味での仮面です。しずくちゃんは、相手から本当の自分を隠すためにいい子の仮面を被りました。そして、それはしずくちゃんにとってネガティブな仮面でした。それは、しずくちゃん自身が(正確には劇中劇で)話している通りです。

黒しずく「私の歌は誰にも届かない。子どもの頃のこと、覚えてる?みんなと少しだけ違う。ただそれだけのことだったけど、わたしはいつも不安だった。誰かに変な子って思われたら、嫌われたらどうしよう。 いつもそんな風におびえていた。だから、本当の自分を隠すようになった。そしたら、すごく楽になれた。あの日からずっと、私は嘘の私のまま。自分を偽っている人の歌が、誰かに届くわけがない。そうでしょ?」

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舞台上での白しずくと黒しずくには、身長差がある。

 8話における劇中劇をどう捉えるのか、それはすごく難しい問題だと思います。少なくとも、この劇中劇は唐突に白しずくと黒しずくの対話によって開始され、最初はあきらかにしずくちゃんの脳内として描かれつつも、最終的には藤黄学園との合同演劇祭での公演『荒野の雨』へと地続きに繋がっていきます。私は演劇に関して全くの門外漢ですし、それについては既に様々な記事で刮目するような考察がたくさん上がっているようですから、いまさらどうこう言うつもりはありません。しかし、やはり合同演劇祭以前のシーンは、演劇としての『荒野の雨』ではなくしずくの脳内での物語だと思うのです。あるいは、『荒野の雨』の脚本が、しずくちゃんの心の中に抱える問題と同期したのかもしれません。舞台上での黒しずくが部長が演じるもので、身長など細かな部分に違いがあります。一方、それ以前のしずくは、完全に同一なのです。こうやって丁寧に解決させるところがいかにもアニガサキって感じがするよね。

 とすれば、劇中劇内でのしずくちゃんの発言、とくに黒しずくの発言は、しずくちゃんの本心であるということになります。少し丁寧に、黒しずくの言うことに耳を傾けてみましょう。

 引用したシーン。しずくちゃんがどうして仮面を被っているのかが明らかになるわけですが、ここでは明らかに(少なくとも「荒野の雨」を前に主役降板の危機に直面するしずくちゃんが。このあたり、スクスタのストーリーとの整合性を考えるのはちょっと難しいよね)仮面を被る自分を、自分自身で好意的に捉えてはいないことが分かります。つまり、しずくちゃんにとって「いい子の仮面」はネガティブなものなのです。

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「仮面」は、しずくちゃんにとってはポジティブなものではありませんでした。

 もう一つ気になるのは「楽になった」という言葉、この言葉、かすみちゃんとの教室でのシーンでしずくちゃんが本心を話すときにも言っています。「楽になった」ということは、それ自体は決して悪いことじゃないと思います。あんまり気を張ってばかりいても、いつか人間切れてしまいます。だから、時々息を抜いて、「楽になる」ことはすごく大事です。

 でも、しずくちゃんはむしろ仮面を被ったことで辛くなってしまっています。それは「楽になった」ことが、本質的には「逃げてしまった」ことを指しているからだと思います。逃げてばかりいても、問題は解決しません。ずっと頑張る必要はありませんが、問題をいつまでも放置するわけにもいかないのが人間です。追い詰められたしずくちゃんは、自分にとってネガティブな仮面を外す決意をする必要があったのです。ポジティブな仮面をつけることで自分を表現する璃奈ちゃんと、ネガティブな仮面を外さなくては自分を表現できないしずくちゃん。この対比、すごく面白いですよね。

 

「大好き」を大切に。「逃げ」ることには厳しく。

 8話最大の見せ場は何と言っても教室のシーンでしょう。しずかす推しとしてはあまりに甘く、ほろ苦く、他の味がわからなくなるくらい濃密なシーンなのですが、このシーンでのかすみちゃんはしずくちゃんに対して少し厳しく、それが少し引っかかってしまった人もいるでしょう。

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「雷鳴」

かすみ「なーに、甘っちょろいこと言ってんだー!」

 かすみちゃんが拳を振り上げて、しずくちゃんの額の寸前で止めて、最後はデコピンをするシーン。これまでのラブライブでは、がっつり叩かれていたので、ここもやっぱりアニガサキだなあ、と強く感じるシーンなのですが、なぜここまでかすみちゃんはしずくちゃんに対して厳しく接したのでしょうか。

 それは「大好き」を大切にしながら、「逃げ」は許さない。そんな同好会メンバーのお互いに対する姿勢があると思うのです。

 もうここまで2回も6話の話をしていて、6話好きすぎかよって感じなのですが(いや6話大好きだけどね?)、再び6話に戻ってみましょう。

 璃奈ちゃんが色葉、今日子、浅希の三人と上手く話せず、翌日の練習を休んでしまった時。メンバーは璃奈ちゃんの家へと駆け付けます。

 段ボールの中にいる璃奈ちゃんに対して、愛ちゃんはこう話しかけたのでした。

璃奈「ごめんね、勝手にやすんで」

愛「ほんとだよ、心配したんだぞ。どうしたの?」

 愛ちゃんは、「璃奈ちゃんが勝手に練習を休んだ」ということに対しては、優しい言葉をかけません。それは、自分のライブの前日に無断で練習を欠席する、ということは、明らかに倫理的に良くない「逃げ」だからです。他人の「大好き」を否定しないのも同好会メンバーですが、きちんとダメなところはダメと伝える、それが同好会の人間関係です。その後の璃奈ちゃんの告白に対しては、同好会のメンバーたちはまっすぐ向き合います。璃奈ちゃんが自分と向き合おうとすることには、同好会メンバーは優しくそっと寄り添うのです。

 しずくちゃんの場合、自分が嫌だと思っている仮面を外すことを怖がるのは「逃げ」です。なぜなら、それはしずくちゃんが必ず向き合わなくてはいけない問題だからです。「大好きな歌を届けたい」。いまそれがしずくちゃんが望むことなのだとしたら、しずくちゃんがいつまでも仮面を外せずにいるのは、「大好き」とは矛盾する行為です。だからこそ、かすみちゃんはしずくちゃんに厳しく接したわけです。愛ちゃんが璃奈ちゃんに、かすみちゃんがしずくちゃんに、そんな対応を取ることができるのも、二人の信頼関係が確固としたもので、そして彼女たちにとって「特別な人」だからです。

 

Super Perfect Believer

 しずくちゃんの回で、かすみちゃんの話を沢山するのもなんですが......。

 教室でのシーンのかすみちゃん、めちゃくちゃかすみちゃんって感じですよね!大好きです!

 璃奈ちゃんに「特別な人」の話をされて、決意したかすみちゃんはしずくちゃんを見つけ出します。

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すぐにはしずくちゃんを真っ直ぐ見れないのも、いかにもかすみちゃんらしい。

しずく「どうしたの?」

かすみ「どうって、そりゃあ......。

昨日、変な感じで別れちゃったじゃん?だから、どうしてるかなって」 

 愛ちゃんは真っ直ぐな子だから、璃奈ちゃんにいつも真っ直ぐ言葉をかけているけど、かすみちゃんはむしろ素直じゃなくて、そしてどうしようもなく不器用なんですよね。最初は強引にしずくちゃんを拘束して、遊びに連れ出して。しずくちゃんを笑顔にさせようと頑張るところは涙が出るほど友だち想いで好きなんですけど、最後にオーディションのことを口に出しちゃって、結局しずくちゃんは「変な感じ」で帰っちゃう。しずくちゃんに笑顔を取り戻させるための企画としては、最後のあれで台無しだったわけです。でも、それがかすみちゃんなんですよね。素直で器用だったら、それはもうかすみちゃんじゃないんです。それに、不器用で素直じゃないからこそ効果的に伝わることもあって......。愛ちゃんやエマちゃんならもっとうまくやれたかもしれないけど、でもしずくちゃんにはかすみちゃんじゃなきゃいけないわけです(実際、このシーンの裏ではエマちゃんを中心にして首飾りを作っているわけで、みんなしずくちゃんのことを考えてるんですよね。それでも、しずくちゃんを引っ張ってあげられるのは、かすみちゃんだけなんだなあ、って、いいよね)。

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つながってる。

 いざ、しずくちゃんの目の前に来ても、言葉を濁してしまうかすみちゃん。かすみちゃんがどうして素直じゃないかと言えば、そこにはもう一つの仮面があるわけです。

 かすみちゃんが被っているのは「かわいいかすみん」の仮面。それは、璃奈ちゃんとも、しずくちゃんとも、また違う仮面だと思います。

とにかく、「可愛さを演じる」という点では、中須かすみという女の子に隙は無い。「猫を被る」といっても、全方向に向かって猫を被っているのだからすごい。とにかく徹底している。いつどこを切り取っても、かすみちゃんは「可愛い」。

