紡ぎ出せ福音。響かせよハーモニー。虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会2ndライブレポート①

 その瞬間、QU4RTZは私たちの前に、天使の如く降臨した。

 

 QU4RTZの1stシングル『Sing & Smile』。ラブライブ!フェス開演前に流された試聴動画は、天啓の如きインパクトをもって脳内に響き渡った。

 

 奇しくも、その日はそれまでずっと見守ってきた大切な一曲に関して、CYaRon!の三人からはっきりとした答えを受け取った日でもあった。Aqoursは、ラブライブ!は、スクールアイドルの更にその先へ行く。可愛いだけでは、輝きだけでは満足したくない。この日の『夜空は何でも知ってるの?』は、必ずしも「CD音源」のようなパフォーマンスではなかった。彼女たちのパフォーマンスは、唯一無二で、他のどんな時間にも存在しえない、その瞬間だけのものだったからだ。

 そこには、「キャラを演じる」という、基本的かつ大切な部分だけでは収まらないような、強い意志を感じた。もう、ステージに立っているキャストは自明に高海千歌であり、渡辺曜であり、黒澤ルビィなのだ。それだけじゃ物足りない。もっともっと、先へ進みたい。千歌が、曜が、ルビィが、一人の「アーティスト」としてステージに立っているような、そんなパフォーマンスがしたい。ラブライブ!フェスの『夜空は何でも知ってるの?』は、これまでも進化を続けてきた彼女たちの一曲に対する、堂々とした宣言であった。

 

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 ※ラブライブ!フェスにおける『夜空は何でも知ってるの?』のパフォーマンスに関しては、上記記事を参照。

 

 

 そのDNAは、たしかに次代にも受け継がれた。ラブライブ!でも屈指の名盤『Sing & Smile!!』は、そんなラブライブ!フェスの翌月に発売となった。

 QU4RTZは、中須かすみ・天王寺璃奈・近江彼方・エマヴェルデの4人組ユニット。個性あふれる四人組が世に放ったのは、これまでラブライブ!の世界には全く存在しなかった、美しい「ハーモニー」を奏でる二曲だった。

 

 

 『Sing & Smile!!』は、QU4RTZがこれから目指していく「ハーモニー」とは何か、それを体現した曲だ。

 この曲では、全員が同じパートを歌う部分はかなり少なくなっている。重層的なハーモニーは、四人ひとりひとりの声が欠かせない楽器となって、一つの音を作り出す。ソロパートは、それぞれの声を活かしながら、しかし一つの「音」を生みだしてゆく。決して個性は殺していないが、それぞれの声の特徴を生かしつつ「楽器」として機能している。計算し尽くされたような音の重なり合いは、美しい一つの周波数となって私たちに届く。「音楽」として完成されている、それが『Sing & Smile!!』の最大の魅力である。

 

 これまでのラブライブ!の曲は、個性のぶつかり合いだった。9人の持つ9色は、同じ力でぶつかり合って、1つの骨太なメロディーを作り出していた。「みんなちがってみんないい」。そんなアイドルらしい魅力を、ラブライブ!は存分に持ち合わせていた。

 しかし、『Sing & Smile!!』は違う。個性の違う4人が集まっても、奏でるのはひとつのメロディーだ。それぞれの個性は、ぶつからない。決して声を合わせているわけではない。むしろお互いを認め合って、それぞれの魅力を引き出す形で、一つの美しいハーモニーを生み出す。まったく新しいラブライブ!の曲が、ここに誕生したのだ。

 

 この「個性がぶつからない」というのは、グループではなくソロ活動をメインに活動する虹ヶ咲の方針そのものであり、その結果がまるで反対のような美しいハーモニーを生んでいるということは。不思議な奇跡である。

「重なりあった奇跡が

 空を渡って 星になって

 届けるんだ ハーモニー」

 まさに『Sing & Smile!!』は、彼女たちの奏でるハーモニーは、「重なり合ったひとつ奇跡」なのである。それぞれの音は同じでなくてもいい。違う音を重ねあうだけで、これだけ美しくなめらかな一つのメロディーが生み出される。

 

 『Sing & Smile!!』を歌うQU4RTZに対する私のイメージは、聖歌隊、あるいは、結婚式のフラワーガールである。ドレスに身を包んだ彼女たちは、私たちに「合唱」で、ハーモニーで幸福を届ける。彼女たちは紡ぎ出すメロディーは、私たちにとっては「福音」そのものである。 いつでも、どこにいても、どんな時でも、QU4RTZの奏でるハーモニーは、優しく私たちに寄り添ってくれる。心に沁みわたるような優しく美しい歌声に秘められた治癒能力は、計り知れない。

「明日もハレルヤ 歌おう!」

 「ハレルヤ」は、キリスト教で賛美を表す祈りの言葉。これまでの、ラブライブ!の切り拓くような力ではなく、祈りの力をもって、私たちを癒してくれる。それがQU4RTZというユニットなのである。

 

 

 B面に収録される『Beautiful Moonlight』は、さらにラブライブ!の世界観を大きく切り開く一曲である。

 一言で言えば、「上質なシティ・ポップ」。作りこまれたメロディ―は、その小節のすみずみにわたるまで、こだわりぬかれている。中でもドラムは逸品で、メロディーを聴いているだけで簡単に惹きこまれてしまう。

 これだけ凝ったメロディーに、美しいQU4RTZのハーモニーはいとも簡単に馴染んでいる。甘くて、甘くて、少しほろ苦い歌詞は、QU4RTZのハーモニーにこの上なくぴったりである。多用される英語は、少し背伸びをした恋を不器用に彩る。

 

 なによりこの曲は、『夜空はなんでも知ってるの?』に対置される存在である。

 『Beautiful Moonlight』は「上質なシティ・ポップ」であると、先ほど紹介した。「シティ・ポップ」はもう死語であると言うが、やはりこの曲を紹介するにはこれ以上相応しい概念は思いつかない。シティ・ポップとは都会の洗練された音楽であり、背伸びをしたお洒落さも、きらめく街に内在する孤独感も、お台場を舞台とする虹ヶ咲の「夜」を見事に切り取っている。星の少ない都会の夜空。主役は満月である。

 一方で『夜空はなんでも知ってるの?』で切り取られているのは、内浦の、Aqoursの見上げる星空である。『夜空はなんでも知ってるの?』には、背伸びはない。等身大の歌詞である。描かれるのが恋ではなく友情であることも、『Beautiful Moonlight』と見事に対極をなしている。

 しかし、この対極的な2曲は、確かに一つのDNAを受け継いでいる。それは、「ステージでのパフォーマンスでオーディエンスを魅せる」という、アーティストとしてのスクールアイドル。ラブライブ!が挑む新たな地平線だ。

 確かに、ストーリーによって積み重なった感動と、それからその感動から力をもらった「みんな」に支えられたステージは、スクールアイドルの大きな魅力だ。しかし、彼女たちは、たしかに独り立ちを目指している。自分の力でステージに立つ。『夜空は何でも知ってるの?』を披露するごとに、CYaRon!たちがアップデートしてきた夢は、確かにQU4RTZに受け継がれている。そして、『Beautiful Moonlight』は、彼女たちが羽ばたいていくための、両翼にこれ以上なく相応しい一曲なのだ。

 

 

 そして、彼女たちの初めてのステージを迎えた。

 軽快でお洒落な、QU4RTZらしいBGMにのせて、彼女たちはステージへ現れた。

 ジャケットと同じドレスに身を包んだ4人。『Sing & Smile!!』は、まさにイメージ通りのパフォーマンスだった。花であふれたステージ。マイクスタンドを前にした彼女たちは、まさに教会で歌っているかのようだった。ブランコを使った演出もまた、彼女たちのイメージぴったりだった。

 なにより、「ハーモニー」にこだわったということが、これからのQU4RTZが目指す場所をはっきり確認できた気持ちだった。彼女たちは、決して見事なダンスを踊ったわけではなかった。それは、彼女たちが一番届けたいのは「声」、そしてその「ハーモニー」だからだ。そして、彼女たちは「ハーモニー」に対して手を抜かなかった。口許を見ることができるライブにおいて、『Sing & Smile!!』のパート分けの複雑さは際立っていた。同じパートの声が重なっていた方が、見栄えをよいものにすることは容易である。声量も大きくなるし、こまかなミスは目立ちにくくなる。反面、全員が違うパートを歌うのは、難しい。どれか一つの声が欠けてしまえば、それはその時点で不完全なものになってしまう。しかし、ライブパフォーマンスにおいても、『Sing & Smile!!』はしっかりとハモリを再現していた。いや違う。再現していたのではない。CD音源を超えるハーモニーを目指していた。ライブとはいえ、今は様々な小細工ができる。ある程度のハモリは、エフェクトで済ましてしまってもよかったのかもしれない。しかし、今回のステージでのパフォーマンスはそうではなかった。

 特に近江彼方役・鬼頭明里さんの低音に驚かされた人は多かったと思う。イントロから最初のハモリ。この時点で、CD音源とは違った。CD音源以上に魅力的といってもよかった。この瞬間にしか聴けないハーモニーだった。4人は、それぞれのパートを、それぞれの音程で、そしてそれを重ねあうことで、『Sing & Smile!!』のハーモニをリアルタイムで奏でていたのだ。

 あえて厳しいことを言えば、まだまだハーモニーに物足りない部分はあった。しかし、これは高い期待故の言葉だ。彼女たちの技術は、声は、素晴らしい。それは、もうCD音源を聴いた時点ではっきりわかっている。だからこそ、彼女たちにはもっともっと、美しいハーモニーが奏でられるはずだ。アコースティックの演奏にのせてみたらどうだろう。アカペラで歌ってみても面白いんじゃないか。彼女たちの『Sing & Smile!!』は、実力でまっすぐ「ハーモニー」に向き合ったからこそ、無限の可能性を感じるパフォーマンスになったのだ。

 

 

 惚れ惚れするほどかっこいいドラムのイントロ。瞬くライト。お洒落にカットインする「QU4RTZ」と『Beautiful Moonlight』の文字。

 痺れた。ステージのすべてにくぎ付けになった。カメラワークがどうしてもステージ全体を映せないことが、今ステージの前で総立ちになっていないことが、これほどまでにもどかしく、悔しい瞬間はこのライブのなかで存在しなかったかもしれない。

 『Sing & Smile!!』のイメージからは、完全に一転した。アンニュイな表情。最初につまづいてしまった相良茉優さんには、この方向性の感情に身を任せるのは難しかったかもしれない。しかし、彼女たちには、少しも妥協はなかった。泣いているようにすら見えた。声が出ないこともあった。しかし、ごまかさなかった。逃げなかった。甘い恋が秘める苦さ。幸せな恋の裏の孤独。少女の抱える不安が、そのままステージにあった。真に迫った表情。惹きこまれた。

 振り付けも見事だった。曲の世界観と完全に一致する優雅で美しい振り付け。サビの振り付けは、シンプルでありながらメロディーときれいに重なり、そして踊り子のような動きは夜の雰囲気にこの上なく相応しいものだった。一方で、AメロやBメロでは振り付けはシンプルに、感情をそのまま体にアウトプットしているような自然な動きになっているところも素晴らしかった。まさに「不安を綺麗に歌いあげる」この曲の魅力を、最大限に引き出していた。

 彼女たちのパフォーマンスを表すなら、それは「かわいい」ではなく「美しい」だった。額縁に入った一枚の絵のような、あるいは映画のワンシーンをそのまま切り取ってきたような、すみずみまで行き渡った美しさがそこにはあった。そして、それは一つの妥協もなかった。メロディ―。歌声。表情。ダンス。光。そして背景の映像。すべてがステージを彩った。そう、これは「芸術」だ。QU4RTZのステージはひとつの芸術作品なのだ。もし、このステージを会場で見ていたなら、ペンライトなど動かしている余裕はなかったに違いない。ステージの一瞬一瞬が、ひとつひとつの表情が、私たちの目を奪って離さない。そんなライブだった。

 

 

 しかし、これはまだ完成形ではない。QU4RTZの物語は、彼女たちが描く美しい絵画は、いま書き始められたのだ。

 これから、彼女たちはさらなる困難に立ちむかうに違いない。さらには、自らが定めたたくさんのハードルに挑んでいくことになるのであろう。

 それを乗り越えるたびに、彼女たちの描く色には、奏でるハーモニーには、深みが加わっていくはずだ。CYaRon!がそうだった。同じパフォーマンスは二度とない。必ず、彼女たちは最高を更新していく。これから、もっともっと魅力的な曲をもらうこともあるだろう。新たなステージに進むこともあるだろう。

 しかし、『Sing & Smile!!』と『Beautiful Moonlight』は、必ず歌い継がれていく。それは、これが彼女たちの原点だからだ。CYaRon!にとっての『夜空は何でも知ってるの?』がそうだった。彼女たちは、1stライブから、長い時間をかけて、曲を育ててきたのだ。CYaRon!の3人が成長するたびに、曲は魅力を、輝きを増していった。同じようにこの2曲も、大切に歌い継がれて欲しい。そして、QU4RTZの4人が目指すパフォーマンスに、一歩一歩進んでいって欲しいのだ。

 そのために、私たちができることは一つしかない。それは、彼女たちにその機会を少しでも多く用意することだ。そして、それを最後まで見届けることだ。これから、彼女たちにはもっと大きな世界を見せてあげたい。もっと素敵な景色を見せてあげたい。彼女が輝きを増すなら、私たちもこれに応えていかなくてはならない。

 そして何よりも、最後まで見届ける必要がある。QU4RTZの物語は今始まった。努力を惜しまない彼女たちの成長は止まらない。一瞬たりとも、見逃すことは許されない。QU4RTZの物語を目撃するのは、それを伝えていくのは、彼女たちのステージを彩ることができるのは、私たちの「好き」という気持ちだけなのである。

 

 

 次のQU4RTZのステージは、もし叶うならば、絶対にこの目で、生で、見届けたい。声を、いや声にならないかもしれない想いを、確かに彼女たちに届けたい。そう誓い、祈った。そんな夜だった。QU4RTZは絶対に、スクールアイドルにとって伝説になる。私たちはいまから、その目撃者になるのだ。

ニジガクカウントダウンウィーク! #1 決意の光

 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会2ndライブまであと1日!ついにここまで来ましたね......!待ちに待った明日が、ライブ当日です!あんまり実感はわかないけど......。

 

 7回目の「ニジガクカウントダウンウィーク!」は、三船栞子『決意の光』。

 前回記事は下に貼っておきますね。カテゴリー「ニジガクカウントダウンウィーク」からも一覧できるので、そちらもぜひ。

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 栞子ちゃんに関しては、同好会への加入が発表されたときに、「10人目のメンバー、栞子の加入」ということをテーマにして、既に記事を発表しています。しかし、こちらではあくまでも「栞子の加入」という一点に絞って記事を書いたために、キズナエピソードや『決意の光』に関してはあまり触れていません。

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 メインストーリーを踏まえての栞子は、ぜひこちらの記事を参照していただければと思います。本記事では『決意の光』とキズナエピソードを中心に、2ndライブに向けた形で、栞子について書いていきたいと思います。

 それでは、いってみましょう!

