はるか世界を飛び出して、夜空へ漕ぎ出す少女たち

 自堕落も酷いもので、ブログ更新もすっかり久しぶりになってしまいました。こばとんです。

 先週の日曜日に、さいたまスーパーアリーナにて行われたライブ「ラブライブ!フェス」に参戦してきました。

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さいたまスーパーアリーナにて

 ラブライブ!シリーズが一同に会するプレミアムな夜。はじめて見る初々しいニジガクちゃんたちも素晴らしかったし、復活したμ'sには涙しました。1曲づつ振り返っていくのもいいかな、と思ったのですが、今日は1曲だけを取り上げて、お話をしていきたいと思います。

 

 3時間の濃密なライブの中で、一番印象に残った曲があります。

 AqoursのユニットコーナーでCYaRon!が披露した『夜空はなんでも知ってるの?』です。

 この曲は、高海千歌渡辺曜黒澤ルビィによるユニットCYaRon!による1stシングル、『元気全開DAY! DAY! DAY!』のB面に収められている曲です。


【試聴動画】ラブライブ!サンシャイン!! ユニットシングル CYaRon!「元気全開DAY!DAY!DAY!」「夜空はなんでも知ってるの?」

 ラブライブ!には珍しい、友達とのケンカを巡る感情を切なく歌うバラードで、満天の星に包まれた夜空を思わせるような美しいメロディーにのせて歌い上げるこの曲は、元気いっぱいなメンバーを揃えるCYaRon!が歌うギャップもあいまって、リリース時には話題になったことを記憶しています。

 私にとってはラブライブ!シリーズのなかで最も好きなこの曲は、Aqoursの1stライブでも披露され、その歌声とダンスによるパフォーマンスによって更にその評価を高めました。

 

 5周年を迎えたAqoursが、憧れのμ'sと共演した今回のラブライブ!フェス。その場所で歌われた『夜空はなんでも知ってるの?』は、これまでとは一味も二味も違っていました。

 歌が上手くなったのかといえば、必ずしもそうとは言えないかもしれません。むしろ音程という視点でみれば、1stライブの方が安定していたかもしれない。

 それでも彼女たちは確実に違っていました。振り付けのひとつひとつに、声のすみずみに、それぞれの表情に、感情が、気魄がこもっていました。私は見ていたのでも聴いていたのでもありません。「魅せられて」、「聴かされて」いたのです。彼女たちが示す彼女たちの道が、そこに見えたような気がしました。

 

 μ'sのストーリーは、この上なく完成度の高いシンデレラストーリーでした。最初は人気も無くほとんど見向きもされなかったμ'sは、そのパフォーマンスを、素晴らしい曲たちを、そしてなにより努力を重ね続けて、スターダムの頂点へと昇り詰めました。「みんなで叶える物語」をキャッチフレーズとしたμ'sとラブライブ!の物語は、彼女たちを支えるファンを抜きにしては語れない物語でした。μ'sの輝きに呼応するかのように、ファンもまた輝きを増していったと思います。「ラブライバー」たちは奇跡の目撃者であると同時に、奇跡を一緒に体感する当事者でもありました。劇場版の大ヒット。紅白歌合戦への出場。そして東京ドームでのファイナルライブ。その快進撃のストーリーが頂点に達した2015年、2016年のμ'sの勢いは、もはや暴力的なほどでした。東京ドームで私たちが見たオレンジ色の海は、何万人ものファンによる「今が最高!」は、私たちが叶えた奇跡の最高地点でした。

 しかし、物語とはいつか終わりを迎えるものです。とにかく上へ上へとあがっていく稀代のシンデレラストーリーによって輝いたμ'sの物語は、その頂点である東京ドームでのライブで終わりを迎えました。完璧なストーリーでした。

 

 Aqoursは、この物語が絶頂を迎えつつある2015年に、その産声をあげました。無論、その期待は良くも悪くも高いものでした。いつだってμ'sと比べられてしまう環境に、彼女たちはいました。

 0からスタートしたμ'sとは全く違う状況でデビューした彼女たちにとって、μ'sが描いてきた物語は、超えるどころかむしろ実現不可能なものだったと思います。ラブライブサンシャインアニメ一期で描かれたストーリーと同じように、彼女たちは憧れのμ'sを目指しながらも、μ'sとは違う物語を自分たちで描いていくことになります。