『無敵級*ビリーバー』と、かすみの鏡の向こう側 - こばとんの徒然日記

  猫を被るアイドル、それが中須かすみちゃんだと私は思います。かすみちゃんはいつだって、「かわいいかすみん」を演じている。そして、かすみちゃんは絶対に素を見せない。「かわいいかすみん」の仮面が100%かすみちゃんを覆いかぶさった瞬間が、かすみちゃんの追い求める「かわいい」が達成された瞬間でしょう。仮面をつけて想いを伝えるのが璃奈ちゃん、仮面を外して想いを伝えようとするのがしずくちゃんなら、仮面と完全に同一になることを目指しているのがかすみちゃんなのです。

「可愛いものが好き」なかすみちゃんは、自分の周りを「可愛いもの」で覆い尽くすことによって、自身をかわいく見せている。かすみちゃんは、それを自分の唯一の拠り所だと信じ、頑なにその場所を守り続けている。しかし、かすみちゃんは未だ「自分自身のほんとうのかわいさ」には気づいていないのだ。この、ちょっとしたことで壊れてしまいそうな危うい自我と、それを覆い尽くす完璧で隙のない「かわいいかすみん」の二面性こそが、中須かすみというアイドルそのものなのである。

『無敵級*ビリーバー』と、かすみの鏡の向こう側 - こばとんの徒然日記

  かすみちゃんは、自分自身の「かわいさ」を信じていません。だからこそ、努力を続けます。「かわいい」で自分を彩り続けるのです。自分自身を信じられなくても、「かわいい」に向かって健気に努力を重ねて、完璧な「かわいい」を演じる。そんな仮面のことを誰よりも信じ、愛しているのがかすみちゃんなのです。根底にある自分自身への自信のなさ、昔からのコンプレックスやトラウマは、璃奈ちゃんも、かすみちゃんも、しずくちゃんも、そして形は違えど仮面を被っていることは、同じです。

 では、かすみちゃんとしずくちゃんの違いはどこにあるのでしょうか。それは「仮面を被ろうと被るまいと、自分を信じて、好きでいられるか」というところにあると思うのです。璃奈ちゃんが璃奈ちゃんボードという仮面を被ることは決してネガティブなことではないということは、既に書いた通りです。同じように、かすみちゃんにとっても仮面を被っていることは決してネガティブなことではありません。それは、かすみちゃんが完璧に仮面を被った自分を信じ、愛することができているからです。逃げるために仮面を被り、自己嫌悪に陥ってしまったしずくちゃんとの違いは、ここにあります。

 しずくちゃんをデコピンしたあとのかすみちゃんは、こう切り出します。

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「私」なかすみちゃんの、心からの言葉。

かすみ「嫌われるかもしれないからなんだ。かすみんだって、こーんなにかわいいのに、褒めてくれない人がたくさんいるんだよ?しず子だって、かすみんのことかわいいっていってくれたことないよね?しず子はどう思ってるの?」

 ちょっと唐突にも思えるかすみちゃんのこのセリフ。しかし、かすみちゃんの被っている仮面とその経緯を考えれば、かすみちゃんの言いたいことが見えてきます。かすみちゃんは誰かが「かわいい」と言ってくれなくても、それでも自分は「かわいい」と信じ続けるのです。自分で自分のことを嫌いになってしまったら、もうそれ以上好きになってくれる人も、好きになれる人も、いなくなってしまいます。だからこそ、これだけかすみちゃんに詰め寄られても、仮面を被る自分を嫌い続けるしずくちゃんの答えは自信なさげです。

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人は目を泳がせる時、嘘をついているとも言いますよね。

しずく「か、かわいいんじゃないかな.......?」

 「かわいいよ」とまっすぐ言えないことが、今のしずくちゃんを表しているような気がします。侑ちゃんだったらまっすぐ「かわいいよ」って言って、かえってかすみちゃんの方が恥ずかしくなっていそうですよね。自分を信じることが出来なければ、自分の感情も、言葉も、全て信じることのできない偽物になってしまいかねません。だからこそ、かすみちゃんは次のセリフをぶつけます。

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私は、桜坂しずくのこと、大好きだから!

かすみ「もしかしたら!しず子のこと好きじゃないって言う人もいるかもしれないけど、私は、桜坂しずくのこと、大好きだから!」

  ほんとうは、かすみちゃんだって自分の弱さから仮面を被っているのです。だから、こうやってしずくちゃんに「大好き」と伝えることだって、勇気と、覚悟をもって、恥ずかしさを押し殺して、言っているはずです。かすみちゃんの成長に涙が止まりません......。

 さて、ここでかすみちゃんは一人称「私」を使っています。普段のかすみちゃんの一人称が「かすみん」であることは説明不要かと思いますが、それは「かわいいかすみん」の一人称です。かすみちゃんはこれまでも、毎日劇場などで時折「私」という一人称を使っています。

想像以上にかわいくなった自分に驚いたかすみは、一瞬素の姿を見せたのである。「私」。学園や同好会での一人称は「かすみん」だが、それがある意味では「作られたキャラクター」であることの、これがひとつの証左であろう。ところで、ここで見せたかすみの素顔は、キズナエピソード18話での「追い込まれたかすみ」の素顔とは、質が違うものだと思う。かすみが、取り繕わずに「私」として我々に向き合ってくる瞬間がいつになるのだろうか。いつか来るのだと、今は信じていたい。

ニジガクカウントダウンウィーク! #2 Margaret - こばとんの徒然日記

  「私」は、計算していないかすみちゃんの一人称、つまり、かすみちゃんが被る仮面の下の、素のかすみちゃんの一人称です。ここで、かすみちゃんは仮面を脱いで、素のかすみちゃんとしてしずくちゃんに真っ直ぐ「大好き」だということで、本心から真っ直ぐ言葉を届けようとしました。かすみちゃんが勇気をだして、こころから「大好き」と言えるのは(それも実際はギリギリなところなんですけど)、かすみちゃんが最後は自分のことを信じているからだと思うのです。そこが、かすみちゃんとしずくちゃんの違いです。

 ここでのかすみちゃんの言葉は、かすみちゃんの背中を押してくれた璃奈ちゃんと、それから陰ながらしずくちゃんのために応援しているみんなの想いを乗せている部分もあるような気がします。仮面という視点でみるなら、かすみちゃんの背中を押すとき、璃奈ちゃんは璃奈ちゃんボードという仮面をつけて心をつたえているんですよね。それは、璃奈ちゃんボードをつけることが璃奈ちゃんにとっては本心を伝えるのに適した手段だからです。かすみちゃんにとっては、かわいいかすみんの仮面を脱いで見せることが、本心を伝える手段なわけです。どこまでも1年生の仮面がそれぞれに対比されているのは、ほんとうに面白いですよね。

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「仮面」で本心を伝えるのが、璃奈ちゃんのカタチ

 「信じること」。それは、今自分をさらけ出すために、しずくちゃんに求められていることです。そして「信じる」ことにおいては、かすみちゃんはしずくちゃんの先輩です。

かすみちゃんの最大の魅力は、武器は、一番誰にも負けないところは、「信じること」だ。

『無敵級*ビリーバー』と、かすみの鏡の向こう側 - こばとんの徒然日記

  『無敵級*ビリーバー』であるかすみちゃんの最大の武器は、「かわいいかすみん」を信じることです。かすみちゃんもまた、きっと自分自信にコンプレックスやトラウマを抱えているのです。だから、仮面をかぶる。それでも、かすみちゃんは、仮面を被った自分を誰よりも信じることができる。だからこそ、彼女は心折れることなく、「かわいい」に向かって努力を続けることができます。

かすみ「だから、心配しなくても.......」

  この後に続く言葉は何でしょうか。きっと、かすみちゃんが言いたいことはこうじゃないでしょうか。

 「かすみんのことは誰もかわいいって言ってくれないけど、それでも自分を信じて、自分の追及する「かわいい」を目指して頑張ってる。誰かがしず子のことを嫌いだと言ったとしても、少なくとも私は、桜坂しずくのことが大好き。一人でも好きって言ってくれる人がいるんだから、きっと大丈夫。心配しなくても、素の桜坂しずくは魅力的だし、好きって言ってくれる人もたくさんいるんじゃないかな。だから、しずくちゃんは「素の自分」をさらけ出すことに、もっと自信をもっていいんだよ」

 信じることに関しては「無敵級」のかすみちゃんが、今しずくちゃんのことを信じるといったのです。これほど心強いことはありません。かすみちゃんの後押しを受けて自分を信じることができたしずくちゃんは、今「無敵級」の大女優として、オーディションを勝ち抜き、舞台の上に堂々と立っているのでした。

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大女優のしずくちゃんは、無敵級だよ。

 

エピローグ

 すっごく長くなっちゃいましたけど、要するに8話ってめちゃくちゃ『無敵級*ビリーバー』だよね!最高じゃない??って、そういうことなんです。いやあ、『無敵級*ビリーバー』ですよね......。

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この振り付けが『無敵級*ビリーバー』なことも、話題になりましたね。

 かすみちゃんは勇気を出してしずくちゃんに「大好き」だと告白したわけなんですが、やっぱりそれでもかすみちゃんにも危うさがあって、だからこそ真剣さを得たしずくちゃんの目をもう一度見た瞬間に、目を背けてしまいます。やっぱ勢いでの告白だったんだろうなあ。でも、そんな強さと弱さの二面性がやっぱりかすみちゃんの魅力ですよね。守りたくなっちゃう危うさと、頼もしい力強さの両面を持っているというか。やっぱそんなかすみちゃんがかわいいです。はい。