 

※本記事は、アプリ「ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル オールスターズ」、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会2ndライブ公式パンフレット、雑誌『LoveLive!Days虹ヶ咲SPECIAL』、書籍『にじよん』などを参考にしており、それらの内容への言及、引用、ネタバレを含む場合があります。予めご了承ください。

 

M10:『決意の光』 輝きを紡ぐ、第一歩はあなたと一緒に

※『決意の光』は、10曲目に収録されています。


【試聴動画】Just Believe!!! / 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

 「まっすぐ」系スクールアイドルの栞子。「10人目のメンバー」である栞子がこれまでの「ラブライブ!」から考えれば特別に異色の存在であることは言うまでもありませんが、途中加入となった栞子自身の物語も、そして『決意の光』も、また極めて異色な存在であるといえるでしょう。

 まずは、システム的な問題。スクスタで配信されている3rdアルバム収録曲ですが、これから3DMVを配信、としながらも、これまでおはなししてきた9曲は、未だ3DのMVが配信されていません。つまり、振り付け、演出ともに、2ndライブでどのようなパフォーマンスがみられるか、まだわかっていないということを意味しています。

 一方で、『決意の光』は、既にその3DMVが実装されています。それに衣装もすでに実装され、2ndライブの衣装を着て踊る栞子の姿を見ることができる分、2ndライブでの三船栞子役・小泉萌香さんのパフォーマンスも、ある程度イメージを描くことができるでしょう。

 キズナエピソードも、その構成は大きく異なります。そもそも、途中からの同好会加入となった栞子には、キズナエピソードが6話しかありません。これは致し方ないことでもありますが、栞子自身に深くキズナエピソードで接近していくのは少し難しくなっています。それに、他のメンバーたちが「あなた」との出会い→ソロイベント(2ndアルバム収録曲)→ファンクラブ設立(メンバーによるが)→再びソロ(ファンクラブ)イベント(3rdアルバム収録曲)といったある程度同じようなプロットのお話になっているのに対し、栞子のストーリーは同好会に入った後の栞子と、お互いに同好会に馴染んでいく様子、それから初めての楽曲『決意の光』が生み出されるまでの経緯が描かれます。

 

 一見すると、まだ少しものたりない感のある栞子のキズナエピソード。しかし、私はこの他のメンバーとは違う段階で始まる、そのステップこそが、栞子と『決意の光』のストーリーにおいて重要なのだと考えています。

 

 なんでもそつなくこなす栞子。その能力の高さは他の同好会メンバーも認めるところです。それはせつ菜との生徒会長選挙でも確かに証明されました。「人の適性を見極める」ことに優れた栞子。生徒会長選挙でもその力をいかんなく発揮し、敗れたせつ菜すらもその能力を認めるほどでした。

 栞子の生まれた三船家は、いわゆる「名家」。育ちのよい栞子は、多くの習いごとにも励んでいました。

 キズナエピソードでも、日本舞踊に励む栞子の姿が描かれます。生徒会の仕事、普段の習いごと、そして新たに始めたスクールアイドルの活動。そのすべてを、まったくパフォーマンスを落とすことなくこなす栞子の姿は、同好会のメンバーにとっても大きな刺激になっていました。

 

 しかし一方で、栞子は自身の目指すスクールアイドルの姿に悩んでいました。「どんな歌を歌いたいのか」。栞子は、その質問に答えを出すことができずにいたのです。

 栞子が聞くと、他の同好会のメンバーは、明確に「なりたい自分」の形を持っていました。それは、栞子にとって衝撃でした。自分は、なりたいスクールアイドルのイメージを持っていない......。一度は「スクールアイドルには向いていない」と結論を出すなど、栞子にとっては悩ましい問題でした。

 確かに、他の同好会メンバーは今となっては「理想とするスクールアイドル」像を強固に持っているように見えます。しかし、それは決して一朝一夕に手に入れたものではなく、それぞれ苦悩の末に手に入れたものであるということは、すでにこれまでみなさんが見てきたとおりです。まだ、栞子はその入り口に立っているだけなのですから、「なりたい自分」の姿が無かったとしても、決しておかしいことではありません。

 

 「人のことは見えるのに、自分のことはこんなにもわからない.......」。

 悩む栞子に声をかけたのはせつ菜でした。せつ菜は、栞子にどうしてスクールアイドルになりたいと思ったのか、そう問いかけます。

 栞子の答えはこうでした。

栞子「どうして......?そうですね......、

毎日の厳しい練習で磨きぬいたパフォーマンスで、たくさんの人の心を動かす姿に惹かれたから......でしょうか」

「スクールアイドル活動をすれば、私の気持ちも少しは上手く伝えられるようになるかもしれない、と思ったんです」

せつ菜「思いを伝えて......その後は?」

栞子「その後......。今より少しでも、善い世界に変えたいです。不幸な人がいない、そんな世界にしたいんです」

        スクスタ 栞子キズナエピソード4話より

 栞子がどうして「不幸な人がいない世界」を望んでいるのかは、正確なところまではわかりません。確かに栞子は、「皆が適性どおりに生きれば、不幸な人はいなくなる」と信じて、生徒会長をしています。そして、栞子にとって一番その「適性どおり」ではなく、決断によって不幸になった人は、栞子の姉、薫子であったはずです。

 しかし、栞子の「スクールアイドルフェスティバル」の成功に携わり、そして自分の気持ちと向き合ってスクールアイドルを目指すようになった今、その薫子に感じていた「不幸」であるという一種の思い込みは、ある程度解消されたはずです。それなのに、栞子はなお「不幸な人がいない世界」を望んでいます。その理由は、もしかしたらもっと根深いものが、きっと他にもあるのでしょう。しかし、今の私たちには推測のしようもないことです。

 

 しかし、その前の、栞子本人の目標は、私たちにもわかるような気がします。栞子は、持ち前の能力である「適性を見極める」という力を使って、様々な提案をしました。そして、それは確かに疑いようもなく正論でした。しかし、それがたとえ正論であったとしても、必ずしも誰もにとって受け入れるものというわけではありません。しかし、栞子はそのことがまだ、よく分かっていなかったのです。さらに、自分の正論が退けられる経験が積み重なった栞子は、いつのまにか他人を信じることができなくなり、また自分を信じることも出来なくなっていったのです。

 

   生徒会長として、徐々に追い込まれていく栞子。そんな栞子を救ったのは「あなた」でした。自分の意見が通らないことを半ば諦めている栞子に対して、「あなた」は決して栞子の意見を否定せずに、他の部活と折衝して妥協案を出す方向へと導いたのです。

  「あなた」は栞子にとって、久しぶりに出会った信用できる人だったのかもしれません。同好会に体験入部した栞子は、しだいに同好会メンバーへと心を開いていきました。

  

  そんな栞子が次に直面したのは、「あなた」と歩夢のすれ違いでした。しかし、栞子は「あなた」と歩夢の関係修復を信じて、最後までその機会に協力しつづけました。もうこの時、栞子のこころの中では、変化が始まっていたのかもしれません。

  絶望的に見えた、「あなた」と歩夢の関係。そして、スクールアイドルフェスティバルの開催。しかし、歩夢は、配信一つでその全てをひっくり返してみせたのです。「スクールアイドル」。その力を、栞子が思い知った瞬間でした。この時にもう、栞子の気持ちは半分決まっていたのだと思います。

  ついに「スクールアイドルフェスティバル」当日。姉・薫子との対話。それからステージで輝くスクールアイドルたち。栞子の気持ちは決まりました。栞子は、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会に入部、スクールアイドルとしての一歩を歩みだしたのです。

 「あなた」、歩夢、それから同好会のメンバー。みんなと出会った栞子は、人を「信じること」を、それから、方法が間違っていなければ、想いは人に伝わるんだということを知ったのです。

 

 栞子には、伝えたいことがあるのです。しかし、生徒会長になっても、それをうまく伝えることができませんでした。せつ菜とも、スクールアイドル同好会とも、それから他の部活の人たちとも、栞子は衝突してしまったのです。

 栞子がスクールアイドルをする理由、それは自分の想いをうまく伝えるためです。「少しでも善い世界」に、「不幸な人がいない世界」。栞子が理想だと思う世界をみんなに伝えていくためには、それを実現していくためには、これまでの方法では叶いません。栞子には「スクールアイドル」の力が、どうしても、必要なのです。

 

 

 自分の曲のイメージに苦しむ栞子。しかし、同好会のみんなの協力もあって、徐々にそのイメージが固まってきます。

栞子「まず、思いを伝えるためには、飾らずにいる必要があるのではと思いました」

「この前、みなさんから頂いた、たくさんの資料を見て感じたんです」

「みなさんが私をどういう風に見てくれているのか、それを飾らずに真っ直ぐに伝えてくれることが、どんなに嬉しいのかを」

「だから、私はまず、自分のことを真っ直ぐ伝えるところから始めることにします」

            スクスタ 栞子キズナエピソード6話より 

  「真っ直ぐ」。これが、栞子のスクールアイドルとしての個性、それから目標です。これまで、うまく自分の気持ちを伝えられなかった栞子。だからこそ、「真っ直ぐ」伝えることこそが、栞子がいま目指す道なのです。

 

栞子「ありがとうございます。でも......スクールアイドルとしての夢は、まだ見つかっていません。」

「より善い世界を作りたい、という漠然とした想いはありますが、そのためにスクールアイドルとしてこうしよう、ああしようと言えるものは、まだまだ模索中です

(中略)

「でも、私のように、欲しいものがふわふわとしていて不安に思ったり、焦ったりしている人も、きっとたくさんいるはずです」

「ですから、私と同じ不安を抱えている人たちに、今はそれでもいいんだよ、と、支えになれるような、そんな歌を歌いたいです」

「これはきっと、今の私にしか歌えない歌だと思いますから」

             スクスタ 栞子キズナエピソード6話より 

 栞子は、ラブライブ!初の「途中加入」のスクールアイドルです。私たちは、栞子がまだ、全くスクールアイドルではない時から、長い時間をかけて栞子を見てきました。「あなた」、そう、私たちと同じペースで、栞子は虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の物語を見てきました。その中で、栞子はさまざまなことを感じ、受け取り、変化して、ついにスクールアイドルとなる決断をしたのです。

 Aqoursのみんなのストーリーが「0から」のスタートであったとしたら、栞子のストーリーは「マイナスから」のスタートです。栞子は、最初は、スクールアイドルとしてのスタートラインにすら立っていませんでした。マイナスからのスタート。「あなた」と、歩夢と、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のみんなと出会って、今ようやく、栞子はスクールアイドルとしてのスタートラインに立ったのです。まだ、栞子は目指す自分の姿を見つけられていません。それは、まだ栞子がマイナスからゼロの地点に立って、歩き出そうとしているところだから、きっと、「あなた」も同じです。まだ未来像が描けないひとも、きっとたくさんいるでしょう。私もその一人です。栞子は、そんな「あなた」たちに寄り添って、二人三脚で同じ速度で歩いてくれる。そんなスクールアイドルなのです。

 栞子のストーリーは、「あなた」のストーリーと同じペースで、テンポで、タイミングで、流れていきます。始まりは、みんなより遅かったかもしれません。しかし、それゆえに「あなた」に寄り添えるのが、「あなた」と同じ速さで歩けるのが、栞子の強みなのです。

 『決意の光』は、栞子が今しか歌えない歌です。きっと、栞子が歌える歌は、これからもっともっと広がっていくでしょう。栞子の視界は、もっともっと、広がっていくでしょう。

 そして、栞子と同じスピードで歩く「あなた」。同じ悩みを抱える「あなた」も、栞子と同じスピードで変化していくのです。きっと、「あなた」も、これからニジガクのみんなからいろいろな刺激を、感動を、感情を、もらうことでしょう。そうやって歳月を重ねていけば、栞子と同じように「あなた」の物語も、きっと新たなステップに進んでいることでしょう。

 

 「たとえ今はまだ漠然とした夢でも

一歩前に踏み出してみれば明日は変わる」

             『決意の光』歌詞より

  明日、栞子は私たちの目の前で、最初の一歩を歩み出します。そして、それは私たちが一歩を踏み出す瞬間でもあります。ニジガクのみんなの輝きにこころ動かされて私たち。明日という日は、栞子と私たちの、二人三脚の一歩目を踏み出す日なのです。

 

 

「揺るぎないキズナ胸に 物語は次の舞台へ

そうここから輝き紡いでゆけ」

             『決意の光』歌詞より 

  さあ、行きましょう。明日は、私を含めた「あなた」の、栞子の、そして新生虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の、最初の一歩を踏み出す日です。もたもたしていたら、みんなに置いていかれちゃいますよ?もう「その瞬間」を目撃する、こころの準備はできていますか?

 「トキメキ」をもらったあなたが、新しい物語を、輝きを、紡いでいくための明日。そして明後日。

 皆さんの虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会2ndライブが、素敵な一歩目になりますように。

ニジガクカウントダウンウィーク! #2 Margaret

 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会2ndライブまであと2日!

 6回目の「ニジガクカウントダウンウィーク!」。ついに、ここまで来ましたね......!

 前回記事は下に貼っておきます。カテゴリー「ニジガクカウントダウンウィーク」でまとめてみることもできるので、ぜひ!

