かすみ猫と、夢のワンダーランド TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』視聴レポート #2 「Cutest♡ガール」
TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』視聴レポート #2 「Cutest♡ガール」
かすみ猫と、夢のワンダーランド
もくじ
※当記事は、TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』のストーリーに関するネタバレ、あるいは、アプリ『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバルオールスターズ』のストーリーに関するネタバレを含みます。アニメ未視聴の方、アプリ未プレイの方は、予めご了承ください。
泥棒猫が狙うもの
「世界で一番のワンダーランド。そんな場所に行けると、思ってたのに......」
まっすぐな想いと、まったく同じ大きさのまっすぐな想い。ふたつの想いはぶつかって、かすみは同好会を飛び出した。巨大なエネルギー同士の衝突は大爆発を伴って、それぞれ想いを抱えるメンバーはちりぢりになってしまった。
ストーリーを導いていくのは、かわいい猫だった。
野良猫はんぺんを連れ出したかすみは、生徒会長室へ忍び込む。かすみは、はんぺんを囮にして、生徒会長中川菜々の意識を逸らす。
しかし、かすみもまた猫だった。策略をもって菜々と対した果林は、かすみを囮にして、菜々の意識を逸らす。まんまと生徒名簿を持ち出した果林。決定的証拠。これが、菜々を、せつ菜を、追い詰める。
かすみが盗み出したのは、「スクールアイドル同好会」のプレートだった。
これは、決して策士果林さんに対して、かすみがちょっとおバカさんだとか、そういう話ではない。ちょっとおっちょこちょいだとか、そういうことはあるかもしれないけれど。ともあれ、生徒会長に犯行現場を目撃された泥棒猫・かすみは、こう言い残して逃げていく。
かすみ「しかし、目的は果たしました。さらば!」
はんぺんを使って生徒会長室に忍び込むかすみの「計画的犯行」は、見事に成功した。そして、かすみは目的を果たして逃げ去った。そう、かすみが狙っていた獲物は「スクールアイドル同好会」のプレート、そのものだったからだ。
かすみ「にひひ、大成功です!」
しかし、一瞬にしてかすみの計画は暗転する。
スクールアイドル同好会の部室は、もう失われていたのだ。それは、物理的に取り返すことが不可能になっていた。「ワンダーフォーゲル部」によって占拠された部室。かすみがどうしても取り返したかったプレートは、もうどうしたってその定位置に戻すことはできなくなっていたのだ。
ロスト・ワンダーランド
絶望するかすみは、思わず膝から崩れ落ちる。
プレートを取り返したかすみが一番最初に向かったのは、部室だった。
そもそも、プレートを取り返しただけでは、鍵を開けて部室に入れる保証はない。それに、また生徒会長にプレートを取られてしまえば、かすみの計画は水泡に帰してしまう。
それでも、かすみがプレートを取り返したのは、そして部室に向かったのは、かすみにとっては「場所」としての同好会が一番大切だからである。かすみにとっての「ワンダーランド」とは、スクールアイドル同好会であり、その部室なのだ。かすみにとっては、確かにライブができなかったことも、みんなと連絡が取れないことも一大事ではあるのだが、それ以上に「スクールアイドル同好会の場所」がこの世から無くなってしまうことの方が、遥かに深刻なのだ。だから、かすみはせつ菜と話をするとか、どうにかしてメンバーと連絡をとるとか、そんなことよりも真っ先にプレートを取り返すことを目指した。それは、何より同好会が無くなってしまったら、かすみにとって大切な居場所である同好会が、その部室が、かすみの「ワンダーランド」が、失われてしまうことを意味しているからだ。
かすみがどうしてここまで場所としての「スクールアイドル同好会」に固執するのか。それは今のところ分からない。「かわいい」を表現するなら、もっと他の方法だってあっていいはずである。それでも、かすみは「スクールアイドル同好会」にこだわる。
あえて答えを出すとしたら、それは「スクールアイドル同好会」が、かすみにとって唯一の居場所であり、「かわいいを表現できる場所」だからということになると思う。裏返して言えば、かすみの考える「かわいい」は、スクールアイドル同好会以外の場所では表現できないということを意味する。それがかすみ自身が表現できないということなのか、それとも誰もそれを受け入れてくれないということなのか、あるいはその両方なのか。これ以上は妄想にしかならないので止めておくが、やはりかすみにとって「スクールアイドル同好会」という居場所が、ワンダーランドが、唯一無二なものであることは間違いない。
泥棒猫かすみ。よく、「犬は人に付き、猫は家に付く」と言う。そう考えると、誰かについていくのではなく、場所としての「スクールアイドル同好会」に居付くかすみは「猫」として見え......なくもない。ちょっと考えすぎかもしれないが.......。
どちらにせよ、かすみ猫の居場所は無くなってしまった。それは、野良猫かすみが次の住処を探す、これからそんなストーリーが始まるということを意味しているのだった。
「かすみんワンダーランド」と、その行方
「ワンダーランド」を取り戻す。部室を奪われ、部室奪回の強硬策を「薄情者」のしずくに取り合ってもらえなかったかすみは、ついにある決断をする。
かすみ「こうなったら、かすみんが部長になって、同好会を存続させるしか......!
