『無敵級*ビリーバー』と、かすみの鏡の向こう側

『無敵級*ビリーバー』と、かすみの鏡の向こう側

 

※当記事は、楽曲『無敵級*ビリーバー』、あるいはアプリ「ラブライブ!スクールアイドルフェスティバルオールスターズ」のストーリー内容のネタバレを含みます。あらかじめご了承ください。

 

 

 猫被り姫の素顔

「実は私たちは、中須かすみちゃんのほんとうの素顔を、誰も知らないのではないか......?」

 かすみちゃんに出会い、彼女のことを知っていけばいくほど、その疑問が澱のように心の底にたまっていく。

 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の部員、スクールアイドルである中須かすみちゃんは、「かわいいものが好きで、スクールアイドルに人一倍の憧れを持つ」女の子である。虹ヶ咲メンバーの中でもスクールアイドルへの想いは人一倍強く、同好会が解散の危機にある中でもたった一人同好会に残り、同好会を守り続けた。

 「一番可愛いのはかすみん」。堂々と言い張る彼女は、いつだって完璧な「可愛さ」を演じている。ファンにはもちろん、ニジガクのメンバーにも、「あなた」にも、かわいさをアピールすることには余念がない。特に「あなた」へのアピールは幼馴染の歩夢と張り合うほどで、「後輩キャラ」も含めて、かすみちゃんの可愛さに惚れてしまった方も数多いだろう。私もその一人である。

 「いたずら」によって、スクールアイドルのライバルたちを蹴落としていくことを狙うという「腹黒さ」とのギャップも、彼女の魅力となる。もちろん、そこには「他人を蹴落としても自分が一番のスクールアイドルになる」という彼女らしい必死さとアイドルに対するフィロソフィーを投影したものとも言えるが、しかし、そのギャップすらむしろ彼女が計算しているものではないかとも思う。むしろ、いたずらをするときに零れる他人想いな面や負けず嫌いな面、真面目で努力家な面こそが、今私たちがアクセスできる数少ない「彼女の内面的な魅力」であるように思える。

 しかし、かすみちゃんの魅力は、本当にこれだけなのだろうか......?かすみちゃんのことを知ろうとすればするほど、釈然としないものが残るような気がするのだ。

 とにかく、「可愛さを演じる」という点では、中須かすみという女の子に隙は無い。「猫を被る」といっても、全方向に向かって猫を被っているのだからすごい。とにかく徹底している。いつどこを切り取っても、かすみちゃんは「可愛い」。

 「猫かぶり系アイドル」なら、他にも同業者がいる。一例を挙げれば、アイドルマスターシャイニーカラーズの黛冬優子ちゃん。彼女は外向きでは「可愛いアイドル」を演じ切っている。しかし、彼女が猫を被る範囲は広いと言っても限られている。同プロダクションの別ユニットの前でも猫を被る姿にはもはや関心させられるが、心を許した相手の前では「素」を見せる。負けず嫌いで、口も悪く素直じゃない。しかし、そんな変化を見せるところこそ、彼女のある意味「分かりやすい」魅力と言える。

 翻ってかすみちゃんはどうだろうか。どのコンテンツを覗いても、どうにももやもやする。例えば、スクスタの「キズナエピソード」。ゲーム内で「キズナ」を積み重ねると親愛度が深まり、アイドルとの関係が深まっていく。大抵の場合、それぞれのメンバーの試行錯誤が描かれ、「あなた」が話を聞いて問題を共有して、絆は深まっていく。

 しかしかすみちゃんのキズナエピソードは、必ずしもそうではない。とにかくもやもやする。かすみちゃんとまっすぐ向き合おうとすればするほど、かすみちゃんの心は離れていってしまう。かすみちゃんのキズナエピソードは、ファンが増えないという、ライバルに打ち勝って日本一のスクールアイドルを目指すかすみちゃんにとって一番つらいはずの話である。それがかすみちゃんに与えるショックを考えたら、読む前から心配になってしまうほどである。

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少ないファンも大事にするその姿勢は、アイドルの鏡でもあるが......?