 

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 今日9月10日は、中須かすみ『Margaret』。

 

 

 私にとって一番の推しであるかすみちゃん。そんなかすみちゃんに関しては、既に『無敵級*ビリーバー』発売に合わせて、考察記事を発表しました。

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  この記事では、『無敵級*ビリーバー』の歌詞やアニメーションPVを軸に、スクスタのメインストーリー、かすみちゃんのキズナエピソード、サイドエピソード、さらには「ニジガクみゅ~じっくウィーク!」で先行公開されていた3rdアルバム『Just Bellieve!!!』収録曲の『Margaret』のワンコーラス分(一番)の歌詞を耳コピし、それらを総合して「中須かすみ」というスクールアイドルを、いやひとりの女の子を、考察したものです。

 一方、これまで連載してきた「ニジガクカウントダウンウィーク!」は、基本的にはそれぞれのメンバーのサイドストーリーを1話から21話までなぞって、それから3rdアルバム収録曲へと進んできました。

 既にキズナエピソード18話までは上記の記事で言及しています。改めて読み返してもいいのですが、現状私のかすみちゃんへの認識は上の記事から変わったということではありませんので、本記事はキズナエピソード19、20、21話と『Margaret』のフルコーラスを題材に、上記の記事の補足という形にさせていただきたいと思います。長くて読みごたえがありすぎるかもしれませんが、ぜひ上記の記事を読んでいただければと思います。自信作ですので......!

 もちろん、考察記事というのは書き手の作品にとってはコバンザメでしかありません。上記の記事も、今回の記事も、これからスクスタや、あるいはアニメなどでかすみちゃんに関して様々な描写がなされていけば、そのかすみ像は砂上の楼閣のように崩れてしまうこともあり得ます。しかし、ある意味で考察記事というのは、対象のキャラクターを自分の人格に投影して、キャラクターという鏡越しに「そのときの自分」と向き合う行為でもあると思っています。「物語」というのは、いつだって自分を映す、澄み切った鏡なのです。いつも「鏡」と向き合うかすみちゃんのように、私も中須かすみという「鏡」にまっすぐ向き合って記事を書いていきたいと思います。

 前置きが長くなりました、それでは、行ってみましょう!!

 

※本記事は、アプリ「ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル オールスターズ」、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会2ndライブ公式パンフレット、雑誌『LoveLive!Days虹ヶ咲SPECIAL』、書籍『にじよん』などを参考にしており、それらの内容への言及、引用、ネタバレを含む場合があります。予めご了承ください。

M9:『Margaret』 「ヴェールを脱いだ私、かわいいですか......?」


【ニジガクみゅ〜じっくウィーク!〜1週目〜】Margaret / 中須かすみ(CV.相良茉優)

  「中須かすみは、素顔を見せない」。

 完璧な「かわいい」で覆われたかすみの素顔は、まだ誰も見たことがない。

 これまで、メインストーリ―でもキズナエピソードでも、完璧な「かわいい」を身に纏ったかすみしか、私たちは見たことがなかった。確かに、「かわいい」はかすみの最大の個性であり、トレードマークであり、「かすみそのもの」とっても過言ではないかもしれない。しかし、同時に私たちはかすみの「かわいさ」に僅かな綻びを感じていた。そう、きっと素顔のかすみが、その「かわいさ」のヴェールの裏側にいるのだと.......。

 

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悩むかすみ。スクスタかすみキズナエピソード18話より。

 キズナエピソード18話は、かすみと「あなた」の物語のなかで、一つの大きな転機となった。これまでどんなことがあっても弱さを、そして本心を見せることのなかったかすみが、初めて「弱さ」を見せたのだ。

 ファンクラブ会員が思ったように増えないかすみ。時間が経つとともに、それは他のメンバーとの明確な差ともなり、かすみに焦燥感を与えていった。

 かすみの本質のひとつは、既に触れたように「自信のなさ」。そしてもうひとつの本質は、「自己評価の高さ」にあるのだと思う。自分の可愛さに自信のないかすみ、しかし、一方でかすみには「自分ならやれる」という自己評価の高さがあった。もちろん、この自己評価の高さは、かすみがどんな困難に直面してもどうにか折れずに立ち上がる強さでもあったが、一方でかすみにとって、理想と現実の、徐々に埋めようがなくなっていくギャップは、耐えきれないものとなっていったのだ。

 

 「あなた」は、そんなかすみを、決して追及することはなかった。ほんとうは、踏み込んでかすみの心の奥深くを知りたい。しかし、それはかすみにとって、まだ避けなければならない事態なのだと思う。逆に言えば、まだかすみの本心に斬りこむのは危険なのだ。「あなた」は、それを理解した。だからこそ、「あなた」はかすみを励ましただけだった。一人でも、かすみを好きでいてくれる人がいる。それだけで、かすみは立ち直ることができることを知っていたのだ。

 

 ところで、前回記事では触れなかったが、補足的に毎日劇場を紹介したい。7月19日の毎日劇場である。

ことり「 で~きた! かすみちゃん、鏡見てみて?」

かすみ「 ……! か、かわいい! かすみんが、かわいすぎます……っ!」

ことり「 かすみちゃんてなんでも似合っちゃうから、お洋服を選ぶの大変だったよ~。でも、ことり的サマースタイルは、これ!」

かすみ「うわあああ~! かわいいかわいいっ! ほんとにかわいいですっ、ことり先輩!」

ことり「 ふふ、ちょっとだけメイクもしたもんね♪
かすみちゃんはビタミンカラーが似合うから、元気いっぱいの夏メイクが似合うよ」

かすみ「 私、こんな自分、初めて見ました……」

ことり「 かわいいかわいいかすみちゃん、これから、ことりと一緒にお出かけしませんか?」

かすみ「え! このお洋服を着てお出かけしていいんですか?」

ことり「うん♪ こんなにかわいい恰好してるんだから、遊びに行こう~!」

かすみ「ことりせんぱぁい!!」

       スクスタ 毎日劇場 2020年7月19日 「ことりせんぱぁい……♡」より

  これまでで一番好きな毎日劇場かもしれないこの回。ことりとかすみのあまりに愛おしい会話に見落としてしまいそうになるが、大事なポイントがあった。

 そう、かすみの一人称である。想像以上にかわいくなった自分に驚いたかすみは、一瞬素の姿を見せたのである。「私」。学園や同好会での一人称は「かすみん」だが、それがある意味では「作られたキャラクター」であることの、これがひとつの証左であろう。ところで、ここで見せたかすみの素顔は、キズナエピソード18話での「追い込まれたかすみ」の素顔とは、質が違うものだと思う。かすみが、取り繕わずに「私」として我々に向き合ってくる瞬間がいつになるのだろうか。いつか来るのだと、今は信じていたい。

 

 話を戻そう。18話で素の部分をみせたかすみだが、あなたの励ましもあって、すぐにもとのかわいいかすみに戻る。そんなかすみが言うには、次のライブでは「アンニュイ」なかすみで、みんなを驚かせるというのだ。

 かすみはこう言う。

かすみ「ほら、この前、アンニュイなフリをしたかすみんを見た先輩の反応!あそこからピーンッ!ときたんです!」

            スクスタ かすみキズナエピソード19話より

 あれは決して、フリではなかった。かすみは、ごまかしているだけだ。

 しかし、「あなた」は素のかすみが見れたことが嬉しかったのだろう、それが表情に出ていたらしい。かすみがこれまで頑なに封印していた「弱さ」を見せたにもかかわらず、「あなた」は悲しんだり遠ざかったりしなかった。それは、かすみにとっては大きなことだった。

 かすみの中で、確かに化学反応は進んでいるようだった。今はまだ、素顔のかすみを見せるのは、ちょっとした秘策。そう、ファンクラブの会員を喜ばせたり、会員の数を増やしたり......。まだ、かすみの中では、少し不本意な選択肢なのかもしれない。

 しかし、みんなは必ず素顔のかすみを受け入れるだろう。むしろ、もっともっと喜ぶに決まっている。まだ、かすみにはそこまでの自信はないかもしれない。しかし、それは確実に起こる。それが、かすみの心の中で、大きな変化を起こしていくに違いないのだ。

 まだ、素顔を見せるのは不安なかすみ。しかし、これはかすみにとっての第一歩だ、いつか、かすみが被った「かわいいかすみ」のヴェールを完全に取り払って、まっすぐに、飾らずに、私たちに向き合ってくれるまでの、そんな長い物語の、第一歩なのだ。

 

 ライブは大成功。「あなた」は、ファンクラブ用のこのイベントの動画を、アップロードしてみんなに見てもらうことを提案する。かすみは断らなかった。ファンクラブのみんなが素顔のかすみを受け入れてくれた。それは、かすみのなかで、一つの自信となったのだ。

 

 「あなた」の提案も大成功だった。かすみの動画は、大反響を呼んだ。かすみのファンクラブの人数も激増。ようやく、かすみのスクールアイドルの物語は、動き始めたのだ。

 同好会のみんなの前では、それまでと同じように振る舞うかすみ。しかし、かすみの中で確かな変化が始まっていることは、疑うまでもないことだと思う。

 

 

 『Margaret』は、そんなかすみが見せる「アンニュイ」なかすみ。と、本人は言っているが、それは恥ずかしさ故だろう。この曲は、まごうことない「素顔のかすみ」の曲だ。

「聞いて!

 泣き顔も笑い顔も 全部見て欲しい

 たまに出る変な顔も 笑って許してね

 いつも好きでいてくれる君にとって 一番でいたい

 想いのままを歌に乗せたよ

 これからも頑張ろう、君のために!」

                  『Margaret』歌詞より 

  それまでのかすみが、自分が「かわいい」ことを主張するときに、自分の努力、あるいは身につけているものなどを挙げて、自分自身のことを一つも挙げていないというのは、既に前の記事で述べた通りだ。

 しかし、『Margaret』は違う。劇的に違う。サビに入って真っ先に出てくるのは、繰り返し出てくるのは、かすみの顔。それも、笑顔だけではない。泣き顔。変な顔。これまでかすみにとっては不本意だった完璧ではないかすみも、高らかに見て欲しいと歌う。かすみ自身を見て欲しい。初めて、かすみはこう言ったのだ。

 一見すれば、ただ「自分を受け入れて」という歌詞かもしれない。しかし、かすみにとってこの歌詞は意味が違う。初めてかすみは、自分の素顔と向き合えたのだ。

 

「聞いて!

全部伝えたとしても 離さないでほしい

大事にしてきたものよりも 大事なものできたよ

 

ヴェールが包む 隠れた私

驚かせちゃってほんとにごめんね

でもどうしても繋がりたいから!

スペシャル・マーガレット!」

 『Margaret』歌詞より       

 「大事にしてきたものよりも 大事なものできたよ」。

 ここは、少し難しい。かすみが大事にしてきたものとは何か。それは「かわいい」だろう。「かわいいだけは、負けるわけにいかない」。それがかすみの意地だった。唯一のアイデンティティーだった。しかし、それは同時に足枷でもあった。

 一番じゃなければいけないというこだわりは、結果の出なかったかすみを追い込んだ。かすみが唯一のアイデンティティーだと思っていたものは、崩れ去ろうとしていたのだ。

 しかし、かすみは気づいた。「完璧な、一番のかわいさ」ではなくても、かすみのことを肯定してくれる存在がいることに。それまで、かすみは自身のない、嫌いな素顔の自分をみせてしまったら、(それはもしかしたら昔のように)、みんなが離れていってしまうのではないかと怖がっていた。

 

 かすみは自分に魔法をかけた。かわいいの魔法を。

 

 完璧なかわいいを演じるかすみは、嫌いな自分と向き合わなくてよくなった。過去の自分と決別した。かすみは「かわいい」のヴェールを被った。それは、言い換えれば「殻」のようなものだった。かすみを守るためのものだった。

 しかし、「かわいい」のヴェールは、皮肉にもかすみを苦しめた。ヴェールを被ったかすみは、ほんとうのかすみではない。偽物のかすみがいくら褒められても、それはかすみにとってほんとうの自信にはならない。それに、素顔が見えないかすみは、人によっては魅力的に見えないと感じたのかもしれない。血が通っていないような怖さが、あったのかもしれない。だからこそ、かすみのファンクラブは、思ったより広がらなかった。

 

 しかし、かすみは変わった。かすみは、少しづつヴェールを脱ぎ始めたのだ。かわいいの魔法は、解け始めた。しかしそれは、かすみにとって不都合になってしまった「殻」を、脱ぎ捨てることでもあった。

 ともすれば、この曲の私にとってのイメージは、ウエディングドレスに身を包んだかすみが、そのヴェールを取り払う瞬間の、その瞬間のメロディーだ。ヴェールを取り払ったかすみが、どんな顔をしているかはわからない。いや、そんなことは問題ないのだ。どんなかすみの、とびきり魅力的でかわいいんだということを、そのままでいいんだということを、息が切れるまで伝えたい。かすみのすべてを、そのままに受け入れて抱きしめたい。その気持ちは、ようやくかすみに届くようになったのだ。

 

 

 ところで、「スペシャル・マーガレット」という歌詞。それから『Margaret』という曲名。どうしてマーガレットなのだろうか?

 マーガレットには花言葉がある。基本的なマーガレットの花言葉は、「真実の愛」とか、「信頼」というイメージだ。

 しかし、黄色のマーガレットには、「美しい容姿」という花言葉がある。これは、かわいいかすみちゃんには、ピッタリな言葉だと思う。「これまでのかすみ」を表すなら、これでぴったりだ。

 しかし、『Margaret』を歌うかすみは、きっと純白のドレスに身を包んでいるのだと思う。白のマーガレットの花言葉は、「心に秘めた愛」。かすみの素顔を、心の中の気持ちを表すには、こちらの方がぴったりだ。

 事実、今回のかすみのライブ衣装では、黄色はかなり少なくなっている。そして、かすみが着ているのは、ウエディングドレスに見えなくもない、フリルの綺麗な白のドレスである。

 ちなみに、よく見ると胸元のコサージュには、黄色のマーガレットが使われている。そして、ピンクやオレンジ(?)のマーガレットも。どうして白いマーガレットが無いのか。それは、白いドレスに身を包んだかすみ自身が白のマーガレットだからであろう。

 さらに、よく見ると、花弁の小さな白い花が添えられている。これはかすみ草ではないだろうか。

 かすみ草は、花嫁のブーケや花冠にも使われる。やはり今回の『Margaret』のイメージは、ウエディングドレスに身を包んだかすみなのだと思う。

 

 ヴェールを脱いだかすみを迎えに行くのは、私たちだ。待っている時間はない。素顔のかすみを全身で受け入れるための準備は、もうできているはずだ。

 

 

 

 最後の花言葉とかかすみ草とかは、ちょっと自信ないかなあ......。こじつけといえばこじつけかも。それでも私の中での『Margaret』のかすみは、純白のウエディングドレスを着てるんだけどねえ。

 ライブ当日の相良茉優さんのパフォーマンスも楽しみですね。相良さん、ほんとうにかすみちゃんそのものなんだよね。まさに一心同体と言うべきか......。『無敵級*ビリーバー』の相良さんも見れるんでしょ?こりゃ、いのちがいくつ必要なんだか.......。

 最後まで自分の妄想を引っ張りますが、2ndライブの『Margaret』ステージでは、相良さんがヴェールを被って出てきたら嬉しいなあ。曲が始まるとヴェールを脱ぐ相良さん。おっと、妄想はこのくらいまでにしておきましょうか。

 

 ライブまであと2日。今日は『Margaret』についておはなししてきました。

 もうすぐですね。楽しみだな。明日は生放送もあるみたいだしね。高まります。

 それではまた、明日お会いしましょう。

 ライブまで一日一日、頑張っていきましょうね!

