こばとんのPOG日記 #1 ウマ娘オタクによるPOGのススメ

こばとんのPOG日記#1 ウマ娘オタクによるPOGのススメ

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2021年こばとんのPOG馬・アグリと川田将雅騎手(写真はかずや氏提供)

「この一年で週末の過ごし方が大きく変わった」。そう実感しているオタクは少なくないのではないか、私もその一人である。

 社会現象まで起こしたゲーム『ウマ娘 プリティーダービー』は、コンテンツそのものだけでなく、競馬の面白さを教えてくれるコンテンツである。自分が好きな作品の中では、例えば『ガールズ&パンツァー』がそうであるように、題材としたコンテンツへの多大な愛とリスペクトを秘めて、「こだわって」作られたアニメは、私たちの世界を広げてくれる。

 『ウマ娘』もまさにそういったコンテンツで、レースのあれこれから競馬場、競走馬に関すること、競馬の様々な要素をみごとに取り込んでいて、コンテンツに触れるだけで競馬の魅力までも知ることができる。だからこそ、この1年でオタクの土日のタイムラインはカタカナの馬名で満ち溢れることになったのである。

 

 ウマ娘は昨年の2月にリリースされたが、リリース当初からダウンロードしてプレイしていた私はすっかりウマ娘の虜になった。アニメも徹夜して全部観た。「鉄は熱いうちに打て」である。ウマ娘を知って1か月、私はついに競馬の世界に足を踏み入れることになった。

 ちょうど一年前の大阪杯。人のいない府中競馬場へと足を運んだ時のことは、以下の記事を読んでほしい。

 

tsuruhime-loveruby.hateblo.jp

 そのころの私は、競馬の競争をどう楽しめばいいのかということを、もう全く知らなかった。馬券を買うこともなんとなく怖さがあった。買い方もわからなかった。

 次第に、レースを、予想を、馬券を理解してくると、今度はうっすらとした違和感を覚えた。確かに競馬は面白い。けれど、本質的に「馬券を当てたくて」競馬を見ているのではない。ウマ娘で知った競馬の面白さと、予想して馬券を買う競馬の楽しみ方では、同じ競馬を見るのでも、微妙にズレがあると気づいたのである*1

 きっと皆さんも、初めてウマ娘のURAファイナルズで育成をしたときに、泣いたことだろう。最後まで導いてやることがどれほど難しいことか。負けても負けても笑顔でいるウララを勝たせるために腐心して、最後に観たうまぴょい伝説は、涙なしには見られなかった。

 ウマ娘の感動を握りしめたまま競馬をみると、どうしてもその感覚のズレが気になるのである。もちろん、推し馬を見つけることも、それを追いかけていくことも、そう難しいことではない。だけど、あの「担当ウマ娘が決まって、メイクデビューからクラシックへ進んでいって、グッドエンドを目指す」という体験は、ただ競馬を見ているだけでは、なかなかたどり着けるものではない。

 

 結論から言えば、ほんとうの意味でこの経験をするためには、馬主になるしかない。しかし、もちろん馬主と言うのは、東京大学に入って有名企業に入ったって手に入らない額の収入が無ければなることができない。もちろん一口馬主といって、会費を払いながら一口数万円という金額を払えば、100分の1か1000分の1の金額を払って馬主になれる。それでも、決してハードルが低いというわけではない。

 

 困った......。でも、安心してほしい。お金が無くても、馬主気分を味わいたい。古からそういう競馬ファンはたくさんいたのである。そして、そんな競馬ファンが生み出したのが、ウマ娘から競馬にであった皆さんにこそオススメしたい「POG(ペーパー・オーナー・ゲーム)」なのである。

 

POGってなに?

 POG(ペーパー・オーナー・ゲーム)とは何か。とりあえず、Wikipediaを引いてみよう。

競走馬を参加者が仮想馬主として選択し、その競走成績によって得られた賞金などをポイントに置き換えて競うゲームである。実際に競走馬を所有するわけではなく、架空の(仲間内の書類のみの)馬主として参加するのでペーパーオーナーと言われる。

参加者が馬主気分を楽しむことができ、競馬ファンである職場の同僚や学校の同級生など限られたサークルで行われることが多い。

              Wkipedia「ペーパーオーナーゲーム」より引用

 要するに、POGとは、「仲間内で馬主気分を味わう馬主ごっこ遊び」のことである。

 もともと仲間内で行われていたものだし、ルールも様々だが、ここではnetkeibaなどで採用されている基本的なルールを説明しよう。

(この記事は身内オタクへのPOG参加への啓発も兼ねており、ここで紹介するルールはそこで行われるPOGや、筆者自身が経験したnetkeibaのPOGを基に説明をおこなうものである。したがって、決して一般的なものとは限らない。多くの場合仲間内でのPOGはドラフトの要素を含んでいるが、ここで紹介しないのはその理由による。)