 しかし、そんな心配とは裏腹に、かすみちゃんはへこんではみせるものの、自分の気持ちや背景には立ち入ることを許さない。それどころか、「あなた」やみんなの励ましの言葉を聞いたらすぐに立ち直ってみせるし、少ないファンにも喜んで、大人な落ち着いた対応をしてみせる。

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あれだけ負けず嫌いなかすみちゃんとの温度差に、「あなた」は驚く。

 しかし、どうもそれがかすみちゃん自身の素であるようには思えないのである。この展開は、ラブライブ!サンシャイン!!1期8話の『くやしくないの?』をほうふつとさせる。サンシャイン1期でも屈指の緊張感をもつ8話では、Aqoursは東京で出演したスクールアイドルイベントで惨敗する。開き直ってみせる千歌ちゃんだが、実はこころのなかに強い悔しさがある。その悔しさを涙を流し、受け入れることで力にするとき、Aqoursは次のステージへと進んでいくのだ。それを踏まえてみると、ここでのかすみちゃんはどこか割り切った時の千歌ちゃんのような雰囲気がある。絶対に悔しいはずだ。1番になりたいに決まっている。本当は泣いたっていいんだし、投げ出しそうになってもいい。そういう気持ちを否定せずに、しっかり向き合うことこそが、私たちを強くする。

 しかし、かすみちゃんはあっさりと開き直ってみせる。これにはむしろ危うさを感じる。泣いたってわめいたっていいのだ。やっぱりどこまで行ってもかすみちゃんは猫を被っている、誰にも心を許していない。そんな気がしてならない。

 そんなもやもやした気持ちを少しでも解消して、「素顔のかすみちゃん」に近づいていくために、かすみちゃんが見せる言動について考えていきたい。

 

 その鏡に映るもの

 「キズナエピソード」では、さらに最新の18話に注目したい。部室で鏡と向き合うかすみちゃん。「あなた」は、かすみちゃんの独り言を聞いてしまう。

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「鏡よ鏡よ、鏡さん。世界で一番可愛いのは、だ~れ?

それはもちろんかすみんです!早起きしてブローをしてる髪型も最高だし、爪も磨いてぴかぴか、制服のシャツをいい匂いの柔軟剤で仕上げちゃうとこなんかもう、可愛すぎです!

......なーんてね、はぁ......。

かすみんのファンクラブだけ会員が増えないなんで変なの......。誰かの陰謀じゃないかな?そうじゃなきゃ説明がつかなくない?

......もしかして、かすみん実は......可愛くないとか......? 」

           スクスタ 中須かすみキズナエピソード18話より

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かすみちゃんが初めてみせた、無防備で不安な姿。

 「鏡」は、かすみちゃんを語る上で絶対に欠かせないアイテムである。「鏡よ鏡」と問いかけるかすみちゃんの姿は、『無敵級*ビリーバー』へとつながっていく。

 さて、最後の一文も核心に切り込むところだが、ほかにも違和感がある。

 それは、鏡を見たかすみちゃんが、可愛い点にひとつも自分の容姿を挙げていないところ。

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そこに直接容姿につながる言葉はない。

 向き合っているのは鏡なのだから、見えているのは自分の顔である。あれだけ「かすみんは可愛い」を連呼するかすみちゃんなのだから、かすみちゃん自身の可愛さに気づかないわけがない、はずなのだが......。

 気になって調べてみる。すると、一つの気づきを得る。

 かすみちゃんは自分の「可愛さ」をアピールするときに、ほとんど自分の外見をアピールしていない。すべてのコンテンツ、すべての発言を確認できないので確証はないが、全く語っていないのではないか。そうとすら思える。かすみちゃんが「可愛い」とアピールするのは、ありのままのかすみちゃんではない。「かわいい」を目指して努力を重ね計算ずくで演じる「可愛いかすみん」のことなのだ。