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kawaii

 それから、「かわいいかすみん」に戻った瞬間にかわいく頬をぷくっとさせて走り去っていくかすみちゃんが良いですよね。やっぱり「完璧」なんだよね。逆に、これだけ「完璧」に仮面をかぶるかすみちゃんが、一瞬仮面を外して届ける「大好き」だからこそ、しずくちゃんの心を変えることができたというか。最後にめちゃくちゃ拍手するかすみちゃんもね。やっぱしずかすなんだよなあ。

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しずかすって、いいなあ......。

 『Solitude Rain』、好きです(唐突)。やっぱりしずくちゃんは雨が似合うし、アンニュイな表情だ似合うよね。さすがは大女優。苦悩なんて見せちゃいけない感じも大女優でいいですよね。

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水も滴るしずくちゃん

 ところで、曲冒頭の「雷鳴」ですが、これはやっぱりあのシーンのことを指すのでしょうか。かすみちゃんのデコピンが「雷鳴」なのか、それとも告白が「雷鳴」なのかはわかりませんが、「雷が鳴ると梅雨が明ける」って話を思い出しました。舞台でも、雷鳴が鳴り響いたあと、雨が止むんですよね。いや、特にオチはない気づきなんだけど、好きだなあって。私、雨の日がとっても好きなので、雨が似合うしずくちゃんが大好きなんですよね。

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策士、惚れました。

 最後に。8話では、同好会以外のメンバーが物語の鍵になるような活躍をすることが多かった印象があります。色葉、今日子、浅希の三人もそうですけど、あとは部長。最後のシーンは痺れたよね。かっこええわ、部長。なんなら、1話でかすみちゃんと遭遇してるんですけど、しずくちゃんの成長を見込んで再オーディションをかけたんじゃないか、とまで邪推してしまうほどの策士感。舞台上で抜群の演技をみせるしずくちゃんに抱きしめられるとき、部長はどんな気持ちだったんだろうなあ。

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敏腕記者だよね。

 あとは、新聞部(?)のインタビュアーですよね。8話はしずくちゃんへのインタビューから話が始まって、しずくちゃんへのインタビューで話が終わるわけで、彼女はある意味でめちゃくちゃ重要な存在でもあるわけです。

インタビュアー「なるほど。演劇部に所属している、桜坂さんらしいアイドル像ですねえ」

 これが、最後のシーンでは

インタビュアー「素晴らしかったです!まさに、スクールアイドルの桜坂しずくさんにしかできない舞台でしたね」

  分かってんなあ、あんた。演劇部で直面した問題をしずくちゃん自身の力で乗り越えることで、スクールアイドルとしてのしずくちゃんもまた成長するんですよね。

 しずくちゃん回だったのに、あまりしずくちゃん自身を掘り下げる記事にはならなかったかもしれません。やっぱり仮面をかぶっているだけあって、しずくちゃんの本心に迫っていくのはすごく難しいんですよね。それはかすみちゃんも同様なわけで、もっともっとしずくちゃんに向き合っていかなくてはいけないんですが......。まだまだアニガサキの物語は続いていくわけですし、かすみちゃんを追いかけるように急成長するしずくちゃんが見たい、そう思うのでした。

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その瞳には、どんな未来が映っているのか。

 

※引用したアニメ画像は、特に表記が無い場合、すべてTVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』(©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会)第8話より引用。

16年目のラブレター TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』視聴レポート #7 「ハルカカナタ」

TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』視聴レポート #7「ハルカカナタ」

 

16年目のラブレター

 

※当記事は、TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』のストーリーに関するネタバレ、あるいは、アプリ『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバルオールスターズ』のストーリーに関するネタバレを含みます。アニメ未視聴の方、アプリ未プレイの方は、予めご了承ください。

 

↓第6話の記事はこちらから

 

tsuruhime-loveruby.hateblo.jp

 

どんな「カタチ」だって

 「ふつう」って、「あたりまえ」って、難しい。

 私たちは、どこまでいっても結局自分のことしか分からない。なぜなら、誰か別の人になることは、究極的にはできないから。それなのに、私たちはどこかで「ふつう」を、「あたりまえ」を、作ってしまう。

 どんな「カタチ」だっていい。

 教室の隅の女の子が教えてくれた。一見武骨で機械的でも、それも人によっては満面の「笑顔」なのだ。笑顔に望ましいカタチなんて無い。それは「家族」も同じはずだ。家族のカタチだって、ひとそれぞれ、十人十色である。どれかが正解だなんてことは、無いはずだ。

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これが近江家の家族の「カタチ」

 中川家は、教育熱心で向上心に溢れる家族。菜々の両親は、大切な娘にきちんと勉強して、豊かで幸せな道を歩んで欲しいと思っている。時にそれは、菜々にとって重荷となり、「大好き」に嘘をつかせ、彼女を苦しめた。

 近江家は、苦しい経済状況におかれている。もしかしたら母子家庭かもしれない近江家では母は夜勤に出て、家事は姉の彼方が担っている。娘二人を私立の学校に通わせるだけの経済力がないだけに、姉の彼方は特待生として虹ヶ咲学園に通う。さらに、彼方はアルバイトもして、家計の苦しさを少しでも支援しようとする。そんな環境の中で、彼女もまた自分の大好きに嘘をついて、蓋をかぶせてしまった。

 どちらも一つの、家族の「カタチ」であることは間違いない。そして、家族はその人だけのものだ。それぞれにそれぞれの事情があり、それは誰かが口を出したりもできなければ、代わってあげることもできない。それは菜々の、彼方の内側にある問題なのだ。

 

 内側にある問題を解決するのは、最終的には自分の力でなくてはならない。だからこそ、他人が内側に抱えている問題に向き合うことは難しい。アドバイスをすればいいとか、共感すればいいとか、そんな単純なことじゃない。傘をさして、お互いの傘がぶつからないように、手をつないで、時には離して、歩く。みんな違うって、こんなに難しい。それでも、みんな違うって、またこんなにも素晴らしいことである。これは、そんな物語なのだ。

 

ハルカ先へ

 遥の決意は固かった。

 近江家では、母の忙しさは全て姉の彼方が埋め合わせていた。遥の2つ上である彼方は、母を助けるために、家事を手伝うようになった。苦しい家庭の中そだった彼方にとって、寝る間も惜しんで粉骨砕身に働く母を手伝うことは、まったくもって疑いようのない当たり前のことだった。

 高校に進学した彼方。彼女は、特待生として虹ヶ咲学園に通うことを選んだ。本来的な設定では「転校生」である彼方が当初東雲学園にいたのかどうかは、アニガサキの世界線では検証しようがないけれど、どちらにせよ虹ヶ咲学園の特待生として入学したのは彼方自身の意思なのだろう。彼方の母は、彼方に「かなが心配することじゃないよ。大丈夫だから」。そう言ったに違いない。でも、彼方は頑固に聞かなかった。彼女は、その背中には到底背負いきれないほどの責任感を、無意識のうちに背負ってしまっていた。

 高校生の彼方は、家計を助けるためにアルバイトも始めた。家事に、勉強に、アルバイト。どう考えても背負いきれない重荷も、彼方にとってはあたりまえのことだった。その証拠に、彼方は自分がスクールアイドル活動をすることを「わがまま」と言う。

 彼方ちゃんにとっての「わがまま」とは何か、それは、スクスタのストーリーからヒントを得ることにしたい。

スクールアイドルをしているからって、誰も彼方のことをわがままだとは言わないでしょう。しかし、彼方はわがままだといって譲りません。どうも、彼方にはやりたいことがたくさんあって、その中でも特に譲れないのがスクールアイドルであるようです。しかし、それは、彼方はそれ以外のやりたいことを、すべて我慢しているということを意味しています。 きっと、彼方にとっては、勉強をして特待生の資格と奨学金を維持すること、節約しながら遥ちゃんのお弁当を作ること、そのすべては「当たり前にやらなくちゃいけないこと」なのだと思います。彼方はそのことを、全く疑ってはいません。嫌がってもいません。だからこそ、彼方にとっては、時間がないのにスクールアイドルをすることは「わがまま」なのです。いや、もっと言えば、彼方にとっては自分がどうしても譲れないスクールアイドルをすること、それでさえも、彼方の中では「わがまま」になってしまうのです。

ニジガクカウントダウンウィーク! #5 Fire Bird/Märchen Star - こばとんの徒然日記

  苦しい母を助ける「娘」として、かわいい妹を守る「姉」として。彼方は、あまりに多くの物を望んで背負い込みすぎた。そして、それは彼方が忙しい自分の状態をエクスキューズする方法でもあった。「娘」だから、母を助けなくちゃいけない。「姉」だから、妹の面倒を見なくちゃいけない。やりたくてやっていることだから、自分が本当にやりたいことは「わがまま」......。