 では、Aqoursが描こうとするストーリーは何か。それは「ラブライブの物語から飛び出して、現実の世界でストーリーを具現化していくこと」だと、私は思うのです。そしてその現実の世界でのストーリーは、「沼津を救うこと」と「アイドルとして物語の外で活動すること」だと思うのです。

 

 μ'sが描いてきた物語は、いつもラブライブ!自体のストーリーとともにありました。μ'sはその歌の力を使って、アニメのなかで自分たちの高校を救いました。その楽曲はどれもアニメの中のμ'sのストーリーに、さらにはそれを現実世界に敷衍して、それはμ'sが描いてきたサクセスストーリーと連動して、私たちに感動をもたらしました。私たちはラブライブ!の世界の中で、μ'sとともに奇跡を体感し、それをプロジェクションマッピングのように現実世界に投影して、μ'sと一緒に奇跡の目撃者となりました。

 

 Aqoursの目指すストーリーは、むしろ現実世界で描いていくものです。Aqoursのみんながアニメの中で浦の星女学院を救えなかったことも、それを象徴しているかもしれません。Aqoursの物語は未完成です。物語の続きは、ラブライブ!のストーリーの外で、描かれていくのです。

 

 事実、「沼津を救う」という部分では、Aqoursはいくつかの奇跡を既に起こしてきました。寂れはじめていた内浦は、ラブライブ!によって活気を取り戻しました。沼津の街を好きになって、移住する人も出ました。台風による甚大な被害をうけたあわしまマリンパークが営業を続けることができた理由にも、ラブライブ!が挙げられていました。アニメーションを作るための取材の情報が桟橋の再建に役立ったという、ちょっと出来すぎたストーリーすら、そこにはありました。

 

 いきなり1stライブを横浜アリーナで行ったAqoursは、その後巨大なドームツアーを敢行した後、4thライブであっさりと東京ドームに到達しました。しかも、そんな東京ドーム公演は、ラブライブ!のストーリーの中でのライブではありませんでした。アニメのストーリーからは独立したセットリストで、サウンドトラックと同名のライブタイトルをひっさげ、オーケストラを連れて行った挑戦的なライブでした。

 『Daydream Warrior』や『スリリング・ワンウェイ』といった、アニメの挿入歌ではないものの、圧倒的なパフォーマンスでライブを盛り上げる定番曲が多くあることもAqoursの特徴です。

 また、ユニットごとの活動を積極的に行なっています。9人揃ってではなく、ユニットだけでライブやツアーを行う事ができるのも、Aqoursならではでしょう。この活動の成果が最も如実に現れたのが昨年行われた「バンダイナムコフェス」でした。アイカツアイマスが一堂に会して高いパフォーマンスを見せるなかで、AqoursはユニットGuilty Kissの3人だけで参戦。ほとんど切れ目なく6曲を連続して披露し、その歌声・スタミナを含めた卓越したパフォーマンスで抜群のインパクトを残していました。これまでのようにストーリーに拠らなくても、たくさんの観客をそのパフォーマンスだけで魅了できる実力を示したのです。

 最近は地上波で見ることも増えたAqours。よくその魅力を「アニメとのシンクロ」と取り上げられるのですが、Aqoursを好きであればあるほど、その取り上げ方には不満があるような気がします。「シンクロ」は数多あるAqoursの魅力のほんの一欠片に過ぎないのです。声優が歌って踊る、とか、アニメ映像とシンクロする、といった次元を遥かに越した魅力がAqoursにはあります。「表現者」として、「アーティスト」として評価されうるだけの力をもっています。

 

 今回の『夜空はなんでも知ってるの?』で彼女たちが見せたパフォーマンスは、「アーティスト」として、Aqoursはまだまだ進化していくという挑戦の意思そのものである、と感じました。ラブライブ!の、アニメの世界から飛び出して、新たな世界を切り開き続けている彼女たち。常にその新境地を共に見たい。彼女たちが紡ぎ続ける物語を、必ず最後まで見届けたい。輝く彼女たちの姿をペンライトの光の向こうで目に焼き付けながら、誓いを新たにしたのでした。