 かすみちゃんが自分自身のことを「可愛い」と自負するのは、自分自身の外見、もしくは内面でもなく、「可愛い」へとアプローチする努力のことを指しているように思う。

 例えば、スクスタのサイドストーリーでも、「鏡の前で笑顔の練習をしている」、「可愛く見える仕草を研究している」と、「可愛く見える笑顔」や「可愛く見える仕草」など、自分があらかじめ持っている部分ではなく、努力して手に入れる部分ばかりを話す。「努力しているからかすみんは可愛い、そうでないはずがない」。

 裏返しにすれば、「努力していなければ、かすみんは可愛くないかもしれない」。

 そういうことに、なりはしないか......?

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かすみちゃんは、強いけれど強がるほどに自信はない、そんな女の子なのだ。

 そして、上に引用した通り、かすみちゃんは、「かすみんは実は可愛くないんじゃないか?」と問いかけるのだ。

 この違和感を決定づけるのは、スクスタのメインストーリーのエピソード。「自分の魅力に自信を持つのは大切、自分を好きでないと他人を好きでいられない」とかすみちゃんを褒めるあなたちゃん。一見すると特別なことを言っているようには思えないのだが、かすみちゃんの反応は異なっている。

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もしかしたらかすみちゃんは、今まであまりまっすぐに心から褒められることも多くなかったのかもしれない。

かすみ「......先輩、変わってますね」

あなた「えっ、そ、そうかな?」

かすみ「はい、そうです。今までかすみんのことそんな風に言ってくれる人なんていなかったですもん......。」

         スクスタ メインストーリー一章4話より

  あれだけ自信満々に自らの可愛さをアピールしてきたかすみちゃんなのに、褒められただけで「変わっている」というのも不思議である。褒められて「やっぱりそうですよね!かすみんはすごいんです!」とならない、それはなぜなのか......。もしかして、かわいさの猫を被ってるかすみちゃんを、今まで心から褒めてくれる人はいなかったのかもしれない。

 ここまでのことで導き出される推論。それはこうなるだろう。

 

 「かすみちゃんは、自分自身のことをかわいいと思っていない、あるいは、ありのままの自分のかわいさに自信がないんじゃないか?」

 

 鏡と向き合うかすみちゃんの瞳には、どんなかすみちゃんが映っているのだろうか。

 

 硝子の心を持つ王女

 どうして、かすみちゃんはいつも「かわいい」を演じていて素のかすみちゃんをみせてくれないのか。どうして、かすみちゃんはありのままのかすみちゃんをかわいいと思わないのか。

 直接的な答えは、まだ私たちは知ることができていない。しかし、そのヒントは、随所に散らばっているように思える。

 かすみちゃんのキズナエピソードを読んでいくと、どうにも引っかかるところがある。

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可愛い「だけ」は、負けられない。

 「絶対一番になってみせます。可愛いだけは.........。

 可愛いだけは、絶対、負けるわけにはいかないから......。」

        スクスタ 中須かすみキズナエピソード5話より

  かすみちゃんの高いスクールアイドルへの意識を表しているように見えるシーンだが、これまで考えてきたように読めば、気になる点がある。

 そう、可愛い「だけ」は負けられない。2回も繰り返すこのセリフだが、やはり「だけ」が気になる。他のところは負けてもいい、あるいは負けているのか......?

 裏を読みすぎといわれるかもしれないが、やっぱり気になってしまう。「可愛さでは、かすみんは一番ですから!」ではない。「かわいさだけは、負けられない」のだ。

 もちろん、一つの見方とすれば、これはかすみんの負けず嫌いさを象徴していると言える。かすみちゃんは他のスクールアイドルに対して、並々ならぬライバル意識を持っている。スクールアイドルの公演に感動しても、せつ菜ちゃんは熱く語ってみせるが、かすみちゃんは悔しがる。かすみちゃんの持っている「良さ」、「魅力」のひとつであろう。

 どうして「可愛いだけは負けるわけにはいかない」のか、どうしてかすみちゃんはスクールアイドルに強いこだわりと憧れをもつのか?