 これは、彼方が悪いのではない。むしろ、ぎりぎりの状態で彼方を踏みとどまらせるために、彼方を目を逸らすための魔法。彼方はそうやって、気づかぬうちに現実を心の底の、深い深いところへと、押し込めていた。

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彼女は、喜んで「重荷」を背負う。

 しかし、そうやって彼方によって「守るべきかわいい妹」として封じ込められた遥も、高校生になった。晴れて東雲学園に入学した遥は、強豪スクールアイドル部のセンターを射止める。成長するにしたがって、視野も広がる。遥は、自分が叶えてきた夢の後ろに、彼方の犠牲があることを知る。高校生になった遥は、アルバイトだってできる。それに、彼方の多大なる犠牲を知った遥には、それを見てみぬふりをして自分の人生を歩いていくことなんて、できっこないことだった。

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決意の、朝。

 夜になっても、特待生維持のために勉強を惜しまない彼方。そんな彼方をみた遥には、ある決意が生まれようとしていた。

 遥「お姉ちゃん、あのね、今日お姉ちゃんの同好会、見学しに行ってもいい?」

 張り切る彼方と、突然の遥訪問に浮足立つ同好会。それが遥と彼方、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会、いや東雲学園まで巻き込む事件の始まりだとは、まだ遥以外誰も知らなかった。成長した遥は、遥か先へと、進んでいこうとしていたのだ。

 

噛み合わぬ歯車

 遥は、いつ「それ」を決意したのか。

 彼方が夜も勉強しているのを見ているシーン。これが「きっかけ」なのは確かだ。しかし、ここではまだ「決意」とまではいかないような気がする。

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この時.....?

 同好会を見学に来た遥は、張り切って走る彼方に驚く。侑の「同好会の活動が再会してから、彼方さんすごく頑張ってるんだよ」という言葉に対して、遥はなにかに気づき、そして物憂げな表情を浮かべる。彼方が自分自身の夢を見つけているということに、ここで確信をもったのであろう。遥の決意は、ここでもう決まっていたかもしれない。

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それとも、この時......?

 楽しそうな彼方だが、練習ではなかなかうまくいかない面もみせる。既に苦手であるという描写があった柔軟性の練習では、当時苦戦していて、成長した璃奈と比べても差がついてしまっている。それが多忙のせいかは分からないが、どちらにせよ彼方が自分の夢に向かって進んでいくためには、「スクールアイドル」として活躍していくためには、もっともっと多くの時間を必要としていることを示している。

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彼方には、時間が必要だ。

 

 そして、練習を終えてのティータイム。ほのぼのとした時間が流れる中、彼方は突然電池が切れたように眠ってしまう。

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彼方は、突然力尽きた。

 ここからのシーンはとても深刻で、そして遥の「それ」へと一直線に落ちていくのだが、なんというかすごく「不思議」がたくさんある。そんなひっかかりを、ひとつひとつ拾っていくことにしたい。

 エマのクッキーとかすみのコッペパンが用意されたティーパーティーは、このほのぼのと仲の良い場所が彼方にとって本当に居心地の良い場所であることを示している。が、ここで安心したのか、彼方は突然電源が切れたかのように寝てしまう。

 遥の驚きぶりからみて、彼方が披露して疲れていることは想定内でも、ここまでだとは考えていなかったことが伺える。すくなくとも、彼方は家では疲れている素振りは見せなかったのかもしれない。それは、母や遥を心配させたくなかったからだろうか。

 

 一方、同好会メンバーの彼方への温度感は、あまりに遥と違う。

しずく「はい、私の知る限り、彼方さんは寝るのが大好きだと思いますよ」

  「寝るのが大好き」という表現は、ちょっと不思議である。自分の意思に反して寝てしまう彼方のことを「寝るのが大好き」と言えるだろうか。なにははっきりしたことを言うことはできないが、すくなくとも、同好会メンバーにとって彼方が寝てしまうことはある程度普通のことだった。「他人の変化や異変に気付くのは、実はかなり難しい」ということだろうか。他人の領域に過剰に干渉していかないのは、この同好会のいいところであり悪いところである。同好会メンバーは、遥の慌てる様子をみて、ようやく彼方に起きていた変化に立て続けに気づき始める。

遥「恥ずかしくなんかないよお姉ちゃん。疲れて当然だよ。いっぱい無理してるんだから」

彼方「ん?無理してるって、何を?」 

 彼方が今置かれている境遇を決して嫌なものだとは思っていないことは、既に述べたとおりである。これだけ忙しくても、彼方は心から「無理している」とは思っていない。これは、心配をかけないようにそう見せているとかではなく、ほんとうに思っていないのだ。きっと、彼方は同好会メンバーにも家のことやアルバイトのことは話していないのだろう。「良く寝る」というだけで異変に気付けというのは、こう考えると酷かもしれない。

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遥の言葉に聞き入るみんな。

 遥が話し出すと、同好会のメンバーは遥の言葉に聞き入っている。誰一人として、口をはさんだり、目を背けたり、何かを食べたりもしない。もしかしたら、同好会のメンバーは遥の決意を、あるいはその譲らない気迫を、感じ取ったのかもしれない。ただ、彼方の「そうだったの?」という言葉だけが、この深刻な空気の中で浮いている。

遥「いつも私を優先してくれたお姉ちゃんが、やっとやりたいことに出会えたんだって」 

 侑は、ここで一瞬口を開く。何に反応したのかと言えば、「やりたいこと」だろうか。彼方の一番やりたいことは、スクールアイドル。侑は、大事なことを聞き逃さなかった。

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彼女は、揺るがぬ決意を持っていた。

遥「今のお姉ちゃんには、同好会が一番大事な場所だって、よくわかったの。だから私、決めたよ」

彼方「ん?何を?」

遥「私、スクールアイドル辞める」

  「それ」は、穏やかに遥の口から放たれた。彼方はまだ、「それ」が放たれる瞬間まで、いや脳内で咀嚼してその意味をかみしめるまで、遥の揺るがぬ決意には気づかなかった。蓋をした自分の世界の中の「かわいい妹」が、立ち上がろうとしていることに。

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衝撃の発言だった。

 部屋にいる全員が、遥の言葉に打ちのめされた。狼狽した彼方の歯車は、妹とかみ合っていたはずのその動きがもうおかしくなっていたことを、一気に露呈する。

彼方「彼方ちゃんが寝ちゃったせいで、遥ちゃんのこと心配させちゃったの?大丈夫だよ~」 

  この言葉は、現状を取り繕うとするだけの言葉だ。まるで、何か大きな失敗をしてしまったことをごまかすような、そんな地に足のつかない言葉。

 一方の遥は、真剣そのもの。「お姉ちゃんにはやりたいことを全力でやってほしい」。だから、スクールアイドルを辞めるという。でもそれって、少し立ち止まって考えてみると、少しおかしい。遥と彼方には、どちらかが夢を諦めて、どちらかが夢を追いかけるという、両極端しかないようにみえる。実際、ここで初めて、疑問が差し挟まれる。しずくである。

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ただ一人、しずくだけが疑問を口にする。

しずく「あの.......、そのために遥さんはスクールアイドルを辞めるんですか?」 

  遥は、しずくの方を一瞥もしない。ずっと、彼方だけを見ている。誰が何を言っても自分の意思を曲げるつもりが無いということを、同好会メンバーも感じとったのかもしれない。

遥「お姉ちゃんが苦労してるの分かってて、夢を諦めるなんてできないよ」 

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目を逸らす遥。

  ここで、遥は彼方から目を逸らす。遥は本心ではスクールアイドルを辞めたくはない、ということか。

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彼方の答えは、完全に言い訳に感じられた。

彼方「そんなの、気にしなくていいんだよ~。だって、遥ちゃんは大事な妹なんだもん」 

  「そんなの」とは強い言葉だ。彼方はそこまでの意識を持っていないかもしれないが、この「そんなの」は、彼方の負担を指しているようにも読めるが、遥の決意を指しているようにも取れる。遥の追及から逃げる彼方は、とっさに遥を傷つけてしまった。

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「妹だったら、気にしちゃいけないの......?」

遥「どうして......妹だったら、気にしちゃいけないの?」

彼方「心配させちゃってごめんね。彼方ちゃん、もっと頑張るから」

  もうここは、全く噛み合っていない。遥の質問に対する答えは、多分無い。だって、妹だから気にしちゃいけないなんてことは、ありえない。それに、遥は彼方に少しでも負担を減らしてもらうことを望んでいるのに、そんな遥に対して「もっと頑張る」なんて言ってしまったら.....。

