ライバルで仲間 TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』視聴レポート #9 「仲間でライバル」

TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』視聴レポート #9 「仲間でライバル」

 

ライバルで仲間

 

 

※当記事は、TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』のストーリーに関するネタバレ、あるいは、アプリ『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバルオールスターズ』のストーリーに関するネタバレを含みます。アニメ未視聴の方、アプリ未プレイの方は、予めご了承ください。

 

↓第8話の記事はこちら

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 こんにちは。こばとんです。

 アニガサキ9話は「仲間でライバル」。9人目の個人回となった果林ちゃん回ですが、ここで虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会自体のコンセプトテーマを持ってくるのには驚きました。てっきり最終話くらいのタイトルに持ってくるものかと......。

 こうなってくると、これからの計4話(だよね?)で、何を描いていくのかが俄然気になります。これまで一人づつ繊細に、丁寧に、鮮やかに。9人それぞれを描いてきたアニガサキですが、その分「全体のテーマ」は少し見えにくくなっている感じもして......。その点、十人十色の同好会メンバーはそれぞれ個人を尊重して、「仲間でライバル」であるということは大きなテーマの一つかな?と思っていたので、ここで回収するのは少しびっくりでした。これから先、どんな物語を展開していくんでしょうか。これまでの8話を通じて、アニガサキへの期待と不安はすっかり信頼へと変わっているので、ただ楽しみに待つのみです。やっぱり鍵を握るのは「高咲侑」ですかね?

 アニガサキがこれだけ上手だと、もう伏線は綺麗に万全に張られている可能性もあるのですが......。ブログを1話づつ書いていくスタイルでは、どうしてもそのあたりの視点は曇ってしまう面があることは確かです。これに関しては、アニガサキ視聴レポート完走後にいろんな視点でアニガサキを串刺しにした記事を書きたいと思っていますので、乞うご期待ということで。きっと、アニガサキが終わったら巨大な喪失感とすっかりルーティンになった生活習慣で筆が止まらない気がします。

 さ、9話ですよ9話!とある事情からちょっと正気を保てる気がしませんが、早速おはなしを始めましょう!

 

ニジガクの現在地

 9話自体の物語に入る前に、少し現状整理をしたいと思っています。

 と言うのも、この9話というのはこれまでの個人回の結論でもありますが、この後のストーリーのはじまりでもあるからです。次回の10話は予告で見た通り合宿回で、10人全員、同好会全体の話になっていく可能性も高く、少なくともここで話の潮目が変わることはたしかでしょう。

 9話では、同好会が新たなステップに進む回であるだけに、アニガサキの世界全体の解像度がちょっと上がった気がします。

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圧倒的強者感のある東雲学園。

 まずは、スクールアイドル界の事情です。既に7話で彼方ちゃんの妹、遥ちゃんが登場し、スクフェスの転入生がそれぞれ所属していた学校がスクールアイドル部を擁し、活動していることは分かっていました。遥ちゃんの所属する東雲学園は少なくとも虹ヶ咲よりはかなり格上の強豪校です。しずくちゃんの所属する演劇部の合同演劇祭で、藤黄学園の存在が明らかになりました。藤黄学園にもスクールアイドル部があり、こちらも東雲と並んでかなり強豪のようです。

 実家より長い時間を過ごしているオタクも多そうなお台場ゲーマーズのシーンでは、スクールアイドルのグッズが販売されている様子です。この商品たちが合法なのかという疑問は置いておいて、スクールアイドル自体がそれなりの人気を持っていることがわかります。ただし、東雲学園や藤黄学園のスクールアイドルのグッズはある一方で、虹ヶ咲学園のスクールアイドルのグッズはありません。明らかに両学園に対して虹ヶ咲学園の知名度が、現状劣っているということが示されています。