 それは、かすみちゃん自身が、自分のアイデンティティを「可愛い」だけだからと思っているからではないだろうか。

 ニジガクのメンバーは、それぞれソロで活動しないと摩擦が起きてしまうほど、個性の強いメンバーが揃っている。スクールアイドルマニアとしてもスクールアイドルとしても他を寄せ付けない情熱と実力を持ち、さらに裏の顔まで持つせつ菜ちゃん、表情のなさを「ボード」を使ってカバーし、独自の表現をもつ璃奈ちゃん、抜群のコミュニケーション能力をもつ愛ちゃん、プロポーションは読者モデルとしてお金を稼げるほどである果林ちゃん、マイペースで独自の世界観をもつ彼方ちゃん、スクールアイドルと両立する演劇部で磨いた演技力を持つしずくちゃん。スイスからスクールアイドルが好きで日本に留学してきて、日本語も上達したエマちゃんがキズナエピソードで個性に悩むほど、ニジガクのメンバーは個性にあふれている。

 それに比べれば、かすみちゃんは確かに苦しいのかもしれない。「可愛さ」も「いたずら」も、それは天然ではなく、かすみちゃんの多大な努力と計算によって生み出された理想の「かすみ像」である。それ以外にかすみちゃんを個性づけるとしたら、「パン作り」くらいだろうか。

 「そうじゃない!!」という大きな声がたくさん聞こえてきそうだ。うんうん。私もそう思う。既に述べたように、かすみちゃんの魅力は違うところにもっともっといっぱいある。負けず嫌いなところ、努力家なところ、人のことを想って行動できるところ、とにかくファン想いなところ......。

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「素顔」をみせることを、かすみちゃんは始めは嫌がる。

 しかし、思い出してほしい。かすみちゃん自身はこれらの部分を自分の魅力だと思っていない。キズナエピソードで「ファンレターを読むかすみちゃんの反応を隠し撮り」した映像を流すという提案を、かすみちゃんは断固拒否している。かすみちゃんは「自分自身」のことを、まだ本当には好きになれていない。自信を持つことができていないのだ。

 「可愛いものが好き」なかすみちゃんは、自分の周りを「可愛いもの」で覆い尽くすことによって、自身をかわいく見せている。かすみちゃんは、それを自分の唯一の拠り所だと信じ、頑なにその場所を守り続けている。かすみちゃんは未だ「自分自身のほんとうのかわいさ」には気づいていないのだ。ちょっとしたことで壊れてしまいそうな危うい自我と、それを覆い尽くす完璧で隙のない「かわいいかすみん」の二面性こそが、中須かすみというアイドルそのものなのである。

 ところで、ここからは完全に余談であり、かつ妄想なのだが、これだけかすみちゃんが自信を持てずにいる理由は何なのであろうか。

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「かすかす」は昔のあだ名なのだ。

 私は、そのヒントは「かすかす」にあるのではないかと邪推している。その語感が悪いのはもちろんだが、かすみちゃんは「かすかす」と呼ばれるのを強く嫌がる。生放送らライブなどでは、半ば定番ネタ化している感もあるが、それでもかすみちゃんはやはり「かすかす」呼びを嫌がっている。歩夢ちゃんがかすみちゃんと初対面の時に「かすかす」と呼んだとき、かすみちゃんは「なんで昔のあだ名知ってるんですかー??」と言っている。「かすかす」は、昔のあだ名なのだ。しかし、本人が嫌がるあだ名を呼ばれてしまうような環境って、どんな環境なのだろうか。どうしても暗いことしか考えられない。もしかして、かすみちゃんは昔いじめられていたのでは......?これ以上はとりとめが無いのでやめておくが、いつかかすみちゃんともっと仲良くなれたときに、かすみちゃんが「昔」の話をしてくれるかもしれない。そういう時に、そんなかすみちゃんのすべてを受け止めることができていればと、強く思う。