かわいいあふれる、かすみんワンダーランドを作っちゃいますよ~」
まさに渡りに船。悩むかすみの前に表れたのは、「スクールアイドルにご興味がありそう」な、侑と歩夢の二人だった。
かすみに疑惑の目をむける歩夢と、興味津々の侑。そんな二人を、かすみは「スクールアイドル同好会」に勧誘する。
かすみ「大丈夫です!信じてください!かすみん、最強にかわいいスクールアイドル同好会にしてみせますから!」
これは、かすみによる「スクールアイドル同好会」の復活宣言である。今ここで、中須かすみ部長による「新生・虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」が誕生した。
かすみ「早速これから同好会を始めますよ!ついてきてください!」
「入部決定」の歩夢と、専属マネージャーの侑。二人を抱え込んだ同好会は、一歩目を踏み出していく。
動き出した同好会。かすみたちが一番最初に取り組んだのは、活動場所を探すことだった。
スクールアイドル同好会は、既にせつ菜によって、歩夢たちの目の前で、廃部となった。つまり、かすみが始めた新生スクールアイドル同好会は、非公認の存在だった。ましてや、かすみは生徒会長室からプレートを盗み出した「泥棒猫」だ。ただでさえ無数の部活でひしめく虹ヶ咲学園においては、いくら学校が広いとはいえ、学園内で活動するのは不可能なことだった。
公園を転々とするかすみたち。なかなかいい場所が見つからないかすみに対して、侑は潮風公園を提案する。広くて静かな潮風公園。野良猫かすみたちの仮住まいとしては、おあつらえ向きだった。
かすみ「なにはともあれ、しばらくはここが虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の部室ですよ!」
やはり、かすみにとって大切なのが「場所」であることは、この発言からも読み取れる。「スクールアイドル同好会」のプレートは、かすみにとって自分の居場所の、「ワンダーランド」の象徴なのだ。だからこそ、このプレートを生徒会長室から盗み出してきたのであり、だからこそ、そのプレートを置くことで、公園すらも部室に変わる。変えることができるのである。「部員を集める」ことよりも、「部室を決める」ことが先に来るのも、かすみにとって「居場所」がいかに大切かを物語る。
とはいえ、準備は整った。次のステップは「部員募集」。そのための自己紹介の動画づくりが、かすみの率いる新生スクールアイドル同好会の行方を、大きく左右していくのである。
「かわいい」と「かわいい」は、決して交わらない
歩夢「かわいい......。だったら、やろうかな」
話は少し戻って、歩夢がかすみの「新生スクールアイドル同好会」に入部するときのことである。目の前で「スクールアイドル同好会の廃部」を宣言され、部室が失われる瞬間を見せつけられた歩夢にとっては、かすみの提案は簡単に信用していいものだとは感じられなかったのだろう。歩夢には、侑に対して猛アピールをみせるかすみに対する警戒感もあったかもしれない。
それでも、歩夢はかすみを信じた。なぜ信じたのかといえば、それはかすみが「最強にかわいいスクールアイドル同好会」にしてみせると言ったからだ。歩夢は「かわいい」から、かすみの新生スクールアイドル同好会に入部を決めた。
歩夢がスクールアイドルを始めたのも、「かわいい」を目指したからである。
歩夢「私、好きなの!