 こばとん 

ニジガクカウントダウンウィーク! #3 やがてひとつの物語/Say Good-Bye 涙

 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会2ndライブまであと3日!

 5回目の「ニジガクカウントダウンウィーク!」。前回記事のエマちゃんは、たくさんの反響をもらえました!励みになります.......。まだ読んでない人は、下に置いておくので読んでね。

 

tsuruhime-loveruby.hateblo.jp

  今日9月9日は、桜坂しずく『やがてひとつの物語』、そして上原歩夢『Say Good-Bye 涙』。それでは、早速行ってみましょう!!

 

※本記事は、アプリ「ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル オールスターズ」、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会2ndライブ公式パンフレット、雑誌『LoveLive!Days虹ヶ咲SPECIAL』、書籍『にじよん』などを参考にしており、それらの内容への言及、引用、ネタバレを含む場合があります。予めご了承ください。

 

M7:『やがてひとつの物語』  虚構の世界は、いつか真実への漸近線となる


【ニジガクみゅ〜じっくウィーク!〜3週目〜】やがてひとつの物語 / 桜坂しずく(CV.前田佳織里)

 「演技派」系スクールアイドルの桜坂しずくちゃん

 スクールアイドル同好会と演劇部、二足の草鞋を履くしずくちゃんは、演劇にかける情熱も相当のもの。空想することも好きらしく、白馬の王子を待つ乙女チックな面も。

 

 ところで、少し話は変わりますが、「アイドル」って不思議じゃないですか?

 俳優は、売り物にしているのは「演技」です。求められることは、演じるキャラクターになり切ること。もちろん、演技にはそれぞれの個性があり、哲学があり、表現方法があります。しかし、最終的に求められていることは一つ。それは、「脚本に描かれたキャラクターを、よりリアルに演じること、それだけです。

 しかし、アイドルはどうでしょう。一般的には、アイドルは「人格そのもの」を売り物にします。生身の売り物です。これは璃奈ちゃんの記事でも書きましたが、アイドルというのは「人格そのもの」が魅力であるとされるものです。

 パフォーマンス。さらには裏の努力や、果ては日常生活まで。アイドルはとにかく「生身の自分」を商売道具にします。ステージだけが表現の舞台というわけではないのがアイドルです。同時に、ファンはアイドルのすべてを求めます。隅から隅まで、自らの知るところとしたい。そのすべてを愛したいというのが、アイドルのファンの特性です。

 しかし、それはどこかで矛盾しています。アイドルは、「生身の自分」を売り物にしながら、どこかで「生身の自分」を演じているのです。

 「アイドルはお手洗いに行かない」というのも、また典型的なアイドルへのイメージです。いえ、決してアイドルがお手洗いに行かないわけではありません。アイドルとて人間ですから。しかし、多くの人間の愛情を、理想を、希望を力にして、その上に立っているアイドルに課せられているイメージというのは、結果的に人間離れしたものになります。それは「演じないと出せない」ものです。ニジガクでは、かすみがその最たるものと言えるかもしれません。もちろん、演じているうちに自分になっていくということもあります。しかし、やはりそれが「本来の姿」ではないことは疑いようがありません。

 もちろん、アイドルが十人十色であるのと同じようにファンも十人十色ですから、アイドルに求めるものは人によって違うでしょう。しかしやはり、アイドルというのはその根幹に矛盾した哲学を内包しているものです。そして、実はその幻影と矛盾こそが、アイドルをさらに輝かせる魔法になっていると思うのです。

 

 脱線が過ぎましたね。しかし、実はしずくも、この「アイドルの矛盾」の間で、悩んでいました。

 演劇を第一に生きるしずく。そんなしずくにとってスクールアイドル活動とは、「自分がすてきだと思うスクールアイドルを演じること」。しかし、それはアイドルとしては少し違和感のあることでもありました。「あなた」が、違和感を感じてそれをしずくに伝えたのも、すでに「アイドル」がどういうものか上で見てきたとおり、決して不思議なことではありませんでした。

 しかし、しずくの迷走はここから始まってしまったのでした。「自分自身を出す」ことを意識して臨んだライブ。お客さんの熱量は大きいものでしたが、しずくは不完全燃焼でした。しかし、Aqoursやμ'sのメンバーと話すうち、徐々にしずくは「自分の個性」がどこにあるかが分かってきました。そう、それは「演じること」。演じることそれ自体が、しずくそのものなのです。

 しかし、それは一方で、しずくの強みにもなり得るものでした。誰かを演じる。それは、より多くの経験を体験することであり、より多くの人生を生きることであり、さらに、それは表現に無限大の可能性があることを指しているのです。

 『オードリー』は、そんなしずくの可能性を示した曲でした。『オードリー』には、確かにしずく自身の気持ちが投影されていますが、しかし曲の主人公はしずく本人ではありません。

  「苦悩なんて見せちゃいけない

  そうよ、そうよわたしは大女優」

                『オードリー』歌詞より

  大女優に近づいているのは、しずくなのか、それともしずくの演じる誰かなのか......。どちらなのか、両方なのか。それは私たちにはわかりません。しかし、この曲は、しずくの苦悩を乗せた人物の物語です。そして、しずくはこの子になるために努力を重ねます。

 そう、いつか、この子としずくは完全に同一のものになります。しずくは、この子を完全に「演じる」ことを目指しているのですから。いまは50%、いや40%だったとしても、それはいつか99%に、限りない漸近線になります。

 アイドルというのは、素の自分と演じる虚構の自分の、微妙な隙間にあるのです。「理想の自分」を演じるしずくは、一見アイドルとしては不思議な姿に見えるかもしれませんが、むしろしずくこそ「アイドル」をしているのだとも、言えるかもしれません。

 

 1stライブでも、「しずくの強み」は、これ以上ないくらいに発揮されました。

 真っ赤なコートと傘を手にステージに表れたしずく役の前田佳織里さん。そこで見せた『オードリー』のパフォーマンスは.......。

 これは、言葉にするより、見てもらった方が早いかもしれません。下の動画を見てください。これが「ニジガクのライブ」です。


【ダイジェスト】ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 First Live “with You” Blu-ray Memorial BOX

 

 今度はミュージカルにハマったしずく。「好き」を力にすることが得意なしずくは、次のライブではミュージカルをテーマにすることを決めます。

 「演じること」。自分の道を見つけたしずくは、目指すスクールアイドル、そしてパフォーマンスも、少しづつ具体的なものになっていきます。

しずく「私がみんなに見せたい世界観というのは、「この世界は演劇そのもの」ということなのです。

     スクスタ しずくキズナエピソード 話より

 誰もがキャラクターを演じている......。だからこそ、なりたいと思えば、どんなキャラクターにもなれる。しずくが伝えたいメッセージは、決まりました。そしてこれは、しずく自身がステージの上で、いろいろな役を演じて「その人」になりきることで、みんなに伝わっていく。しずく自身が証明していける。そんな目標です。

 

 目指す場所のきまったしずく。そんなしずくは、「あなた」への想いを、次のライブで歌うことに決めます。主人公は、しずくであってしずくではない。しかし、これだけ具体性をもった、身近なテーマをもったキャラクターを演じることは、 それだけ『オードリー』の時よりも、しずくが自らの理想像に近づいたということも意味しています。

 ところで、この歌詞は「あなた」に向けて書かれたとしずくははっきり言っています。「重ねようあなたと私のストーリー」、「きっと一緒ならどんな結末でもハッピーエンドに終わる」、「想いを全て伝えられたらカーテンコールが起こる」......。これは完全に、しずくから「あなた」への、ラブレターといってもいい内容ではないでしょうか?

 もしかしたら、しずくが「誰かを演じて」いるからこそ、これだけの気持ちを伝えられるのかもしれません。それに、しずくに詰め寄ったとしても、「これは私であって私でないので......」と、はぐらかされてしまうかもしれません。

 しかし、この曲を披露し終わったあと、きっと歩夢とかすみは黙っていないでしょう。新ヒロインが名乗りを上げました。「第三章」は、物語の「転」の部分。どんなストーリーが、しずくと「あなた」を待ち受けているのでしょうか......?

 

 もちろん、2ndライブでの前田さんのパフォーマンスも注目です。今回はミュージカルですが、しずくの衣装も完全にそのイメージのもの。きっと舞台上でも、「ミュージカル女優」さながらの演技がみられることでしょう。セリフパートもあるこの曲。しかし、小さな体でも、信じられない表現力を見せてくれる前田さんは、まさにしずくちゃんそのもの。きっと、「大女優」として私たちを魅了してくれること、間違いなしでしょう!

 

M8:『Say Good-Bye 涙』 上原歩夢の「自立宣言」


【ニジガクみゅ〜じっくウィーク!〜2週目〜】Say Good-Bye 涙 / 上原歩夢(CV.大西亜玖璃)

 「まごころ」系スクールアイドルの上原歩夢ちゃん。

 今回のスクスタでは、スクフェスとは違い明確にプレイヤーとしての「あなた」がストーリーの根幹にかかわっています。そんな中、歩夢は「あなた」の幼馴染として登場する、ラブライブ!初の幼馴染キャラと言ってもいいでしょう。

 

 そんな歩夢は、これまでのラブライブ!のメインキャラクターとは一線を画す存在。イメージカラーも、髪色も、性格も、属性も。そのすべてが異なっています。

 歩夢はまさに、「普通の女の子」。特別な女の子ではなく、普通の女の子がスクールアイドルを目指す。もともとはスクフェスの「転入生」から選ばれた3人を始まりとしており、「スクスタ」だけをフィールドにしてアニメ化の予定もなかった「普通な」彼女たちにとっては、これ以上なく相応しいリーダーだと思います。

 

 歩夢の性格はまさに王道ヒロイン!しかし、「にじよん」でせつ菜が「好感度は上がりやすく下がりにくいタイプ」と評していますが、なかなかそう単純でもないようで......?

 そうなんですよ。もうひとつの歩夢の側面としてたびたびフィーチャーされるのが「メンヘラ」。これでは言葉が悪いですが、しかし、歩夢というキャラクターを理解する上で、この「愛の重さ」は外せないと思います。そう、歩夢は、「あなた」のことが、少し常軌を逸する時があるほどに大好きなのです......。

 

 「あなた」に誘われてスクールアイドルを始めた歩夢。しかし、それは決して歩夢自身が「スクールアイドル」になりたい!という強いパッションを持っていたわけではありませんでした。この点では、幼馴染の千歌と一緒に部活がしたかった曜と、まったく同じと言ってもいいかもしれません。

 しかし、「衣装好き」という側面をもつ曜に対して、歩夢は特に、スクールアイドルに直接つながっていくような「理由」を持っていません。そもそも、これまで明確に歩夢の趣味として特別言及されたのはスマホゲームだけ。あとは、家事にまつわることが大半。編み物に料理、アクセサリー作りなど、メインストーリ―では歩夢の日常生活にまつわるようなことに言及はありますが、「それ自体」が歩夢の趣味というわけではなさそう。これらを享受する人がいて初めて、歩夢はやりがいを感じているのではないか。そんな気がします。

 そう、上原歩夢という女の子は、99%が献身性で成り立っていたのです。そして、その献身性のほとんどは、「あなた」へと向かっています。言い方を変えれば、歩夢の意思決定は完全にあなたに依存している、といっても過言ではないでしょう。

 

 スクールアイドルすらも、歩夢にとっては「あなた」と一緒にいるための手段に過ぎなかったのでしょう。この問題は、歩夢自身のキズナエピソードにも、さらにはメインストーリーにも、深刻に関わってきます。

 歩夢がスクールアイドルに対する本質的な情熱を持っていなかったことは、キズナエピソードで示唆されます。

 スクールアイドルのイベントに出場した同好会メンバー。そして、このイベントは、ファンの投票によって勝ち負けの決まるシビアなもの。しかし、歩夢の努力を信じる「あなた」は、ここで歩夢がすこしでも勝ち上がって、自信をつけていくことに期待します。

 しかし、結果はまさかの一回戦敗退。同好会メンバーでも最下位の成績。ショックを受けていないかと心配する「あなた」ですが、歩夢はあっけらかんとします。

歩夢「あなたと一緒に頑張って、その成果を披露する。

それがとっても楽しかったから、順位とか勝ち負けとかは特に気にならないよ」

        スクスタ 歩夢キズナエピソード5話より

 たしかに、スクールアイドルは勝ち負けだけではないもの。しかし、全く悔しがらない歩夢に、「あなた」は違和感をおぼえます。

 

  もどかしいのは、「あなた」の歩夢の距離感です。他のメンバーに対しては、いつも鋭い「あなた」。しかし、幼馴染ですっと一緒にいる歩夢に対しては、どうも客観的な立場に立つことができません。

 本来、プロデューサーというのはアイドルにとって客観的な存在でなければいけません。アイドルの魅力を、状態を、知りながらにして客観視し、正しい方向にアイドルを導く。盲目的になってしまったら、正しい方向にアイドルを導くことはできません。

 

 しかし、歩夢が「あなた」に対してあまりに盲目的であるのと同じように、「あなた」も歩夢に対して盲目的なのです。結果として、歩夢と「あなた」は、時に激しくすれ違うのです。