 

『Margaret』

 近づこうとしても取り付く島もないようなかすみちゃんだが、ここまでかすみちゃんの内面に踏み込むことができたのも、ひとえに先に示したキズナエピソード18話のおかげである。

 そして、さらにかすみちゃんの内面に切り込んでいけそうなのが、先日発表された3rdアルバム収録のソロ曲『Margaret』である。


【ニジガクみゅ〜じっくウィーク!〜1週目〜】Margaret / 中須かすみ(CV.相良茉優)

鏡に映る自分に問いかけてみたの
今の私は魅力的に見えますか?
まだ答えは返ってこないままで

 

誰よりもいっぱい笑顔絶やさないように
今日も私はちゃんと可愛くいなくちゃ
部屋で一人考えたの

 

こんな素顔だけれど
もっと好きになってくれるかな?

 

聞いて!
泣き顔も笑い顔も 全部見てほしい
たまに出る変な顔も 笑って許してね
いつも好きでいてくれる君にとって

一番でいたい
想いのままを歌にのせたよ


これからも頑張ろう、

君のために!

                3rdアルバム収録曲 『Margaret』より

 

 これまでの『ダイヤモンド』、『☆ワンダーランド☆』が「可愛いかすみん」を完璧に投影した正統派アイドルソングだったのに反して、『Margaret』は、むしろこれまで全く踏み込まれることのなかった「素顔のかすみちゃん」を表現した曲と言える。

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「素顔のかすみん」を、知ってもらいたい。かすみちゃんの、成長である。

 この曲はキズナエピソード18話のエピソードの答えになるような曲であることから考えれば、「かすみんは本当は可愛くないんじゃないか」という自身への問いかけに対して、かすみちゃんが出した自分なりの答えということになる。

 そしてそれは、ついにかすみちゃん自身の口から「素顔」に言及されるものになっている。「完璧な笑顔で可愛いかすみん」とは、あきらかに違うかすみんがそこにいる。この歌詞だけではこれ以上のことを言うことができないが、きっとこれからかすみちゃん自身が、自分のことを好きでいてくれるファンのために、そして「あなた」のために、素顔を徐々に見せてくれることを予言している。その時を今か今かと待ち遠しくまつことしか、私たちにはできないけれど。でも、ついにかすみちゃんが「素顔の自分」と向き合ってくれたことが、これまでのかすみちゃんを見守ってきた私たちにとっては、涙が出るほどうれしいことには変わりはない。

 

 『Margaret』全体の歌詞とキズナエピソード20話を反映したかすみちゃん像は、次の記事を参照してほしい。かすみちゃんと一緒に、さらに先へと進んでいくことができる記事になっているはずだ。

tsuruhime-loveruby.hateblo.jp

 

『無敵級*ビリーバー』


【試聴動画】無敵級*ビリーバー / 中須かすみ(CV.相良茉優)

  かすみちゃんについてここまで考えたことを踏まえて、ついに待望の『無敵級*ビリーバ―』を聴いていきたい。

 イントロで歌われる「Mirror on the wall」は、"Mirror mirror on the wall, who's the fairest of them all?"(鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰?)という「鏡よ鏡」を表し、いつも鏡に向き合うかすみちゃんを描いている。そもそも、『白雪姫』で白雪姫の継母である王妃が鏡に上記のフレーズを問いかけるのは、継子である白雪姫が自分より美しいのではないかという不安が背景にあるのではないかと思う。鏡に向かって「自分が一番美しいのか」と問いかける王妃の心の奥底にあるのは、「自分より可愛い人がいる」ということを認めたくないという、自信とプライドの喪失に対する不安に他ならない。