ピンクとか、かわいい服だって、今でも大好きだし、着てみたいって思う。
自分に素直になりたい。だから、見ててほしい」
歩夢が、自分と素直に向き合って目指したのは、ピンクでかわいい服を着る、そんなスクールアイドルだった。だからこそ、歩夢は「かわいい」スクールアイドル同好会ならと、かすみの新生スクールアイドル同好会への入部を決意した。
歩夢とかすみは、侑の関心を引こうとつばぜり合いを始める。並んで座る歩夢と侑。かすみは、外側にいたり、間に入り込んだり。歩夢とかすみ、二人の駆け引きは、コロコロと変わる位置関係で見事に表現されている。「かすかす」で先制攻撃をかける歩夢には、危機感すら見て取れる。
「かわいい」を目指すスクールアイドルである、歩夢とかすみ。ライバル同士の二人の関係が、始まろうとしていた。
しかし、かすみの「かわいい」と、歩夢の「かわいい」は、絶対に交わらなかった。
かすみが考える「かわいい」を、最大限に詰め込んだかすみの自己紹介。侑は、初めて見るスクールアイドルの自己紹介に大喜びだったが、歩夢は違った。「は?」。これが歩夢の第一声である。かすみの考える「かわいい」は、歩夢には理解できないものだった。
次は歩夢の番。かすみの求める「かわいい」を再現できない歩夢は、追い詰められる。呆れるかすみが提案したのは、かの「あゆぴょん」。しかし、歩夢は恥ずかしさのあまりに声が小さくなってしまったり、気持ちが入らなかったり。
かすみ「不合格ですね」
かすみの考える「かわいい」は、歩夢にとってはあまりに難しいものだった。「かわいい」と聞くだけで、怖がる歩夢。いまここで、二つの「かわいい」は、全く交わることなく、根本的にすれ違ってしまったのだ。
すれ違う理由
活動が終わったあと、デックス東京ビーチの中で座り込んで話す3人。
侑はかすみに、「同好会がなぜ廃部になったのか」という、かねてからの質問をぶつける。
かすみはこう答えた。
かすみ「もとはと言えば、せつ菜先輩がいけないんです」
「大好き」を届けたいせつ菜と、「かわいい」を目指すかすみ。
かすみは、こうやって二人がぶつかってしまったことを、2つの理由で理解していたのだと思う。
一つは、「自分の価値観を押し付けてくるせつ菜が悪い」ということ。
2話は、せつ菜とかすみがぶつかるシーンから始まる。かすみに、より高いパフォーマンスを求めるせつ菜。他のメンバーがせつ菜をたしなめていることから見ても、せつ菜の要求は、客観的に見ても少し高すぎるところがあったのかもしれない。いずれにせよ、明確に方向性の違うせつ菜の要求に耐えられなくなってしまったかすみは、同好会を飛び出すことになってしまった。「せつ菜先輩がいけないんです」という言葉には、かすみのはっきりとした怒りが見て取れる。同好会廃部の原因は、せつ菜にあると見ているわけだ。
もう一つは、「最初から方向性が違っていたことで対立が起こった」ということ。
「こんなの全然かわいくない!」。そうせつ菜に言い放つかすみ。かすみは、同好会の中で(ここが大事!)、自分の思う「かわいい」を表現することを目指していた。それなのに、せつ菜の方向性での努力を強いられ、耐えられなくなってしまった。かすみは、皆の方向性が一致しなければ、同好会は「ワンダーランド」になり得ないと思っている。その証拠に、後で侑が「みんなの方向性が違っていても、それは仕方がない」といったときに、「それでは困る」と答えている。かすみは、みんなの方向性が同じである、そんな同好会を作る必要があると考えていた。
だからこそ、かすみは自分で「かわいいスクールアイドル同好会」を設立した。最初に入部したメンバーは、自分と同じく「かわいい」アイドルを目指す歩夢だった。みんなが「かわいい」を目指す同好会。「かすみんワンダーランド」設立を目指すかすみの計画に、死角はない。はずだった。
しかし、歩夢の「かわいい」と、かすみの「かわいい」は、交わらなかった。