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彼女たちのグッズは、まだ無い。

果林「ねえ、あなたのグッズはないの?」

せつ菜「え?ないですよ~。ちょっと悔しいですけどね。いつか私たちも、ここに並べるようになりたいです」

 せつ菜ちゃんの向上心溢れる発言に笑みを浮かべる果林ちゃんが印象的なシーン。ここでの発言から、優木せつ菜というスクールアイドルが同好会内でもその知名度、人気、経験において一歩先を行くことが分かります。明らかに果林ちゃんにとってせつ菜ちゃんは「スクールアイドルの先輩」なわけです。『先輩禁止』や『ダイヤさんと呼ばないで』で明確に年齢差などでの立場の違いを一掃し、横一線であることを強調した前作・前々作との違いが表れている気がします。彼女たちはやはり「個」としてスクールアイドル同好会に所属しているわけです。

 

 一方、スクールアイドルの音楽界での立ち位置も興味深いものがあります。

 9話で、果林ちゃんがステージに立つ「ダイバーフェス」。動員3000人の(微妙に少ない気もするけど?)大規模音楽イベントは、次のように紹介されます。

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ダイバーフェスにおいて、スクールアイドルは一つの枠を得ている。

侑「ダンスミュージックにロックにポップス、それにスクールアイドル。ほんとうにいろんな音楽が集まってるんだね~」

 この世界には「スクール」じゃないアイドルはいないのか?という疑問は置いておくとして、アニガサキの世界ではスクールアイドルは音楽の中の1ジャンルとして確立されていることが分かります。前々作、前作ではスクールアイドルは未発達のジャンルで、部活動自体への理解を得ることが出来なかったり、スクールアイドル自体の知名度を広げていったり。まだまだ「スクールアイドル」というジャンルが発展途上で、それが広がっていく様子も同時に描かれてきました。しかしアニガサキの世界においては、「スクールアイドル枠」が確保され、既にスクールアイドルは他の音楽ジャンルと並び称されるほどのアプリオリな概念です。

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「スクールアイドル」は、アニガサキの世界で燦然と輝いている。

 そもそも、「スクールアイドル」という言葉はラブライブ!の世界の中だけに存在する、この世の中には存在しない言葉です。ラブライブ!を知らない人からしたら、そんなリアリティーのない話、と思われても仕方ないくらいにフィクションです。アニガサキは前々作・前作との具体的な時系列は全くもって不明ですが、しかしそういう意味で全く状況は違うと言えるでしょう。スクールアイドルがあたりまえの世界を彼女たちは生きています。スクールアイドルがあたりまえになったのは、物語の中でも、私たちの中でも、偉大な先駆者たちのおかげです。そして、スクールアイドルの存在があたりまえだからこそ、彼女たちの物語は「スクールアイドルの物語」ではなく、「スクールアイドルに挑む一人ひとりの物語」として高度に成立しているんじゃないか、そう思うのです。

 

 仲間だけどライバル

 9話の物語の扉を開くのは、意外な人物でした。

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現れたのは......?

 そう、東雲学園の近江遥ちゃんと、そして、藤黄学園の綾小路姫乃ちゃんです!

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遥ちゃんと姫乃ちゃんは、ある提案を持ってきた。

 改めて説明すると、彼女たちはアプリ「ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル」のモブスクールアイドル「転入生」のメンバー。もとはと言えば、この虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会も転入生選挙の上位三人(しずく・エマ・彼方)を軸に始まったプロジェクトなので、彼女たちはかつての仲間あるいはライバルといった立ち位置でしょうか。

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かわいい....................。

 綾小路姫乃ちゃん、とっっても可愛くないですか?

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これが、アニガサキ品質......!

 唐突にすみません.......。いや、でもやっぱり、可愛くないですか?姫乃ちゃん。その麗しき横顔は、アニガサキ品質の作画によって国宝級の美しさを手に入れています。薔薇の髪飾りと艶やかな黒髪の素晴らしきマリアージュ。落ち着き払った声と凛とした立姿。これはまさに、「立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花」ってやつでは?それからさあ、スクールアイドル衣装めっちゃいいじゃん。その黄色のかわいらしい衣装を着るとイメージが変わってやばい。少ない登場機会で見事にギャップまで織り交ぜてくる隙の無さ。あとさあ、美咲ちゃんと並んだ時の身長差!!!!!コンパクトサイズな姫乃ちゃんがかわいい!なにそのいじらしい反応!頭なでなでしたいぞ、よしよし。