 つまり、ここでは今まで見てきた「ありのままの自分に自信が持てない」かすみちゃんの不安が表される。「鏡」は、常にかすみちゃんを語る上で欠かせないアイテムである。

 続く「あの子」が誰なのかという話はよくされているし、たとえばそれがせつ菜ちゃんではないか、とはよく聞くが、私はここで結論を出したくない。それがどんなスクールアイドルであっても、自分よりかわいくまぶしい人がいたら、負けず嫌いから悔しがりため息をつく。それがかすみちゃんだから。

 私服・そして各衣装ともに、どのカットもとびきりかわいいかすみちゃんがみられる点は、まさに「可愛いかすみん」そのものと言えるし、選挙で1位を取ったかすみちゃんの魅力を最大限に引き出している。一番印象に残るのは『ダイヤモンド』衣装のカット。夕日を浴びながら立つかすみちゃんは、ケーキ、ぬいぐるみ、王冠といった「可愛いもの」の上に傲然と、勝利者のように立っている。これまでのかすみちゃんが、「可愛いものが好き」という点を武器にして、この選挙を勝ち抜いたことを表しているように思えるし、同時に、「可愛いもの」に拠らない、新しいかすみちゃんの誕生を象徴しているようにも見える。

 

かすみの鏡の向こう側

 「可愛いかすみん」を完璧に表現するこの曲だが、『ダイヤモンド』や『☆ワンダーランド☆』とはその内容は違っている。最もそれを象徴するのが、Bメロ部分の掛け合いである。

「努力しても追いつけないのかな」

『ううん!弱気で凹んでちゃダメ!』

「私にだってできるはずなのにな」

『超絶 誰より イチバンだもん』

                  『無敵級*ビリーバー』歌詞より 

  一番はこうである。これはかすみちゃんのソロ曲であるし、かすみちゃん自身と、それから鏡(背景のビジョンは鏡を表しているように思える)の中のかすみちゃんとの会話を表している。

 「」が、素顔のかすみちゃんのコメントであり、『』が、鏡の中のかすみちゃんである。根拠は文脈以外にもある。「」の部分ではPVの私服のかすみちゃんが動いて歌う。『』の部分では、背景のビジョン(=鏡?)の中のかすみちゃんが動いて歌う。

 『ダイヤモンド』や『☆ワンダーランド☆』は、鏡の中のかすみちゃんが歌う曲だ。逆に『Margaret』は、鏡と向き合う素顔のかすみちゃんが歌う曲である。『無敵級*ビリーバー』は、どちらであろうか?

「手強いライバル現る 焦る」

『がんばる姿 見ててほしいな』

「計画通りにはいかないな」

『ねぇ ますます目が離せなくない?』

                  『無敵級*ビリーバー』歌詞より 

  結論から言えば、『無敵級*ビリーバー』はどちらでもない。上に引用したのは2番Bメロの歌詞である。一番と同じように、素顔のかすみちゃんと鏡の中のかすみちゃんが掛け合いを見せる。

 しかし、PVの背景に注目してほしい。1番サビ前で鏡の向こう側へと誘われたかすみちゃんだが、2番のこの部分では『無敵級*ビリーバー』衣装に身を包んだかすみちゃん自身が鏡の外で両方の歌詞を歌い、むしろ鏡(ビジョン)の中にはかすみちゃんの内面が映し出される。そしてついには『ねえ ますます目が離せなくない?』の部分で、鏡の外のかすみちゃんと鏡の中のかすみちゃんは完全に動きがシンクロする。最後にかすみちゃんがとびきり可愛くダブルピースすると、ついに鏡を表すビジョンは雲散霧消し、鏡の中のかすみちゃんと鏡の外のかすみちゃんは完全に同一のものになる。