 遥「お姉ちゃんの、わからずや!」

  遥が走り去っても、すぐに止められる人はだれもいなかった。苦い空気だけが、部室に残される。ワンテンポ遅れて、侑が追いかけてゆく。

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苦い空気だけが残された。

 ところで、ここで立ち上がっているのが愛・果林・かすみの3人であることは面白い。なにか共通点があるかな、と考えてみたが、しっくりくる考えは得られていない。もともと果林は最初から立っていたし、こじつけという感もあるが......。ちょっとしたアイデアとして思っているのは、この3人は遥が来る作戦会議の中で、遥を「スクールアイドルのライバル」として見ていたメンバーなんじゃないか、ということである。しずくだけは、明確にライバル意識を抱いていなかった。これは8話へと繋がっていくのかもしれないが、逆に言えば愛と果林はかすみの姿勢を否定していない。どころか、ちゃっかりスクールアイドルのことを沢山調べていそうな果林は、「東雲学園と虹ヶ咲学園のスクールアイドルじゃあ知名度は天と地ほどの差」と言っている。あるいみで、この3人は「彼方の妹」としてではなく、「ライバル校のスクールアイドル」として遥を見ているのではないか、と言う気がするのだ。

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侑も、固い決意を口に去っていく遥をただ見送るだけだった。

 逆に、「彼方の妹」としての遥と、それから彼方との間の問題に関しては、遥の決意が固い限り、口を出すことはできない。それは「家庭の問題」であるし、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のメンバーたちはそういった個人の問題には立ち入ることはしない。特にスクールアイドルとしての遥の実力を知る侑は、この問題についてなにか思うところがありそうだ。しかし、彼女は遥に追いついても、自分の意思を遥にぶつけることはしない。遥の決意のほどを問いかけることしかできなかった。それはやはり、この問題に関して侑は口をはさむべき立場ではないし、それに個人の問題に土足で入っていくのは彼女たちのとっては明確に「違う」のだと思う。それが、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の物語なのだ。

彼方「遥ちゃんが、怒った......」

 これまで、近江姉妹はケンカしたことが無かったのだろう。ケンカは決して良いことというわけでもないし気持ちのいいことでもないが、「ケンカするほど仲がいい」という言葉もある。お互いが意見をぶつけ合えるようになってこそ、ケンカは成立する。立場があまりに違いすぎたら、それは「ケンカ」にならない。お互いが対等だからこそ、初めてケンカは成立する。そして、これは近江姉妹にとって初めてのケンカだった。

 

夢のカナタへ

 7話は遥が動いていくことで物語が進んでいくが、やはり問題は彼方の中にあるのだと思う。

 成長した遥は、彼方の抱えている問題の全てを見抜いていた。彼方が「やりたい」と思っていろんな家族の負担を背負っていること、彼方がスクールアイドル同好会の活動を楽しんでいること、スクールアイドルが彼方の「本当にやりたいこと」であること、そして、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会が彼方がこれから生きていく場所であること。それを、遥は全部分かって、覚悟を固めたうえで、スクールアイドルをやめる、と言い出したのだ。

 一方で、彼方はそんな成長した遥を、真っ直ぐ見ることができていなかった。彼方は多忙の中で、自分のなかに「守るべき彼方」のイメージを作ってしまっていた。彼方は、成長した遥を受け入れ、自分の中の遥をアップデートすることができていないのだ。だからこそ、姉妹の歯車はあれほどに噛み合わなかった。

 人は、それぞれの道を歩いている。はじめはどこまでも並んでいきそうな道でも、いつか少しづつ離れていく。兄弟姉妹だって、友達だって、どこで道が分かれていくかはわからない。それでも確かに、道は分かれていくのだ。遥は、東雲学園で自分の場所を見つけた。努力を重ねた遥は、センターの座を射止めた。少しづつ遥は、姉のもとを、家族のもとを離れて、自分の道を歩き始めようとしている。

 それは、彼方も一緒だった。彼方には、新しい居場所ができた。そしてそこには、彼方にとってきっと大切な存在になっていきそうな人たちがいる。彼方は、その場所を心地いいと思っている。

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ここが、彼方の新しい居場所。

 遥が全て分かっているように、彼方も全て分かっていた。問題は、彼方が自分の気持ちを認めることができるかどうか。家族の「カタチ」が新しいものになっていくことを、姉妹の関係が変わっていくことを、彼方が認めて、受け入れることができるか。「問題」は、彼方の中にあった。

 

 こういうときに背中を押すのは、スクールアイドル同好会のみんなだ。変わらなくちゃいけないのは、彼方自身。そしてこれは、彼方が解決しなくてはいけない問題。それでも、背中を押してあげることなら、できるのだ。

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「ダメ」なことは「ダメ」と言える、そんな関係。

 遥の決断を受けて、「いっそ自分がスクールアイドルを辞める」といいだした彼方を、侑は強く止める。自暴自棄な選択。それだけはダメだと、本当に間違っていることにはまっすぐ「NO」を伝えられるのも、同好会のいいところ。

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「答え」を、見つける手助け。

 エマが立ち上がって、彼方の側へと座る。

エマ「それはほんとうに、彼方ちゃんが望むことなの?」

  同好会のメンバ-は、彼方に答えを伝えることはしない。彼方自身が答えを見つけられるように、そっと寄り添ってくれる。答えが見つかるまで、待ってくれる。

 彼方は少しづつ、自分の想いを吐露する。それは、遥が見抜いていたことと同じ。彼方はそんな自分の望みと、遥の幸せを守りたいという望みとの両方を叶えたいという想いの両方を抱えているのは、「わがまま」だという。

果林「それはわがままじゃなくて、自分に正直っていうんじゃない?」 

  「わがまま」なんかじゃない。彼方は、自分を守るためにかけた魔法を解く必要があった。「本当にやりたいこと」から逃げないということ。そして......。

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あの日一番遥を見ていたのが、侑だった。

 侑「遥ちゃんはもう、守ってもらうだけの人じゃないと思う」

  もう遥ちゃんは、彼方ちゃんに「守られる」だけの存在じゃない。自分の両足でしっかり立って、自分で歩いていける。礼儀正しくて、姉想いで、努力もできる、そんな魅力的で大人な女性に成長したのだ。それでも、姉妹は「似たもの同士」。いや、もっと言えば親子も似たもの同士なのだと思う。全てを背負って頑張る母の背中を見て育った彼方は、母と遥のために全てを一人で背負おうとしたし、そんな彼方の背中を二年遅れで見てきた遥にとっても、一人で背負うという選択肢しかなかったのだと思う。でも、それでは二人の大きな夢をかなえることはできない。それに、これまで家庭は母と彼方の二人で背負ってきたはずだ。今度は、大きくなった遥と、三人で支えあっていけばいい。

 魔法にかかっている間に彼方は、遥のことを「妹」という存在に封じ込めて、「守らなきゃいけない存在」なのだとすっかり決めつけてしまっていた。でも、もう遥は先へ進んでいる。夢の彼方へ向かうために、あとは、彼方が変わるだけなのだ。

 

ハルカカナタ

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聞いて!

 『Butterfly』。気高く、美しく、飾らない、美しい旋律。

Hey...... Now listen!

初めてで一番の You're my dearest trasure

記憶のなかで 溢れるLovin' tune

駆け足のDay by day 手つないでTime goes by

強くなれたんだ そのぬくもりで

 

ひとりきりじゃもう 両手いっぱい 広げてもまだ

足りないほどに大きなDreams 今一緒にだきしめよう

 

Butterfly 羽を広げたら

ハルカカナタ 高く飛ぼう

雪の向こうに美しい空 待ってるの

 

Butterfly 夢へ羽ばたいて

花の季節迎えよう

叶えていけるきっと 信じてWe can fly

 「My dearest」は、「最愛の人」。

 『Butterfly』は、彼方と遥が一緒に歩んできた16年で、最初のラブレター*1

 16年の間、彼方はずっと魔法の繭のなかにいた。「わがまま」をたくさん抱え込んで、涙は傘でしのいで、その時を待っていた。

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雨空のなか、彼方はいつも、傘の下にいた。

 二人がぶつかったあの日は、大雨だった。でも、雨はいつまでも降り続けるのではない。雨空があるから、晴れた時には虹がかかる。

 ふたりがそれぞれの「Dreams」を認めて、分け合った時、初めて蝶は羽ばたく。蝶は、一枚の羽根では飛び立てない。二つの羽が揃って初めて、青空へと飛び立てる。たくさん雨が降ったからこそ、二人の飛び立つ空は美しい虹で祝福される。

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気持ちは、届いた。

 

 彼方「ごめんね、遥ちゃんのこと、分かってなくて。遥ちゃん、彼方ちゃんのこと、とっても大事に思っていてくれたんだね。ありがとう」

 あの日、遥を傷つけた彼方。初めてのケンカは、彼方の謝罪によって終結した。そしてそれは、彼方と遥に新しい関係が生まれようとしていることを意味していた。

 そしてもうひとつは、彼方は遥の前でその夢が叶えられるものだ、ということを示したのでもあった。アルバイトをしていても、家事に勉強に必死でも、ステージに立てる。スクールアイドルとして輝ける。遥ちゃんを悔しくさせるくらいに、いや東雲学園のアイドルたちにすら想いを届けられるくらいの、スクールアイドルになれるのだと。

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「悔しい」という気持ちも、「ライバル」だからこそ。

彼方「スクールアイドルではライバルだよ。お互い頑張ろう」 

  この瞬間、魔法は解けた。彼方を封じ込めていた繭は、解け始めた。もう、彼方にとって遥は「守るべき妹」である必要はなくなった。彼方と遥は、対等な関係になったのだ。それは、彼方が遥を認めた、ということでもあった。

 『「仲間」で「ライバル」!?』それが、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のコンセプトなのだとしたら、彼女たちは「姉妹」で「ライバル」。お互いを大好きで、誰よりも想っていて、対等に認め合って、力を合わせて頑張る。そして、スクールアイドルのステージに立ったなら二人は「姉妹」の関係から解き放たれて、「ライバル」として切磋琢磨する。そんな姉妹の新しい「カタチ」。なんて素敵なんだろう!