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愛おしい身長差。

 —こほん。

 推しのひとりなんです、姫乃ちゃん。彼女たちは、まだAqoursが産声を上げる前からずっと私たちの近くにいたわけで、その分愛着も強いものがあります。「動いてる!」「しゃべってる!」と、いちいち感動しているのです。

 せっかくですので、綾小路姫乃ちゃんのご紹介を。藤黄学園でスクールアイドルをする彼女は、華道部との掛け持ち。和服に身を包む少女ですが、写真が趣味でもあります。アニガサキでは穏やかな雰囲気を醸し出していますが、スクフェスでは意外と活発。スクールアイドルとして恥じらいをみせることも少なく積極的で、努力を重ねて「天下」を取ることを目指しています。

 

 そんな彼女が、1年生にして東雲学園のセンターを射止めた超大型新人の遥ちゃんと一緒に、虹ヶ咲学園までやって来たのです。その目的は、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会に、音楽イベント「ダイバーフェス」への出演を依頼しにくる、というものでした。「ライブがしたい」。ライブの機会を渇望する彼女たちにとって、動員3000人のフェスへの出演依頼は、1マス飛ばすどころか10マスくらいすっとばしたほどに願ってもない貴重な機会でした。かすみちゃんが食い気味の反応を見せていますが、きっとそれはメンバー全員が同じ気持ちだったでしょう。

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遥ちゃんは、ほんとうに優しい子だと思います。

 しかし、遥ちゃんは冴えない表情を浮かべます。彼女が申し訳なさそうに伝えたのは、「スクールアイドル枠で披露できるのは3曲、よって虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会が披露できるのは1曲」という、ごく当たり前の事実でした。しかし、遥ちゃんは同好会に実質体験入部までして、姉からきっと逐一活動の様子を聞いて、内部事情を知っている人間です。このあたりまえの事実は、彼女たちの事情に照らし合わせれば深刻な問題でした。ソロアイドルである彼女たちには、ステージに立つ1人を選ぶ必要が、裏を返せば、ステージに立てない8人を決める必要があったのです。

 

 「ソロアイドル」。4話でも葛藤が描かれた通り、彼女たちは「ソロアイドル」のもつ問題から目を背けていたわけではありません。しかし、遥ちゃんと姫乃ちゃんが持ってきた話によって、彼女たちは否応なくその問題と向き合う必要に迫られたのです。

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絆は、遠慮を生んでしまった。

 これまでの8話でしっかりと同好会メンバーの絆が深まってきただけに、この問題は治りかけた古傷に塩を塗り込まれるように痛く、辛い問題でした。彼女たちは決してかつての同好会廃部の危機を忘れたわけではなく、かつその上に新しく絆を積み重ねてきたのです。「くじ引き」といった日和見的な選択肢が上がるのは、決して甘すぎることとはいえないと思います。

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果林ちゃんは、見ているところが違う。

果林「互いに遠慮しあった結果運頼み。そんなのでいいわけ?」

「衝突を怖がるのはわかるけど、それが足枷になるんじゃ意味ないわ。それで本当に、ソロアイドルとして成長したと言えるの?」

 「仲間」だけど、「ライバル」。彼女たちはその現実を突きつけられて。戸惑いました。しかし、果林ちゃんだけはシビアは反応を見せました。これだけシビアでサバサバしているのは、果林ちゃんだけが持っている強さ、魅力と言えるでしょう。少なくとも果林ちゃんがこの時厳しく現実を示さなければ、日和見的な姿勢はそのままに、いつまでも流されていってしまったでしょう。「ソロアイドルとしての成長」は、明らかになれ合いの環境では達成されません。4話で既に言及された通り、ソロアイドルは一人でステージに立つのです。誰も、ステージ上で助けてくれる人はいません。私も少しだけ経験がありますが、ステージでの孤独感というのは相当なものです。「みんなのこと見えてるよ」というアイドルのコメントは、それが積み重ねた練習と、努力と、経験に裏打ちされた自信があるからこその視野と余裕です。それを当たり前と思ってはいけないと思います。スポットライトを浴びた瞬間、全てが真っ白になってしまうことだってあります。もう後にも先にも進めないくらい混乱するときもあります。それでも、時は止められないのです。仲間が同じステージにいないなら、なおさらです。一度ステージに立ったら、ステージを降りるまで「待った」は許されません。それに、時間は限られていますから、やり直しも効かないわけです。ファンの力を除けば、ステージ上では自力救済しかありえません。一人でステージに立つ分、グループで活動する東雲学園や藤黄学園のひとりひとり以上のパフォーマンスが出来なければ、本来話にならないわけです。同好会の中でも、お互いがライバルとして常に切磋琢磨するからこそ、さらなる成長が見込めるのです。衝突を怖がる甘さが足枷になるというのは、そういうことです。