 メインストーリ―では、「スクールアイドルフェスティバル」の成功に向かって、失敗を取り戻そうとのめり込む「あなた」と、自分の気持ちを分かってもらえなかった歩夢は激しくすれ違い、歩夢は遂にスクールアイドルを辞めると決断してしまいます。

 歩夢の背景が分かっていなければ、「スクールアイドルフェスティバルはそこまで大切なものなの?」と問いかけ、自分の気持ちが後回しになってしまったことに怒る歩夢は、あまりに自己中心的に見えてしまいます。しかし、そうではないのです。歩夢は「あなた」のためにスクールアイドルをしています。歩夢にとってのモチベーションは、「あなた」に見てもらえること。「あなた」と一緒にいられること。それだけなのです。それに、歩夢をスクールアイドルに誘ったのは「あなた」です。決して、歩夢自身が、強い意志をもってスクールアイドルになりたい!と考えていたわけでは無いのです。

 

 歩夢の持っている「普通の女の子」という特性は、確かに「スクールアイドルへの強い情熱」があるわけでもなく、「強い個性」があるわけでもない。そうなのですが、歩夢の心のなかにはあまりにも深い空虚が広がっています。歩夢の「献身性」は、歩夢自身の最大の魅力の一つですが、同時に「それに応えて、歩夢自身の空虚を埋めてくれる」存在を必要としているのです。

 

 メインストーリ―において、「あなた」と歩夢の関係を取り持ってくれたのは栞子でした。栞子は、当時同好会のメンバーではありませんでした。それに、歩夢とも、それから「あなた」とも、それぞれ個人的な関係を持っていました。

 栞子は、この二人の間の関係を取り持つには、まさに適任でした。そして実際に、栞子は歩夢に、「あなた」への想いを伝える場所を用意することによって、関係を修復し、さらにそれが「スクールアイドルフェスティバル」の成功へとつながったのでした。

 これは、第三者でなければなしえないことでした。10人目のメンバーとして遅れてやってきた栞子でしたが、むしろこの時点で同好会の内輪の人間だったとしたら、この問題は解決できなかったかもしれません。

 

 課題はまだ解決していません。この課題は、彼方と遥の間の課題と似ています。そう、歩夢に求められるのは「あなたからの自立」。スクールアイドルとしての独り立ち。それこそが、歩夢が次に目指す課題でした。

 幸い、ガーベラの花を使ったユニークな企画も奏功し、歩夢のファンはすこしづつ増えていきました。「あなた」にいつもしているように、「まごころ」を込めたファンサービスは、一歩一歩進む歩夢の速度に合わせて、少しづつファンを増やしていったのでした。

 

歩夢「あのね、今までの私って、いつも自信がなかったの。

なんでみんな、こんな私のこと応援してくれるのかなって、不思議に思ってた」

(中略)

「みんなが応援してくれる私のことを、私自身も好きになりたい。私、素敵でしょ?って自信を持って言えるようになりたいって思ったの」

                歩夢 キズナエピソード20話より

 まだまだ、歩夢の自立は始まったばかりかもしれない。しかし、ファンをふれあい、そのあたたかさを知ることによって、少しづつ「自信」が、歩夢の中の空虚を、満たしてくれるようになり始めた。いつか、自分で心の空虚を埋めることができるようになったら、その時歩夢は「あなた」への依存から解き放たれる。自分ひとりで歩けるようになる。

 

 これは、歩夢が一人で歩いていけるようになれるまでのストーリーなのです。

 

 『Say Good-Bye 涙』は、そんな歩夢の「独立宣言」ともいえる曲。

「いつもそんな気持ちの私だけど

あなたがくれる優しさに

寄りかかって 甘えていたのかな?

この足で踏みださなくちゃ」

             『Say Good-Bye 涙』歌詞より

 歩夢が作詞したこの曲は、まっすぐに歌う歩夢らしい曲。キズナエピソードのストーリーを歌詞でも丁寧になぞっています。

 そして、歌詞からもやはり、その「独立宣言」の強い意志が、しっかりと伝わってくるのです。涙を見せないのも、ため息をつかないのも、「あなた」にはもう、甘えたりなんかしないから。「あなた」に1から10までかまってもらえなくても、歩夢はひとりで歩けるから。

「頼りなくてごめんねなんて

 もう二度と言わないよ絶対」

             『Say Good-Bye 涙』歌詞より

  「二度と」、と「絶対」。強い否定を二度重ねることで、歩夢の強い決意はしっかりと私たちに伝わってきます。自分に自信のない女の子が、みんなから勇気を、自信を、愛情をもらって、一人で歩きだせるようになる。そう、歩夢の、ニジガクのストーリーは、こういうストーリーなのです。

「特別じゃない 普通の女の子

だって変われるんだ絶対」

              『Say Good-Bye 涙』歌詞より

 

 

 上原歩夢役の大西亜玖璃さん。彼女はまさに「上原歩夢」そのものであると言っていいほど、歩夢ちゃんとの共通点に溢れています。

 なにより、実力派の久保田さん、村上さん、鬼頭さん。それぞれに個性が強い前田さん、相良さん、楠木さん、指出さん、田中さんというメンバーの上に立つのが、大西さんであることが、「ニジガク」における歩夢ちゃんそのものとシンクロしています。それに、なにより、大西さんは努力を惜しみません。彼女がどれだけ成長したか、私たちはよく知っています。新メンバーも迎えたこのライブ。ニジガクキャストの「先輩」として、「リーダー」として、どんなパフォーマンスを見せてくれるか、今回も楽しみですね!

 

 

  ライブまであと3日。今日は『やがてひとつの物語』と『Say Good-Bye 涙』についておはなししてきました。

 どちらも「ヒロイン属性」のしずくと歩夢。「あなた」へまっすぐ想いを伝えるしずくと、「あなた」に甘えずに独立を目指す歩夢。アプローチは違いますが、より成長したふたりを、2ndライブで見ることができそうですね!

 それではまた、明日お会いしましょう。

 ライブまで一日一日、頑張っていきましょうね!

 こばと

ニジガクカウントダウンウィーク! #4 『哀温ノ詩』

 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会2ndライブまであと4日!

 今日で4回目。折り返しの「ニジガクカウントダウンウィーク!」。前回記事は下を参照してください。カテゴリー「ニジガクカウントダウンウィーク!」でも一覧できるからそっちも使ってね。

tsuruhime-loveruby.hateblo.jp

 今日9月8日はエマ・ヴェルデ『哀温ノ詩』。今回のアルバム『Just Believe!!!』でも特に注目の集まるこの曲を、見ていくとしましょう!

 

※本記事は、アプリ「ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル オールスターズ」、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会2ndライブ公式パンフレット、雑誌『LoveLive!Days虹ヶ咲SPECIAL』、書籍『にじよん』などを参考にしており、それらの内容への言及、引用、ネタバレを含む場合があります。予めご了承ください。

 

M6:『哀温ノ詩』 これから紡ぐ、千里を超えるストーリー


【ニジガクみゅ〜じっくウィーク!〜4週目〜】哀温ノ詩 / エマ・ヴェルデ(CV.指出毬亜)

 「癒し」系スクールアイドルのエマ・ヴェルデちゃん。

 イタリア系スイス人のエマは、「スクールアイドルになりたい」と虹ヶ咲学園に転校してきました。今は果林らと一緒に、寮生活をしているよう。

 日本に来るために勉強を頑張った、と本人も言っているとおり、日本語は非常に流暢。というか、ほぼ違和感がないレベル。これなら、鞠莉ちゃんのほうが発音に不安があるんじゃないかな......?イタリア系スイス人とあって、とっさの発言ではイタリア語が飛び出すことも。

 ほんわかふんわりした雰囲気をまとうエマは、みんなのお姉さん的ポジション。抜群の包容力は、8人兄弟の一番上の姉として培ったもの。スイスの兄弟を気にかけつつ、ニジガクのメンバーも妹にしてしまうエマ。生粋のお姉さん気質ですね。

 

 でも、9人の新しい妹は、エマにとっても大切な存在でもあります。遥か彼方スイスから日本までひとりでやって来たエマ。当初はホームシックになることもあったと言いますが、同好会に馴染み、メンバーと仲良くなっていくことで、エマ自身も居場所を得たようです。

 

 そんなエマですが、スクールアイドルとしての方向性にはなかなか苦戦します。エマの目標は「日本の学校に来てスクールアイドルになること」。既に虹ヶ咲学園に入学し、スクールアイドル同好会のメンバーとなったエマは、既に長年の目標を達成し、満足してしまっているのです。スイスで日本語を勉強して、高校で留学して日本にやってくること自体、大変な努力が必要なことですから、決して不思議なことではありません。

 

 「勇気を与えられるスクールアイドル」。「やさしく包み込んでくれるアイドル」。どれもしっくりこないエマ。しかし、エマへの相談で安心感を得た「あなた」は、「安心」をエマのスクールアイドルのテーマに提案します。

 エマには、スクールアイドルを目指したきっかけが明確にあります。それは、大雪のなかひとりの夜を過ごした時に、スクールアイドルの動画を見て衝撃を受けたこと。怖さや不安を吹き飛ばしたスクールアイドルにエマは惹かれ、日本行きを目指すことになるのです。

 当初、「あなた」は、エマがあの夜にスクールアイドルから受け取ったのは「勇気」だと考えていました。しかし、エマがスクールアイドルからもらったものも、また、エマが他の人に与えられるものも、「勇気」ではなく「安心」だったのです。スクールアイドルの動画から「安心」を受け取ったエマは、「安心」を他の人に届けられるスクールアイドルになりたい......。これが、エマの目標になりました。

 

 「癒し」をテーマにしてスクールアイドル活動を始めたエマ。日曜保育のボランティアで、一人の心を閉ざした男の子と、一進一退に向き合いながら心を開かせることに成功したエマは、次のライブで『声繋ごうよ』を披露します。

 民族音楽イメージの『Evergreen』とは一線を画す『声繋ごうよ』ですが、保育園の経緯を踏まえれば、むしろこれ以上ないエマのイメージにぴったりな歌。そしてなにより、一番の驚きは、1stライブでの『声繋ごうよ』の初披露にありました。

 なんと、エマ・ヴェルデ役の指出毬亜さんは、キッズダンサーを引き連れてステージに登場し、一緒にダンスパフォーマンスを見せたのです!

 これは、はっきりいって異例です。これまで、ラブライブ!シリーズのライブパフォーマンスでは、あくまでもキャスト9人だけでの演出が基本でした。アイドルマスターシリーズや、一部の声優アーティストでは多用されるバックダンサーも、ほとんど(というか、記憶の中では一度もないんですけど、失念しているだけかもしれません)ありませんでした。例えば、Aqoursの2ndライブ『G線上のシンデレラ』でも、バックダンサーとして登場したのは歌唱する3年生以外のメンバーたち。特にAqoursのライブでは、これまでSaintSnow以外にステージに招いたのはうちっちーしかいないんじゃないかって気がするくらいでした。

 しかし、『声繋ごうよ』では、バックダンサーにかわいい子どもたちを連れて、エマが登場したのです。彼方におけるベッドの演出もそうですし、あるいはしずくの『オードリー』の演出もそうなのですが、ニジガクのライブでは、曲のイメージ、それから、曲がもつ背景のイメージを最大限に表現しようという意欲を感じます。今回の2ndライブは、曲目だけでなく演出にも注目が必要でしょう。

 

 

 『声繋ごうよ』はエマの表現の幅を大きく広げる一曲でしたが、『哀温ノ詩』もまた、再びイメージを大きく転換した曲です。発表時は、予想を超える内容に大きな話題を呼びました。

 そんな『哀温ノ詩』は、実は3rdアルバム収録曲の中でも、さらに言えばこれまでのニジガクの楽曲の中でも、異色の曲です。それは、この曲が「あなた」の手によるものでも、メンバーの手によるものでもなく、エマがある人から受け継いだ、いわば「カバー曲」だからです。

 スイスでみた、「安心」をもらったスクールアイドルの動画。「和風の衣装を着たアイドル」という手掛かりから、エマはせつ菜に協力を仰いで憧れのアイドルを探しますが、動画は既に削除されていました。

 和風アイドルを見つけてライブに行くも、残念ながらハズレ......。そんな日の帰りに、エマに着物を着てみることを提案した「あなた」は、写真館にエマを連れていきます。

 着物を着て喜ぶエマ。のちに写真館にお礼を伝えにいったエマは、なんとその「夏川写真館」の看板娘として、写真館のモデル、それからお客さんの案内の仕事をするようになります。

 普段から着物を着られる、エマにとっては天国のような職場。すると、偶然の奇跡がエマのもとに舞い込みます。

 なんと、写真館の娘、マイはスクールアイドル。しかも、マイの歌うその歌は、エマスイスで聴いて、スクールアイドルになることを決めた、その曲だったのです。

 しかし、エマが憶えているそのスクールアイドルは、綺麗で長い黒髪の女の子。ショートカットが印象的なマイとは違います。

 その理由は、この曲が代々受け継がれるものだから。マイは、先輩からこの曲を受け継いで、いま歌っているのです。

 フルネームが明らかにはなっていませんが、夏川写真館の跡継ぎということなら、きっと「夏川マイ」ちゃんなのでしょうか。マイはエマと同じ高校3年生。しかし、マイはなんと、「スクールアイドルはもう終わりにする」と、軽やかに宣言します。

 

 写真館を継ぐために、本格的に写真の勉強を始めたマイ。背景には、多忙の母が体調を崩したことがありました。マイは驚くほど大人に、こう話します。

マイ「確かに海外から来てくれる人は増えたけど、このブームがいつまで続くかわからない。このまま増え続けて安定してくれるのが一番だけど、どうなるかなんてわからないでしょ?」

「ひいじーちゃんの代から続いているお店だからさ、そういうブームに頼らなくても、あたしの腕一本で、これからもずーっと、100年も200年も残していきたい......」

「それがあたしの選んだ未来なんだ。だから、スクールアイドルは卒業」

              スクスタ エマキズナエピソード19話より

  驚くほどはっきりした決意。この発言だけで、マイという女の子がどんな子なのか、ひしひしと伝わってきます。惚れるわ。かっこいいもん。あっけらかんとして明るい性格。前向きでポジティブな雰囲気。その決意にはもちろん異議のはさみようがありませんが、この子がスクールアイドルを辞めてしまうことがあまりにも惜しい。そう感じるとても魅力的な女の子です。