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「姉妹」で「ライバル」。

 二人の羽ばたいていく虹がかかった空が、春の空気と花の香りを乗せて、限りなく祝福されたものになるのは、疑いようがない。

 

P.S.

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遥ちゃん......。かわいいよう......。

 料理をしてる遥ちゃん、新妻って感じがめちゃくちゃして良くないですか???こんなにかわいいんじゃあ、そりゃあどんな料理でも食べられるよ。遥ちゃんの料理が食べられて幸せなの、超わかるわ。というか遥ちゃんとけっこ......。

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「強敵」だよね、絶対。いいないいな~。

 東雲学園の二人(支倉かさねちゃん、クリスティーナちゃん)にも声がついていたのは、すごく幸せでしたね......。いやあ、μ'sの時代からスクフェスをプレイしていたら、自然と彼女たちへの愛情は積もっているものでして......。「しゃべってる!!!!!!」って感じですね。それだけで感動。

 せっかく東雲学園を出して、声もつけて、それから「ライバル」なので、東雲の曲が聴きたいです。圧倒的知名度の東雲学園の曲が聴きたい。遥ちゃんがセンターを張っているところがみたい。あ、いや、本編じゃなくてもいいの。あの、円盤の特典曲とかでどうですかね?ダメ?遥ちゃんに真剣なので、いつまでも東雲の新曲を信じ続けます。

 お騒がせしました。しばらくアニガサキブログは真面目な感じでやってるんですけど、こうやって砕けた感じでまたお話したいな~って思うこともあって。アニガサキレポートとして特に書き方とかは決めてなくて、各話終了後にフィーリングで決めてるんですけど。でもさ、あまりにアニガサキが文学的だから、感化されちゃうのよね。書きたいように書けばいいんですが......。みなさんはどっちがお好きですか?

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最後にね、お気に入り近江姉妹!

 

※引用したアニメ画像は、特に表記が無い場合、すべてTVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』(©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会)第8話より引用。

※歌詞は『Butterfly』作詞:Ayaka Miyake 作編曲Em.meより引用。

*1:手紙って、自分の気持ちを綴って「相対化」するじゃないですか。『Butterfly』のMVは、「lレターボックスって手法が使われているらしく、まあ専門外で細かいことは分からないんですけど、地の文にあたるアニメ本編とは違う文章ってことなんだと思うんですよ。じゃあどちらかの視点なのかというと、それも違う。わざわざレターボックスの外に彼方を配置しているので、これは遥の視点じゃない。でも、遥も確かにこれを見て受け取っているわけじゃないですか。だから、これはラブレター、ビデオレターの形で彼方から遥に送る、ラブレターなんじゃないかって、そう思っているのです。

向き合う顔が、笑顔なら TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』視聴レポート #6 「笑顔のカタチ(⸝⸝>▿<⸝⸝)」

TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』視聴レポート #6 「笑顔のカタチ(⸝⸝>▿<⸝⸝)」

 

向き合う顔が、笑顔なら

 

※当記事は、TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』のストーリーに関するネタバレ、あるいは、アプリ『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバルオールスターズ』のストーリーに関するネタバレを含みます。アニメ未視聴の方、アプリ未プレイの方は、予めご了承ください。

 

↓第5話の記事はこちらから

 

tsuruhime-loveruby.hateblo.jp

 

 

Introduction

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イメージする自分と、むきあうほんとうの自分

「思いを伝えることって、難しい。 

わたしの場合は、特にそう。

『友だちになりたい』。そんな一言を言うのにも、ハードルがある」

  伝えたかった言葉は、「友だちになりたい」。

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気になる。そんな落ち着かない気持ち。

 教室の隅、気になる3人。それでも、璃奈はその言葉を口に出すことができない。

 それは......自分の表情が、表情を出せないことが、感情が相手に伝わらないことが、どうしても気になってしまうから。

 頭のなかでイメージする自分と、ガラスに映る自分。その違いに、彼女は傷つく。傷ついた心は、いつの間にか光を避けて、暗がりへと逃げ込む。固い、暗い、殻のなかへと......。

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璃奈「なんでもない」

 

特別な人

 「表情を出すのが苦手」。中学校までは友だちもできず、いつも一人で過ごしてきた璃奈。

 高校に進学し、変わろうともがく璃奈。それでも、なかなか友だちはできない。そんな璃奈を、突然太陽のように照らしたのが、愛だった。

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特別な人との、運命の出会い

 出会ったときから、表情がなくとも、璃奈の気持ちを正確に把握できた愛。愛はまさに璃奈にとって、唯一無二の特別な存在だった。別に、愛が人の気持ちを読み取れる特別な能力を持っているとか、そういうことではない。これができる人は、璃奈にとって愛しかいない。璃奈にとって愛は「特別な人」なのだ。

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璃奈の世界を、広げてくれた人。

 愛と出会ったことで、璃奈の世界は一変した。例えるなら、言葉も文化もわからない外国で、初めて日本語が通じる人に出会ったような。そんな革新が、璃奈に起こった。殻にこもっていた少女は、宮下愛という特別な人を媒介することによって、はじめて外の世界とつながることができたのだ。

 愛を通じて、璃奈はときめきを受信する。せつ菜のステージ。「スクールアイドル」の存在を知った璃奈は、特別な人である愛と、同じ夢を追いかけることになった。

 璃奈にとって「スクールアイドル」への挑戦は、特別な意味があった。それは、璃奈がスクールアイドルを通して誰かと繋がりたいと考えていたからだ。

璃奈「ファンの人と、気持ちを繋げること」

 4話の、かすみによるスクールアイドルの講義で、璃奈はこう言っている。璃奈は、人と気持ちを繋げたかった。繋がってみたかった。そのために、スクールアイドルになることを決めたのだ。

「初めて、人と繋がることができた。そして今の私は、もっとたくさんの人たちと繋がりたいと思っている。今からでも、変われるんだ」

  自分を変えたい。人と繋がってみたい。彼女のスクールアイドルの物語は、ここから始まる。

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「変わりたい」

 

「繋がる」ってなんだろう

 ところで、璃奈が抱えている問題ってなんだろうか。璃奈はどのように変わりたいと思っているのだろうか。

 既に述べた通り、璃奈のコンプレックスは「表情を出すのが苦手」なこと。そして、それによって璃奈は人と繋がることができない、と考えている。

 まず一つ確認したいことは、これは「璃奈には感情がない」とは全く異なるということだ。璃奈は、感情豊かな女の子だ。ただ、その感情を伝えるための「表情」を持っていないだけなのだ。そして、その感情を人と共有したいと思っている。

 それでは、「表情」ってなんだろう。

表情(facial expression)

情動に応じて身体各部に表出される変化を表情といい、特に顔面に表出される変化を顔の表情という。通常、人間の場合、顔の表情を意味することが多い。(中略)一般に、表情は他者の感情や情動あるいはその意図や欲求を認知するうえでの手掛かりの一つと考えられている。しかし、人間の顔の表情判断に関する研究をみると、表情写真を見せてどのような情動が表出されているか判断させてみても、的中率はそれほど高いとは言えない。顔面の表情表出行動は文化的、社会的な枠の中で形成されるものであり、具体的な場面からは切り離された顔の表情だけから情動を推察することは、基本的な情動を除いてはむしろ困難であるといわれている。なお、表情判断の手掛かりとなる顔の部分としては、眼、口、鼻などがあげられる。

              出典:『ブリタニカ国際大百科事典』 2015

 表情の形成に関する記述も面白く、どうして璃奈が表情を得ることができなかったのか、それに関するヒントになりそうだが、論旨がずれてしまうのでそれはまた別の機会としよう。注目したいのは、「表情だけで情動を推察するのは困難」であるという点である。

 表情というのは、あくまでも人間が相手の心情を推察する一つの判断条件、あるいは、あくまでも自分の感情を表現する一つの方法に過ぎない。それは、感情の伝達において絶対的な存在ではない。人間は、相手の感情を表情以外の、もっと別の点からその多くを受け取っているのだ。

 ストーリーを振り返ると、確かに璃奈の周りでは、璃奈自身が表情を出せないことによって、それほど深刻な問題が起きているようにはみえない。1話で侑と歩夢がはじめて璃奈と会うシーンでは、侑は璃奈の表情をみて「もしかして、急いでいたのかな?」と不安がるが、璃奈が「急いでなかった」と伝えると、侑は「ならよかった」と笑っている。4話においてエマが璃奈に「同好会はどう?」と問いかけるシーンでも、その表情をみてエマは疑問を覚えるも、愛が璃奈の気持ちを読み取り「うきうき」と伝えると、エマは「楽しんでくれてるならよかった」と答える。たしかに感情の伝達に齟齬を起こすこともあるが、それを相手がひどく気にしている様子はない。言葉をもって感情を伝えれば、相手はそれほど困ることなく璃奈の気持ちに寄り添っている。