 

 1.その年の6月以降の2歳新馬戦においてデビューし、翌年のクラシック(皐月賞日本ダービー桜花賞オークスNHKマイルカップ)を目指して走る競走馬を、10頭指名する。このとき、多くの場合最低何頭は牡馬・牝馬を指名するなどの規則がある場合もある。期間は翌年のダービーまでが一般的で、安田記念や夏競馬、菊花賞秋華賞などは含まれない。

 

 2.それぞれの競争において得られる賞金をポイントに換算して、最高のポイントを獲得した者が勝者となる。ここでいう賞金は、1着馬だけでなく2着~5着馬に対して(ここは各POGによって違う場合もあるので注意!)も与えられる。要するに、とにかく指名した馬がG3、G2、G1に出走して、そこで高い着順を目指すことができる馬を探すことが目標である。

 

 ちょっと固い説明になってしまっただろうか。砕けた説明をすれば、来年のクラシックを目指す馬の中から、「この馬ならダービーを勝てる!」、「この馬なら桜花賞オークスの二冠を狙える!」という馬を、10頭探してくる。指名したら、あとは見守るだけである。メイクデビューを迎える新馬戦から、応援馬券を握って愛馬のレースを見届けよう。2歳はどんなレースがあって、どういう順序を踏んでクラシックに向かっていくのかは、ウマ娘をプレイしている諸君には説明不要であろう。要するに、POGとは「期間がダービーまでになったウマ娘の育成シナリオ」なのである。

 

どうやって指名する馬を探すの?

 ルールが分かったところで、きっとここまで読んだ全員に浮かんだ疑問があるだろう。「2歳馬を指名することは分かったけど、その2歳馬はどうやって探してきたらいいの?」。ごもっとも。日本には、一年に7000頭ほどの競走馬が生産されているという。星の数ほどいる2歳馬から10頭を選び出すのは至難の業である。ここからは、指名する10頭を探す方法を説明しよう。

 探し方を教える前に、「競走馬がどうやってデビューするのか」を抑えておこう。

 牧場で生まれた馬(当歳馬)は、セリや直接の取引によって、馬主の元へと売却される。「〇億円の馬」と呼ばれるのは、このセリの時についた値段である。もちろん、値段が高ければ期待度は高い。でも、期待度が高いからといって走るとは限らない。ここが、競馬の面白いところであって、難しいところである。セリにかかっていない馬は多くの場合「庭先取引」といって、馬主が牧場から直接購入する。直接買いに行くんだから、もちろんこっちだって期待度は高い。

 日本競馬において、牧場はおもに「社台・ノーザンファーム」と、「中小牧場」に分かれている。社台・ノーザンファームは、大種牡馬サンデーサイレンスを購入してきた牧場で、様々な経営努力によって日本競馬を掌握した。昨年の皐月賞馬エフフォーリア、ダービー馬シャフリヤール、桜花賞馬ソダシはみなノーザンファームの生産である。

 とはいえ、中小牧場の馬にチャンスがないわけではない。昨年のオークス馬ユーバーレーベンはビックレッドファームの生産である。一昨年の牝馬二冠馬デアリングタクトに至っては、いかにも中小牧場というかんじの「長谷川牧場」の生産であるし、なんとセリの取引価格は1296万円であった(!)。もちろん、社台・ノーザン生産の馬の方が期待値が高いことは明らかであるが、中小牧場からの成り上がりにユメヲカケルのもまた乙である。

 購入した馬は馬主のものになるが、もちろん馬主がみずから馬を飼育できるわけではない。「預託」といって、馬主は牧場・厩舎に馬を預けることになる。ここで馬はさまざまなトレーニングを施され、レースでの勝利を目指す調教が行われる。まあ「トレセン学園」に通っていると思ってほしい。

 順調に育成されてきた馬は、まず「新馬戦」に出走する。この新馬戦というのは、2歳の6月から始まり、12月まで行われる。ウマ娘ではすべての馬が6月にデビューするが、実際の競馬はそんなことはない。育成の進捗が悪ければ、メイクデビューはどんどん後ろ倒しになってゆく。

 基本的に競走馬は、一つ勝つことによって上のレベルに挑戦してゆく。みなさんはきっと、ウマ娘でメイクデビューで負けた経験があるだろう。メイクデビューで負けると、「G3〇〇2歳ステークス」みたいなレースに軒並み参加できなくなる。実際の競馬もそれと同じである。新馬戦で勝てなかった馬は、未勝利戦へと向かう。未勝利戦を勝ち上がれば、その上のクラスや重賞に挑戦するチャンスを得るが、勝ち上がれなかったら、いつまでも未勝利に挑戦し続けなくてはいけない。