 姫乃ちゃんも、このことを良く分かっていたようです。

姫乃「私は、一人でそこに立ち向かうあなたを尊敬しているんです」

 この言葉は、「ステージに立つ」というのがどういうことかを知っている、経験豊富な姫乃ちゃんだからこその言葉でしょう。しかし、この言葉は思わぬ力をもって、果林ちゃんを追い詰めてしまうことになるわけです。

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すれ違う二人の心。

 

ライバルだけど仲間

  綾小路姫乃ちゃんについて長々と紹介したのは、決して私の私利私欲によるものではありません(ほんとか?)。なぜなら、姫乃ちゃんはこのストーリーの中で、欠かせない存在だと思うからです。

 逆説的な話ですが、このストーリー、姫乃ちゃんがここまで出なくても十分成立すると思いませんか?

 もちろん虹ヶ咲学園をダイバーフェスに推薦してくれたのは姫乃ちゃんの力ですが、その後に直面する「ソロアイドル」の問題のはもともと避けられない彼女たちだけの問題です。果林ちゃんの方向音痴だったり、可愛い側面が同好会のメンバーに少しずつバレていって、果林ちゃんが素直になれていくのも、さらに言えば、果林ちゃんが一人でステージ立つ怖さに改めて怖気づくのも、それは同好会と果林ちゃんの問題です。同好会としても、果林ちゃんとしても、向き合うべきして問題と向き合い、それを乗り越えていくのです。

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方向音痴な可愛い果林ちゃん

 しかし、姫乃ちゃんはとても印象的に物語に挿入されています。それは、この物語において綾小路姫乃という人物が、すごく重要な意味をもっているからです。

 8話のラストでは、わざわざ不穏な印象を受ける劇伴を使ってまで、「怪しい存在」として藤黄学園の二人を登場させます。9話冒頭でも、8話でしずくとかすみが向き合った教室のシーンの劇伴を使って、やはり観客の不安をあおります。明らかに危ない存在、もしかしたら敵なんじゃないかと思わせるような雰囲気で、綾小路姫乃は物語に登場します。視聴者の多くが、少し身構えるように姫乃ちゃんに向き合っていたでしょう。

 不安は、ある意味では的中します。先述したステージ裏での果林ちゃんと姫乃ちゃんが邂逅するシーンでは、姫乃ちゃんの言葉は果林ちゃんの不安を増大させ、果林ちゃんをステージから逃げようとするほどに追い込んでしまいました。

 果林ちゃんは、明らかに姫乃ちゃんのことを意識しています。

果林「遥ちゃんはともかく、綾小路さんは、好意だけで私たちを誘ったわけではないでしょうね」

 璃奈ちゃんと彼方ちゃんは、意外そうな反応をしています。彼女たちの中には、そういう意識はなかったのでしょう。しかし、9話を見ている私たちは、きっと果林ちゃんの気持ちに近かったのではないでしょうか。それは間違いなく、劇伴の魔法です。私たちは、巧妙に仕組まれた劇伴と演出にまんまと騙されていたのです。

 

 この不安感は、果林ちゃんのライブ後のシーンでちゃぶ台返しのように見事にひっくり返されます。

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「魔法」が解ける。

姫乃「素敵です......」

美咲「見られてよかったわね、果林さんのステージ。モデルデビューした時から大ファンって言ってたもんね」

姫乃「もう!美咲さんからかわないでください......!」

  この瞬間、魔法が解けます。あれだけ手強そうだった姫乃ちゃんは、一人のかわいらしい女の子だったのです。身長の高い美咲ちゃんと並ぶ姫乃ちゃんは、むしろ守りたい可愛さに溢れていて、驚くほど怖くなんかないのです。