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戸惑ってはいても、困ってはいない。

 6話でも、璃奈が「表情が出せない」ことで、周りが困っているような描写は少ない、というより、ほとんどない。璃奈が「友だちになりたい」と伝えたいモブ3人組も、璃奈が話しかけようとして失敗することを繰り返していても、璃奈に対して負の感情を抱いたり、なにか璃奈に厳しい言葉をかけることもない。むしろ、璃奈に積極的に話しかけて、アプローチをかけてくれている。

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この子たちはきっと、璃奈にとって得難いほんとうの友だちになれる。

 では、璃奈の抱える問題とは何だろうか。璃奈は、どうして気持ちを伝えることができない、あるいは友だちを作ることができないのだろうか。

 その問題は、きっとここにある。

「『友だちになりたい』。そんな一言を言うのにも、ハードルがある」

  璃奈の抱える問題の本質は、「表情が出せない」ことにあるのではない。そんな自分がコンプレックスになって、他人に心を開くことができなくなってしまったことにある。自分の感情を誤解されることを恐れ、心を閉ざしてしまった璃奈は、口を開くこともなくなってしまった。自分の感情を伝える方法を、璃奈は失ってしまった。

 「話せない」という視点で、ストーリーを見るとどうだろうか。

 璃奈は、決して話していないわけではない。アニメのストーリーの中でも、璃奈は少なからずセリフを発している。

 しかし、璃奈が誰かと、例えば同好会のメンバーとも、話しているときは、いつだって愛と一緒のときだ。さっき見た、1話のシーンが分かりやすい。璃奈は、侑と歩夢に話しかけられても、愛が登場するまで、二人に話すことはできなかった。愛はいつだって、璃奈の気持ちを理解してくれる。そして、困ったときは、それを媒介して相手に伝えてくれる。愛がいるからこそ、璃奈は誤解を恐れず、心を開いて相手に話しかけることができるのだ。

 愛によって殻を抜け出し、外の世界に出た璃奈。璃奈が目指すのは、「誤解を恐れず、相手に感情を伝えること」。そして、それを愛がいない状態でできること。これが、璃奈の目指す「心を繋げる」なのだ。

 

外の世界と、中の世界

 気になる3人と友だちになりたい璃奈。「ぜひライブをやってほしい」と言う3人を見て、璃奈は彼女たちと「つながる」ために、ライブをすることを決意する。

 ところで、璃奈のステージは今作では一番最初のライブとなる。「最初のライブ」という視点で、前作(ラブライブ!サンシャイン!!)、前々作(ラブライブ!)と比較すると、面白いことがわかる。

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直面したのは、「外側」の世界。

 それは、直面している問題が違う、ということである。これまでのラブライブ!では、題材となっていたのはグループとしての成長だった。この点で、まさにラブライブ!はスポ根的な要素を持っていたと言える。努力したら、その分成長する。最初は厳しい評価でも、みんなで力を合わせて努力すれば、いつかそれは大きな成果を生み出す。全ての夢が叶わなかったとしても、その努力の結晶は確かに各自の中に残っていく、そんなストーリーだった。

 だから、1回目のライブで彼女たちが向き合ったのは、外からみた彼女たちへの評価だった。ラブライブ!では、厳しい現実に直面させられた。彼女たちのステージを見に来てくれる人はいなかった。だからこそ、彼女たちは努力し、みんなを振り返らせようとした。ラブライブ!サンシャイン!!では、沼津の暖かい人たちによって、一時は失敗するかと思われた彼女たちのライブは、大盛況だった。しかし、この成功体験は東京に出た後に、彼女たちがスクールアイドルのフェスで1票も得られないという厳しい評価につながっていくことになる。彼女たちがライブで直面したのは、外からの厳しい評価だった。それが彼女たちのバネとなり、彼女たちは力を合わせて成長していくのだ。

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それは、彼女たちの力になった。

 しかし、今作は違う。璃奈が「本当の自分ではない。キャラに頼ってしまった」と満足しないPVも、ファンには好意的に受け入れられていた。みんなが、璃奈のライブを待っていた。実際に東京ジョイポリスで行われたライブも、3人が「結構集まってるね」と言うように、決して超満員というわけではないが、観客はそれなりにいるようだ。

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待ってくれる人は、いる。

 このことから分かるのは、この物語が「グループとしての成長」を描く物語ではないということだ。グループとして目標に一致団結する、力を合わせれば、何倍ものパワーが出せる。そういう話ではない。あくまでもこれは「個人の成長」に光を当てたストーリーなのだ。一人ひとりの成長は、それぞれ違っているし、その大きさも違う。

 先述した璃奈の表情の問題もそうだが、彼女が抱える問題は、彼女の外側にあるのではない。だから、この物語は、彼女の外側が変わっていく話でも、彼女が外側の世界を変えていく話でもない。外の世界には、彼女を受け入れてくれる人も、場所も、あるのだ。でも、それだけではダメなのだ。むしろ、璃奈の抱える問題は、内側にある。そして、それは重大な問題だ。外がどれだけ変化しても、璃奈の内側にあるわだかまりが解消されない限り、璃奈は「変われない」。外側の世界へ出ていくことはできない。

 

わたしは、変われない

 表情には出ないが、璃奈は感情豊かな女の子だ。そして、璃奈はとても熱いパッションと、固い決意をもった女の子だ。

 愛にもらったチャンス。璃奈は「変わる」ために、努力を重ねた。

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決意は、固い。

璃奈「できないからやらないは、なしだから」 

  他のメンバーのPVにも生かされたように、情報処理学科所属の璃奈は動画編集などを得意としていて、自分のPVもその特技を生かしたものだった。

 一方、璃奈の課題はパフォーマンスだった。そして、それは来たるライブには必要不可欠なものだ。ライブを成功させるために。璃奈の特訓が始まる。その内容は、ダンス、発声、MCなどなど、多岐にわたった。璃奈は、どの練習も真剣だった。誰よりも努力して、特にダンスでは固かった体も柔らかくなるなど、着実な成長もみられた。

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大きさは違っても、それは「成長」だから。

 練習のなかで、璃奈は少しづつ殻も破っていったように見える。それまでは同好会の中でもいつも愛と一緒にいた璃奈だが、練習では愛がいないシーンも多くみられるようになった。愛・侑・歩夢を家に呼ぶと、璃奈は過去を話し、感謝を伝えた。それまでの璃奈とは、違う。新しい璃奈に変われたんだ、そう思えるし、璃奈自身も、そう思っていた。

 そして、璃奈は決意する。練習している璃奈たちを見つけた3人は、璃奈に新しいライブ告知動画の感想を伝える。

 璃奈「今のわたしなら......」

  結果は、失敗だった。窓に映った自分の顔をみた璃奈は、途端に話せなくなってしまった。トラウマは、克服できなかった。璃奈は、変われなかったのだ。

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璃奈は、変わっていなかった。

 すこし付け加えるなら、ここに愛がいなかったことも大きかった。愛がいれば、結果は変わったかもしれない。咄嗟に愛が、なにかフォローを入れてくれたかもしれない。エマや侑にも、もしかしたら同じようなことが期待できるかもしれない。

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こういう時とっさに声をかけるのは、むずかしい。

 しかし、その時一緒にいたのは、良くも悪くもまっすぐで、そして不器用なかすみとせつ菜だった。しかし、それは二人が悪いわけではない。むしろ、それは璃奈自身の抱える問題の根本はまだ何も解決していないことを示していた。璃奈の目標は、みんなと繋がること。そして、愛の力を借りずに、自分の力で相手に言葉を伝えること。しかし、今の璃奈にはそれが出来なかった。璃奈は、たしかに、変われていなかったのだ。

 

 

今はまだ、できなくてもいい

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それはまるで、目をそむけるかのように、閉められた。

 ドアは、蓋をするように閉められた。

 璃奈は、再び心を閉ざしてしまった。カーテンを閉めて、段ボールに隠れて。深く深く、殻にこもってしまったのだ。

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暗い殻のなかで。

 ライブ前日。璃奈は練習を休んでしまった。それでも、みんなは璃奈のライブを待っていた。9人の気持ちは、一緒だった。璃奈の家へと愛が駆けていくと、みんなそれに続いた。

 インターホンは、ドアの内側と外側を繫ぐ、唯一の手段だ。9人全てが画角にはいっているのもインパクトがあったろうが、璃奈のこころを動かしたのは、愛の真剣は表情と声だったかもしれない。

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ドアは、璃奈がひらいた。

 ドアは、璃奈によって開かれた。璃奈は、まだ完全に殻にこもってしまったわけではなかった。

 ドアを開けたみんなは、璃奈が見つけられなかった。声は、段ボールの中から聞こえてきた。

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段ボールは、まさに「殻」。

愛「りなりー?」

璃奈「ごめんね、勝手に休んで」

愛「ほんとだよ。心配したんだぞ。どうしたの?」 

  愛の口調には、真剣さとやさしさが同じくらいに介在している。それは、信じられないくらいのあたたかさだった。しかし同時に、逃げを許さない厳しさでもあった。愛は璃奈にまっすぐ向き合った。あとは、璃奈の返答を、心からの言葉を、待つだけだった。