 

  この曲から力をもらったのは、エマもマイも一緒でした。マイは、この曲を歌っていた先輩のもとへ駆け寄り、「スクールアイドルを辞めないで」と懇願します。結果的には、この熱意をもって、マイがこの曲を受け継いで歌うことになったのでした。

 マイは、先輩にスクールアイドルを続けてほしいという願いを「ワガママ」と表現しました。きっと、先輩もマイと同じように、大好きなスクールアイドルと天秤にかけてもどうしても譲れないような、そんな事情を抱えていたのかもしれません。

 

 そんなマイが、最後のライブをする......。そんな機会を、エマと「あなた」は、目撃させてもらえることになりました。

 マイの練習を手伝うエマと「あなた」。ハードな練習をこなすマイは、この曲を先輩から受け継いだ時のエピソードを話してくれます。

 「先輩に泣きついた」というマイ。そんなマイに、先輩はこう切り出します。

『じゃあ、あなたがこの歌を引き継いでみる?もちろん、私以上に、この歌を大切にしてくれる人じゃなければ、そんなことさせないけど』

              スクスタ エマキズナエピソード20話より 

  この歌を受け継ぐ、その道のりは大変なものだったと、マイは語ります。そんな努力を重ねて、マイはこの歌を自分のものにしたのです。

マイ「だから、すごく愛情を込めて歌ってるんだ。この歌を本当に大切にしていた先輩が、あたしに託してくれた歌だから。世界で一番この歌を愛してる!その気持ちを込めて歌ってるの」

              スクスタ エマキズナエピソード20話より 

  マイの想いは、相当なものでした。エマも、その思いを、マイの最後のライブの手伝いをする中で、しっかりと受け継いでいくのでした。

 

 遂に迎えた、マイのラストライブ。マイが纏うのは、爽やかな水色の着物。この衣装、実装してほしいほど好きだな。星の飾りに、星空を想わせるような美しい柄。それでいて、お祭り衣装のような華やかさ。衣装だけでも、マイの魅力があふれ出しています。披露するのは『哀温ノ詩』。マイにも、エマにも、「安心」を与えた、自分を救ってくれた。そんな大切な曲です。

 

 マイはラストライブの前に、エマをステージに呼びます。予定にないことに驚くエマ。しかし、エマは覚悟をもって、マイの大切なステージに上がります。

 マイには心残りがありました。それは、先輩から受け継いだこの『哀温ノ詩』が、マイをもって途切れてしまうこと。先輩が、もっともっとその前から受け継いできた大切な曲。それを、エマに受け継いでほしい。

 

 

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スクスタ エマキズナエピソード21話より

 このシーンは、私がスクスタのストーリーでもっとも好きなシーンの一つです。マイの想い、驚くエマの表情、二人の距離.......。つないできた想いが受け継がれる瞬間が、ここに切り取られています。

 

 

 『哀温ノ詩』は、和風でゆったりしたメロディーが特徴。よりそのままの歌唱力が求められる、そんな楽曲です。しかし、そこはさすがの指出さん。「声の魅力」だけで圧倒してくるような、そんな歌唱を見せています。

 これまで、『哀温ノ詩』を、エマというキャラクターになぞらえてどう考えるか。私も、「ニジガクみゅ~じっくウィーク!」で『哀温ノ詩』が発表されたときはそういう視点で解釈しましたし、いろいろな解釈をしている人がいたと思います。

 しかし、このエピソードを承けて、私はあえてこの曲をエマの背景になぞらえて解釈することはしません。

 なぜなら、この曲は、この曲を愛してきた人たちによって、ずっと「受け継がれてきた」曲だからです。いろいろな解釈があったのも、それは当たり前。なぜなら、この曲はそれだけの表現力を、包容力を、誰が歌ってもその人の魅力を引き出せるような、そんな普遍性を持った曲である、と思うからです。

 

「千歳越え 輝く愛を

 千里越え 思い こめるから」

                    『哀温ノ詩』歌詞より

 まさに「千歳」と言える長い期間をもって受け継がれてきたこの曲。この曲は、これまで歌ってきた人の想いが積もれば積もるほど輝く、そんな曲なのだと思います。

 そして「千里」。受け継がれてきた『哀温ノ詩』は、スイスのエマの下まで届きました。「千歳」を越えてきた『哀温ノ詩』は、「千里」も越えて、エマへと今、届いたのです。

 エマに課せられた使命は一つです。「千歳」を、「千里」を、さらに積み重ねること。スイスまで届いた『哀温ノ詩』。いまここで、グローバルにアピールできるエマのもとにそれが受け継がれたことで、さらにその範囲を広げようとしているのです。エマは故郷にも、この歌を広げたい。そう思うし、そのために努力を惜しまないでしょう。『哀温ノ詩』は、エマの力を借りて、さらに世界へと、その魅力を、さらにはスクールアイドルの魅力を、伝えていくのです。

 

 

 ところで、マイは自らの運命を見定めて、スクールアイドルをやめる決断をしました。

 「スクールアイドルは、限られた時間の中で輝く」。

 これは、ラブライブ!の中で一本筋をとおす、ひとつのフィロソフィーです。μ'sも、Aqoursも、彼女たちのライバルたち、きっと名前も出ないような数多のスクールアイドルたちも、限られた時間という、この残酷で、そして受け入れねばならない宿命と向き合い、彼女たちなりの結論を出してきました。

 マイも、『哀温ノ詩』を受け継いできたこれまでの先輩たちと同じように、その決断をしました。清々しいほどの決意。エマも、それを目の当たりにして、思うところがあったでしょう。

 そして、エマ自身も、これから「残された時間」と向き合うはずです。マイとエマは同じ3年生。決して、エマに残された時間は長くありません。

 しかし、きっとエマなら、その決断ができるはずです。マイから受け取った想いと、『哀温ノ詩』。それを次のスクールアイドルに受け継ぐまで、エマの努力は続きます。

 

 

 『哀温ノ詩』を、あえてエマに寄せて解釈しなかった理由は、もう一つあります。それは、キズナエピソードが、マイからエマが曲を受け取ったところで終わっているからです。

 他のメンバーでは、3rdアルバム収録曲を披露したところまでストーリーが描かれています。しかし、エマはそうではない。

 それは、まだ『哀温ノ詩』がエマのものにはなっていない。そういうことを意味しています。そう、まだエマ・ヴェルデによる『哀温ノ詩』は、この世のどこでも披露されていないのです。

 3rdライブでの、指出さんによる『哀温ノ詩』。これが、エマが初めて「自分のもの」として披露する『哀温ノ詩』です。もちろん、完全にそれが自分のものになるためには、マイが重ねたように、もっともっと努力が必要かもしれません。エマが『哀温ノ詩』を受け継いだ、それは、エマがひとりで『哀温ノ詩』を披露した、その時に完成します。そして、その瞬間は、2ndライブにおいて、私たちの眼前で、完成されるのです。

 

 

 最後に少し雑談を......。

 エマ役の指出毬亜さん。まっすぐ言いますが、私、指出さんが大好きです。声も、それからご尊顔も......。同郷(埼玉県)ですし、年齢も近い(一個下)ですし、なにかとシンパシーを感じています。『LoveLive!Days虹ヶ咲SPECIAL』の指出さんの写真には完全にやられました。これは恋かもしれません......。

 歌も、とっても上手いです。ほんとうに上手い。『哀温ノ詩』の歌唱を聴いた時、ほんとうに魅了されました。透き通った声。高い表現力。見事な裏声。

 ソロデビューしたら、絶対に応援する。そう誓っている声優さんの一人です。なんなんだこの告白は。誰得なんだ。でも、指出さんは素晴らしいんですよ。虹のキャストの中でも圧倒的な推しです。

 

 パンフレットの着物姿の指出さんも大変うるわしゅうござるわけですが、一つ気になる部分が。エマちゃんの衣装の頁がわかりやすいですが、艶やかな花柄の着物の下に重ねている紫の着物。これ、星の柄じゃないでしょうか?どうかな。指出さんの着ているほうはそうでもないんだけどねえ。白い丸が、白線で結ばれている。これは星座を表しているんじゃないかと邪推するのです。

 そうだとしたら、この衣装は、マイの衣装の意匠(ダジャレかな?)を、しっかりと「下に重ねて」、受け継いでいるという意味が込められているんじゃないか......。そう思ったのですが、どうでしょう。そうだったらいいな。オチがありませんが余談でした。

 

 

 ライブまであと4日。今日は『哀温ノ詩』についておはなししてきました。

 指出さんのパフォーマンスが、生の歌声が(配信ですが、それでも収録ではないので)、早く聴きたい。そういう想いと、きっとものすごい衝撃をうけるんだろうな、というちょっとしたドキドキ感と。そういう感情が入れ混じった『哀温ノ詩』は、2ndライブでも屈指に披露が楽しみな曲のひとつです。早く聴きたいような、いやもう少し時間が欲しいような......。こんな感情が入れ混じるのも、『哀温ノ詩』がもつ魅力故ですね!

 それではまた、明日お会いしましょう。

 ライブまで一日一日、頑張っていきましょうね!

 こばと

 

ニジガクカウントダウンウィーク! #5 Fire Bird/Märchen Star

 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会2ndライブまであと5日!

 3回目となった「ニジガクカウントダウンウィーク」。前回、前々回記事は下を参照してください!

 

tsuruhime-loveruby.hateblo.jp

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 今日9月7日は、朝香果林『Fire Bird』、そして近江彼方『Märchen Star』です。それでは、早速いってみましょう!

 

※本記事は、アプリ「ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル オールスターズ」、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会2ndライブ公式パンフレット、雑誌『LoveLive!Days虹ヶ咲SPECIAL』、書籍『にじよん』などを参考にしており、それらの内容への言及、引用、ネタバレを含む場合があります。予めご了承ください。

M4:『Fire Bird』 「クール」を脱ぎ捨てて魅せる熱量


【ニジガクみゅ〜じっくウィーク!〜6週目〜】Fire Bird / 朝香果林(CV.久保田未夢)

 「セクシー」系スクールアイドルの朝香果林ちゃん。

 読者モデルもこなす果林の特徴は、なんといってもその圧倒的なプロポーション。「オトナの魅力」全開の果林は、賑やかな同好会メンバーのなかでもひときわ落ち着いた存在で、まさに大人な高校三年生。しかし、実は負けず嫌いだったり、子どもっぽいところがあったり、そのギャップでも私たちを虜にする、そんな魅力たっぷりなメンバー。方向音痴という特性も持っていて、そのプロポーションを含めてキャラクター的にはアイドルマスター三浦あずささんに近い感じもします。

 オトナな果林は、「あなた」との関係構築の方法も実に大人。他のメンバーではかなり主導的にスクールアイドルの関係を構築する「あなた」ですが、果林ちゃんのキズナエピソードでは、いきなり果林さんが食事に誘って自分のことを理解してもらおうとするなど、積極的です。ある意味で受け身な「あなた」の姿勢を見るのも貴重かも。「あなた」ちゃん、いっつも女の子に押せ押せなのに、意外と押されると弱いとこある気がしない?

 読者モデルで活躍し、それによってお金も稼いでいるとあって、果林の生活はストイックそのもの。食生活から運動まで、その意識の高さはさすがのものがあります。

 しかし、果林自身は、何だかさばさばした印象を受けます。それだけ高い意識をもって取り組んでいる読者モデルの活躍にも謙遜に謙遜を重ね、その「努力」を自分ですごいとはひとことも言わない。自分の実力と、それから自分より「上」を知っている。そんな雰囲気が漂っています。 

 実は負けず嫌いなのにも関わらず、自分の実力に関して達観しているこの雰囲気。わたしは、この雰囲気は、果林が「本当にすごい人を知っていて、自分がそのレベルより劣っていることを明確に感じている」のではないか、そう思うのです。早くから読者モデルとして一線で活躍する果林は、その競争社会のなかで長い間揉まれてきたのでしょう。その分、「自分を知っている」というか、良く言えば落ち着き払った達観が、悪く言えば、例えば歩夢やせつ菜が持っているような強いパッションを持ちえない諦観が、そこにある気がするのです。

 しかし、キズナエピソードで「あなた」が目撃していく果林は、決してその一面だけをもった女の子ではありません。

果林「ありがと、でも「負けないくらい」か。「せつ菜ちゃんより上」には程遠いかな」

         スクスタ 果林キズナエピソード3話より

 自分の実力をしっかり客観視しながら、せつ菜と「同じくらい」では許せない。果林が隠し持った「負けず嫌い」な一面が、見え隠れします。

 その後も、ゲームセンターでダンスゲームに苦戦し、何度も挑戦する姿を見て、「あなた」は果林が秘めている感情に気づいていきます。それは、ファミレスでの一幕をもって、確信に変わります。

 ファミレスでメニュー選びに悩む同好会メンバー。果林なら即断即決で、スイーツも我慢できるんだろうなあ、と言うメンバーの手前、果林は即決でドリンクのみの注文を決める......と思いきや、一瞬の逡巡を見せる果林。「あなた」は、そんな果林の違和感を見逃しませんでした。

 実は、朝香果林という人間は、心の底にとんでもなく熱いものを秘めているのではないか......。果林がやけにさばさばしている理由は、ファンクラブの設立を提案したときに、明らかになります。

 ファンクラブ設立を拒む果林。その理由は、「読者モデル時代にファンクラブで苦い思い出があるから」というものでした。

 努力を惜しまない果林は、読者モデルとしてももちろん成功を掴みました。そんな果林のもとに、「何人かのモデルでファンクラブを作らないか」という提案が舞い込みます。

「読者モデルなんて、少し目立つ子がカメラの前で笑っているだけ」 

 負けず嫌いな果林は、そんな評価を見返そうと、さらに努力を重ねます。

 ファンクラブの活動でも、高い理想とやる気に満ちた果林は、その活動のなかで、必ずしも果林ほど理想も高くなく、果林ほど努力を惜しまないわけでもないメンバーとの間で、衝突を起こしてしまいます。

 それは必ずしも、彼女たちも全くやる気がないというわけではありませんでした。与えられた仕事はそつなくこなしていた......。彼女たちを責めることは、必ずしもできないかもしれません。果林が一人で空回りしている。果林の熱量と努力を理解しない人からすれば、そう取られても仕方ないような、そんな状態でした。