かすみはきっと、良かれと思って歩夢に「かわいい」を叩き込んだのだと思う。かすみは、同好会がうまくいかなかったのは、せつ菜の「大好きを伝える」とかすみの「かわいい」の、全く違うベクトルのものがぶつかったからだと思っていた。だからこそ、新生スクールアイドル同好会は「かわいい」がコンセプトだったのだ。みんなが同じベクトルであれば、同好会は上手くいくと思っていた。
しかし、怖がる歩夢を見て、かすみは気づいた。かすみが歩夢に「かわいい」を叩き込んだのは、あの厳しかったせつ菜と、全く同じことをしていたのだ。
このことは、かすみに2つのことを導いた。
ひとつは、かすみがせつ菜と同じ立場に立ったこと。
これまでかすみは、せつ菜に対して怒っていた。「ムキ―ッってなっちゃって」と、かすみも言っている。感情的な時ほど、人間は客観的に物が見れなくなる。しかし今、かすみはせつ菜と同じことをしてしまった。自分が絶対的に悪いと思っていたものが、自分自身すら無意識にやってしまうことであると気づいたのだ。ベッドにうつぶせになってもがくかすみの気持ち。これは、いわば「ブーメラン」だ。これほど辛いことはない。
もう一つは、「かすみんワンダーランド」計画が、決定的に頓挫してしまったことだ。
かすみは、同好会廃部の理由を「方向性の違い」に求めた。だからこそ、方向性が同じ「かわいい」スクールアイドル同好会を作れば、うまくいくと考えていた。
しかし、それは間違いだった。人の目指すもの、考えることはもちろん十人十色だが、「かわいい」もまた十人十色だった。かすみの考える「かわいい」と、歩夢が考える「かわいい」は、根本的に違っていたのだ。これでは、またお互いにぶつかりあって、新生スクールアイドル同好会も活動不能に追い込まれてしまう。
同好会を飛び出したかすみ猫は、ついに、袋小路に追い込まれた。
かわいいから合格です!
しかし、かすみは逃げなかった。
「歩夢に対して酷いことをしてしまった」というかすみ。歩夢が自分の指示に従って練習していると聞いたかすみは、罪悪感の悲しみのなかで、侑に抱き着いて助けを求める。かすみにとって、この瞬間が一番つらかったかもしれない。
でも、かすみは自分の行動を正当化しなかった。
かすみ「やりたいことは、やりたいんです。
けど、人にやりたいことを押し付けるのは、嫌なんですよ。
なのに、かすみん、歩夢先輩におんなじことしちゃって......。
かすみは、正直に自分の想いを侑に明かした。悪いことをしている自分を、ごまかさなかった。それは、歩夢が現れたときにも分かる。遅れてやって来た歩夢が、「あの、自己紹介なんだけど.......」と切り出すと、かすみは「ああ......」と、両手を前に出して歩夢を制止しようとする。かすみとしては、ここで歩夢に自己紹介をやらせてしまったら、それは完全に人にやりたいことを押し付けたことになってしまう。かすみは、ここで歩夢を止めて、正直に謝るつもりだったのだろう。中須かすみという人間のもつ正直さ、真っ直ぐさ、人を思いやれるこころ。そんな魅力が、ここには詰まっている。
そんなかすみを救ったのは、侑と、それから歩夢だった。
侑は、かすみにこう言った。
侑 「つまり、それぞれやりたいことが違ってたってことでしょ?それでケンカしちゃうのは、仕方ないと思うけどなあ」
これは、完璧な救済だ。侑は、かすみもせつ菜も、お互いぶつかってしまったことも人に押し付けてしまったことも、「仕方がない」と言った。その責任は、せつ菜にも、そしてかすみにも無いんだよ、ということを、真っ直ぐかすみに伝えたのだ。かすみが悩んでいたことは、誰にでもあることであって、決して悪いことではない、と。
しかし、これではあまりにも説得力がない。なにしろ、かすみはこの問題とずっと向き合って、そして挫折してきた。論理は経験に勝らないのだ。
答えを持ってきたのは、歩夢だった。
先日はあれだけ苦労した歩夢の自己紹介だったが、今日は、見事に、それを成功させてみたのだ。
それは、歩夢自身が、自分自身の「かわいい」を見つけたからだ。自分のかわいいを見失っていた歩夢。きっかけを与えてくれたのは、すれ違いに歩夢と出会った果林だった。
果林「でも、それはあなたの言葉?