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それは「推しとの対面」だった。

 魔法が解けたところで、話を巻き戻してみましょう。9話を後ろから見ていく作業です。すると、驚くほどに、姫乃ちゃんの発言に悪意が無かったことがわかっていきます。果林ちゃんがプレッシャーを感じてしまった舞台裏のシーンでも、姫乃ちゃんは終始笑顔で尊敬の念を伝えているだけです。むしろ、モデルデビュー時から追いかけているという超古参ファンの姫乃ちゃんにとっては、推しに会える貴重で短い時間に精いっぱい「尊敬」の気持ちを届けた、という方が適切でしょう。

 もはや「綾小路さんは、好意だけで私たちを誘ったわけではない」というシーンには、ちょっとクスッとしてしまいます。なんといっても、姫乃ちゃんは果林ちゃんのことが大好きなファンに過ぎません。もちろんスクールアイドルとしては「ライバル」であることは間違いありませんが、果林ちゃん個人に対して姫乃ちゃんがそれによって悪意を発動するというのは、明らかに考えすぎでしょう。果林ちゃんの自意識過剰といってもいいかもしれません。姫乃ちゃんが、推しのステージを見るために根回しして虹ヶ咲学園をダイバーフェスのステージに立たせようとした壮大な愛の計画を実行に移していたことを考えれば、果林ちゃんの虚勢は滑稽にすら見えます。

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笑顔に、偽りはなかった。

 まだまだ巻き戻して、冒頭のシーン。ダイバーフェスに虹ヶ咲学園を招待する遥ちゃんと姫乃ちゃんですが、やはりこのシーンでも悪意はまったく感じられません。叶わぬ願いですが、劇伴の音量だけを消すことができたら、もっとわかりやすいかもしれません。むしろ、このステージが彼女たちにとってマイナスな面もあることを主張するのは遥ちゃんの方で、姫乃ちゃんはネガティブなことは一言も言っていません。むしろ、心配そうな遥ちゃんを横目に、姫乃ちゃんは一歩前に出てまで彼女たちの背中を押そうとしています。姫乃ちゃんの中には、どう考えたって罠にかけようかという悪意は含まれていないのです。

 では、なぜ果林ちゃんは姫乃ちゃんをあわよくば「敵」だと思ったのか。それは、私たちの心の中に問いかけるためで十分なはずです。さっきまで私たちも、「魔法」にかけられて、姫乃ちゃんのことを心のどこかで警戒していませんでしたか?果林ちゃんも同じです。それは、誰にでも起きうることなのです。私たちは、どうしても物事に対して先入観をもってしまいます。それは、決して完全に逃れ得るものではありません。人に対して素直になるということは、これほどにまでも難しいのです。競争激しい読者モデルの世界で生きてきた果林ちゃんは、みんなが「ライバル」だと、決して誰もが好意を持っていないと、いやむしろ悪意を持っていると考えた方がいいと、そう学んできたのです。それは、果林ちゃんの中に先入観の高い壁を築き上げてしまいました。彼女は、このシビアさ故に同好会にソロアイドルは「仲間だけどライバル」であるという事実を教えることができましたが、一方でこの先入観故に「ライバルだけど仲間」ということに気付くことができなかったのです。人が「優しさ」をこれでもかと与えてくれても、私たちは素直になれなければ、それを受け取ることすら叶わない危険性を秘めています。姫乃ちゃんと、それからこのあまりに見事に計算された脚本と演出は、それを私たちに「実体験」させることで教えてくれるのです。

 

 自分を守るために築き上げた、高く冷たい氷の壁を崩すことができるのは、暖かなこころだけです。

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まだ果林には、必死に守っているものがある。

 5話で、エマちゃんによって開かれた果林ちゃんの心ですが、それはほんの入り口でしかなかったわけです。5話と同じように腕を抱える果林ちゃんには、まだまだ高い壁を作って守っているものがあります。だからこそ、果林ちゃんは姫乃ちゃんを意識しすぎるあまりに、プレッシャーに押しつぶされてステージに立てなくなりそうになっているのです。