 自分のことをきちんと客観視できる果林は、そのことをわかっていたでしょう。だからこそ、彼女は「ほどほど」が一番いいと、この機会にそう学んだのだと。そうやって、果林はこの衝突を自分のなかで処理していきました。

果林「私はあの時「ほどほど」を学んだわ。多分それが一番ちょうどいいの、私は、ほどほどでいたいのよ」

       スクスタ 果林キズナエピソード17話より

 しかし、この言葉は明らかに嘘です。果林がだれよりも負けず嫌いなことは、すでに果林自身の行動が証明しています。「ほどほどでいたい」。果林は、モデル時代でのファンクラブで負った傷を塞ぐために、嘘をついて自分の秘めた熱量に、蓋をしてしまっていたのです。

 それを見抜いた「あなた」は、持ち前の熱量をもってファンクラブ設立を果林に迫ります。果林の熱量に応えてくれる人はいる、その熱量を発揮できる舞台はある、それを、果林が心の奥底に押し込めてしまった熱量をもって、果林に伝えたのです。

 

 悩みを吹き飛ばした果林の行動は早いものでした。積極的に動き出した果林。再び「あなた」は、果林に振り回されます。果林に振り回されてる「あなた」ちゃん、ちょっと可愛いよね。いつものかすみみたいで。

 これまで、「クール」という殻を被っていた果林。しかし、今回の『Fire Bird』は、クールな雰囲気は完全に封印して、果林の持つパッションを前面に押し出した、情熱的な一曲です。

「もう籠の中の鳥はやめたのよ 高く高く自由に空を羽ばたいてる」

                       『Fire BIrd』歌詞より

 果林がそれまで被っていた「クール」というヴェールは、そのあふれだす熱量によって、かつて負ったやけどを隠すためのものでした。しかし、果林の本当の魅力は、その熱量にあるのです。負けず嫌いで努力を惜しまない果林。それまでの果林は、「クール」なキャラクターに縛られて、自分の思うように動くことを我慢してしまっていました。ファミレスでの一件は、まさにそれを象徴しています。

 しかし、もうそのヴェールははがされたのです。『Fire BIrd』は、果林にとっては大きな変化となる曲のはずです。我慢して隠してきた果林の熱量、それがこれからは、余すことなく私たちに降りかかってくることでしょう。

 そう、果林は「クール」系スクールアイドルではありません。「セクシー」系スクールアイドルなのです。決して「セクシーであること」と「クールであること」は、同一ではありません。熱量を全開にした果林。これからもステージで、その熱量に溢れた「セクシー」で、私たちを悩殺してくれること間違いありません。

 

 朝香果林役の久保田未夢さん。i☆Risのメンバーとして、2012年から芸能界で活躍する久保田さんは、すでに実績を持っており、ニジガクのキャストの中でも「お姉さん」的なポジションを務めています。このポジションは、まさにニジガクにおける果林の立ち位置と酷似していて、久保田さんが果林を演じることによって、さらにキャラクターに説得力が増す印象があります。

 一方で、i☆Risでの活動や普段の生放送で見せる久保田さんと、果林のキャラクターは、必ずしも「似ている」とは言えないかもしれません。しかし、それは同時に、果林がこれまで『Starlight』、『Wish』、それからこの『Fire Bird』と幅の広い楽曲を披露してきたように、久保田さん自身の幅を証明している部分だと思います。なにより、実績のあるベテランの久保田さんが、全く違うタイプのキャラクターをしっかり演じているだけで、ニジガクとしてのパフォーマンスは数倍引き締まる印象があります。

 そんな久保田さんが、ステージ上で披露する『Fire BIrd』。すでに『Wish』で完全に、果林の魅力の虜になっている私たち。今回のステージがどんなものになるのか、期待は高まるばかりです!

 

M5:『Märchen Star』 わがままなステージはまさに夢。そう、夢の世界。


【ニジガクみゅ〜じっくウィーク!〜5週目〜】Märchen Star / 近江彼方(CV.鬼頭明里)

 「マイペース」系スクールアイドルの近江彼方ちゃん。いつも眠そうで、やることをやったら(やらなくても?)ところかまわず寝てしまう彼方は、果林がアイドルマスター三浦あずささんに似ているとしたら、彼方は星井美希ちゃんの属性。

 そうだとすれば、もしかしたら、普段寝ていても実はスペックがとっても高いのは、「眠り系女子」の定番なのかも。彼方も、実は料理上手であるという一面を持っています。意外性だね。

 彼方に関しては、その背景が誰よりもしっかりと描かれています。そして、それはなにより深刻です。

 彼方の家庭の事情はなかなかにシビアなものです。「特待生」としてニジガクに通う彼方。成績が下がると特待生としての資格は失われてしまうらしく、彼方は夜な夜な勉強をして、特待生から外れないように必死の努力をしています。

 おそらく、学費の面で優遇のある特待生。彼方自身が特待生の資格を死守するように努力しているのは、近江家の財政状況が決して良くないからでしょう。もしかしたら、溺愛する妹の遥の学費分のために、という意味もあるのかもしれません。奨学金についても言及があります。これも、成績要件があるよう。彼方ちゃんの努力には、ほんとうに頭が上がりません。

 彼方の特技、そして趣味が料理であることはすでに述べましたが、それは実用的な面も大きい部分を占めています。彼方は、毎朝自分の分と、それから遥の分のお弁当を自ら作っています。時には、「あなた」のためにお弁当を作ってくれることも。彼女かな?歩夢ちゃんに狙われてない?夜道では背後に注意するんだよ。

 そんなお弁当も、節約の知恵に満ちています。嫁力が高いよね。やっぱり歩夢ちゃんといつか衝突しそう。嫁枠は一つしかないもんなあ。「あなた」は大人気だし。それはさておき、やはりこのあたりからも、近江家の厳しい財政状況が見て取れます。さらに言えば、両親(もしかしたら母子家庭/父子家庭かも)がお弁当を作れない状況を意味しているかも知れず、心配は募るばかりです。そういえば、特売に関する寝言も言っていたような......?買い物も、彼方の役割の一つなのかも。なおさら大変だ!

 

 一方の彼方は、深刻そうな素振りは全く見せません。いつもマイペースに、のらりくらりとしています。夜の勉強も、お弁当作りも、決してつらそうに見せないし、弱音は一つもはきません。

 マイペースではあるものの、彼方は話すときは非常にはっきりしています。何かを沢山隠してるとか、そういう雰囲気はあまりありません。遥とすれ違ったときも、「あなた」が不審がって問いかければ、彼方はきちんと答えています。「お嫁さんになってよ」にもはっきり答えるのはちょっと怖いかな。歩夢ちゃんが。いつも歩夢ちゃんは目の端に捉えて、警戒しておくんだよ?あと、なんで彼方にはこんなに「あなた」は積極的なのさ。もはや求婚してるでしょ。歩夢ちゃんに怒られるよ?

 しかし、さすがは「お姉ちゃん」と言うべきか、彼方はすべて「あなた」の助けを受けるのではなく、比較的自立的に物事をこなしていきます。この辺は果林に似てるかも。さすがは3年生だね。

 

 彼方のキズナエピソードを読むと、どうしても気になるフレーズがあります。

彼方「彼方ちゃんにとっては、わがままなんだな~。っていうか、彼方ちゃんてスクールアイドルをやってること自体、ちょっとわがままって思ってる。」

              スクスタ 彼方キズナエピソード6話より

 

  そう、「わがまま」。スクールアイドルをしているからって、誰も彼方のことをわがままだとは言わないでしょう。しかし、彼方はわがままだといって譲りません。どうも、彼方にはやりたいことがたくさんあって、その中でも特に譲れないのがスクールアイドルであるようです。しかし、それは、彼方はそれ以外のやりたいことを、すべて我慢しているということを意味しています。

 きっと、彼方にとっては、勉強をして特待生の資格と奨学金を維持すること、節約しながら遥ちゃんのお弁当を作ること、そのすべては「当たり前にやらなくちゃいけないこと」なのだと思います。彼方はそのことを、全く疑ってはいません。嫌がってもいません。だからこそ、彼方にとっては、時間がないのにスクールアイドルをすることは「わがまま」なのです。いや、もっと言えば、彼方にとっては自分がどうしても譲れないスクールアイドルをすること、それでさえも、彼方の中では「わがまま」になってしまうのです。

 この「わがまま」は、彼方のステージに対するイメージそのものでもあります。ステージに立つときは、いつも追われているすべてのことを忘れて、自分のすきなことができる。そんな時間です。

 そう、ステージは彼方にとって、まさに「夢」の世界。彼方が昼間に寝ている時に見ている夢は、勉強に追われて夜に見れなかった分なのだと考えれば、むしろ彼方にとってステージこそが、彼方の人生の中で唯一現実から離れて見る「夢」そのものだと言えるのです。

 

 彼方のソロ曲は、そのすべてが統一されたイメージを持っています。

 「メルヘン」な世界で眠る「眠り姫」。「夢の世界」が、彼方の楽曲・ライブ演出に共通しているテーマです。

 しかし、「夢の世界」が彼方にとってどういう意味を持っているのか、既に知っている私たちにとっては、彼方のソロ曲の歌詞は全く違うものに見えてきます。

「眠れる森の美女さん あぁ憧れだよ

だってずっと寝てていいんでしょ?

幸せすぎるよ!」

                『眠れる森に行きたいな』歌詞より

  彼方にとって、寝ている時間は唯一現実から離れられる時間。だから、彼方は眠れる森の美女すらも、羨ましく思えるのです。「憧れ」ということばは少し強くて、そしてその強さが心に響きます。思い切り寝られる生活は彼方にとって憧れなんだなあ。決して言わないし、そして「思っていない」だろうけど、彼方にはきっと諦めてしまった「やりたいこと」がたくさんあるんだろうなあ。

 彼方には、すべてを大切な人に捧げてしまうような、少し過剰な献身性があります。自分のやりたいことのすべてを「わがまま」にしてしまうような。

 妹の遥も、彼方の献身性を心配していました。自分が自立しないと、彼方はいつか、唯一譲れないスクールアイドルすらも、自分のために辞めてしまうのではないか......。

 自立を目指した遥と、遥を大切に思う彼方の想いはすれ違います。しかし、「あなた」の助けもあってお互いの気持ちをわかりあった二人は、さらにその絆を強くします。自立を始めた遥に助けてもらった彼方は、スクールアイドルにさらに取り組める態勢が整ってきます。

 そういえば、彼方と遥の関係が直ったあと、「あなた」に感謝と今後のサポートをお願いした遥に対し、彼方が「あなた」に対する独占欲を見せているシーンが......。

 やっぱり気を付けて!彼方ちゃん!歩夢ちゃんが狙ってる!!!

 

 気を取り直して。

 これまでよりスクールアイドルに取り組める余裕ができた彼方。彼方は、理想のライブの実現に向けて、計画を始めます。

 そのライブのコンセプトは、「夢の世界でライブをする」。そのために作られた曲が『Märchen Star』です。

 『Märchen Star』の歌詞には、彼方が理想とするライブのイメージがふんだんに盛り込まれています。彼方がイメージする「夢の世界でライブ」とは、どのようなライブなのでしょうか。

彼方「ステージの上にベッドを置いてね、おやすみなさ~いって寝るのと同時に、照明を落として真っ暗にしちゃうの。」

「そして~、天井にプラネタリウムみたいに星を投影するんだ~」

「天井から星が降ってきて、ステージの背景をロマンチックでスイートで、ほわほわ~な世界に変えちゃう!」

「そこで、魔法使いになった彼方ちゃんが、メルヘンな世界を飛び回るの!」

              スクスタ 彼方キズナエピソード19話より

 これまでのライブでも、彼方のステージではベッドが登場したり、スモークで雰囲気を演出したり......。彼方のライブのイメージをより近い形で実現するために、様々な演出が行われてきました。近江彼方役の鬼頭明里さんも、まさに彼方そのものとして、ステージのベッドを使って「近江彼方」を全身で表現してきました。

 今回の楽曲『Märchen Star』では、10人の中でも特に、明確にステージの構想、演出が描かれています。きっと、ライブ本番でも、彼方のイメージする「夢の世界でのライブ」にできるだけ忠実なライブが、見られることでしょう。

 ステージの上にベッドがあって、彼方が寝たら暗転して。ここまではできそう。天井にプラネタリウムは投影できるかなあ。星が降ってくるのはもっと難しい?彼方ちゃんが飛んだらほんとうにびっくりしそうだけど......。どうでしょう。今から、想像は尽きません。でも、彼方の想像するステージがそこに再現されることは、間違いないと思います。東京ガーデンシアターの空に、満点の星空、見たいなあ。

 

 

 ライブまであと5日。今日は『Fire Bird』。それから『Märchen Star』についておはなししてきました。

 果林と彼方。似ているような、似ていないような。そんな二人。でも、二人とも、2ndライブでこれまでとは違う、私たちの想像の斜め上、いやもう垂直くらい上のステージを見せてくれることは、間違いないと思います!

 それではまた、明日お会いしましょう。

 ライブまで一日一日、頑張っていきましょうね!

 こばと

 

ニジガクカウントダウンウィーク! #6 アナログハート

 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会2ndライブまであと6日!

 今日で2日目の「ニジガクカウントダウンウィーク」です。前回の記事は下を参照してね。

 

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 今日9月6日は、天王寺璃奈『アナログハート』をピックアップします。『アナログハート』の世界観はもちろん、ライブでの注目ポイントなど、2ndライブに向けてしっかりおさらいしていきたいと思います。

 それでは、いってみましょう!!