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やさしく、厳しい。

 璃奈の返答は、いつもとは違ってスムーズに、段ボールのなかから静かな部屋へと響き渡った。

璃奈「こんなんじゃ、このままじゃ。わたしは、みんなとつながることなんでできないよ。ごめんなさい。」 

 それは、璃奈の心からの言葉だった。暗くて重くて、簡単に受け止めてはいけないような、そんな言葉。悲しくて、つらくて、情けない。そんな感情が、めいっぱい込められた言葉。でも、それはみんなにとって、はじめての璃奈の「感情」だった。これまでの璃奈は、「表情を出すことが苦手」なだけだったはずなのに、声からも、動きからも、感情が失われてしまっていた。だからこそ、みんなは璃奈の気持ちを受け取ることができなかったのだ。

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それは、重く、でも気持ちのこもった言葉。

 「変われなかった」。璃奈はまた、失敗を繰り返したと思っていた。璃奈はトラウマにとらわれ、再び殻にこもってしまった。

侑「ありがとう。璃奈ちゃんの気持ち、教えてくれて」

「私、璃奈ちゃんのライブ、見たいなあ。今はまだ、出来ないことがあっても、良いんじゃない?」

  璃奈を救ったのは、この言葉だった。璃奈は、「変わらなくちゃいけない」と思っていた。弱点を全て克服して、感情を完璧に伝えて、みんなと「つながりたい」。璃奈が真面目で、プロ意識が高くて、努力家だからこそ、璃奈に妥協するという選択肢はなくなってしまっていた。そして、それは「みんな」のことを人一倍思えば思うほど、璃奈を縛っていくのだった。

 ここで一番最初に璃奈に語り掛けるのが侑なのは、この言葉は、侑にしか言えない言葉だからだ。ステージに立つ人間は、いつだって「完璧」を求めている。同好会のメンバーは、全員そういう意識で練習して、ステージに立っている。そして、それは決してまちがったことではない。そういう意識で臨むから、ステージの上で彼女たちはどこまでも成長していけるのだ。

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璃奈を、待ってる。

 しかし、今璃奈の持っているそんな気持ちは、璃奈が羽ばたいていくための足枷となってしまっていた。それを解き放てるのは、ステージに上がらない「観客」である侑だけだ。そのままの璃奈でもいい。今はまだ、出来ないことがあっていい。この時の侑は、璃奈のファンの代表でもある。璃奈のファンは、決して「完璧」な璃奈のパフォーマンスじゃないと満足しないわけじゃない。今の璃奈を理解し、受け入れ、そして愛し、今か今かと璃奈がステージに立つ瞬間を待っているのだ。

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かすみには、かすみだけにしかないやさしさがある。

かすみ「 りな子。ダメなところも武器に変えるのが、一人前のアイドルだよ」

  かすみのこの言葉も、かすみにしか言えない言葉だ。例えば愛は、どちらかと言えば完璧なタイプだ。でも、かすみはそうじゃない。璃奈との練習シーンを思い返してみよう。かすみは、発声練習では璃奈よりはるかに苦戦していた。決して完璧な存在ではないし、璃奈が練習によって克服できたことでも、かすみはたくさんの「できないこと」を残している。でも、璃奈から見ればかすみは魅力的な存在だ。それは何より、かすみが感情表現に優れたアイドルだからだ。ニジガク2ndライブのパンフレットで、璃奈は「もし一日だけ誰かと入れ替われるとしたら、かすみちゃんになってみたい」と言っている。かすみは、璃奈に持っていないものを武器にしている。だからこそ、璃奈はかすみに憧れる。でも、かすみは璃奈と同じように、苦手なこと、出来ないことを抱えている。決して器用なタイプではないのだ。いわば、かすみは璃奈と正反対のような存在。そして、いつだってかすみは、璃奈に対して気をつかったり対応を変えたりすることはなかった。ここでも、かすみははっきり璃奈の苦手な部分を「ダメなところ」と言い切っている。一見思いやりが足りないように見えるが、そうじゃない。かすみはいつだって、璃奈を他の子と同じように、かすみらしく接してきた。そんなかすみの言葉だからこそ、璃奈の心を動かしたのだった。

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一緒に歩いて行ってくれる人たちも、璃奈にはいる。

愛「できないことは、できることでカバーすればいいってね。一緒に考えてみようよ」

歩夢「まだ時間あるし」

 璃奈は、また立ち上がるための勇気をもらった。それは、これまでとは違う勇気でもあった。自分の短所も受け入れて、抱きしめて、立ち上がる。璃奈は、段ボールを被ったまま立ち上がった。

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殻を脱ぎ捨てるのではなく、殻とともに立ち上がる。それは、璃奈が自分で見つけた答え。

 

段ボールと璃奈ちゃんボード

せつ菜「璃奈さんと こういうお話できたの、初めてですね」

  「表情を出すのが苦手」な璃奈が、言葉からも感情を失ってしまっていたことは、既に書いた。でも、それはどうしてだろうか。

 それは「自信」の問題なのだと思う。璃奈は、これまで表情によって相手に感情を伝えることができずに苦しんできた。積み重なる失敗は璃奈の自信を喪失させ、次第に失敗経験はトラウマとなり、璃奈は感情を相手に伝えようとすること自体が怖くなってしまっていた。そんな璃奈が「みんなとつながりたい」と思い立ったのがどれほど勇気が必要なことだったろうか。

 璃奈の顔に表情が無かったとしても、受け入れてくれるひとはそんなことを気にせずに受け入れてくれる。でも、それは璃奈自身の問題を解決することにはならない。璃奈には、無表情の自分で相手に向き合うこと、それ自体がつらいのだ。相手からどう見えているのか、常に心配で、不安になって、どうやって話せばいいかわからなくなってしまう。

 だから、段ボールの中では気にすることなく話すことができた。段ボールの中にいれば、璃奈は誰かに表情を見られることはない。自分が今相手にどうみられているのか、気にしなくていいのだ。少なくとも、璃奈は表情による「誤解」を心配する必要はない。

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璃奈は自分で、答えを見つけた。それは、璃奈にしか見つけられない答え。

璃奈「これだ!」 

  開発された璃奈ちゃんボードは、このときの段ボールの発展形だ。だから、璃奈ちゃんボードの主眼は、「璃奈の感情をボードで伝えること」ではない。璃奈が、素顔で誰かと向き合ったときに感じる「誤解されるかもしれない」という不安を解くための、おまじないのようなもの。言うなれば、服や眼鏡やイヤリングのような、一つのファッションアイテムなのだ。ボードに表情を描くのは、相手に璃奈の表情を伝えるためではない。璃奈自身の感情が表現できているという安心感を、璃奈自身に与えるためという方がいいかもしれない。璃奈ちゃんボードは、SNSのような璃奈の外側にあるコミュニケーションツールではない。それは、璃奈が誰かに対して心を開いて話すために、璃奈の気持ちを変えることができる、璃奈自身が身につけ、身につけているあいだは璃奈自身と一緒になる、そんなファッションアイテムなのである。

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ボードをつけていてもいなくても、璃奈は璃奈。そしてボード自体もまた、璃奈自身と同じなのだ。

 私たちはもちろん、璃奈ちゃんボードからも璃奈の感情を読み取ることができるかもしれないが、しかしそれに頼らなくても、璃奈の気持ちが分かるはずだ。璃奈ちゃんボードをつけた璃奈の声は、行動は、等身大の感情で満ち溢れている。璃奈の言葉ひとつ、歌声一つで、私たちは璃奈と「つながる」とことができるのだ。

 

Curtains

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「クラスメイト」から「友だち」へ。

 伝えたかった言葉は、「友だちになりたい」。

 璃奈は、気になる3人と友だちになりたいから、変わろうと思った。ライブをしたいと思った。努力した。壁にぶつかった。みんなと向き合って、乗り越えた。自分だけのカタチを、手に入れた。

 カバンから出す、スケッチブック。いくつもの夜を越えて、ようやく伝えられる、その言葉。

璃奈「うん、一緒に食べたい!」

 璃奈が、初めて自分で「友だち」とつながれた。そんな瞬間だった。

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これは、自分のダメなところまでもを抱きしめて生まれ変わった、新しい璃奈の、笑顔のカタチ。

 

※引用したアニメ画像は、特に表記が無い場合、すべてTVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』(©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会)第7話より引用。

なお、当記事2章の「外の世界 中の世界」においては、1枚目の引用画像(キャプション:直面したのは、「外側」の世界。)はTVアニメ『ラブライブ!』((C)2013 プロジェクトラブライブ!)3話より、2枚目の引用画像(キャプション:それは、彼女たちの力になった。)はTVアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』(©2017 プロジェクトラブライブ!サンシャイン!!)3話より引用した。