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「鏡の向こう側」へ。

 『無敵級*ビリーバー』は、かすみちゃんが演じる「可愛いかすみん」の歌でもなければ、鏡と向き合うありのままのかすみちゃんの歌でもない。これは「鏡の向こう側」にたどり着いたかすみちゃんの歌なのだ。

 ここまで読んでもらったみなさんであれば、「この世界中の全員がNoだって言ったって」という歌詞も誇張とは感じないであろう。これまでかすみちゃんは、そんな逆風の中でも、「かわいいかすみん」を演じることをやめなかった。たとえそれが「作り出した可愛さ」であったとしても、それが自分の魅力であり、それが誰にも負けない一番であると信じ続けてきた。

 かすみちゃんの最大の魅力は、武器は、一番誰にも負けないところは、「信じること」だ。

 「もう絶対めげない 負けないって決めたの」という歌詞からは、もしかしたら一度かすみちゃんが自信を失って、折れてしまったことがあったかもしれないということが伺える。

 しかし、かすみちゃんは再び自分を信じることができた。だからこそ、かすみちゃんは努力を重ね、めげずに負けずに、「可愛い」を追求し続けている。

 かすみちゃんは強い。それは誰よりも、「あなた」が、ニジガクのみんながわかっている。だから、かすみちゃんが少しへこんでいてもみんなは必要以上に励まさない。みんな、かすみちゃんが強く、自分で問題を乗り越えられることがわかっているからだ。

 かすみちゃんの強さを一番表しているのが「この世界中でたったひとりだけの私を もっと好きになってあげたい」という歌詞である。これまで心配していたかすみちゃんの弱さ、危うさは、まるで乗り越えてしまったかのようだ。かすみちゃんの成長には、目をみはるしかない。

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まさにかすみちゃんの「到達点」にふさわしいPVである。

 『無敵級*ビリーバー』は、一つのかすみちゃんの到達点だ。努力を重ねたかすみちゃんは、ついに鏡の向こうの理想の自分へと、たどり着いてみせたのだ。

 しかし、そんなかすみちゃんも、いつか心が折れてしまいそうな時がくるかもしれない。負けてしまいそうな日がくるかもしれない。

 だから、いつか必ず、かすみちゃんの「素顔」を知りたい。いつでもかすみちゃんが本音を話せる相手になりたい。そして、困ったときにかすみちゃんを助けてあげたい。

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「誰かを喜ばせたい」。かすみちゃんが目指すのは、そんなアイドル。

 いつでも「誰かを喜ばせる側」でいたいかすみちゃんは、どんどん進んでいってしまう。かすみちゃんがどこまでも進んでいくのについていって、いつかかすみちゃんが壁にぶつかったときに、かすみちゃんに手を差し伸べられるように、必死にかすみちゃんについていく。

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かすみちゃんにどこまでも、ついていきたい!

 「無敵級のビリーバー」を、支えられるような「あなた」でいたい。

 

 かすみちゃんの鏡の向こう側に、できるだけ早く、置いていかれないようについていきたい。無敵級に自分を信じることができるようになったかすみちゃんはどんどん成長していって、まだまだ未熟な私たちは置いていかれてしまうかもしれないけど、かすみちゃんは絶対に待っていてくれる。そして鏡の向こう側で会った時、かすみちゃんはきっとこう言うのだ。

 

 「遅いですよ、先輩!かすみん、待ちくたびれちゃいました」

 

出典

『Margaret』/中須かすみ(CV:相良茉優) 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会3rdアルバム『Just believe!!!』より。作詞:鈴木エレカ 作編曲:Carlos.K 2020年

『無敵級*ビリーバー』 /中須かすみ(CV:相良茉優) 作詞:Ayaka Miyake 作曲:DECO*27 編曲:Rockwell

各画像は、アプリ「ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル オールスターズ」中須かすみキズナエピソード、あるいはメインエピソードより引用。『無敵級*ビリーバー』関連画像は、上記『無敵級*ビリーバー』PVより引用。