 ウマ娘でメイクデビューを負けたとき、一部のウマ娘で「出走できるレースがなくて困る」経験をした人もいるだろう。たとえば、マイル・短距離の適性が無いのに、メイクデビューがマイル・短距離しかないケースである。もちろん、実際の競馬も同じである(ウマ娘ってよくできてるよね)。順調さを欠くと、勝ち上がりのチャンスはどんどん遠ざかってしまう。デビューや、勝利が遅れたら、年末の2歳G1であるホープフルステークス朝日杯FS阪神JFに出走することもできない。重賞にチャレンジすることができなければ、獲得できる賞金は少なくなる。(なお、2歳のうちにデビューできずに、年が明けて3歳になった場合、新馬戦はなくなり、未勝利からスタートすることになる。しかしここでは経験豊富な馬たちとぶつかるため、一つ勝つのはより難しくなる。)

 長々と話したが要するに「POGでは、早期にデビューして早期に勝ち上がれる馬を指名しなければならない」のである。たとえばタマモクロスのように、クラシックが終わって秋が過ぎてから活躍するような馬を指名してもポイントは稼げないし、マンハッタンカフェのように、秋以降に活躍し、あるいは3000mのような長距離を得意とする馬を指名するのもリスクが高い。とにかく、日本ダービーなどクラシックまでに結果を出してくれる馬を選ぶのが、高ポイントへのコツである。

 

 前置きが長くなった。つまりはどういうことかというと、POGの「2歳馬を10頭指名する」ということは「早期にデビューしてクラシックで活躍してくれそうな2歳馬を10頭探しましょう」というゲームと言い換えることができる、ということだ。

 本題に入ろう。POGで指名する馬の探し方は、以下のようなものがある。

 

 1.指名する馬は、2022-2023年のPOGをするとしたら、2020年に生まれた馬の中から選ぶことになる。しかし、POGを指名するとき、まだ馬名が決まっていないことがある。まだ馬名が決まっていない馬は、日本の競馬では「母名+生まれた年」で表現する。たとえば、G13勝馬スイープトウショウの2020年生まれの産駒は、「スイープトウショウの2020」と表記される(現在はスイープアワーズという馬名がついている)。

 

 2.NetkeibaのPOGページには、「POGマル秘リスト」として注目馬が多数紹介されている。期待度順にランク付けされているため、POG界隈で高く評価されている馬を手軽に探すことができる。まずは、このようなリストを活用するのがいいだろう。ただし、このようなリストで紹介されたからといって必ず活躍するとは限らないということは、もちろん留意しておく必要がある。

 

 3.POG誌と呼ばれる、POGの専門誌を購入するのもよい。POGの専門誌には、その年にデビューする2歳馬が、馬体の写真と一緒に載っている。このような雑誌は、その年の有力馬を選び出して載せているから、掲載されている競走馬が活躍してくれる確率も高い。ある程度競馬の知識があって、自分の基準で手広く選びたい場合は、このような雑誌を購入すると選びやすいだろう。

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筆者が2021-2022POGにおいて参考にしたPOG誌。このほかにも様々なPOG誌がある。どれを選んでもそれほど問題はないだろう。リストアップした馬に付箋を貼っていた。(『競馬王のPOG本 2021-2022』ガイドワークス 2021)

 

 4.これは応用編と言うべきだが、かなり情報の収集に慣れている人であったら、Netkeibaなどのデータベースから直接探し出す方法もある。たとえば、競馬を見ているときに気になる活躍馬がいれば、Netkeibaの競走馬のページの「血統」の項目をみてみよう。その馬の血統表の下に、「兄弟」の項目がある。推し馬のきょうだいを指名するのもいいし、有力な馬のきょうだいを探してみるのもまた有力である(例えば、昨年のダービー馬シャフリヤールは、2019年に大阪杯を勝ったアルアインの弟である)。

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写真はコントレイルのページ。コントレイルには2020年生まれの弟「インタクト」がおり、この馬は2022-2023POGで指名することができる。(父:ハーツクライ)。(画像はnetkeibaホームページを加工して引用)



 あるいは、Netkeiba等のデータベースを使って、「キングカメハメハ」、「ハーツクライ」といった種牡馬のページから2020年産の馬を表示させて、その中からリストアップしてゆく......という方法もあるが、なにしろ数が多い。種牡馬からさがすよりは、繁殖牝馬から探す方が効率がいいというのが、筆者の見解である。どのような馬が走るのか、ということに関しては、筆者もまだ競馬歴1年の初心者だから、ここでは解説できない。この方法はやはり上級者向けといえよう。