 

※本記事は、アプリ「ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル オールスターズ」、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会2ndライブ公式パンフレット、雑誌『LoveLive!Days虹ヶ咲SPECIAL』、書籍『にじよん』などを参考にしており、それらの内容への言及、引用、ネタバレを含む場合があります。予めご了承ください。

 

M3:「デジタル」だからこそ伝わる、「アナログ」な心 『アナログハート』

 


【ニジガクみゅ〜じっくウィーク!〜7週目〜】アナログハート / 天王寺璃奈(CV.田中ちえ美)

 「キュート」系スクールアイドルの璃奈ちゃん。

 

 その特徴は、なんといっても「璃奈ちゃんボード」。顔のすべてを隠すアイドルは、前代未聞。オンリーワンのアイドル、それが天王寺璃奈です。

 

 璃奈ちゃんボードの発案者は同好会メンバーの愛です。上手く表情を顔に出せないことに悩んでいた璃奈。友達もうまく作れず、孤立してしまっていた璃奈に手を差し伸べたのが、愛でした。

 そこで愛が提案したのが、この璃奈ちゃんボード。表情を画用紙に書いて、ボードとして持って伝えることで、自分の感情を相手に伝えよう、というものです。

 璃奈ちゃんボードは、璃奈がクラスに、学校に馴染んでいくことに大きな役割を果たしました。璃奈ちゃんボードに興味をもったクラスメイトは、少しづつ璃奈に話しかけるようになり、さらには璃奈自身も感情を出しやすくなったのです。自分の世界が広がるという理由で人と話すことが好きになった璃奈。璃奈ちゃんボードは、璃奈にとって決して欠かせないコミュニケーションツールになっていったのです。

 

 璃奈が表情を出せなくなった原因は、その家庭事情によるものです。仕事が忙しかった璃奈の両親は、璃奈が成長するにしたがって家を空けることが増え、璃奈は食事も、夜も、一人で過ごすことが多くなっていきました。

 璃奈は高校一年生。話し方から見れば、ここ1年といった感じではないでしょうから、中学生のころからということなのでしょう。多感な時期です。まだまだ大人になるには早すぎる。そんな時期に、自分の意思とはいえ無理をして大人になった璃奈。表情を、どこかにおいてきてしまった、と言うべきでしょうか。こういう時に、愛のように、他の家族や親戚、近くの知り合いがいればまた違うのですが......。

 表情と同時に友達も失ってしまった璃奈。しかし、こちらの方は、愛の「発明」によって、少しづつ世界を広げていくことができているようです。これからも、璃奈が少しづつ、少しづつ世界を広げていくことを、見守っていきたいですね。

 

 ところで、この璃奈ちゃんボード。ライブ時でも、パフォーマンスに支障が出ないようにと開発された「オートエモーションコンバート璃奈ちゃんボード」のお陰で、璃奈は素顔を晒すことなく、「アイドル」としてパフォーマンスすることができます。

 「顔を隠すアイドル」は、はっきり言って超異例です。これまで、類を見ないと言ってもいいでしょう。私たちの間には、確かに「顔」という部分が、アイドルの重要な要素の一つであるという認識があります。

 しかし、その原点に立ち返れば、本来アイドルにとって「顔」は、絶対的な条件とは言えないかもしれません。Wikipedia「アイドル」のページには、二人の評論家の言を引用して、こう説明しています。

『成長過程をファンと共有し、存在そのものの魅力で活躍する人物』

                Wikipedia 記事「アイドル」より引用

 容姿が絶対条件となるモデルと対比し、アイドルにおいては容姿が圧倒的ではなく、親しみやすい必要がある。それがアイドルだと。

 そういう意味では、顔を隠すアイドル・天王寺璃奈は、一見アイドルからかけ離れているように見えて、実はよりアイドルの「本質」に近い存在と言えるのではないでしょうか。

 

 しかし、キズナストーリーでは、そんな璃奈の被る仮面に対して、「顔を隠しているのはズルい」というコメントがつき、璃奈はそれに悩みます。「璃奈ちゃんボードは、スクールアイドルをするための道具じゃないか」。璃奈の事情を知っていれば、なんとけしからんというコメント。しかし、璃奈はその指摘をまっすぐに受け止めて、ある決意をします。

 それは璃奈ちゃんボードを外してステージに立つこと。しかし、それは決して簡単なことではありません。もともと人見知りな璃奈は、璃奈ちゃんボードがあった方が安心できるし、それに、決意したからといって、うまく笑えるようになるわけではありません。

 璃奈は、こういうとき、折れない。「芯が強い」と表現してもいいかもしれません。

 最初にライブをするとき、璃奈はたくさんの人に、わざわざ自分から声をかけに行こうとした。そこまでしなくても.......という反応を示すあなた。しかし、璃奈は「やりたいから、やる」ときっぱり。「一人で寂しい子にも声をかけたい」。璃奈のアイドルとしての信念は、揺らぐことはありませんでした。

 人見知りで、おとなしい性格。それでも芯が強く、スクールアイドルへの想いが強い。Aqours黒澤ルビィちゃんに近い特徴を持っていると言えるかもしれません。

 

 「璃奈ちゃんボードを取ってでも、色んな人と繋がりたい」。そんな強い意志とともに努力を重ねた璃奈。璃奈ちゃんボードを取ったライブも、もちろん大成功に終わります。私たちにとっては、このタイミングが璃奈ちゃんの素顔を始めてみる瞬間。大きな感動をもらいました。

 しかし、大事なのはアンコール。ライブが大成功に終わり、アンコールの声に応えて再びステージに向かう璃奈。そんな璃奈に、あなたは「ある物」を手渡します。

あなた「素顔の璃奈ちゃんも、璃奈ちゃんボードの璃奈ちゃんも、どっちもとっても素敵な一人の璃奈ちゃんだよ」

「見かけなんてスクールアイドルにはなんにも関係ないって......まっすぐな気持ちは、見かけなんか飛び越えてみんなに届くんだって、璃奈ちゃんを見て思ったよ!」

璃奈「うん、そうだね。これがあったから、私はたくさん、友達ができたんだもん。もう、この子は私の相棒、大事な友達」

「うん、この璃奈ちゃんボードだからこそ、みんなに伝えられたこともあるの。それに、私みたいに表情を出すのが苦手な子には、こういう方法があるって思ってもらえるから......」

              スクスタ 璃奈キズナエピソード13話より

 素顔のライブでファンを魅了した璃奈。しかし、「あなた」は、そんな璃奈に璃奈ちゃんボードを渡します。この瞬間、「璃奈ちゃんボードは決して璃奈がアイドルをするための「道具」ではない」ことが示されたのです。天王寺璃奈というアイドルにとって、璃奈ちゃんボードという「仮面」は、決して一時的なものではありません。むしろ、璃奈ちゃんボードがあるからこそ、璃奈はアイドルとして輝ける、そして、璃奈と同じような悩みを抱えている大切な人たちに、元気と勇気を届けられる。そんなアイドルになれた瞬間なのです。

 

 璃奈が「アイドル」であるもうひとつの証左は、その高いプロ意識にあると思います。

 既に紹介した通り、璃奈はアイドルに対して高い意識を持っています。どういうアイドルになりたいのか。どういうメッセージを届けたいのか。璃奈は明確なイメージをもってスクールアイドル活動に臨んでいます。

 ファンクラブを作り、人気もうなぎ登りの璃奈。しかし、璃奈自身は、応援してくれるみんなの好意に「甘えられない」と、一歩引いた目線で自分の活動を捉えています。

 そんな璃奈は、あることに気づきます。それまで璃奈の活動を見に来てくれていたファンの足が、遠のいているというのです。

 決断と行動が早い璃奈。早速、璃奈はファンのもとに足を運びます。

 ファンの足が離れてしまった理由は、ライブやイベントの楽しみ方が問題でした。「静かに話や歌を聴きたい」。璃奈にとっては盲点ともいえる視点でした。

 しかし、これは決して璃奈の責任というわけではありません。璃奈自身が言う通り、「みんなに喜んでもらいたいけど、いろんな人がいる。全員に喜んでもらうのは、難しい」のです。

 それでも、璃奈はあきらめません。璃奈が計画したのは「オンラインライブ」。璃奈自身が相互に顔が見えるライブ配信アプリを製作し、オンラインライブを行います。

 結果は大成功。離れてしまっていたファンも、今回のオンラインライブに戻ってきてくれました。その結果をみたあなたは、こう提案します。

あなた「会場で璃奈ちゃんに会いたいって言う人もいるし、静かに見たいって人もいる。今までやって来たイベントも、これからは、ネットでも見られる形で続けてみない?」

              スクスタ 璃奈キズナエピソード21話より

 「自分のように一人で寂しい子ともつながりたい」。そんな璃奈のアイドルとしての理想に、また一歩近づいた瞬間でした。

 

 ファンの声にまっすぐ向き合って、また一つ新しい表現を手に入れた璃奈。私は、これこそが「璃奈がアイドルである」と言える、一番の理由と言えるものではないかと思います。

 私はかれこれ13年間嵐のファンをしてきましたが、嵐においては、松本潤くんが演出を担当しています。そして、彼の演出へのこだわりはすさまじいものがあります。

 どういう風にすればファン全員が満足してくれるような演出ができるのか。もちろん、最善はありません。しかし、少しでも最善に近づいていくことが、アイドルに必要な「努力」です。彼は最終的に、透明の「動く台」にのって、アリーナのお客さんの上で踊るという装置を、自らの発案で生み出しました。璃奈が自分で配信アプリを作ったのも、彼女が「アイドル」だからでしょう。見た目だけがアイドルのすべてではありません。その努力する姿勢が、持っている気持ちが、そう、「存在そのもの」が輝き皆を魅了することが、アイドルたる資格なのです。

 天王寺璃奈は、顔を隠していても、誰よりも「アイドル」にふさわしい。そんな存在なのです。

 

 そんなオンラインライブで璃奈が披露したのが、『アナログハート』。

 特徴的なメロディ―と心地よい璃奈の声。3rdアルバム『Just Believe!!!』の中でも、屈指に印象的な曲と言えるかもしれません。

 「アナログ」という言葉は、『ドキピポ☆エモーション』にも表れている、璃奈ちゃんを表す一つのキーワードです。

 璃奈自身が工学系に強いアイドルであることは持ちろんですが、璃奈ちゃんボードをつける璃奈は、何となく機械的というか、ロボットのような印象を受けることもあるでしょう。だからこそ、璃奈のソロ曲はエレクトリックな音が印象的で、それもまた璃奈のイメージを「デジタル」な方向につなげていきます。

 しかし、璃奈が欲しているもの、そして、璃奈自身の魅力であるものは、実に「アナログ」な、繋がりであり、心であり、感情なのです。

 2番にこんな歌詞があります。

「愛情が原材料なんだ アナログハート」

                    『アナログハート』歌詞より

 豊かな感情は、愛情によってはぐくまれるもの。璃奈のこれまでの経緯を知っていれば、璃奈自身がこの歌詞をどんな気持ちで歌っているのか、想像は尽きません。

 しかし、璃奈ちゃんボードを手にして、スクールアイドルとなった璃奈は、少しづつ周りと打ち解けて、周りから愛情をもらえるようになってきました。だからこそ、璃奈はまっすぐファンに向き合って、一度は璃奈ちゃんボードを外して、みんなの前に立つことができました。

 いつか、璃奈は表情を、少しづつでも、出せるようになるかもしれません。みんなの愛情によって、璃奈の中に「アナログハート」が作られるのです。しかし、そうなったとしても、璃奈は璃奈ちゃんボードを手放すことはないでしょう。どんな見かけをしていても、アイドルになれる、そうやって、同じように悩むみんなに勇気を届けられる。天王寺璃奈は、そんな女の子なのです。

 

 ところで、この「オンラインライブ」の話。とってもタイムリーです。新型コロナウイルスの影響で実際に会場に観客を入れてライブができない今。ニジガクの2ndライブも、無観客での開催が決定されています。このライブに向けて、必死の努力を重ねてきたキャストにとっては、残念極まりないことだと思います。

 しかし、私は、これは大きなチャンスでもあると思うのです。璃奈がであった「静かに話や曲を聴きたい」という人は、現実の世界にもたくさんいると思います。そういう人たちにとっては、今回のライブは自分のペースで見れる非常に貴重な機会になるわけです。

 アイドルのライブにはコール&レスポンスをはじめとしたファンの熱狂は欠かせないものだと思われています。しかし、最初の話に立ち返ってください。アイドルの魅力は、決して単一的なものだけとは限りません。「存在が魅力」であるアイドルにとって、ファンに思いを届ける方法は、もっとたくさんあって良いはずです。

 観客を入れずに行われる異例のライブ。「大きなピンチ」と捉えればその通りかもしれませんが、ピンチはチャンスに変えるものです。むしろ、この異例の舞台で、新しい表現の方法を、新しいニジガクを、切り拓いていってほしい。そう思うのです。

 そして、この『アナログハート』は、今回のライブのコンテクストに完璧に合致した、まさにおあつらえ向きといった曲です。アイドルは、ストーリーを積み重ねることによって強くなります。画面越しに観客を迎えての『アナログハート』。歴史が変わる瞬間になるかもしれません。

 

 天王寺璃奈役の田中ちえ美さん。璃奈ちゃんとは違い、笑顔がまぶしく、そしてなにより明るい彼女ですが、璃奈ちゃんと完璧にシンクロしている点があります。それは「プロ意識」。

 ステージに、演技に、ストイックなことで知られる田中さん。『LoveLive!Days 虹ヶ咲SPECIAL』でも、その高い意識が垣間見える発言があります。1stライブのDay2のパフォーマンスで、璃奈ちゃんの声で演じることができなかったというのです。

 周りは「気にならなかった」と言うくらいに、それは少しの違いだったかもしれません。しかし、「一秒一瞬でもちゃんと璃奈ちゃんでいたい」という、田中さんの想いが伝わるコメントだと思います。璃奈として演じている時の、田中さんのパフォーマンスはまさに圧巻です。ほんとうに安定した声で、璃奈の声で、田中さんはステージに立っています。

 昨日、田中さんはこのようなツイートをしていました。

 『アナログハート』という曲に対して、田中さんは人一倍まっすぐに向き合って、璃奈として演技をしてくれているはずです。そして、今回の少し特別なライブにおいて『アナログハート』がどれだけの意味を持っているか、それをしっかりわかっているはずです。

 アイドルは、努力によってステージで輝きます。ストイックに自分の持つアイドル像に向かって努力を重ねる天王寺璃奈ちゃんと田中ちえ美さん。努力の結晶がステージという舞台で光り輝くとき、そこには魔法がかかるのです。

 お台場に、魔法のように虹がかかる瞬間。私たちはデジタルな方法で、それぞれの場所にいても、「アナログ」な心でつながっているはずです。その瞬間を、見逃すわけにはいきません!

 

 

 ライブまであと6日。今日は『アナログハート』についておはなししてきました。

 璃奈ちゃんの「アナログ」な心を受け取れる日が、早く来てほしくて待ちきれないですよね。

 それではまた、明日お会いしましょう。

 ライブまで一日一日、頑張っていきましょうね!

 こばと