もっと伝える相手のことを意識した方がいいわよ」
歩夢にとってのファン一号は侑だった。と言えば簡単だが、もっと話は大きいのだと思っている。これは推測の域を出ないが、歩夢の「かわいい」は、侑が思う「かわいい」なのだ。もちろん、歩夢は自分の意思で、スクールアイドルになった。それは疑いがない。しかし、目指すのは、侑が「かわいい」と言ってくれる、そんなスクールアイドルなのではないか。
だからこそ、歩夢はあの衣装を着て、決意のステージに立った。だからこそ、侑が「かわいい」と褒めちぎるかすみの登場はピンチだった。歩夢は「かわいい」と思わなかったかすみの自己紹介を、「かわいい」と喜ぶ侑を見た歩夢は、思わず「え?」と驚く。かすみの登場は、歩夢にとっても大ピンチだった。
侑の求めるかわいいがかすみのかわいさの中にもあると知った歩夢は、侑の「かわいい」にかける期待に応えるべく、かすみの「かわいい」に挑戦する、しかし、結果は散々だった。
しかし、歩夢は試行錯誤の中で、果林の先ほどの言葉も力となって、答えを見つけた。侑が歩夢の中に見出す「かわいい」と、侑がかすみの中に見出す「かわいい」は、根本的に違うものだ。侑はかすみの「かわいい」に近づけようとしすぎて、自分の言葉を、「かわいい」を見失っていたのだ。
歩夢の自己紹介に「あゆぴょん」が残ったのは、歩夢が侑のことを真っ直ぐ考えた結果だと思っているが、さすがに考えすぎだろうか......?
なんにせよ、歩夢は、かすみの目の前で、歩夢とかすみの「かわいい」は当たり前に違うということ、そして、それは問題なく共存できることを、完璧に示したのだ。侑も、あの時かすみに抱き着いたのと同じように、歩夢にときめいて、そして「かわいい」と抱き着いた。今、この瞬間、ふたつの「かわいい」は、お互いの違いを、お互いのすばらしさを、認め合うことができたのだ。
かすみ「 かすみんの考えてたのとはちょっと違いますけど、かわいいから合格です」
歩夢は、かっこいいから、きれいだから、セクシーだから、合格だったのではない。「かわいいから」合格だったのだ。かすみは、自分とは違う歩夢のかわいさを認めたのだ。
かすみと歩夢の「かわいい」は、一見同じに見えたが、それは絶対に交わらないものだった。それが同じに見えて、決して交わらないからこそ、かすみは誰にでもある価値観の違いに気づき、そしてそれをお互いに尊重する。かすみの持つ「人に押し付けたくない」という理想を、信じることができたのだ。
ここで、侑が提案する。
侑「多分、やりたいことが違っても、大丈夫だよ。
上手く、言えないけどさ。
自分なりの一番を 、それぞれ叶えるやり方って、きっとあると思うんだよね」
かすみ「そうでしょうか?」
侑「探してみようよ。それに、その方が楽しくない?」
歩夢が結果で、かすみの目の前で示してくれた可能性。かすみは、その可能性を信じつつも、しかしまだ疑っていた。だからこそ、かすみは侑に聞き返した。
侑は「探してみようよ」と応えた、この瞬間、はっとして、それからかすみの表情が晴れた。
それは、侑がまだそんな場所が無いこと、それからそんな場所を作ることが難しいことを知っていて、それを踏まえたうえで、「一緒に探してみよう」と誘ったからだ。この言葉は、かすみが信じるに足りる、そんな説得力をもった言葉だった。せつ菜もかすみも、そんな同好会を、場所を、ワンダーランドを、作ることはできなかった。しかしかすみは、侑と出会って、そして歩夢と出会って、ワンダーランドへの第一歩目をクリアして、侑と一緒なら、侑についていけば、そんな世界が作れると確信したのだ。
夢のワンダーランド
かすみ「でも、歩夢先輩!どんなに素敵な同好会でも、世界で一番かわいいのは、かすみんですからね!」
かすみが、侑と歩夢と、いろんなかわいいもかっこいいも一緒にいられる「ワンダーランド」を目指したこの瞬間。この瞬間に、歩夢とかすみは完全にライバルになった。ライバルになれるのは、お互いを認め合っているから、お互いが対等だからだ。一番「かわいい」を目指すライバル。でも、そんな二人が一緒に活動できるのは、それぞれの「かわいい」を否定しないワンダーランド。その物語が、もう始まっているからだ。
いろんなかわいいもかっこいいも、一緒にいられる。そんな場所が本当に作れるなら.......。そこは絶対、世界で一番の ワンダーランドです!
かすみが目指す「ワンダーランド」。失われた居場所を取り戻し、もっともっと素敵な世界へと。かすみがその景色を見ることができる日は、そう遠くないのかもしれない。
※引用したアニメ画像は、特に表記が無い場合、すべてTVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』(©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会)第2話より引用。