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netkeibaのデータベース→競走馬詳細検索から、「父名」に種牡馬の名前を入れよう。たとえば、ディープインパクトを入れてみる。年齢の項目は、2歳~2歳にしておけば2歳馬だけを表示することができる。(画像はnetkeibaホームページを加工して引用)

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検索すると、ディープインパクト産駒の2歳馬だけが一覧表示される。ディープインパクトはこの年は種牡馬として最後の年であり、体調を崩し種付けを終了したため、この年の2歳馬はわずか6頭しか表示されない。(画像はnetkeibaホームページを加工して引用)

 しかし、やはり競馬というのは「情報を制する」ことこそが他を制する最良の方法である。『種牡馬辞典』のようなものから種牡馬の特徴や成功している配合の傾向を掴んだり、POGに関する記事やニュースの中から有力な2歳馬を探し出したり......。様々なツールを駆使して、お気に入りの1頭を探しだそう。

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こういった書籍を活用するのも一つの手だ。(『パーフェクト種牡馬辞典』自由国民社 2022)

 上記説明した2、3の方法は、POGが開始される6月を前に、5月などに情報が出る。少しでも早くPOG馬をさがしていくなら、4の方法を使って探していくといいだろう。

 

 POG馬の登録方法は、各POG主催サービスによって異なる。それぞれのページにおける説明を参照されたい。Netkeibaの場合は、2歳馬の競走馬のページに「POG登録」のボタンがあり、それをタップ/クリックするだけである。

 

まとめ

 どういう馬を指名したらいいか、どうやって指名する馬を探すか。いろいろ説明してきたが、やはり大事なのは自分が良い、好きだと思った馬を指名する、ということである。競馬はデータのスポーツだ。だからこそ、「無数のデータを自分なりに解釈する」ことが、一番大事である。いろいろな情報があって迷うかもしれないが、そこはアニメを観るのと一緒、「自分が好きだ」と思える馬を指名して、応援しよう。それこそがPOGの醍醐味なのである。

 昨年のPOGを始める時に、ウマ娘ゆかりの血統馬であるピエドラデルーナ(父キタサンブラック、母スイープトウショウ)についてTwitterで投稿したところ、プチバズして驚いた。ウマ娘ファンにおけるウマ娘ゆかりの血統馬への注目は、やはり高そうなのである。そのような馬を探しだして推すこともできる。POGの楽しみ方は無限大なのだ。

 最後に、まとめとして、ウマ娘から競馬に入ったオタクにどうしてPOGがおすすめなのかを挙げて、この記事を終わりたい。

 

 〇POGは、勝ち馬を予想する以外の側面で競馬を楽しむことができる。メイクデビューからクラシックまで自分のPOG馬を応援していく体験は、ウマ娘の育成シナリオに近い。自分の指名馬が出走する、いや記事に取り上げられるだけで、ほんとうに嬉しい。自分の指名馬が重賞に出走するときの緊張感もまた、無性に楽しい。

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「推し馬」の関連グッズを集めるのも、また至福である。

 〇POGは、「競馬の教科書」と言えるほど、競馬に関するすべてが詰まっている。POGを始めれば自然と様々なレースを見るようになるし、血統や馬体など、競走馬に関する様々な知識を得られる。競馬は決して、重賞に出る有力馬だけで成り立っている者ではない。「競馬の全体を楽しめる」ことが、POGの魅力である。

 

 POGは、オタクに最も合った競馬の楽しみ方である。さあ、来年のダービーに向けて、推し馬と一緒に、自分たちだけのシナリオを始めよう!

 

[連載告知]こばとんのPOG日記は、連載記事として、2021-2022POGにおける筆者のPOG馬の記録を、何回かに分けて紹介する予定です。乞うご期待!

*1:ここで私自身感覚を述べたが、あえて注記しておきたいのが、「決して私は、ギャンブルとしての競馬の楽しみ方を否定しているわけではない」、ということである。そもそも、競馬番組を運用してくれているJRAに対して、金銭の形で貢献するためには、基本的には馬券を買うしかない。推し馬の応援馬券を握りしめて、競馬を楽しもう。もちろん競馬は公営ギャンブルだから、馬券売り上げの一部は畜産振興に用いられるから、「全く馬券を買わない」という楽しみ方はむしろ積極的に推す気にはならない。ただし、ギャンブルはそれ相応の危険性をもつものであることも、心しておく必要はある。