 どうすればいいかって、もう答えは出ています。「ぽかぽかに」してあげればいいのです。そして、もうそれはエマちゃんだけの仕事ではありません。果林ちゃんには9人の「仲間」がいるのです。彼女たちはたしかに切磋琢磨して譲り合いはしませんが、しかしそれぞれの舞台に向かう時は確かに暖かい絆をもってお互いを応援できる、そんな仲間たちです。

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「Forza!」は、彼女たちのカタチ

 円陣が、みんなの団結力を上げるためのカタチだとしたら、ソロアイドルのニジガクには不向きです。9人の想いを、一人に託す。彼女たちのカタチは、ハイタッチです。一人一人は円で等しく繋がっているのではなく、線でそれぞれ繋がっています。その9色の線を一つに束ねて、想いを乗せてステージで歌うのが、選ばれた者の使命です。優しさによって、ぽかぽかな温度で繋がっている彼女たちの線を束ねているかぎり、ステージに立つ果林ちゃんは一人ではありません。

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「仲間でライバル」なのは、きっと9人だけじゃなくて。

 もっと言えば、果林ちゃんにはもっと多くの想いが乗っています。果林ちゃんのステージを心待ちにしていた姫乃ちゃんの気持ちも。そして、ステージの前にいる観客もまた、パフォーマンス次第では力になります。10人の想いを乗せた果林ちゃんは、色とりどりの観客席をロイヤルブルー一色に染めてみせました。この瞬間、果林ちゃんはもう何百、何千もの想いを乗せて、優しさを受け取って、誰よりも力強く、ステージに立っているのでした。 

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果林「仲間だけど、ライバル。ライバルだけど、仲間!」

 高い氷の壁を全てとかしきった果林ちゃんが見たのは、地球上のどこよりもあたたかい、ロイヤルブルーの海でした。「仲間でライバル」。新しい、彼女たちだけのカタチを示したニジガクの船は、いまその海へと漕ぎ出していくのでした。

 

P.S.

  「ライバルだけど、仲間!」のとこの果林ちゃんの声、力が入っていて泣けました。名演技だ.......。

 『VIVID WORLD』、大好きな曲です。ところで、この「ダイバーフェス」ですが、去年参加したバンダイナムコフェスティバルのGuilty Kissのステージを思い出しました。

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 どんな内容だったのかは上記の過去記事を参照してほしいのですが、とにかくギルキスのステージが圧巻だったんですよね。大人数で勢ぞろいしているアイドルマスター勢に比べればユニット一組のラブライブ!は目立たなくて、まさに「アウェー」だったんですけど......。とにかく、彼女たちのパフォーマンスは圧巻でした。自分たちの魅力全てをぶつけるステージ。歌にダンスに楽曲に、全てにおいて「この会場の全員を虜にしてやる」という気迫すら感じました。きっと果林ちゃんのステージもこんな感じだったんだろうな。

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「相乗効果」のステージを前にしたら、こんな感じになるのも分かるよ。

 それから、フェスって面白いんですよね。ワンマンライブとは全く違った面白さがあります。なにより、相乗効果がすごい。違うアーティストと共演する相乗効果もそうなんですけど、まったく違う背景をもったファンと、アーティストとの相乗効果がまた面白いんです。オタクってよく、コンテンツを知らない人の反応に興味があったりするじゃないですか。あれがライブでできるんです。普段の私たちなら気づかないところに気付いたり、想像しない反応があったりする。そんなイレギュラーが楽しめるのも、フェスの大きな魅力だなあ、と思ったりします。

 さて、来年の2月には2回目のバンナムフェスが開催され、そこにはニジガクも呼ばれています。もうわかりますね?そう、決して出番は多くないんですけど、出来れば見て欲しいと思います。侑ちゃんと同じように「トキメキ」を感じることが、きっとできるはずです......!(配信もあるのでぜひ!)

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バンナムフェスへ走ろう!トキメキに向かって走っていく、侑ちゃんのように!

 

※引用したアニメ画像は、特に表記が無い場合、すべてTVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』(©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会)第8話より引用。